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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.1 ■来訪者■

「――解った。また何かあれば連絡を頼む」冥月がそう言って携帯電話を閉じた。
「収穫なし、か」武彦が煙草に火を点け天井を見つめる。「こっちも進展なしだ。手詰まりだな」
 二人が興信所にいたのは他でもない。先日の少女の事件を裏で操る黒幕を探る為だった。冥月は情報屋にからの連絡を待っていたが、思ったよりも目ぼしい情報は手に入らず、あまり滑り出しは良くないらしい。
「にしても、武彦。お前は気付いているか?」冥月がそう言って、溜息を吐く。「最近、私を監視している輩がいるみたいでな」
「奇遇だな。俺もそんな気がしてならない」武彦が変わらず天井を見つめて言葉を続けた。「俺はともかく、お前を“黒 冥月”だと知って尾行や監視をする様な奴がいるのか?」
「私怨ならいくらでも、といった所だがな。新興勢力による行動の可能性もあるな」
「新興勢力ね。裏社会ってのはなかなか難しいみたいだな」
「まったくだ。億単位の金を積んでまで私を使おうとする奴はいくらでもいるが、わざわざ私を狙うとはな…。私の知名度も随分と地に落ちたモノだ」
「億単位、か。さすがは元裏世界の凄腕だな」驚いた武彦はそう言って冥月へと振り向く。「俺なんかの仕事とは訳が違うな」
「武彦ぐらいだからな、私に小さな仕事を手伝わせる様な奴は…」若干顔を赤くして冥月が顔を背けてボソっと呟いた。
「悪かったな」
「な…、別に無理やり付き合ってる訳じゃない!私が好きでやってる事…だ…」
「ふーん?それにしても、随分顔が赤いが熱でもあるのか?」武彦が覗き込む様に冥月に顔を近付けて尋ねる。
「うるさい!」真っ直ぐ武彦の顔に冥月の拳が武彦の顔面に突き刺さる。
「ぶっ!お前なぁ!いきなり何しやがる!」
「変な事聞くからだ!」冥月が立ち上がって声をあげる。「とにかく、尾行している奴らを捕まえて話を聞かせてもらう。行くぞ、武彦!」
「変な事なんて聞いちゃいねぇだろうが…。ったく、解ったよ」


 草間興信所から徒歩ですぐ近くの公園へと向かった二人は尾行の視線を感じながら公園の中央で立ち止まった。
「じゃあ、私は別れてすぐに私に付いて来ている方を捕まえる。武彦は湖の前のベンチにでも座って待っていてくれ」
「へいへい」
 そう言って冥月は真っ直ぐ公園の奥にある林の中へ歩いていく。武彦は面倒臭そうに湖の前にあるベンチへと向かって歩いた。尾行している側もまた、散り散りに二人を追う。
 林の中へ入った冥月は不意に立ち止まり、視線を送る先を真っ直ぐ睨み返した。
「そろそろ姿を現してみたらどうだ?」冷笑を浮かべる。「その程度の尾行に気付いていない私だとでも思ったか?」
 風で木々が揺れる音だけがこだまする。冥月は呆れたかの様に溜息を吐いた。尾行されている側は立場が逆転している現実に気付き、身動きをする事も出来ずに汗ばんでいる。下手に動けば自分が喰われる。実力差がハッキリと浮き彫りになった。
「…やれやれ、黙りこくってないで…」冥月の姿が一瞬で消える。「何か言ってみたらどうだ?」その言葉が監視者に聞こえてきたのは背後からだった。
「…ばっ、バカな…!」
 監視者がそう言った瞬間、視界が真っ暗になる。冥月の手刀が監視者の意識を一瞬で落とした。
「私の世界で待っているが良い」冥月の言葉と同時に、監視者が影に飲み込まれ、跡形もなく姿を消した。「ふぅ、次は武彦の方か…」


 武彦はボーっとしながら湖を見つめていた。
「“黒 冥月”…。中国の裏社会のトップに君臨するといわれていた組織によって育て上げられた暗殺者。詳しい理由までは知らないが、組織を裏切り、壊滅状態にまで追い込んだ女、か…」武彦はそう呟くと、背後に広がる木々を見つめた。「で、お前はアイツと俺、どっちを狙って付きまとっているんだ?」
 背後に声をかけるにしても、返事はない。いずれにしても、武彦も返答がない事は予想していた。ベンチから立ち上がり際に手ごろな大きさの石を拾い上げた。
「そこか…」武彦が石を投げた先の木の幹にある、大きなハチの巣を直撃する。するとハチの巣から次々と蜂が飛び回る。「秋のスズメバチはなかなか凶暴だからな。さっさとそこから出て来ないと襲われるぞ?」
「クソ…!」林の中から声と共に人影が飛び出て来ようとした所に武彦が先回りをして地面へと男を叩き付けた。「ぐはっ…!」
「武彦!」丁度よく武彦の元へ冥月が駆けつけた。
「おう、こっちも今片付いた所だ」武彦が手をパンパンとはたきながら冥月に声をかけた。
「よし、早速私の“影”に取り込む。尋問は戻ってからやるぞ」そう言って冥月は木陰に倒れている男の身体を影の中へと引き込んだ。



