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<東京怪談・PCゲームノベル>


水晶猫を捕まえて
●水晶猫は何処へ?
「透明な猫か。何とも珍しい猫がいるもんだな……」
 物部・真言(ものべ・まこと)の第一声はそれであった。確かに日常的な世界ならば、透明な猫などというモノは存在しえないだろう。
 ――しかし、魔術的な、あるいは霊的な存在ならば?
 この古書店ならば何があってもある意味おかしくない。
(「……この書店の多数ある本にどうしても興味が湧いてしまうのですが……」)
 むぅ、と伏見・夜刀(ふしみ・やと)は小さく唸った。
 何せこの古書店、古書肆淡雪は所狭しと本棚が並べられ、更にどれもぎっしりと本が詰まっている。
 魔力を感知できる彼としては、古書店のさらに奥にある本に興味があるようだが――。
「……まず水晶猫が出てきた絵本から何か手掛かりを得る為に魔力を読み取ってみますね」
 仁科・雪久から水晶猫の絵本を受け取った彼は金の瞳でじっと見つめる。
(「水晶猫の動機や存在意義等が判れば、多少は行動し易くなるかもしれませんし」)
 そして暫し。
「…………ふむ」
 一旦目を閉じ夜刀は小さく唸った。
「……どうやら退屈していたようですね」
「……退屈?」
 雪久の問い返しに夜刀は無言で頷く。
「仁科さん。このあたりで猫が集まりそうな場所ってありますか?」
 羽月・悠斗 (はづき・ゆうと)に問われ雪久は僅かに思案しこう答えた。
「そうですね……近くに小さい公園があるんですが、そこでは時々猫たちが集会をしている事があるそうですよ。他にも裏通りで猫たちが集会をしてるのを偶に見かけますね」
 数カ所の猫の集会場を雪久は挙げる。寧ろなんでそんなに猫の集会場に詳しいのか聞いてみたい勢いである。
「なるほど、だったら僕はそのあたりを中心にミルクをおいて様子をみてみようと思います」
 それぞれの対策を考える中、真言は。
(「まさか以前会った猫又に相談出来る訳もなし、な」)
 ふと以前とある庭園で出会った不思議な存在を思い出す。猫又だけではなく、あの庭園の猫たちは「また遊びにきて」とばかりに元気に鳴いていた。
 もしかしたら、あそこなら。
「……とりあえず、この本から水晶猫の魔力は解りました。魔力の跡を付ける事もできますが……」
 夜刀は他のメンバーへと視線を送る。
 何せ今のままでは雪久の言った集会場も数が多く絞り込みにくい。
 夜刀を先頭に彼らは水晶猫がいるであろう場所を探っていく。

●たどり着いた場所は……
 魔力を辿りやってきた先は雪久の告げた猫の集会場の一つである公園だった。
 確かにごく小さく、遊具もぼちぼち置いてあるあたり、普段であれば小さな子供が遊んでいてもおかしくない。そんな雰囲気の場所だ。一応砂糖を混ぜたミルクは設置済み。好物らしいという事だし、見かければ水晶猫はミルクを飲みに来る可能性が高いだろう。
 だがそれはそれとして。
「あれ?」
 小さく悠斗が声をあげる。公園に入ったはずが目前に展開されたのは、妙に落ち着いた雰囲気の庭園。あきらかに異なる雰囲気には彼でなくとも驚くだろう。
「……何やら非常に魔力に満ちた場所ですね。どうも今までの公園とは異なる場所のようですが……」
 夜刀が目を見開く。だが、ある意味一番驚いたのは真言だったらしい。
「……ここは……」
「真言さん、ご存じなんですか?」
 悠斗が彼へと問いかける。
「ああ、ここは……」
 真言が答えるより前に。
『よう来たのぅ』
 女性の声が3人の頭の中に響いた。前方からやってきたのは金色の猫だった。あきらかに普通の猫とは異なる雰囲気。その存在が何であるか、夜刀は即座に見抜いていた。
「猫又、ですか?」
 悠斗が訊ねると同時に猫又と真言が頷く。しかしながら、彼らがやってきた事を猫又もまた驚いたのかも知れない。
『それで今日は何の用じゃ? 友人も連れてくるとは何か大事かの?』
「それが……」
 真言が事情を説明する。逃げだした水晶猫の事を。
『ふむ……それはあの子かのぅ?』
 猫又がふにっとした手で指した先には、子猫の集団が居た。一見ちびねこたちが固まって遊んでいるだけに見えたのだが……。
「あっ……!」
「……居ましたね」
 悠斗と夜刀が同時に声を上げる。
 ぶちねこ、ミケ猫、茶トラに混ざり、1匹だけ陽光を受けて輝く透明な子猫が居たのだ。

