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<東京怪談ノベル(シングル)>


●かぐやの姫(参)

 射干玉の黒髪、黒曜石の瞳が非常灯の下で、妖しく光る。
 女――水嶋・琴美(8036)は、地上に至る無機質な階段から下を眺めていた。
 地上では、何も知らず眠ったままの街。
 水面下で蠢く者は、水面下の戦いに負け水底に眠る。
 グローブの指先を、グミの実の唇に当てると、女は優しげに微笑んだ。

「任務達成ですわ」

 優しい、優しい微笑みはあまりに優しく、何処か憐れむような慈悲に似て。
 踵を返し、最早、どのような欲に溺れる事もない死者達への鎮魂歌とばかりに、ヒールの音を響かせる。
 弱い敵だった、無論、琴美の実力が相当なものである事は、改めて言わずとも分かるだろう。
 独りで、多勢を壊滅させた女――圧倒的な実力、その膚に傷一つ追う事は無い。

「この場に留まる理由も、御座いませんわね」

 長く現場にいる訳にもいかない、勿論、証拠は残してなどいないが……。
 タン、と重力から解放されたかのような、軽い跳躍、プリーツスカートの下で、白い腿が月夜の月に映える。
 プルン、と大きく揺れる胸は、少しの汗が真珠のように珠となり、何時もより煽情的で。
 月の下で、何処か神秘的な様子を醸し出していた。



 ――自室、戦闘服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
 血飛沫はかわす事が出来るが、血の臭いや硝煙の臭いまでは避ける事が出来ない、お気に入りのソープを取り出してタップリと泡を立てる。

「やっぱり、任務後は薔薇かしら」

 甘い香りが、任務で少なからず鋭敏になった精神を穏やかにしてくれる――甘い香りに目を細め、やっと年相応の微笑みを浮かべた琴美はチャプン、と揺れるバスタブに身体を沈める。
 ユラリユラリと、呼吸に合わせて揺れる薔薇色の湯が、白い膚を舐めていく。
 十分に身体を温めてから、身体のラインを強調するようなタイトなミニスカートのスーツへと着替えを済ませる。
 もう少し、入っていたかったのだが、報告を済まさなければ全てが完了したとは言えない。
 無論、成功以外の報告など、持ち合せていないのだが恐らく、上司は待っているだろう。

「水島・琴美ですわ」

 司令室、声をかけ中へと足を踏み入れた琴美は、上司の顔を見て軽く頷いた。
「誘拐実行部隊、及び武器庫の破壊は完了致しましたわ。研究室の方は手を出しておりませんし、日本の経済界や医学界としても、損害はないでしょう」
「うむ、良くやってくれた」
 全幅の信頼を置いている上司は、淡々と告げられた報告に満足そうに頷いた。
「楽な任務でしたわ」
 その瞳に宿るのは、絶対の自信――自惚れでは無く、経験と実戦より弾きだされた確固たるもの。
「次も頼むぞ、水嶋、期待している」
「当然ですわ。もう少し、骨のある任務でも宜しくてよ」
 ふふ、と不敵な笑みを浮かべ、では、と頭を下げると身を翻す、黒い髪が彼女の動きに沿って、輪を描くように広がった。
 ふわり、香るのは甘く高貴な薔薇の香り。



 まだ、空を支配しているのは月、やや明るくなった東の空が藍色をしている。
 次なる任務はまだ、到来していない……だが、直ぐに呼ばれる日が来るだろう。
 少なからず、命を落とす者もいれば、いつの間にか消えている者もいる。
『失敗』等と言う文字は、既に存在していないに等しい。
 その言葉は、死の意味と同義。
 ――だが、自分はこの場所で生きていくだろう、遣り甲斐がある、期待も信頼も。
 全て自分の力で勝ち取った、この居場所。
 白い指が、顔にかかった黒髪を耳にかける、気の早い小鳥達がチルチルと鳴きながら、空を飛んで行った。
 それを目で追って、ゆっくりと伸びをする。

「ふわ――夜更かしは、お肌に毒ですわ」

 その前に、朝食にしようか、それともバスタイムの続きにしようか。
 思考を巡らしながら、次なる依頼へと思い馳せる。
 有明の月の下、黒髪を風に遊ばせ、彼女は笑みを唇に宿した。

「……久しぶりに、ショッピングにでも出かけようかしら?」

 その前に暫く、睡眠をとって――新しいバスソルトや、可愛らしい服も欲しい。
 バルコニーから中へと入った彼女は、小さく伸びをすると、眠りに落ちていった。



 黒髪に赤い椿の髪飾り、真珠を模したビーズが、大きく揺れた。
「とてもお似合いですよ――此方も如何ですか?」
「そちらも素敵ですわね、白い椿も赤い椿も」
 どちらにしようかしら、首を傾げて琴美はゆっくりと二つの髪飾りを比べる。
 戦士の休息、と言うべきか……予定通りにショッピングへと繰り出した琴美は、自分よりはしゃいだ様子の女店員に苦笑を零す。
 チラリ、チラリと向けられる男共の不埒な視線は気にしない。
「お客様は、どのようなアクセサリーもお似合いだと思います」
 あれよあれよ、と言う間に大量のアクセサリーを持ってきた店員に、流石に彼女も笑みが引きつる。
 この調子ならきっと、気が済むまで着せ替え人形になるに違いない――それも悪くは無いのだが、まだ服や靴だって見たい。
 それに、甘い物だって食べたい気分だ。
「此方の、赤い椿の髪飾りでお願いしますわ」
 アクセサリーの塊が到達する前に、さっさとレジへと向かう。
 つれないです――と呟く店員に苦笑と愛想笑いを返し、彼女は街へと繰り出すのだった。

 小さく音を鳴らした携帯電話、ディスプレイの番号を見た琴美の表情が、優しげなものから不敵なものに変わる。
「望むところですわ」
 午後の予定は、キャンセル――任務に変更。
 少しだけ残念な思いと、それ以上に高鳴る鼓動を抑えて、彼女は帰路につくのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8036 / 水嶋・琴美 / 女性 / 19 / 自衛隊 特務統合機動課】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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水嶋・琴美様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

文章を頂き、華麗で苛烈な琴美様が描けるよう、奮闘させて頂きました。
最後のショッピングのシーンは、私が琴美様に身につけて頂きたいものだったりします。
また、彼女の美しい手腕が見られる事を期待して。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。