―――。
 音も光も届かない影の世界。武彦もそんな世界に自ら足を踏み入れたのは初めての事だった。
「やれやれ、随分と不気味な空間だな…」武彦にとっての素直な感想だった。
「そう言うな。なかなか便利な能力だからな」冥月は影の中の亜次元を自在に操る事が出来る。物質化して武器にする事も出来れば切る事の出来ないロープの様に巻きつける事も可能だ。「ほら、あそこに眠っているぞ」
 冥月が指をさした先で、二人の男が宙に浮いたまま気を失っている。まるで身体に巻きついた影は、まるで巨大な大蛇に捕らわれている様にすら見える。
「やれやれ、快適な睡眠とは言い難い光景だな」武彦が呆れた様に男達を見つめる。「尋問はどう行うつもりだ?」
「一人ずつだ」冥月がそう言うと、武彦が捕らえた方の男の目と口に影が巻きついた。そのまま冥月は猛片方の男を手が届く位置まで下ろし、顔を叩いた。「おい、起きろ」
「…くっ…、ここは…!」男が目を覚まし、キョロキョロと周りを見回す。
「質問に答えろ。もう一人の男には既に尋問をかけ、少しの間大人しく待ってもらっている」冥月はそう言って男の顔をもう一人の眠っている方の男へ向けた。「これからお前にはあの男と同じ質問をする。もしも答えが食い違えばアイツを殺す。私は質問を一度しか言わない。即答しなくてもアイツを殺す」
「ど、どういう事だ…!」
「お前の質問を許した覚えはない。まず一つ目、お前とあの男は知り合いか?」冥月の表情は冷酷そのものだった。
 そんな冥月を見て武彦は感心していた。冥月の尋問の仕方は、沈黙・虚偽の発言という後ろ盾を完全に失わせる尋問。下手に嘘を吐けば答えが食い違う可能性がある。その結果、自分ではなく他者の命が天秤にかかるリスク。全てが理にかなっている。
「…イエス、だ」男が諦めた様に口を開く。
「よろしい。では、お前の狙いは私か?それとも武彦か?」
「お前だ、“黒 冥月”」
「よし、では質問の相手を変える。お前は少しの間大人しく待っているが良い」冥月の言葉と共に、影が質問を答えていた男の口の目を覆い、動きを封じたまま元の位置へと戻した。

 同じ手順でもう一人の男に冥月が質問をした。やはり間違いはないらしい。

「何の為に私を狙っている?」冥月が遂に核心を突いた。
「…俺達は知らされていない。お前とそこの男の行動を逐一報告する事。それが俺達二人の依頼だった…」
「依頼…?という事は、お前達は雇い主と直接関係している訳ではないのか?」武彦が口を挟む。
「あぁ、そうだ。匿名で前金を受け取っているんでな。金さえ払ってくれるならそこまで素性を知る必要もねぇからな…」




「――やはり、あの男達は本当に依頼主の素性を知らないらしいな…」
 一通りの尋問を終えて冥月は男達を解放した。亜次元から興信所へと戻った二人はソファに座り込んで溜息を吐く。武彦が煙草に火を点け、紫煙を見つめながらそう呟いた。
「いずれにせよ、奴らを雇った者の目的が私である以上、武彦はもう――」
「――首を突っ込むな、とでも言うつもりか?」武彦が言葉を遮る。「乗りかかった船だ。はい、そうですかって中途半端に放っておける程、俺は人間出来ちゃいねぇよ」
「しかし、もしもこれが私の過去のせいで起こされている事だったらどうする?武彦を巻き込む訳にはいかない…」冥月が少し俯いて言葉を濁した。「お前にだけは私の暗い過去を知られたくない…」
「あ?何て言った?」
「な、何でもない!」冥月が慌てて胸のロケットを握りながら声をあげた。
「まぁ、このまま降りるなんて後味が悪いからな。悪いが納得出来るまでは一緒に動かせてもらうぞ」武彦はそう言ってメモを取り出した。「アイツらと依頼主の連絡方法だ。ここから探りを入れるしかないな」
「――そんな必要はないわ」
 突如割り込んだ第三者の声に冥月と武彦は振り返った。声の先にいたのは一人の少女。冥月は冷や汗すらかいていた。自分が気配に気付く事も出来なかった事など、今までに何度もあった訳ではない。そのどれもが相当の手練れだった。だと言うにも関わらず、目の前に立っているのは少女。容姿から察するに十五歳前後だろうか。
「…何者だ?」
「あら、私の事を憶えていないの?」クスクスと笑いながら少女は冥月を見つめた。
「知り合いか?」武彦が冥月へと声をかけるが冥月は首を横に振る。
「いや、これでも記憶力は良い方だとは思うんだがな…」
「まぁ良いわ」少女は相変わらずの微笑を浮かべながら一枚の手紙を投げてよこした。「黒 冥月。ある人がアナタに会いたがっているわ。そこに書かれた場所へ来なさい」
「逃げれるとでも思っているのか?」冥月の眼が鋭く少女へ向けられる。
「…その言葉、アナタにそのままお返ししておくわ。じゃあね」そう言って少女は姿をその場から消した。
「…完全に消えたみたいだな」冥月が影を使って周囲を探るが、少女の痕跡は見つからなかった。
「とりあえず、開けてみるしかないみたいだな」


 ――冥月を巻き込もうとする大きな陰謀が動き出そうとしていた。


                           Episode.1 Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】


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■         ライター通信          ■
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異界へのご依頼、有難う御座います。白神 怜司です。

これは序章ですのでまだまだ展開が始まる訳ですが、
ご希望通り、ここから大きな戦いを始めつつ、
書いていければと思っております。

今後の展開、私自身も楽しみにさせて頂いております(笑)

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司