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<東京怪談ノベル(シングル)>


一網打尽!

 工藤勇太が目覚めると、そこは汚いビルの中だった。
「あっれ……俺、なんでこんな……」
 腕と足が縛られている。
 それに後頭部がやけに痛む。
 普通ならこんなビルの中になんか迷い込む事なんかない。
 その上、こけて後頭部を打った覚えもない。
 だとしたら何故?
 痛む頭をフル回転させて、直前の記憶を掘り起こす。
「えっと……確か下校中に近道しようと思って裏道に入ったんだよな」
 高校からの下校中、普段は通らない近道を通ったところ、辺りが騒がしかったのを覚えている。
 確か、銀行の近くだっただろうか。
 その近くを通った時に突然、何かが起こって気を失ったのだ。
「何があったんだ? 近くに人はいないのか?」
 情報を求めて周りを窺ってみるが、特に何もないし、誰もいない。
 だが……
「ドアの奥に誰かいるな」
 ここから見える部屋の壁にドアがある。
 その奥から小さく声が漏れ聞こえているのだ。
「とりあえず、このヒモをどうにかしないとな」
 手足を縛られていては、満足に聞き耳も立てられない。
 と言うわけで、サイコキネシスを発動させてヒモを引きちぎった。
「よし、寝起きでも絶好調、っと」
 身体の調子を確かめつつ、硬い床で寝転がっていた身体をほぐす。
 その後、音を立てないようにして壁に近寄り、耳をつけた。
『なんであんな小僧を連れてきたんだよ』
『逃げる時に役に立つかと思って』
『バカヤロウ。荷物が増えたら足がつきやすいだろうが』
 どうやら奥の部屋に居るのは三人ほど、すべて男性の様だ。
 足がつく、とか、逃げる、とか言ってるところを聞くと、どうやらあまり真っ当な道を歩いている感じではない。
「何者なんだ……?」
 とりあえず、様子見の為に、もう少し話を聞くことにする。
『もうすぐ逃げる準備も整う。それまでに痕跡を消しておかなきゃならん』
『じゃあ、いろいろ片付けないとな』
『そうだな、あの小僧も掃除しておかなければ』
 雲行きが怪しくなってきた。

