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<WF!Xmasドリームノベル>


SWEET LOVER

1.
 12月24日午後8時48分
 待ち合わせの時計塔の前で、何度も時計を確認する。
 曇天の空が泣き出しそうな気配を見せている。
 早く着きすぎた…。
 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)はそう思ったが、ソワソワしていてもたってもいられなかった。
 きっと予算的なものもあるだろうから、豪華な店ではないだろう。
 そう思うと派手にしすぎるときっと浮いてしまう。だから派手過ぎないが普段は着ないベルベットのワンピースとジャケットに身を包んだ。
 薄く化粧もして自分なりに着飾ってみた。
 …勝負下着もはいてきた。
 時計の針は49分。
 一分一秒でも早く会いたい。渡したい物もある。初めて迎えるクリスマスだから…。
 冥月は手に持ったバックとその後ろに隠れる様に持った小さな紙袋を見た。
 凍えそうな風が一陣吹いた。
「よう。待たせたか?」
 待ち人は、風に乗ってきたかのように現れた。
 草間武彦、冥月の恋人だ。
「待ってない。全然。ホントに」
 突然目の前に現れた草間に、冥月は動揺を隠せなかった。
 草間はいつものラフな格好にコートを羽織っただけで、手ぶらだった。
「…頬が冷たいな」
 草間の温かな手が冥月の頬に触れ、冥月はドキッとした。
「大丈夫。平気よ」
「…そうか、なら行くか」
 2人は腕を組んで歩き出した。
 どこに行くのか、冥月は知らされていなかった。


2.
「いらっしゃいませ」
 レストラン・Noelの扉を開けると、そこはワインレッドの絨毯が敷き詰められていた。
 大きなクリスマスツリーもワインレッドのリボンに彩られ、温かな雰囲気を醸しだしている。
「ご予約の草間様ですね? お待ちしておりました」
 メガネを掛けた清楚な女性は軽くお辞儀をした。
 小さな店だった。
 外観はまるで民家のようだったが、中は雰囲気のある欧風な造りをしている。
 予約をしていた…とはいえ中は貸切状態で店員と冥月たちだけだった。
「聞いてない…こんな高そうな店…」
 もっとチープな店を予想していた冥月は少々困惑した。
 まさか草間がここまでしてくれるとは…。
「さぁ、こちらへ」
 メガネの女性は草間を奥へと促した。
 それに続いて冥月も奥へと行こうとしたが、別の店員に呼び止められた。
「お客様はこちらへ」
「え?」
 すると草間が振り向いて、悪びれた様子もなく言った。
「ちょっと着替えてこい」
 そういうと、草間はにやりと笑い奥へと消えていった。
「さ、こちらです」
「待って! な、なに? なんなの!?」
 混乱する冥月の気持ちを置いて、事はどんどん進行していった。

「さぁ、どうぞ。こちらへお座りください」
 窓際の小さな暖炉そばの席へと導かれた冥月は、既に座って待っていた草間の前に現れた。
 草間の格好は先ほどとは打って変わったタキシード姿だ。
「いつの間に…」
「おまえが着替えている間に…あぁ、やっぱりそのドレス似合うな」
 草間が目を細めてにこりと笑った。

 黒地のベルベットに胸元に薄紫の大きな花をいくつもあしらい、やはり薄紫のオーガンジーの花柄のスカートがふわりとしたイブニングドレス。
 ひじを隠す長い手袋、胸元にはいつものロケットネックレスとキラキラと輝くジルコニアのついた豪華なネックレス。
 髪の毛はアップにされ、その上にはティアラまで飾られていた。

「…最初から言っておいてくれればいいのに…」
「それじゃサプライズにならんだろ」
 頬を染めてうつむいた冥月に、草間は椅子に座るように促した。
 冥月が席に座ると、店員が小さくお辞儀をした。
「改めて、ご来店ありがとうございます。今宵はお2人のために心を込めて対応させていただきます。よい思い出になれば幸いです」
 パンパンと店員が二度手を鳴らすと、どこからともなく楽器の音色が聞こえてきた。
 入り口近くのホールに5名ほど楽器を持った人間がいる。
 どうやら生バンドのようだ。
「じゃ、乾杯するか」
 店員がその声にあわせて、グラスにシャンパンを注ぐ。
「何に乾杯する?」
 草間がそう聞くと、冥月は少しはにかんでいった。

「2人の…初めてのクリスマスに…」


3.
「お料理をお持ちしました」
 女性が手際よく冥月と草間の前に料理が運ばれた。
 不思議なことに、前菜を抜かしてスープ料理が出てきた。
 草間はおいてあったスプーンを適当に取ると、スープに手を伸ばそうとした。
「武彦、マナーは守らないとダメよ? 料理には決められた食器を使って食べないと」
 草間は下に目を落とし、「あぁ」と納得の声を上げた。
「確か…外側からとっていけばいいんだったか?」
「そう。大人のマナーよ」
 冥月はふふっっと笑って、一口スープを飲んだ。

 スープは、野菜の味しかしなかった。

「…このスープ、味がしない…」
 冥月は首をかしげ、もう一口飲んだ。
 今度はほんのり塩味がしたが、やはり薄い。
「ねぇ、武彦…」
 そう言いかけた冥月が草間を見ると、草間は苦虫を潰した様な顔をして黙り込んでいた。
「? どうしたの?」
「…た」
 草間はぼそぼそと何かを喋ったが、冥月には聞こえない。
「なに? なんていったの?」
 冥月が聞き返すと、草間は恥ずかしさをこらえるように声を出した。

