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<東京怪談ノベル(シングル)>


●最上級の夜を淑女に

 晩秋、風は冬の気配を連れて、港区日の出駅前にも訪れていた。
 洗練された駅前の一角、その中でも一等、瀟洒な南国風カフェ「かもめ水産」のドレスコードは生足に膝上スカート。
 主なお客は、都内在住のエルフ、そこの女主人はスラリとした長身と、長い黒髪を持つ藤田・あやこ(7061)だ。
 冬の気配が濃厚になって来た今の季節、だが、寒そうなそぶりすらなく彼女はミニスカートを着用している。
 彼女のように、翼持つエルフは、動力源を太腿に内臓している、故に、排熱の為ミニスカートが普段着。
 つまり、夏は暑いが、冬は彼女達の季節、と言う事だ。
「ご免ね……スカートでいらしてね」
 お洒落なカフェのドレスコードを知らないジーンズ姿の女子大生は、あやこ(7061)の申し訳なさそうな表情に肩を落として店を去った。
 ふぅ、とあやこはため息を一つ。
 晩秋の閑散とした店内には、客はおらず主である、あやこ一人。
 外を見れば、赤く染まった葉がハラリ、落ちていく――秋の風は何処か潤いを失くして、心に寂しさを連れてくる。
 この寂しさは、此れから始まる楽しみへの期待が大きすぎるからだろうか――?
 心に燻ぶる寂しさに、苦笑しつつ温くなった紅茶を口に運ぼうとしたときだった。

 カラコロ――

 来客を告げるドアのベル、続いて聞こえた明るい声。
 中へと入って来る、見慣れた顔ぶれ。
「あやこいる〜?」
「うわ〜おひさー」
「へーお店出したんだ」
「お洒落ねー、素敵だわ」
「久しぶり、元気だったー?」
 飲みかけの紅茶もそのままに、あやこは立ちあがって友人たちを迎える。
 OL、コギャル、そして白いワンピースの婦人……彼女達もあやこと同じ、エルフと呼ばれる種族だ。
 だが、それは些細な事だろう、大切なのはこの垢抜けたカフェ「かもめ水産」の中でも違和感のない、洗練された女性である事。
「羽田に事務所構えたんだ☆えへ」
 いいでしょう、とばかりに微笑んで見せれば、わぁ、と歓声が上がる。
「あやこお大尽〜」
 流石、新進気鋭の女性投資家と言うべきか。
 次のモスカジのラインナップが気になる、なんて言葉に内緒、と微笑んで。
「今夜のサバトのメニューはなぁに?」
「へへ内緒ぉ☆」
「もー、内緒ばっかりだなぁ」
「あ、あたしも取っておき持ってきたよーっ!」
「じゃあ、そろそろ行きますか」
 楽しい女子会へ!
 声を合わせれば、各々顔を見合わせ笑みを浮かべる……此れから始まる素敵な夜への、期待だ。

 女達が乗り込んだのは、カフェの地下ホーム、羽田空港の専用格納庫まで走る専用の幽霊列車。
 あやこの為に、作られた特別なもの。
「うわ〜専用線。あやこどんだけセレブだ!」
「えへへ〜」
「これは、あやこのメニューに期待だね!」
「まっかせなさーい」
 現代っ娘エルフはセレブである、通称、開かずの格納庫。
 そこに列車は到着、次に向かうべきは、天上に広がる空。
 自家用車に滑り込み、上空へ――ふわり、独特の浮遊感は慣れ親しんだ感覚。
「さあ、楽しい女子会はっじまるよ〜」
「イェーイ、行っちゃえ!」
 あやこ達は、上空の特別席から人々の作った輝きを見降ろしていた。
 今日の羽田も、宝石をかき集めたような光に包まれていた……星のそれとは違う、魅了してやまない光。
 人々の発展の歴史、だがそれは、こうして形が有りながらも、ずっと脆い存在だ。
 疎らな雲海は、まるで夜景に絹を被せたようで、地上から見るよりもこの景色をずっと、神秘的に見せている。
 星が空を滑る……それは、エルフ達の自家用車だ。
 世界中から集う、エルフのサバト。
 各々の愛機に腰かけ、他愛も無い話をする――女の子のお喋りは、女子力を上げる手段。

「今夜は季節のキッシュよ〜」
 あやこが取りだしたのは、キノコやカボチャがたっぷり入ったキッシュ、ちなみにあやこお手製である。
「おいしそ〜。久しぶりのあやこの手料理!」
「じゃアタシも地元の――シャンパンだ!」

 艶めいた黄金の色をしたゴールドのシャンパン、その中に夜景を映す。
 白い指先に咲いているのは、シャンパンよりも少し濃い、ゴールドのマニキュアだ。
 あやこの経営するモスカジのモチーフ、蝶が描かれている。
 もう片方の爪には、蛾を描き、二つが番いになるように――少し趣向を凝らした物だ。
 お洒落〜なんて、褒められて、当然!とばかりに笑って見せる。

 シャンパンを揺らし、黄金の湖面が揺れるのを確認する。

 この夜は、特別な夜、この夜景を飲み干そう。
 シャンパンの瑞々しい香りを楽しみながら、キッシュを頂こうとしたところで……あやこの携帯電話が音を鳴らす。
 何?とあやこの友人が訝しげな表情をする、あやこも勿論、思い当たる節は無くて。
 だが、嫌な予感を抱きつつ、手を伸ばし、通話ボタンを押した。
 ――オッド・アイである彼女の瞳が細められ「かもめ水産の危機ですって?」そしてゆっくり瞼を伏せる。

 東京晴海、鰹節センター。
 愛機で急行したあやこ達は、鰹の怨霊が次々と破壊する建物を見てため息をついた。
 この楽しい夜に、無粋な訪問者は遠慮したい……。
「無駄に鰹節なのねぇ」
「うわぁ、アウト!」
 あやこの瞳は、かもめ水産へと向かう敵の怨念に眉を顰め、悪霊を砕く魔矢を構える。
「皆の力を貸して!いっけぇ〜!」
 言われなくても――!
 当然、とばかりにあやこの友人達も魔矢を構える。
 空を統べる彼女達に、怨霊の力が届くはずもない、鰹達にも何か、言い分はあるのかもしれないが。
 無粋な訪問者には、それ相応の対処が必要だろう。
 警察の警棒や銃弾を跳ね返した硬い鰹の怨霊へ、星が流れるように突きささる彼女達の矢。

 人々の持つ『常識』から逸脱した『存在』は、同じく『逸脱』した『存在』が撃ち抜くしか手段は無い。
 だが、たった一つの世界しか持たない彼等は、まるで星が落ちて来たのだと、悲鳴のような声を上げた。

 あやこの左目は次々と敵の弱い場所を見抜き、そしてそのしなやかな腕で撃ち抜いていく。
 怨嗟の声を上げ、そして砕かれていく悪霊達、淑女の機嫌を損ねた罰は重い。
「あやこ、腕上がったんじゃない?」
「そうかしら、貴女も流石ね」
 ごめん、遅くなっちゃった――と援軍が到着すれば、もう終わったの?と瞬くエルフ。
 それにあやこは、嫣然と頷いて口を開いた。
「ええ、さて、女子会の続きといくわよ〜!」



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24 / ブティックモスカジ創業者会長、女性投資家】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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藤田・あやこ様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

文章を拝見した時に、少女らしさを忘れない、可愛らしい方だと思い。
淑女としての気品を醸し出しつつ、可愛らしさを綴ったつもりなのですが。
如何でしょうか?
少しでも、あやこ様の女子力が、描けていますように。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。