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<東京怪談・PCゲームノベル>


第一次東京異界戦争鏖(みなごろし)編

○プロローグ
東京駅地下、過去に多くの人間の血を吸いヴァンパイア化してきた無限女王。女王に恨みを持ったヴァンパイアたちが列車を占拠してやってきた。女王を殺すために。ヴァンパイアたちの数は数百。尋常ではない戦闘能力で女王の命を狙う。だが無限女王が殺されれば地獄のカマから溢れ出た魔は東京を埋め尽くし一般人が全滅する。東京駅に居合わせた強き者達=B毎日の生活には不満が積もっている。しかし、この街と人を愛する参加者たちは「女王が殺されれば東京が終わる」事実は知っている。全てを察した参加者たちは立ち上がる。愛する人々と東京を護る為に。

○東京の守り手達
 暴走列車の突入と同時に一般市民を避難させる超能力高校生・工藤勇太。「ここは戦場になる!」己の能力が危機を察知していた。善良な市民を片っ端にテレポートで駅構外へ飛ばす。
 同時に駅の中にヴァンパイアハンターが一人いることを超能力で突き止めていた。どこかで落ち合うように連絡の念を飛ばす。
 無限女王も事態は察知している。女王は従僕・修羅を従えて山手線ホームへと向かった。
「波紋」のようなものがあった。「戦う者は山手線のホームへ」そんな念が波紋のように東京駅構内に広がり、ヴァンパイア達と無限女王達が山手線ホームへ集う。ヴァンパイアではない者、一目瞭然、工藤勇太と、ヴァンパイアハンターのレイチェル・ナイト。強力な能力は持っているが、ヴァンパイアではない一般人である。勇太は彼女と落ち合い、共闘を誓った。
 勇太はここぞとばかりに能力を解放し、数十名のヴァンパイアを念の槍でズタズタに引き裂いた。しかし、ヴァンパイアは基本的にそのヴァンパイアを作ったマスターを殺さない限り死ぬことはない。ヴァンパイアハンターのレイチェル・ナイトも大元のヴァンパイアを殺すつもりで攻撃しているが、目印などない。
 時間が経つにつれレイチェル・ナイトが傷を負い、勇太も疲弊してきた。そして駅構内の全ての役者は、山手線ホームに集った。

○正しいのは誰の正義?
 山手線の車体の上に陣取った無限女王と、その従僕・修羅。修羅の二刀は空間を切断してサンダーストームを巻き起こす。誰も迂闊に近付けない。
 工藤勇太の超能力とレイチェル・ナイトの攻撃で血まみれのヴァンパイアたち。彼らは無限女王のいる山手線を囲む。
 工藤勇太とレイチェル・ナイトは背中でお互いにもたれかかって座る。レイチェル・ナイトは肩口を負傷。勇太は身体に傷は負っていない。が、他者を傷付ける度に自分の心にダメージを負う。今も自分が破壊した多くのヴァンパイアたちの身体を思い起こし、目を見開いて震えていた。迫害を受ける人の心の痛みは嫌と言うほど知っている。
「……あんたは、なんにも悪いことしてないじゃん、勇太クン」
 傷口が再生中のレイチェル・ナイトだった。
「俺は……何も、人を殺したくて念の槍や精神攻撃の能力を持って生まれたわけじゃないんです……。全て、開発されて与えられた能りょく――」
 途中でレイチェル・ナイトの人差し指が勇太の口を「しー」と閉じていた。
「あたしは勇太クンのお陰で助かった。ありがと」
 勇太の顔が赤らんだ。

 ヴァンパイアたちの中から一人の紳士が前に出た。
「オレ達はお前らにヴァンパイアにされた。無限女王、修羅、ケルベロス!」
 この場にケルベロスの姿は無い。女王も修羅も一筋のかすり傷も負っていない状態で、「主を守る為に」登場する必要は無いのだ。ヴァンパイアは続ける。
「無限女王! お前とお前の従僕、鏖(みなごろし)だ! そうすればオレ達も死ぬことが出来るから≠ネ!」
「はぁっ!?」
 工藤勇太が素っ頓狂な声を上げた。レイチェル・ナイトも口ポカーン。
 ヴァンパイアは更に続けた。
「お前らは知っているのか? ヴァンパイアがいつまでも、無限に生きなければならない、その苦しみが! オレ達はもう死にたいんだ! だからオレ達をヴァンパイアにしたボス、マスターの無限女王を殺しにきた。オレ達が灰と化して死ぬためにッ!」
 レイチェル・ナイトと工藤勇太は顔を見合わせる。雲行きが変わってきた。
 東京駅に押し寄せたヴァンパイア達を駆除するために――殺すために戦ってきた。だがそのヴァンパイアたちの目的は「死ぬこと」だった。
 無限女王にヴァンパイアにされ、長い悠久の時を生きてきた、生かされてきたヴァンパイアたち。もう生きることに疲れ果て、灰になりたかったという。
 レイチェル・ナイトと工藤勇太にも理屈は解る。だが、この場合誰の味方になって戦うのが正義≠ネのか。
 レイチェル・ナイトは「悪しき者を狩るハンター」を自称してきたが、今「悪しき者」は誰なのか?
 工藤勇太も同様。モラルのある基本的に正義≠重んじる少年だ。そして今、正しいのは誰の正義≠ネのか?
 もう誰も誰かを攻撃しない。