「そのスープは俺が作った!」

 少しの静寂が2人の間を流れ、今度は冥月が慌てる番になった。
「え!? だ、だって、これお店の料理でしょ!? 何で武彦が作るの!?」
「…前におまえに約束したからな。この店の厨房借りて作ってみたんだよ…アドバイスももらったんだが、やっぱり俺には手料理は作れないな」
 観念したように全てを白状した草間は、自嘲気味に笑った。
「安心しろ、次からの料理は俺の手料理じゃないから」
 冥月はスプーンを持つと、スープを飲み始めた。
「お、おい!」
「武彦の手料理だもの、最後までちゃんと頂くわ」
 けして不味いわけではない。
 そこに草間の愛情がちゃんと感じられる素朴な味。
「ご馳走様。…ありがとう」
 にっこりと微笑んだ冥月に、草間はちょっと顔を赤くして「おぅ」と呟いた。
 冥月はその手料理を心から美味しいと思った。


4.
 料理が進むにつれて、2人の話にも花が咲いた。
 生バンドのクリスマスソングも心地よく、あっという間に時間は過ぎていった。
 温かいチョコレートケーキにバニラアイスを添えたデザートが出てきた頃、外は雪が降り始めた。
 改めて2人は乾杯をした。
「今日は楽しかった…ホントにありがとう」
 冥月が微笑むと、草間は無言で店員を呼んだ。
 そして何か耳打ちすると、「かしこまりました」と店員は奥に下がっていった。
「?」
 冥月が様子を見ていると、程なくして店員はドームカバーで覆われた皿を持ってきて冥月の前に置いた。
「草間様からです」
 そう告げた店員がドームカバーを開けると、小さな包み紙に包まれた箱が出てきた。
 クリスマスカラーのそれと草間を、冥月は交互に見つめた。
「これを…私に?」
「開けてみろよ」
 草間は冥月を優しげに見守る。
 冥月はカサカサと包みを開け始めた。

 出てきたのは、サファイアとダイアモンドのテニスブレスレットだった。
 落ち着いた青の輝きと、光を集めたような透明な輝き。
 
 冥月は息を呑んだ。
「こ、これ…」
「9月の誕生日は急すぎていい物プレゼントできなかったからな…。今度のは切れないぜ?」
 草間は少し顔を赤くして、ニヤリと笑った。
「つけてやるよ」
 草間は立ち上がり、手をとるとブレスレットを冥月の手につけた。
 冥月の細い腕にブレスレットがきらりと光る。
「あぁ、やっぱりよく似合う」
 草間の嬉しそうな顔に、冥月は俯いて「ありがとう」と言った。
 その時、音楽が丁度終わった。
 次の曲は『White Christmas』だった。
「一曲踊るか」
 冥月の手をとったまま、草間は冥月をホールに誘った。
「…強引なんだから」
 そう言った冥月の顔は柔らかな笑顔だった。

 2人は体を寄せ、ゆっくりと踊りだした。
 タキシード姿の草間とドレス姿の冥月は、時を惜しんでいるようだった…。


5.
「ありがとう」
 冥月は店員にそう声をかけた。
 元の服に着替え、2人が店を出る頃には一面の銀世界になっていた。
「あ、お客様。お忘れ物です。お気をつけてお帰りください」
 店員が、慌てて冥月に小さな紙袋を渡して去っていった。
「…あ」
「なんだそれ?」
 草間が覗き込むように冥月を見る。
 冥月は少し考えて、小さな紙袋を草間に手渡した。
「…俺?」
「プレゼント…こんなにいい店だと思ってなかったから、渡しそこねたのよ」
 ちょっと気恥ずかしい…武彦は、どう思うんだろうか…?

「マフラー…手編みか?」

「手編みよ。…柄でもないって思った?」
 純白の手編みのマフラーを手にした草間は、何も言わずにマフラーを首に巻いた。
「思ってないよ。あったかいな」
 目を瞑った草間に、冥月は温かな気持ちになった。
 それは、初めての感情かもしれなかった。
「っくしょん!」
 雪が降り冷え込みが強くなったせいか、冥月は小さなくしゃみを1つした。
「おまえ、コート着てこなかったのか?」
 そういえば、中に着るものばかりを気にしてコートのことをすっかり忘れていた。
「バカだなぁ。俺のコートの中は入れ。温かいぞ」
 草間はそういうと、冥月を自らのコートの中に引き込んだ。
 冥月は温かな草間の胸の中で呟いた。
「…ねぇ、興信所に戻らない?」
「え?」
 草間が目を丸くした。
 冥月はにっこりと笑って顔を上げた。
「今日のお礼に美味しいワインでお返しさせて。それに一番落ち着くの…2人の大切な場所だから」

 穏やかに笑った草間は「わかった」と短く言って、冥月に顔を寄せた。
 冥月は静かに目を閉じて、2人はキスを交わした…。
 

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間武彦 / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒・冥月様

 この度はWF!Xmasドリームノベルへのご参加ありがとうございました。
 草間のサプライズはいかがでしたでしょうか?
 冥月様の思い出になるクリスマスとなればよいのですが…。
 なお、サファイアは9月の誕生石です。
 それでは、よいクリスマスをお過ごしください。