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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


アトラス編集部温泉旅行(1)〜露天風呂編〜

○春巻き・桂
 冬、年度末。アトラス編集部では恒例の温泉旅行が企画された。バスツアーである。編集長・碇麗香の興味の対象はただひとつ、性別不明バイト社員・桂(けい)の性別はどちらなのかということ。男湯に入るのか女湯に入るのか。はっきりしたら、その若い身体に触れても良いのでは……。しかし今年の宿泊先に選んだ温泉には罠があった。実はその温泉は混浴で、効能は性欲増進(同性、異性を問わず)。温泉に向かう碇麗香、桂の運命は如何に。
 綺麗どころと温泉という絶好の機会だったが、三下忠雄は途中でバスに酔って部屋で寝込んでいた。
 麗香と桂は露天風呂に向かった。桂は男なのか女なのか!? そわそわと桂をチラ見しつつ着いた浴場は混浴。
 桂は全身に大きなバスタオルを巻いて身体のラインを隠し、春巻きか手巻き寿司の如き格好で言った。
「麗香さん、先に入ってますね〜」
「あ、うん。そんな格好で%]ばないように気を付けてね!」
 桂は笑顔で脱衣場から浴場に向かった。麗香の渾身の皮肉も、打てど響かず。
(ちいいぃぃいいいっ!!)
 冷静な麗香も心の中で吼えた。「女装の美少年が何故か編集部に!」でも「男装の美少女が何故か編集部に!」でも、どちらでも月刊アトラスに特集記事が組めたのに。
 桂の決定的証拠≠掴むべく用意した小型カメラ(シャッター音消去アプリインストール済み)は胸の谷間に挟み、上からタオルを巻いた。そもそもこんな場所での撮影は立派な犯罪行為である。
 春巻きと化した桂に隙はなさそうだ。大人しく温泉を堪能しよう――。諦めた麗香は浴場に入り、別の意味で「カメラを持ってきたのは正解だったのでは……」そんな邪念を抱くことになる。

○同性すらも<Gミリア・ジェンドリン
 白いバスタオルでぐるぐる巻きになった春巻き′jと麗香が露天風呂に浸かって数分。すっかり奇妙な温泉の効果は現れていた。
「ねぇ桂、あんた好きな子いる?」
 麗香の直球だった。いくら自分の部下とはいえ、遠慮会釈なく、捻りもなく。
「毎朝通勤途中で見かけるタンタンは好きですね〜」
「タンタン?」
「犬の名前です」
 桂の十八番、はぐらかし。だが温泉の効果にやられた麗香は引き下がらない。
「その『タンタン』がオスだったらあんたはヘテロ! メスだったら百合スキー決定よ! どっちなのか答えなさいっ!」
 麗香はどうしたのか……。奇妙に思う桂だが、自分もまともな思考力が奪われていくことがおぼろげにわかる。
「た、タンタン、は……」
 そのとき「がらり」と脱衣場の扉が開き、相手が男であろうと女であろうと問答無用で魅了し、己が虜にする妖艶な女性が現れた。バストとヒップが膨らみ、ウエストがぺこんと凹んでいる。昔ビン入りのコーラが発売されたとき、そのビンは魅力的な女性のプロポーションを参考にしたと言われている。そんな魅力的なプロポーションを極めた女性。
 麗香も、桂すらも目を奪われる。
 その女性は麗香を見て「あれ?」と不思議そうに首を傾げる。
「あんた……以前酔いつぶれてたところをあたしが助けた、碇――」
「スト――ップ! 私の醜態を部下の前で話したらっ絶交よっ!!」
 エミリアは大きな双乳をタオルで隠し、コホンと咳払いしてその場を取り繕う。
「初めまして、お二人さん。多分同じバスに乗ってたんだろうけど、あたし、エミリア・ジェンドリン。エミリアでよろしく」
 挨拶し、露天風呂に浸かる。麗香の右斜め前であり桂の左斜め前。
 麗香・桂・エミリアで三角形を成す形に。
「初めまして′至ァアトラス編集部の碇麗香です。プロポーション良いですね!」
 謎の温泉の湯に冒された麗香の発言。挨拶は普通だが語尾に余計な褒め言葉がくっついていた。
「え、と……何か、ワケありのお二人なんですか?」
 桂がためらいつつ会話に参戦した。控え目な性格の桂にもこの温泉の効果が現れ、
「エミリアさんも碇編集長に負けず劣らずの、綺麗なお姉さんですね!」
 と、普段の桂ならあり得ない大胆発言をしてしまってから慌てて口を塞ぐ。
 エミリアは「ふふ」と笑い、妖艶な態度を見せる。
「きみも充分可愛いじゃない。名前は?」
 流し目で見られ、桂の胸が高鳴る。ウブな桂がエミリアの標的になろうとしていた。
「ぼ、ボクは、桂です」
 桂の頬が真っ赤に染まる。完全にエミリアのペース。
「男? 女?」
「そ……それは、ボクは……」
 タオルを身体に巻いた桂が横を向く。恥ずかしくてエミリアの視線に耐えられない状態。
「身体にそんなにバスタオルを巻いてたら窮屈でしょ。さ、脱ごっか」
 エミリアの手が桂の胸元に触れ、(ん、胸あるのかな? 男か女かはっきりさせる!)邪念――改め、知的好奇心が渦巻く。
「や、ダメです! 編集長!」
 さささ、と麗香の背後に逃げる桂。両手で麗香の肩に掴まって身を守る盾のようにする。
 麗香は思った。
(十代の美少年か美少女に掴まれてる幸せ――ッ!!)
 エミリアは麗香の方を向き直る。
「ああ、あんたに訊けば良かった、編集長っつーか雇い主の碇麗香。その子、桂って男? 女? どちらにしても愉しみ方はあるんだけどさ、フフ……。どっち?」
 麗香は真顔で答える。
「男か女か、知らないわよ?」
「…………は? いや、そんな冗談はいいから――」
「ううん、本当に知らないの」
 エミリアは滅多なことでは隙を見せない心も身体もパーフェクトな女性である。だが流石に、少しイラッとした。
「あんたの――麗香の部下でしょ!? バイト社員にしても、雇うときにそれなりに、」
「可愛かったから雇った。あぁ、あと雑用も文句言わずにやってくれそうだったから」
 エミリアはこんな言葉を思い出していた。
 ――「蛇の道は蛇」
 つまり自分が両刀使いだから、同類と思われる麗香の行動にも納得してしまうのだろうか。桂が可愛いから、それだけの理由で雇うのも納得出来る。付け足して「文句を言わずに雑用をしてくれそうだから」と理由付けするのも分かる。こんなかわいい子がうろちょろしてくれたら、毎日の仕事が楽しいことこの上ないだろう……。
 全て納得して、面白いモノを見付けた。
「麗香、あなたが胸に挟んでるカメラ、誰のどんな様子を撮るつもりだったのかな?」
 言いつつ素早くカメラを抜き取り、確認する。スマホのシャッター音消去アプリインストール済みの代物。盗撮用カメラとも呼ばれるモノ。
「ははーん、これで桂ちゃんをねぇ……」
 慌ててカメラを奪い返そうとする麗香。だが素早さで敵わない。
「邪推はやめてもらえるかしら!? 私は露天風呂からの美しい景色を!」
「そんな言い訳は無理がありすぎよ、盗撮未遂犯」
 麗香とエミリアが揉めている隙に、こそこそと露天風呂から逃げ出す桂。そこに思わぬ人物が現れた。

