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Party Time!
「ようこそ、いらっしゃいましたー!」
扉を開けると、サンタの格好をした銀髪の男性と、トナカイの着ぐるみに身を包んだプラチナ・アクアの髪の少年が出迎えた。
「……ん? 二人とも、以前に会ったことがあるか」
サンタ姿の男性――ルラー=ヴィスガルが、来訪客の二人の顔を見て瞳を細める。
「おひさしぶりですっ」
トナカイ姿のイーヴァ・シュプールも、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「その節はどうも」
「またお会い出来るとは……思いませんでした」
訪れたのは物部・真言(ものべ・まこと)と、羽月・悠斗(はづき・ゆうと)。それぞれ、ぎこちなく会釈する。
『みんなで料理を作って、一緒にパーティしましょう』
そんなチラシを見て、ふたりはここを訪れた。特に示し合わせた訳ではないし、主催側であるルラーとイーヴァの名もそのチラシには無かった。それでも顔見知りが集まったのは、何かの縁というものだろうか。
「せっかくですから、今日は楽しみましょうね!」
「……これで全員か?」
「はい」
部屋の中を見回す真言に、イーヴァが元気よく頷いた。ルラー、イーヴァ、真言、悠斗。参加するのはこの四人らしい。
「見事に男だけだな……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、クリスマス料理といえば! なレシピを幾つか貰ってきました」
そう言って、イーヴァがメモの束のようなものを取り出す。見てみると、女性らしい字で丁寧に書かれている。確かに、この通りに出来たらどうにかならなくもなりそうだった。
「おふたりは、何か食べたいものありますか?」
「そうだな……まあ、普通にクリスマスっぽいものがいいんじゃないか」
「ユウトさんは?」
「僕も……そういうもので、いいと思います。家事なんてほとんどしたことがないから、ちゃんと作れるかわかりませんが……」
「大丈夫です、僕も料理したことはありません!」
胸を張るイーヴァに、真言と悠斗が、え、と固まる。ルラーの方を見遣ると、妙に偉そうにこちらも胸を張った。
「私も無い」
「大丈夫です、レシピがあれば何とかなりますよ」
無駄に自信ありげなふたりに、やや不安が募る。やや遠慮がちに、真言が口を開いた。
「俺も得意とは言い難いんだが……この中ではまだマシな方、なのか?」
「そうですね。じゃあマコトさん、リーダーやってもらえますか?」
「お願いします……」
イーヴァと悠斗が真言を見る。めちゃくちゃだな、と思いながら、真言は小さく息を吐いた。
「……わかった。俺も一応レシピを幾つか持ってきたんだが、この辺りならまあまあ作れると思う」
「じゃあ、それもまぜて、中から選びましょう」
テーブルにレシピを広げ、三人で覗き込む。ルラーは、少し離れて後ろから様子を見ていた。どれがいいかとあれこれ手に取った末、ピラフにローストチキン、それにシーザーサラダを作ることにした。
「悠斗はどうだ?」
「僕は、あまりクリスマスをやったことがなくて……よく、わからなくて」
あまり積極的に発言しなかった悠斗に、真言が話を振る。悠斗は首を横に振ってから、ぼんやりと少し考えた。
「ワインとか、グロギとか……そういうのなら、調達出来ると思うんですが」
「グロギ?」
「北欧でクリスマスによく飲まれる、ホットワインみたいな感じです」
「ってお前、未成年じゃないか」
「ならば、アルコール無しで作ればいい」
悠斗と真言の会話に、それまで黙っていたルラーが割って入った。きょとんとする彼らに、ルラーが目を細める。
「グロギのレシピならその中にあったな、イーヴァ」
「はい」
「なら、飲み物は私が担当しよう」
ルラーの申し出に、はい、とイーヴァが頷いた。
「すみません。かえって、気を遣わせてしまって」
「気にすることはない。皆が好きなものを食べるのが、このパーティの主旨だ」
ルラーは不敵に微笑み、イーヴァからレシピを受け取ると、食材のたくさん置かれた台へと向かった。メモを手に、グロギの材料を選んでいる。ルラーと食材、という普段はあまり見ない取り合わせに、イーヴァは控えめに笑みをこぼした。そして、真言と悠斗に向き直る。
「ケーキはどうします? 王道で、苺のケーキでしょうか」
「そうだな。いいんじゃないか」
一瞬眉をひそめて、真言が頷いた。それに気付き、悠斗が小さく首を傾げる。
「もしかして、苺、苦手だったりしますか?」
「ああ……苺というか、生クリームがあまり。けど、皆が食べたいものを食べるのがいい」
あまり主張するつもりはないし、真言にとっては自分を押し通すよりも皆の希望が通る方が嬉しいと思った。だが悠斗は少し考えてから、ためらいながら呟く。
「みんなが、好きなものを食べるのがいいと思います」
主張の薄い悠斗からそんな主張が出たことに、思わず目を瞬く。真言の反応に、悠斗は困ったように口を開いた。
