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<東京怪談・PCゲームノベル>


―― LOST ――

『ログイン・キーを入手せよ』
其れがLOSTを初めて、ギルドから与えられるクエストだった。
そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないと言うものだった。
クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。
「YES‥‥っと」
その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。
「あの社には大切な宝があるんだ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」
社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。
「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」
小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。
そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。

視点→松本・太一

(やっぱり、気のせいじゃないような気がする‥‥)
 お風呂から上がり、大きな鏡で自分の姿を見て松本・太一は心の中で呟く。自分の身に起きている異変――‥‥それはもう気のせいで済ませられる域を超えている気がしてならないのだ。
 最初に感じた異変は『声』だった。少し甲高くなっているような気がして、最初は風邪かと思った松本だったが、声が少しおかしいだけで頭痛がしたり吐き気がしたりなど風邪の症状は一切出てこない。
 次に皮下脂肪の微妙な変化、敏感な皮膚感覚。
(それに‥‥)
 さらり、と自分の髪に触れながら松本は心の中で呟いた。髪も伸び、しかしその反面体毛は薄くなってきている気がする。
「‥‥はぁ」
 松本はくしゃりと髪をかきあげながら大きなため息を吐く。彼には『魔女』の経験があり、どう考えても嫌な予感しか松本を襲わないのだ。
(私の変化に気づいている者はいない――‥‥つまり、この異変は私の『何か』を変えて行き、それと同時に周りの記憶も修正されていくのだろう。まるで最初から異変など何もなかったかのように)
 考え、松本はぞくりと身を震わせた。自分だけが異変に気づき、他の者には誰も信じてもらえる事がない――それはとてつもなく恐ろしい事に思えた。
 そして、ちらりと松本はパソコンに視線を移す。先日の異変を感じてから『LOST』にログインもしておらず、仕事で使う時は仕方ないけれど必要以上にパソコンに近づかないようにもしていた。
(‥‥まだLOSTのせいだと決めつけるのは早計かもしれないですが‥‥考えられるのはLOSTしかないんですよね)
 ふぅ、と小さくため息を吐きながら心の中で呟く。
「ですが‥‥私の中の『女悪魔』が反応しないという事は、私の気のせいなのか‥‥それとも何かあっても自分で対処しないといけないという事なのか‥‥どちらにしても厄介な事には変わりがないですね」
 はぁ、と何度目になるか分からないため息を吐きながら松本はどうしようかと悩み始める。
(とりあえず、暫くはLOSTをプレイしないようにして‥‥様子を見る事に――)
 そう心の中で呟いた時だった。バッグに入れておいた『ログイン・キー』が強く輝き始め、勝手にパソコンが起動されていく。
「なっ‥‥」
 パソコンは起動されたものの、真っ黒な画面から変わる事なく――やがて、カタカタという音と共に文字が打ち出されていく。

『アナタ ハ エラバレタ ニゲルコト ハ ユルサレナイ ユルサナイ』

 何度も繰り返しその文字が表示されていき、松本は今さらながらにLOSTという異質なゲームに関わった事を後悔した。

『コンカイ ハ ケイコク ツギ ニゲタラ ユルサナイ』

 文字が表示された後、暫くの間を置いてパソコンの電源が切れ、それと同時にログイン・キーの発光も治まる。
「いったい、今のは‥‥?」
 目の前の出来事が信じられず、何度も目を瞬かせ、ふと鏡に視線を移した時、鏡に映しだされた姿に松本は驚愕で目を見開く。
「これ、は‥‥?」
 先ほどまでは肩くらいまでの長さだった髪が、既に腰近くまで伸びており、鏡に映る自分の姿はとても48歳の男性には見えなかった。
 もともと、松本は童顔で年齢よりも若く見られていたのだがそれを遥かに超えていた。
「‥‥逃げる事は、許されない‥‥? 逃げる‥‥何、から?」
 一体何から逃げるなと言われているのか、松本は考えただけでゾッと悪寒が背筋を駆け抜けていく。
(私は、とんでもないモノに関わってしまったのかもしれない‥‥)
 先ほどまでは曖昧だった考えがさっきの出来事で確信に似た何かに変わった。
(私の身に起きている異変、これは‥‥LOSTのせい、なんだ‥‥)
 松本は心の中で呟き、力なくベッドへと腰かける。LOSTに巻き込まれた事への不安、恐怖、困惑、焦燥――色々な感情が松本の中で混じりあっていた。
 だが、今の彼はまだ気が付いていなかったのかもしれない。入り混じった色々な感情の中に『好奇心』というモノが隠れていた事に。
「でも、どうしてただのゲームが現実に干渉してこれる‥‥? ただのゲームがプレイヤーに異変をもたらす事が出来る‥‥?」
 松本は浮かんでくる様々な疑問に答えを導く事が出来ず、ネットでLOSTに関する様々な情報を集める事にした。
 しかし、現在プレイしている者たちは誰一人として松本と同じ状況に陥っている者はいなかった。
(‥‥え?)
 だが、1つだけ関係ありそうな記事を見つけたのだ。多くの人間が行方不明になっているという記事だ。記事だけを見れば、普通の行方不明でしかないだろう。
 だけど松本が気になったのは、その記事に書かれている人間はLOSTをプレイしていた事、失踪する前に『おかしくなった』という言葉を別のプレイヤーに漏らしていたという事――‥‥。
(まさか、次は――私、なのか?)
 松本が心の中で呟いた瞬間「あなたは選ばれたのよ」と何処からか少女の声が聞こえてきた。
 まるで、すべての始まりを告げるかのように――‥‥。


END


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様>

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回の話はいかがだったでしょうか?
気に入っていただける内容になっていると嬉しいのですが‥‥。

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!

2012/1/3