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<東京怪談ノベル(シングル)>


勇太のお悩み相談室

「あっ」
「あっ、こんにちはー」

 今は3限目と4限目の間。
 工藤勇太はちょっと喉が渇いたから1階の自販機でジュースを買いに来ていた。取り出し口に手を突っ込んでジュース缶を取り出した所で、隣の自販機でジュースを買っている小山連太と目が合った。ちなみに隣の自販機は紙パックのジュースである。
 そう言えば同じ学科なのに案外会わないもんなあ。まあ高等部と中等部だったらそもそも階違うもんなあ。
 勇太の階は2階、連太の階は6階。高等部3年から順番に階が当てられているのだから、そりゃ会う訳がない。その階のせいで、中等部は何でもかんでも早く済ませると言う手段を身に付けないと遅刻する訳だから、そもそもほとんどの中等部生徒は昼休み以外自販機は使わない。

「珍しいね、君が自販機使うなんて」
「いやあ、今日は公欠扱いなんで。だから自分は授業出なくっても大丈夫っす」
「ああ、そっか」

 新聞部の記事を書いている間は公欠が適用される。
 公欠目当てで新聞部に入りたがる者も多いが、生半可な気持ちじゃ朝に夕に記事を書き続ける新聞部の活動についていく事ができないので、結局は新聞部に本気で入りたかった生徒だけしか残らない。
 連太はこの間の怪盗騒動の事の記事をまとめているらしかった。
 自分より年下なのに、熱心な子だなあ。
 勇太は割と連太の事が好きである。出会い方はそもそも書いていた新聞記事をばら撒くと言う最悪な出会い方で、ほぼなし崩し的に新聞部に入ったものの、新聞部の活動は思っているより楽しいし、連太との付き合いも気楽でいい。

「そう言えばさあ。ちょーっと前の事だけどさ」
「んー、何でしょう?」

 連太は自販機にもたれつつ、紙パックにストローを刺す。彼が買ったのはリンゴジュースだった。勇太は炭酸オレンジのプルタブをキュッと開けながら思いついた事を言ってみる。

「いや、何で殴られてたのかなあって」
「殴られてた? 誰が?」
「小山君。前、ほら舞踏会で女の子に殴られてたじゃない。あれ何?」
「――っ!!」

 連太は顔を真っ赤にして、その後咳き込み出す。
 あっ、あれ……?
 勇太は慌てて連太の背中をさすり出す。

「あれ、ごめん。これって聞いちゃ駄目だった事だった?」
「ゲホッ……、いやあ、まさか見られているなんて思ってなかったんで」
「何、もしかして痴情のもつれでもあったの?」
「いやあ……、女子が何考えてるのかはマジで分かりません」

 ようやく落ち着いたらしい連太は、気を取り直してジュースで口を湿らせる。
 勇太は首を傾げながら、自分も炭酸に口を付ける。口がシュワッとして気分転換にはちょうどいい。

「いやあ……小山君って案外うぶ?」
「って言うか中等部で痴情のもつれなんてよっぽどの事がない限りある訳ないでしょ」
「まあ、それもそうだねえ……」

 まあいくら連太がませていても13な訳だから、そりゃそうか。
 でも女子の考えている事って何だろう。

「じゃあ、あの殴ってきた女の子知り合い?」
「まあ……顔見知りっすねえ」
「へえ。可愛い子だったじゃない」

 思い返すと、白いドレスを着ていたような気がする。デビュタントだったのかな? でも中等部の子が何で舞踏会に入れたんだろう。新聞部の子では……なかったし。

「いや、全然可愛くありませんよ、あいつは」
「あいつねえ……」
「こっちの顔を見た途端に殴ってきたんですから。知り合いと歩いていただけだったのに」
「えっ? 何それ。君舞踏会で誰かと一緒にいたの?」

 それは今初めて聞いたんだけど。
 そう思って勇太は思わず訊くと、連太は困ったように眉を潜める。

「いや、取材で知り合った人が、中等部だったから舞踏会に参加できなかったんで。だから自分の招待状あげただけっすよ」
「…………」

 基本的に、舞踏会に参加できるのは、招待状を持っている人間か、高等部以上、新聞部の人間だけである。それ以外は何か裏技を使わないと入る事は叶わないのだが……。
 もしかしてその子が怒ったのは、自分以外の人に招待状あげたからなんじゃあ……。
 連太は分かってなさそうな顔をしている。

「うーん、よく分からないけど」
「はい?」
「それ多分、その子に謝った方がいいんじゃないかな?」
「殴られたのは自分ですけど……」
「いやそうなんだけど」

 多分その子、小山君に気があるんじゃないのかなあ……。まあ全く伝わってないから、殴られた所で「何だこの暴力女は」になるんだけれど。
 連太は勇太の言った意図が分かってないらしく、困ったように首を捻っている。

「いや、多分遅いって事はないから、仲直りしたいんなら謝れば?」
「……いや、確かにあれから感じ、ものすごく悪いんすけど……」

 それ、相当怒ってるんじゃあ……。
 でも連太の言い方から察するに、今でもそこそこ交流はあるみたいだから、まだ完全に決裂している訳でもなさそうだし。

「……分かりました。話聞いてくれてありがとうございます」
「うん、頑張れ。でもさ、何であの子舞踏会にいたの? 小山君と同い年って事は、まだ舞踏会に参加できないんじゃあ……」
「ああ。あいつバレエ科でも成績いいんで。デビュタントのお手本で踊ってたみたいっす」
「なるほど」

 そのまま連太は頭を下げると、飲み終えた紙パックをゴミ箱に放り込むと、走って行った。
 うーん、青春してるなあ。
 勇太はそれを目を細めて見送った。
 しかし……。

「そっかあ。バレエ科なら抜け道があったんだ……」

 そういやバレエ科の人の事ってあんまり知らないもんなあ。
 怪盗もバレエ科関係でだったら舞踏会にも入り込めたのかもしれないなあ。
 それだけほむほむと頷きながら考え、ジュース缶をぽいっと捨てた。
 そろそろチャイムも鳴るし、帰ろうっと。そのまま階段を駆け上がった。

<了>