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<東京怪談ノベル(シングル)>


超ファンタジー大戦

 アメリカ南部、とある港。
「……これ、完全に詰んでますよ」
「そういう事言わなーい! 諦めたらそこで試合終了よ!?」
 藤田あやこを取り巻く環境はかなり切羽詰っていた。
 陸を見ても海を見ても、普通の世界ではほとんどお目にかかれないような異形、異形、異形。
 空は有翼のトカゲ、ワイバーンやワイアームで埋め尽くされており、陸は岩の巨人ゴーレムに旗持を任せた、ウェアビーストとアンデッドの混合部隊が行進。
 海はシーサーペントやクラーケンなど、巨大モンスターで波打っている。
 正にモンスターだらけの巷と化したこの港一帯には、それらに比べて極少数の人間がいた。
 それがあやこと、IO2所属エージェントであるユリを含めた地上部隊である。
「……竜族に、これだけの戦力で楯突こうとしたのが間違いなんですって。一度、退却して立て直しを図りましょう」
「退却するにしても、退路は必要でしょ? それをこじ開ける為に、私ら頑張ってるんじゃない」
 今の状況は確かに、ほぼ詰みと言っても過言でない。
 敵の陸上戦力との距離はまだまだあるものの、海から攻めて来るモンスターはかなり大量、かつ攻め手も激しい。
 何しろ、前大戦で沈んだはずの戦艦を、幽霊戦艦として持ち出し、港へ向けて艦砲射撃を行っているのだ。
 寡兵しかいない、IO2の部隊では今まで戦線を保っていられるのが、むしろ奇跡なぐらいである。
 しかし、こんなところで負けてもいられない。
 負けは即、死に繋がる。
 となれば、こんなところで諦めるわけにもいくまい。
「なぁに、こっちには奥の手があるんだから、ちょっとやそっとで弱音は吐かないの! いいわね?」
「……わかりました、最善を尽くしましょう」

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 作戦としては第一に洋上の敵戦力の沈黙、後に陸上の敵部隊を突破と言うところだろうか。
 今のところ、艦砲射撃が激しくて、行くも戻るも手詰まり感が溢れている。
 まずは幽霊戦艦にもう一度沈んでいただくか、そうでないにしてもあの艦砲だけは黙らせないと、退却するにも後方の憂いが大きすぎる。
 そのための戦力として、港に備えてある対艦ミサイルを用いるのだ。
 ミサイルで敵戦艦を攻撃し、その内に陸上を突破する。
 陸上突破するにも、あまり十分とはいえない戦力だが、こうなったらやるしかない。
「とりあえず、今のところはミサイルの方へ部隊を向かわせているから、こっちはこっちで陽動を仕掛けないとね」
「……ミサイル部隊が攻撃されないように、ですね」
「その通りよ。こっちはギリギリの人数でやってるんだから、また部隊を再編なんてしている余裕はないし、そもそもこっちの狙いがバレたらミサイル自体を封じられるわ」
「……ですが、陽動と言っても何をしたらいいんでしょう? こちらから洋上に対する攻撃なんて出来ませんし、敵の目をひきつける為には何か有効な策はあるんでしょうか?」
 戦艦から見れば港で動くあやこたちは大した脅威にならない。
 遠距離攻撃するにしても、射程は向こうの方が遥かに上である。
 だとすれば接近して攻撃だろうか? 否、海は既にモンスターに占領されている。
 ちょっとでも海に入れば、すぐにシーサーペントに食われるか、クラーケンによって藻屑にされてしまうだろう。
「じゃあ相手に攻撃せずに、相手の目を引けばいいのよ」
「……どうやってです?」
「防御は最大の攻撃なり、ってね」

