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<東京怪談・PCゲームノベル>


―― LOST ――

『ログイン・キーを入手せよ』
それがLOSTを始めて、ギルドから与えられるクエストだった。
そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないと言うものだった。
クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。
「YES‥‥っと」
その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。
「あの社には大切な宝があるんだ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」
社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。
「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」
小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。
そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。

視点→松本・太一

(‥‥気のせい、なんだろうか‥‥)
 松本・太一はホテルの洗面台に備え付けられた鏡を見ながら心の中で呟く。
(何か最近、妙な違和感を感じるんだけど‥‥)
 どこが変わったのか、何がおかしいのか、それはまだ松本自身にも分からない些細な変化だった。会社の同僚に聞いてみても何も分からないと言われるし、松本が感じている違和感を誰も気が付いていない。
(誰も何も言わないって事は、多分気のせいなんだろう‥‥最近出張続きだし疲れてるのかもしれない)
 首を傾げながら部屋の方へと向かい、椅子に腰かけ、つけっぱなしだったパソコンに視線を向ける。
 今日も仕事の出張でホテルに泊まっている松本は時間と暇を潰す為に『LOST』にログインしていた。
 もちろん近くの町周辺でレベルを上げたり、お金を貯めてスキルを購入したりなどしているだけなのだが、松本は上級職を狙う為、地道にステータスアップを図っていた。
「今、覚えているスキルはHP回復魔法、解毒魔法、風の弱魔法、そういえば無属性の弱魔法も買ったんだっけ‥‥でも、やっぱり僧侶は力が弱いし、レベルが低いうちはMPも低いから他の職業に比べると苦労するなぁ‥‥」
 小さくため息を吐き、あまった道具や装備できない武器防具を売りながら松本が呟く。
「そういえば‥‥こっちの町にはまだ行った事がなかったような気がする」
 フィールドに表示されている町を見て、松本が小さな声で呟く。彼自身、暇な時間を見つけてはLOSTをプレイしていたので、最初の頃よりは随分とレベルもあがっており、使える魔法も増えている。
(この辺のモンスターにはやられる事はないと思うし、行ってみるかな)
 松本は心の中で呟き、キャラクターを操作してまだ行った事のない町へと向かい始めた。

(そういえば、もう少しでこのHP回復魔法の熟練度が満タンになるけど‥‥効果が強くなるのかな?)
 ステータス欄の『スキル』項目を見てみると、確かにHP回復魔法の熟練度があと数回の戦闘で満タンになるところだった。
(えーと、これは‥‥)
 松本はもう一つのパソコンを操作して、LOSTの攻略に関するサイトを見る。
「熟練度を満タンにすれば、スキルの威力が強くなったり、スキルによっては新しいものを覚える事があります。中には熟練度を上げる事でしか入手不可能なスキルもあります――か」
 ふぅん、と小さく呟き(そういえば、新しいスキルを覚えるってクエストがあったっけ)といくつか受けているクエストの中にスキル取得が報酬になっているものがあった事を松本は思い出す。
 クエストそのものは簡単なもので、モンスターの姿形は表示されなかったが『クリア推定レベル』を見てみると、今の松本のレベルであれば十分にクリアできる内容だった。
「せっかくだし、行ってみる事にしましょうか」
 松本は呟き、問題のモンスターがいる場所へと向かう。

「あ‥‥」
 モンスターがいるとされる平原、確かにそこにクエスト手配になっているモンスターはいた。
(あのモンスターは‥‥)
 しかし、先日行われたLOST内のクリスマスイベントで松本が選んだ黒猫の女性型モンスターだったのだ。
(普通のモンスターであれば、躊躇いなく倒す事が出来るんですけど‥‥)
 モンスターの名前は『ブラック・ルイ・キャット』と表示されており、流石の松本も自分が――正確にはキャラクターが、になるけれど『デート』した相手を迷わず退治する事は出来なかった。
 どうやら喋れるのはクリスマスイベントだけだったようで、目の前のモンスターは松本をじろりと見てくるばかりで、この前のように親しく話しかけてくる事はない。
(まぁ、あの時は特殊なイベントだったから当然と言えば当然なのかもしれないですね)
 松本は心の中で呟き、戦闘BGMが流れ始め、お互いに戦闘態勢を取る。
 しかし イベントで一緒だった――というだけで松本の中には『情』が生まれてしまっていて攻撃を仕掛ける事が出来ず、松本のHPばかりが削られていく。
 ずっと防御をしてダメージを軽減させていたが、やがてそれも尽きてきて、松本のHPはゼロ表示になってしまい、画面が真っ暗になる。
「あー‥‥え?」
 あー、やられてしまった――松本はそう呟く筈だったのにぐらりと激しい眩暈が松本を襲い、椅子から落ちて床に膝ついてしまう。
(な、なんだ‥‥これ‥‥)
 頭を押さえながら必死に考えるけれど、何故突然眩暈がしたのか、その理由が松本には分からなかった。

「馬鹿ねぇ‥‥優しいだけじゃ何もならないのよ。あなたは他のプレイヤーとは違うの。僅かな間違いが――死に繋がるわ」

「え‥‥」
 頭の中に女の子の声が響き渡り、それと同時に机の上に置いていたログイン・キーが淡く輝き始める。
(‥‥おさまってきた‥‥?)
 松本を襲う眩暈は次第におさまっていき、完全に眩暈がなくなる頃にログイン・キーの光も消えていた。

『僅かな間違いが――死に繋がるわ』
『あなたは他のプレイヤーとは違うの』

 明らかに『LOST』の視点から言われた言葉に松本は少しだけぞっとしていた。
(‥‥これ、ただのゲームじゃ‥‥ない?)
 ふと画面を見ると、キャラクターは最後にセーブした町へと戻って来ていた。
「あ‥‥」
 そして、画面には『気を付ける事ね』と文字が表示されていた。
(いったい、何なんだ‥‥)
 言いようのない不安が松本を襲ったけれど、彼はまだ気が付いていなかった。
 自分が決して逃げる事の出来ない場所へと足を踏み入れているという事に‥‥。
 そして、これから自分に何が起こっていくのか――‥‥という事さえも。


END



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様>

こんにちは、いつもお世話になっています。
今回もご発注いただき、ありがとうございました。
話の内容はいかがだったでしょうか?
ご希望通りの描写が出来ていると良いのですが‥‥!

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました。

2011/12/28