「さっき、そう言ってくれたから」
取り繕うようにそう言って、グロギの準備をしているルラーの方を見る。クローブやシナモンスティックを選り分けて鍋に入れていくその様子は、何故か調合しているような雰囲気もあった。
「シュトーレンなんてどうですか? これなら、生クリームも使っていないみたいです」
レシピの一枚を手に、イーヴァが呼びかける。確かにクリームはないし、クリスマスらしい。まさに、皆の希望が通るものだった。
「ああ。そうしよう」
真言は頷き、付け加えるように、ありがとう、と続ける。イーヴァは笑って、悠斗は表情を変えずに、頷き返した。
メニューが決まり、さっそく調理をはじめることにした。イーヴァはとりあえず着ぐるみを脱ぎ、皆それぞれ持参したエプロンを着け、手を洗い、まずは時間のかかりそうなシュトーレンから着手することにした。
「まずは胡桃とアーモンドを細かくして、オーブンで焼く」
真言がレシピを読み上げる。イーヴァと悠斗がそれぞれ胡桃とアーモンドをビニール袋に入れ、麺棒で叩いた。
「何だかこれ、楽しいですねっ」
笑いながら叩くイーヴァの隣で、悠斗も微かに顔を綻ばせる。ほどよく細かくなったそれをオーブンで焼く間に、次に時間のかかりそうなチキンに取り掛かった。
骨付き鶏肉に塩・胡椒、それに真言のアイディアでカレー粉をすり込み、タレにつける。ローストチキンを作るため、鶏の足丸鶏も用意してあったが、上手く扱えそうな者がいなかったため、ローストレッグに落ち着いた。
「牛肉のブロック肉もあるのか……なあ、これも使っていいか?」
「はい、勿論」
「勿体無いしな。チキンも足だけだし、ローストビーフにしようと思うんだが……」
「いいですね!」
イーヴァが嬉しそうに手を叩く。傍らで悠斗が、きょろ、と辺りを見回した。
「でも、チキンとケーキも焼くし、オーブンが……」
「ああ、平気だ。圧力鍋でも出来るから」
真言は手早く牛ブロックをパックから出すと、下ごしらえを始めた。その間に、イーヴァと悠斗でシュトーレンの調理に戻る。室温にもどしたバターを練り、卵黄を加えてよくまぜる。それから粉やイースト菌などを加えて、ひたすらこねる作業に入った。
「大丈夫か? 俺が力仕事に入った方がいいか?」
「大丈夫、交代でやります」
悠斗がボールを押さえ、イーヴァが生地をこねている。小柄なふたりに力仕事を任せるのもやや心苦しかったが、ふたりの意思に甘えて真言はローストビーフ作りを続けた。チキンと同じように調味料に漬け込みつつ、付けダレも用意する。ひとまずそこで置き、それから、チキンと一緒に焼くジャガイモを剥いて鍋に入れ、コンロへと向かった。
コンロでは、ルラーがグロギ用のエキスを火にかけていた。透明な蓋の中で煮立つエキスをじっと見ている。
「どうですか?」
「まだ三十分以上はかかるな」
その隣で、真言もジャガイモを火にかける。ルラーは、黙ってじっと鍋を見ていた。
「そちらはどうだ?」
「二人がケーキを作ってくれてて……俺はそろそろ、ピラフの準備しようかなと思うんですけど。ルラーさん、入れたい具とかあります?」
「任せよう」
そう答えるルラーは、やはり鍋を見続けている。もしかしたら早々に料理から逃げたのかもしれない、と真言はぼんやりと思ってしまった。
「マコトさん、これくらいでどうでしょうか?」
と、イーヴァから声がかかり、真言がそちらへ向かう。生地は、まあまあ良さそうだった。ドライフルーツと、さっき焼いた胡桃やアーモンドを入れて混ぜ、発酵させる。ケーキ作りは、これでいったん落ち着いた。
続いてピラフに取り掛かる。肉と野菜を他で使うので、シーフードにしよう、という流れになった。悠斗が魚介類を、イーヴァが米を洗う。真言は、その間に調味料を用意した。そして、ひとまず米を炊飯器にかけた。
それから、ふかしたジャガイモの皮を皆で剥く。
「熱、熱っ」
ジャガイモをお手玉しながら、どうにかスライスした。それを天板に敷き、それなりに調味料に漬け込んだチキンをその上に乗せ、オーブンで焼き始める。
「こっちもいいな……今度は俺がやろう」
途中でガス抜きをして、発酵を終えた生地を成形していく。それなりに重い生地をどうにか纏め、少し寝かせてからこちらもオーブンに入れた。
ふう、と三人で一息吐く。少しの間『待ち』となった。
「やっぱり、結構大変だな」
「でも、楽しいです! マコトさん、手際いいですね」
こく、とイーヴァの隣で悠斗も頷く。そんなことない、と真言は謙遜した。
と、独特のスパイスの匂いが鼻をつく。そちらを見ると、ルラーが鍋を手に移動していた。どうやら、ひとまずグロギのエキスも出来たらしい。
「ルラー様、出来たんですか?」
「ああ」
イーヴァに頷きながら、ルラーはもう片方の手に持っていたろうとを出した。実験で使うようなそれにきょとんとしていると、エキスをろうとでろ過し始める。
「……実験?」