○忘れ去られていた人物の鋭い指摘
 がらり。扉を開けて現れたのは白王社平社員・三下忠雄。
 ぱっと見で冴えない男である。じっくり見ても魅力は無い。エミリアは(この男とは一言も口を利かない)と固く決意した。それは他の人物もほぼ同様で、麗香も桂も(この男はスルーしよう……)そう思った。
 だが次の瞬間、三下の口から予想外の事実が語られる。
「へぇ、混浴で……この温泉のお湯……お酒ですか! 日本酒、リアル養老の滝ですよ!」
「「「はぁ――っ!?」」」
 三人の声が木霊した。
 この温泉の効能は、効能の原因は、お湯がお酒だったことから来ていた――。
 リアル養老の滝。
 アルコールに長時間浸かって酔わない訳がない。
 麗香と桂とエミリアは同じ部屋で数時間酔いを覚まし、同じ部屋で寝たことで少し親密度が増したようだった。
 桂は未成年。最も酒に弱い人物。先に回復したエミリアと麗香は、密かに桂の旅行カバンを覗いた。
 可愛らしい下着が入っていた。
 これだけでは男か女か分からないが……「この可愛さが桂だ」二人はそう納得した。
 アトラス編集部温泉旅行改め「桂の正体にせまる旅行」は次に続く含みを持たせ、こうして終わりを告げたのだった


おわり。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
8001/エミリア・ジェンドリン/女性/19歳/アウトサイダー
NPC 碇・麗香(いかり・れいか)
NPC 桂(けい)
NPC 三下忠雄(みのした・ただお)

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■         ライター通信          ■
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 相変わらずの麗香さん、桂にせまる回でした。
 エミリア・ジェンドリン様、二度目のご参加ありがとうございます。一度目の出会いから続いております。
 作中で名前は、苗字・名前のうち呼びやすい(と思われる)方で呼ばれるようにしています。
 東京怪談に新たな個室をひとつ造らせて頂きました。ネタ要素のない真剣に考える個室です。自分がOMCを続けられればそちらも更新していきたいのですが……。
 またのご参加をお待ちしておりますm(_ _)m。