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 幽霊戦艦の主砲が、バリバリ火を噴いているのにはわけがある。
 そこに魔力的な何かが働いているためだ。
 幽霊戦艦は主砲だけでなく、その船体全てを魔力によって運用している。
 そうでなければ旧時代の遺物があれほど元気良く、主砲を連発できるわけもない。
 砲弾も、砲塔も、全て魔力製というのは調べがついている。
 と言う事は、ユリの能力で、全て無効化できるのだ。
 欲を言えば戦艦ごと無効化して欲しかったところだが、如何せん、距離が足りない。
 とりあえずは全力でアンチスペルフィールドを張り、相手の攻撃を完全に無効化させる。
「……これでいいんですか?」
「上等! 後は降下してくる敵のワイバーンやワイアームに、こっちから攻撃を仕掛けるわ」
 艦砲射撃が無効化されたとなると、後は距離を詰めての攻撃が待っている。
 空から巨大なワイバーンやワイアームが群れを成して降下してくるのだ。
 そこに向けて、IO2の戦力やあやこが応戦、上陸を何とか防ぐ。
 しかし、物量が物量だけに、いつしか翼竜の降下を許してしまう。
 港を形成する地面をぶち壊し、大質量が着地する。
 それだけで局地地震が起きてしまうほどの衝撃。
 更にその上、鼓膜を一発で破壊してしまいそうな、大音量の咆哮。
「こりゃヤバいわ、一度場所を変えるわよ!」
 あやこの号令で、一行は対艦ミサイルとは逆側へと撤退を始めた。
「……翼竜がついてきてます。ついでに、戦艦の砲塔も釣れました」
「だったら後は、せっせこ逃げるわよ!」
 相手の目を引くのには、とりあえず成功したようである。

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 その後、翼竜をなんとかいなしつつ、あやこたちは港の端までやってくる。
 逃げ場ももうすぐ尽きる、というところで、逆側から空へ伸びる白雲と明々と灯る火。
 ミサイルが弧を描いて幽霊戦艦へと落ちる。
「……艦砲射撃、止みましたね」
「どうやら成功したみたいね」
 対空機銃の調子は悪かったらしい。ミサイルは一発も落とされずに戦艦へと突き刺さり、爆発した。
 再び戦艦は海へと沈み、それ以降、浮いてくる事はなかった。
「あとは向こうの部隊と合流して、陸上を突破するわよ」
「……その事なんですが」
 小さく折り畳んだ地図をあやこに見せ、ユリが指差す。
「……相手の予測ルートとこちらの戦力を測った結果、突破できそうな箇所がかなり限定されてきます」
「そうね、空からの監視を振り切りつつ、最大限生存確率を引き上げるなら、ルートは森か街中になるかしら」
 まずは空にいる翼竜たちを振り切らなければ、相手にこちらの位置情報は筒抜けだ。
 だとすれば、屋根になりそうなものが多くある場所を選んで通れば一番有効なはず。
「……地下鉄とかあれば、その中を通れるんですけどね」
「そりゃまず無理でしょ」
 地下は地下でいろんなモンスターでごった返していそうだ。
「とりあえず、ルートはこの森を突破するルートを第一、次にこっちの町を突っ切るのを第二案としましょう」
「……まずはミサイルの方の部隊と合流、ですね」
「連絡は無線で取ってあるわ。この港の出口付近で合流できるはずよ」
「……だったらすぐに向かいましょう」
 というわけで、一行は西へと進路を取る。

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 しばらく進むと、向こうから走ってくる人間が見えた。
 見覚えがある、あれはミサイル部隊だ。
「……見えました!」
「いや、でも待って!?」
 あやこの目が、ジクリと痛む。
 それほど強い『災いの予感』。
 そして、それは空から。
 急にあたりが暗くなったかと思うと、次の瞬間にはジャンボジェットでも落ちてきたかのような衝撃。
 その落下点はミサイル部隊の真上。
 ワイバーンなんて比べ物にならないほどの巨体に押しつぶされたミサイル部隊は、まず間違いなく全滅だろう。
「……くっ! なんてこと!」
「こりゃ、目も痛むわけだわ……」
 あやこたちの目の前に文字通り降って現れた災禍は、わかりやすいビジュアルをしていた。
 火を噴く大口、ギョロつく赤い瞳、鋭い牙や爪、硬く巨大な鱗、竜巻でも起こしそうな翼、ビルぐらいなら簡単に薙ぎ倒せそうな尻尾。
 普通なら映画やゲームの中でしかお目にかかれないような、力の象徴。
『グルルル……我が部隊を前に、執拗に粘り続けているニンゲンがいると聞いて飛んできてみたが……』
 目の前に現れた脅威、レッドドラゴンは言葉を操っていた。
『大した事はなさそうではないか。暇潰しにもなりそうにないな』
 巨体から発せられる声は、周りに拡声器で囲まれたかの様によく響く。
 四方八方から叩きつけられる、威厳に満ちた声に、周りの人間は戦意を削がれていく。
 最早これまで、と膝を折る者さえいた。
『だが、我が名に楯突いた事を見過ごすわけにもいかんのでな。サッパリと、死んでもらうぞ、ニンゲンども』
 暴風のごとく襲い掛かる尻尾を前に、目の前が暗転する。