悠斗が小さく呟き、首を傾げた。サンタ服のままそんなことをしている様子は、なかなかシュールな光景で。小瓶に移したエキスを電球の光に透かして満足そうなルラーを見て、真言も苦笑した。
落ち着いている間に三人でシーザーサラダを作ってしまい、それから、少しばたばたした。それぞれの料理の仕上げのタイミングが重なったからだ。
「マコトさん、この準備してもらったものに順番に放り込んでいけばいいんですよね?」
「ああ、天ぷらみたいに!」
「てん……? とりあえず、やってみます!」
シュトーレンの仕上げをやることになったイーヴァは、先に作っておいたバターや砂糖のバットに生地を入れ、まぶしはじめた。やや不安なやり取りだったが、ピラフを炒める真言はじっくり見ていられない。
「ええと、これは……切って並べればいい、よね……熱っ」
悠斗の微かな独白も聞こえてくる。彼はローストビーフとチキンの盛り付けをやっていた。慣れない作業に戸惑っているようだが、ゆっくりやれば問題ないだろう。
ルラーもまた、グロギのエキスを温かいベリージュースで割っている。
ほどなくして、食卓にあたたかな料理の数々が並んだ。
「それでは、改めまして……」
着ぐるみよりは大人しい、サンタの帽子をかぶったイーヴァが咳払いをする。真言と悠斗も、同じサンタ帽を頭に乗せていた。皆の顔をして、イーヴァが口を開く。
「メリー・クリスマス!」
その声と同時に、クラッカーが三個鳴らされ、紙吹雪が舞う。拍手をして、はた、と悠斗の方を見た。その手には、鳴らされていないクラッカー。
「あ、これ……紐を引くんですね」
ぱん、と遅れて鳴る悠斗のクラッカー。皆の注目に気付き、悠斗はやや眉を下げた。
「すみません。こういうの、やったことがなくて……」
「まあ、こういうハプニングも醍醐味だろ」
そう言いながら、真言はクラッカーの残骸をゴミ袋に片付ける。慌てて、悠斗もそれを手伝った。簡単に纏め、いただきます、と料理に口をつける。
「お、美味い」
ローストレッグにかじりついた真言が、そう呟いた。一晩漬け込んだものとは比べられないが、素直に美味しいと思う。皆で作ったから、より美味しく感じられるのかもしれない。そう思うと顔が綻び、自然ともう一口かじった。
「あ……美味しいです」
悠斗がグロギを飲み、思わず呟く。
「グロギって、こういう味なんですね……」
「知ってて、飲みたかったのかと思った」
「クリスマスに飲むもの、とは知っていたんですが……もしかしたら、幼い頃に飲んだこともあるのかもしれませんが……最近は、全然なかったので」
真言の言葉に返しながら、悠斗はグロギのグラスをもう一度傾ける。
「……あたたかいです」
ほっこりと、微かに頬を赤らめる。傍らでは、ルラーも満足そうな顔をしていた。
「焼いてもらったジンジャークッキーも持ってきたんですよ。よければ、一緒にどうぞ」
イーヴァがそう声をかける。彼もまた、サラダを手にしていた。美味しい料理に皆が満足していることは、その笑顔からわかる。それぞれ、やわらかい表情で、料理に舌鼓を打っていた。
「それでは、最後にプレゼントといこうか」
ルラーが立ち上がる。未だにサンタ服姿でのその言葉は、皆にやや期待をもたせた。三人の見つめる中、ぱら、とルラーが数枚の紙を取り出す。
「写真?」
問いかけた真言に、ルラーが頷いた。
「皆が最後の追い込みに入っている時にな」
「わあ、嬉しいですっ」
イーヴァが笑い、ぱらぱらと写真を見る。真言と悠斗も、それぞれ写真を受け取った。
「ありがとうございます」
「ありがとう、ございます」
そこに映るのは、一生懸命料理と格闘している姿。最後は本当に慌しかったし、それが如実に映っている。――だが、楽しかったその時の雰囲気や感情も、確かに映り込んでいた。
「メリー・クリスマス」
ルラーが、そう言って不敵に笑い。
イーヴァは隅の方に残っていたクラッカーを取り、勢いよく鳴らした。
《了》
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【4441 / 物部・真言 / 男性 / 24歳 / フリーアルバイター】
【8514 / 羽月・悠斗 / 男性 / 16歳 / 呪い師】
クリエーターNPC
【 NPC4928 / イーヴァ・シュプール / 男性 / 13歳 / 管理者】
【 NPC4929 / ルラー・ヴィスガル / 男性 / 36歳 / 管理者】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは、WF!Xmasドリームノベルへのご参加、ありがとうございました。
またお会いすることが出来てとても嬉しいです。企画ものということで『機械の町』からは若干パラレル的なお話となっていますが、少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
本当に、ありがとうございました!
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