●いっしょにあそぼう?
「まだ戻るつもりはありませんか?」
 砂糖を溶かしたミルクを差し出しつつ悠斗が水晶猫へと語りかける。お腹がすいていたのか元気にぺろぺろとミルクを舐めはじめた子猫だったが、問いに関しては「……にゃおん」と小さく答えたのみ。
(「ふわふわで透明な猫……触れてみたいな……」)
 怯えられないといいな、と手を伸ばす。指先に触れるのは温かな毛の感触。
 透明で、キラキラしているにも関わらず、触り心地は確かに子猫。しかも、仄かにお菓子のような甘い香りがする。
「このままだとあなたの存在が消えてしまうので出来れば戻ってみませんか?」
「にゃー……」
 更に悠斗が続けると水晶猫は申し訳なさそうに小さく鳴き、彼の手をぺろ、と舐める。
 解ってはいるんだけれど。そんな調子で。
「……どうやら、猫さんは本の中で退屈していたようなのですよ」
 先ほど本の持つ魔力を読み取った夜刀が語る。
「……本の中で遊ぶのも楽しかったようなのですが、長い事ずっと同じ場所に居たら、流石に飽きてきてしまったらしいですね……だから、本が落ちて開いたタイミングを見計らって外に遊びに行こうとした……という事のようです」
 彼が説明しつつ撫でると水晶猫も「にゃーお」と同意を示すように鳴く。
「……という事は、遊んであげれば気が済むんでしょうか?」
 水晶猫のふわふわの毛を撫でながら悠斗は首を傾げる。そうだよ、とでも言いたげに水晶猫は透明な身体をすり寄せる。ふかふかでちっちゃな様子も含めて、悠斗が予想した以上に可愛らしい。
「遊んでやるから満足したら帰るんだぞ」
 やれやれ、と言った調子で真言はため息を吐いた。
「ところで、俺は公園に居たはずなんだが、どうしてここに?」
 真言の問いに猫又は確かに疑問を持っても仕方なかろうとばかりに重々しく頷いた。相変わらず妙に人間くさい動きである。
『おんしが望んだから、あの場に入り口が現れただけじゃよ』
「望んだ? ……俺が?」
『そうじゃ。この場所はわしの住み家になっておってのぅ……招かれた者しか入れん。逆を言えば、招かれた者が望むならどこにでも入り口を開けるのじゃよ』
 おんしはあの子を探す為にこの場所を思いだしたのじゃろう? と猫又は続ける。
『あの子は放置しておくと消えて仕舞うらしいの。それもあまりにふびんじゃから、どうか宜しく頼むの……』
 ぺこり、と頭を下げる金色の猫に寧ろ真言が焦る。
「いや、俺も頼まれ事だから、あんたに頭を下げられるような事は何も無い」
 小さく手を振りつつ慌てて答えると猫又は『そう言って貰えると本当に助かるのぅ』とぺこりと頭を下げて見せた。

●おうちにかえろう。
 鬼ごっこにかくれんぼ。
 全力で元気に走り回る水晶猫+子猫たちに翻弄されつつも、真言や夜刀は頑張った。
 動物好きとはいえここまでフリーダムに飛ばされると中々に厳しい。
 一体あの小さな身体にどれだけ力が有り余っているんだ、と言いたいくらい猫たちは大暴走。
 しかし遊んでいる最中捕まえた時のふんわり柔らかな毛並みや、ぴんくとふにっとした肉球の感触はかなりの癒しになった。
 ひとしきり遊びきって真言や夜刀がへとへとになる頃、次第に日は傾き始めた。
「そろそろ帰りませんか?」
 悠斗が告げると水晶猫も満足したのか「にゃ〜〜おん♪」と一声鳴いた。
 なお、悠斗はあまり体力には自信が無い、という事でおとなしめの遊びにつきあっていたのでそれほど消耗していないらしい。
 逆を言えば他の2名はかなり大変だったようだが……。
 猫又たちへと挨拶し、真言がしっかりと水晶猫を掴み、撫でて機嫌を取りつつ古書肆淡雪へと向かう。
「満足したか?」
 真言は抱きかかえた水晶猫に語りかける。
 ……が、既に水晶猫はおやすみモード。真言の腕の中で寝息を立てている。
「……いい気なもんだなぁ」
 ある意味恐ろしく大物な水晶猫に真言はちょっとだけあきれたような声を出す。
 しかしながら彼としても今日は猫と遊べたので満足といえば満足。
「……余程遊びたかったんですね」
 夜刀は疲れて眠る水晶猫にくすくすと笑った。偶に寝言なのか、小さく「みゃっ」と鳴いたり何かを舐めようとするかのように舌を出すあたりかなり安心しているらしい。
「真言さん余程気に入られたみたいですね」
 少し羨ましそうに悠斗も呟く。

 かくして彼らは無事水晶猫を捕まえた。
 そのまま古書肆淡雪に連れていき、店主の雪久へと渡したのだが――。
「……また退屈されて逃げ出されると困るし、時々遊びに来てあげてくれないかな?」
 水晶猫を本の中へと収納しつつ店主は笑顔でそう宣った。へとへとになるまで引きずり回された真言や夜刀から見たら鬼の宣言のような気もするが、3人の事を信頼しての言葉なのだろう。多分。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4441 / 物部・真言 (ものべ・まこと) / 男性 / フリーアルバイター
5653 / 伏見・夜刀 (ふしみ・やと) / 男性 / 魔術師見習、兼、助手
8514 / 羽月・悠斗 (はづき・ゆうと) / 男性 / 呪い師

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■         ライター通信          ■
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>物部・真言様
 いつもお世話になっております。ライターの小倉です。
 さて、今回どんな流れになるかなーと思っていたのですが、猫又の話題が出たので折角なので顔を出してもらう事にしました。なんであそこに猫又のいるあの場所が現れたか……については作中の通りです。
 そんな感じで、少しでも楽しんで頂けていれば幸いです。
 この度はご参加ありがとうございました! またご縁がございましたらどうか宜しくお願いいたします。