***********************************

 ドアが開き、男が三人ほど入ってきた。
「おらぁ、掃除の時間だぁ!」
 一人はのっぽ、一人はデブ、一人は中背と言うわかりやすいトリオだった。
 それぞれの頭には猫を模ったような覆面が被されており、人相を判別するのは無理そうだった。
「おや、アイツの縄、解いたか?」
「いや?」
 三人は自由になっている勇太を見て困惑する。
 部屋の真ん中で悠々と立っている勇太は、男たちにしてみれば予想外の光景だっただろう。
 だがしかし、所詮は高校生が一人。大の大人が三人で寄ってたかれば、どうしようにも出来よう。
 それに、彼らには武器がある。
「まぁ、そんな事ぁどうでも良い。とりあえず、死んでもらうぞ」
 のっぽが懐から拳銃を抜く。
「明らかに違法だね。改造エアガンってワケでもないでしょ、それ」
 勇太が指摘すると、のっぽはガハハと笑う。
「あったりまえだろ、高い金払って手に入れた銃だぜ? 本物だよ」
 そう言って、のっぽは勇太の足元に銃口を向け、引き金を引く。
 サプレッサーによって音は消されたが、発射された銃弾によって床に穴が開いた。
「ビビって身動きも取れないか、小僧?」
「ハッ、おっさんたちこそ、そんなモノに頼らなきゃ悪行も働けないのかよ」
「なんだと……?」
 勇太は三人がここへ入って来る前に、慣れないテレパシーを使って、相手の思考を読んでいる。
 ここまで至る経緯はそれで大体察した。
 即ち、三人は近所の銀行を襲った強盗で、警察がやってくる前に大金を手に入れてまんまと逃走。
 その途中で勇太に遭遇し、人質を得る目的で勇太を拉致、でも逃げる算段はついているから人質は不要。
 ならば殺す、と言う事になったらしい。
 だが、だからと言って易々と殺されるわけにもいかない。
 と言うか、相手が銀行強盗なんてわかりやすい悪党なら、勇太だって容赦はしない。
「おっさんたちも大人なら、そんなおもちゃに頼らずに、素手で来たらどう?」
「てめぇ……」
「やめろ」
 頭に血が上ったのっぽを、中背が制する。
「簡単な挑発に乗ってるんじゃねぇよ。こんな所でグズグズしてたらサツが来るんだ。さっさと片付けるんだよ」
 そう言って銃口を勇太に向ける中背。
 先程ののっぽの射撃を見たが、狙いもほとんどブレない、手馴れた射撃だった。
 恐らく、銃の扱いもどこかで訓練したのだろう。
 だとすれば、運良く急所を外してくれる、なんて事も期待薄だ。
 ならば、こちらから動くしかあるまい。
「いいのかよ? 俺に、そんなオモチャは効かないぜ?」
 勇太は中背の持つ銃に向けて人差し指を突き出す。
 子供が形だけを真似て作った、手の銃。親指を立て、人差し指をまっすぐ伸ばすアレだ。
 それを向けられた中背は、しかし淡々と冷静に、
「子供の戯言に付き合ってる暇はない」
 引き金を引く。
 サプレッサーによって音を消された発砲。
 パシュっと目立たない音と共に、銃弾が発射されたのだが……あらぬ方向へと飛んで、天井に穴を開けた。
「……何?」
 明らかな異常。
 通常はまっすぐ飛ぶはずの銃弾が、曲線を描いて上へと進路を変えたのだ。
 左右や下方向ならまだわかる。銃身に異常があって、銃弾が逸れたのかもしれない。
 しかし、重力に反して上方向へ曲がると言うのはどういうことだ。
「何が起きたんだ?」
 慌てた中背はマガジンを抜き、チャンパーから銃弾を抜いて銃口を覗く。
 しかし、見た限り何も変わったところはない。
「テメェ、何をしやがった!?」
 突然の出来事に、テンパる中背。
 他の二人も何が起こったのかわからず、しどろもどろしている。
 今起きた事を端的に説明するなら、勇太が銃弾を操ったのだ。
 サイコキネシスを使って銃弾を操り、その起動をちょっと修正したのである。
 これで、中背の銃は欠陥品だと思われただろう。
「くそっ、貸せ!」
 先程まともに動いたのっぽの銃を奪った中背。
 しかし、その引き金を引いてもやはり、銃弾はあさっての方向へと逸れた。
「な、なんなんだよ、おい!」
「だから言っただろ? 俺にそんなモノは通用しない」
「だ、だったらッ!」
 その辺に落ちていた鉄パイプを拾った中背。
 今度は飛び道具ではなく、近距離による攻撃に移ったわけだ。
 だが、それならばむしろ、勇太としても嬉しい事だ。
 銃弾を操作するよりは、人間を止める方が万倍楽なのだから。
「死ねぇ!」
「イヤだね!!」
 鉄パイプを振りかぶった中背。
 だが、振り下ろそうとした鉄パイプはそこで動きを止める。
「……ま、まさか……」
「無駄だよ、おっさん。俺には通用しない!」
 サイコキネシスによって中背の身動きを封じた勇太。
 そのまま中背の身体を持ち上げ、壁に向かってブン投げる。
「うおおお!?」
 中背は壁に背中を打ち付けて咳き込み、周りののっぽとデブはその様子に目を白黒させている。
 まるでワイヤーアクションか手品の様な場面を目の当たりにしているのだ。それは驚きもする。
 だがこれは種も仕掛けもない、純然たる超能力。
 強盗たちがどれだけ訝ったところで、勇太の力の正体は見破れないだろう。
「言っておくけど、俺は悪党相手に手加減出来るほど、オトナゲってヤツを持ち合わせちゃいないぜ?」
「な、なんなんだ、こいつ……ッ!」
 正体不明の恐怖に慄く強盗たちは、早くも引け腰だ。
 しかし勇太の方には逃がすつもりはサラサラない。
 何故なら、まだ頭が痛むのだ。
 この痛みの分は倍返しせねばなるまい。
 だが、その時。
 バラバラと一際でかい音が聞こえる。
 これは、ヘリコプターの音だろうか?
「ヘリが近くにいるのか……?」
「き、来た! おい、お前ら、行くぞ!」
 中背の号令で、三人は一目散に駆け出す。
 ヘリの音に気を取られていた勇太は、強盗たちの動きを止める事も出来ず、逃走を許してしまった。
「くそっ! 待て、こらぁ!」