○真実
 じっと皆の主張に耳を傾けていた黒いロングヘアの赤い振り袖の少女。少女が山手線の車体の上で一歩前に出る。中学生ほどの外見年齢の、ヴァンパイアの王。蠱惑的に眉を吊り上げ口の端を吊り上げ、語り始める。
「まるで私一人が諸悪の根源のような言い分ですね。あなた方が私にヴァンパイアにされた理由、その一点だけを伏せれば私が悪いようにも聞こえるでしょう。しかし――。この国では人を一人殺しても死刑≠ノはならない。二人以上殺さなくては死刑にはならない、そういう判例≠ナ殺人犯が保護されているフシがある。……その保護されて出所した殺人犯≠ノ私が個人的に裁きを下して――何が悪いッ!?」
 周囲が一気にざわつく。レイチェル・ナイトと工藤勇太も。
「じゃあ、このヴァンパイアたち……」
「みんな、元殺人犯?」
 無限女王が二人に優しく目を向ける。
「この中に混じっている二人の善良な市民よ。他の一般市民の盾となり戦ってくれてありがとう。傷まで負って……あなた方なりの矜持があるんでしょうね、感謝します。その傷であなた方がヴァンパイア化することはありません。今すぐお逃げなさい」
 無限女王は静かに続ける。
「私達もこのヴァンパイア達も、心配いりません。『善人なおもて往生す。いわんや……』そんな風に言った知り合い≠ェ昔いましてね……」
 レイチェル・ナイトは状況判断から撤退を決め込み、勇太は「善人なおもて往生す」の言葉を思い出す。学校で習ったばかりだ。
「知り合い? 親鸞聖人が知り合いって、あなた一体歳いくつ……!!」
 ヴァンパイアのみとなった東京駅構内。ケルベロスは呑気にどこかを散歩している。無限女王は、忠実な従僕に許可を出した。修羅に、その力の一部を使う許可を。
 修羅は――二刀を抜刀する。
 ダッシュで撤退するレイチェル・ナイトと、彼女に手を引かれて逃げる勇太は、ここで初めてあの長身の黒いコートの男の――修羅の声を遥か遠くに聞いた。惚れ惚れする美声で、恐ろしい単語を叫んだ。
「サンダーストーム!」
 修羅の風神の剣と雷神の剣が交錯し、数百万ボルトの雷撃を纏った嵐が東京駅構内に巻き起こる。荒れ狂う雷撃に当てられてヴァンパイ達の身体が沸騰し、逃げ惑う。この雷撃で身体が破壊されても苦痛に襲われるだけで死ねないからだ。
「はーっはっは! 咎人たちよ! 無限に生きよ! 罪の意識と良心の呵責に苛(さいな)まれてな! あはははは!」
 無限女王の無邪気な声が高らかに響いた。だが言っている内容は「無邪気」とはほど遠い。
(狂ってる!)
 勇太は恐怖した。

○ふつうの日常へ
 東京駅では爆弾テロが起こったことになっていた。死者の出ない爆弾テロ。ヴァンパイア達は逃走したようだった。
 近所のホテルに避難していたレイチェル・ナイトと勇太はベッドの上でそのニュースを観ていた。
「勇太クンすっごい可愛かっ――」
 その口を勇太が片手で封じた。
「うるさい黙れ。俺は寝てただけ、俺は寝てただけ……。さぁ、帰ろう」
「勇太クゥン……」
 甘えてみせるレイチェル・ナイトに勇太はすまし顔で言う。
「俺のふつー≠邪魔しないでね」
 勇太の姿が消える。テレポートだった。レイチェル・ナイトもフリフリのロングスカートの姿に戻る。
「ヴァンパイアハンターの服装のままだったのが失敗だったか。また、どこかにイケメンいないかな」
 呟いて部屋を後にする。

 東京の街に夜が訪れる。多くの人や物や怪異が戦い、守り守られ、夜は街中がネオンに照らされる。この街が眠りに就くことはないのだった。


<おわり>
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1122/工藤・勇太/男性/17歳/超能力高校生
8519/レイチェル・ナイト/17歳/女性/ヴァンパイアハンター
NPC 無限女王(むげんじょおう)
NPC 修羅(シュラ)
NPC ケルベロス
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■         ライター通信          ■
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 工藤勇太様、レイチェル・ナイト様、ご参加ありがとうございます。
 この作品はこの個室(無限の部屋)の一作目に当たり、そのため「無限」というテーマに少し多めに字数を割いております。
 あ、最後に二人が避難したのは「普通の」ホテルですよ? (^^;)。
 またのご参加をお待ちしておりますm(_ _)m。