***********************************

 どうやら強盗たちは屋上へと向かっているらしい。
 このビル自体、ほぼテナントは入っておらず、がらんとした作りだったので、どんなにドタバタ走っても誰も出て来る事はない。
 勇太はそれを、テレパシーを使って確認しつつ、他に強盗の仲間がいないか探っていたのだが、それも杞憂だったようだ。
 慣れないテレパシーを使いながらの追跡だったので、結局強盗たちには屋上まで逃げられてしまったが。

 そんなワケで屋上。
 バラバラと言うヘリコプターの音が、何の障害もなく勇太にぶつかってくる。
 音と共に強烈な風も。
「ぐっ……」
 息苦しさに喘ぎながら、上空を見ると、程近い所にヘリコプターが。
 その中にはどうやら二人ほど、乗っているらしい。
 遠目からだが、その二人も猫の被り物をしているのが見える。まず間違いなくあの強盗の仲間なのだろう。
「はやく、梯子を下ろしてくれ!」
 ヘリコプターの下では、先程の三人組が早く早くと喚いている。どうやら勇太がかなりの恐怖の対象になったらしい。
 着陸するような場所もないし、梯子を下ろして三人を回収する気なのだろう。
「させるか!」
 勇太はそれを阻止しようとサイコキネシスを操るも一足遅く、梯子は下ろされて三人は慌ててそれに掴みかかった。
 そして、次の瞬間には更に強烈な風圧が勇太に襲い掛かる。
 ヘリコプターが上昇を始めたのだ。
 このままでは逃げられてしまう。
「逃がさない、っていってるだろ!」
 通常ならば車一台分くらいのモノしか動かせないサイコキネシス。
 だが勇太はそのリミッターをちょっと外し、強引にヘリコプターの移動を止める。
「ぐっ!!」
 頭の痛みが増した気がする。
 無理をした反動と言うヤツだろう。
 本能が嫌がっているのだ。
 しかし、ここで手を抜けば強盗は逃げられるし、なにより殴られた仕返しが出来ない。
「負けられるかぁ!!」
 半ば意地だけでヘリコプターを押し止めていると、また別の方からヘリコプターの音が。
 そちらを窺うと、どうやら警察のヘリコプターが来たらしい。
 空路で逃げると最初から予想していたのか、かなり早い対応だった。
『そこのヘリコプター、止まりなさ……止まってる!?』
 メガホンを構えた警察官も、その様子にはビックリの様だった。
 確かに強盗たちの乗ったヘリコプターは羽をビュンビュン回し、上昇しようと力んでいるのに、その場に留まっているのだ。
 不思議な光景ではあっただろう。
「ヤバいな。このままじゃ俺まで何か言われそうだ」
 ヘリコプターの直下には勇太。
 このまま警察が強盗を捕まえるまでサイコキネシスを使ってもいいのだが、いい加減疲れてきたし、後々面倒に巻き込まれるのはご免だ。
 強盗を殴り飛ばす算段は破棄して、この場は逃げに徹しよう。
 そう考え、勇太はサイコキネシスを解いて、屋上から脱兎の如く逃げ出した。

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 後日、ニュースを見ると、どうやらちゃんと強盗は捕まったらしい。
 だが、さらに大きく報道されていたのは『空中で静止するヘリコプターの謎!』の方だった。
「マジかよ……」
 あんまり深く考えた行動ではなかったが、まさかここまで大きく取り沙汰されるとは思わなかった。
 しかもその後にちゃっかり、『付近にいた少年と何か関係が!?』とも言われており、勇太はまたしばらく超能力を使うのは控えようと心に誓うのだった。