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<東京怪談ノベル(シングル)>


●総力戦・臨【顛沛】鬼ヶ島

 異界の地――鬼ヶ島。
 生娘が、此れからの我が身の悲劇を嘆いて啜り泣く声が響き渡っていた。
 そこは断崖絶壁の孤島、天守閣周辺の中庭を城塞が囲んでおり、入口は正門のみ。
 裏には灰色をした遠浅の浜が続き、空は錆色をしていた。
 悲嘆、怨嗟、憎悪、様々な負の感情が入り乱れるその地の支配者、温羅はその尽きない欲望に動かされ、巫女に迫る。

「何をしている……早く日本への扉を開け!お前も、そこに転がる屍になりたいか!?」
 温羅の丸太のような脚が、悪戯に引き裂いた女の死骸を示す――その死に様はあまりにも、悲惨で醜悪なものだった。
 憂うように目を伏せていた巫女、彼女は一つ頷くと、言われるがまま複雑な言葉を詠唱し、印を紡ぐ。
 経済大国日本、国家存亡の危機が今、迫っていた。


 首都、東京。
 港区の南国カフェ・かもめ水産では、何時ものようにスラリとした足を惜しげも無く晒しながら、女店主である藤田・あやこ(7061)が一息つこうと、自分用の茶器に緑茶を入れたところだった。
 その、異変が起こったのは。
 ――目の前が黒く染まるような、瘴気、玄関から入って来た時代錯誤とも、コスプレとも言えそうな巫女装束を身に付けた女。
 彼女の服は、ボロボロで衣服と述べていいものか……。
 そして、瘴気の先に、一瞬見えた醜悪な鬼―温羅―の表情。
 百戦錬磨のこの女エルフ、取り乱すような事は無い――視線をすぐさま、半裸血達磨の女に向ける。

「大丈夫?」
「ああ、ああ――私は、私はとんでも無い事を」
「大丈夫よ、落ちついて話して」

 異界の地、鬼ヶ島と日本を繋ぐ、扉が開かれた事。
 この地を支配せんと、温羅が狙っている事。
 パタリ、パタリ、絶望にくれる巫女の瞳から、涙がこぼれおちて床に染みを付ける。
「そう、話してくれてありがとう。さあ、あなたはもう休んで」
 優しい言葉に、巫女の流す涙は大河もかくや――自分の服を巫女に着せ、あやこはブルマ姿になる。
 巫女の傷を手当した彼女の髪飾りに、赤い血が滴った。
 白い髪飾りを赤く染め、まるで日の丸のよう――巫女の唇が動く。

 ――嗚呼、桃太郎

「桃太郎?」
 問い返すあやこの言葉に、巫女からの返答は無く、ただただ不穏な空気だけがその場を支配していた。



 同刻――IO2。
 IO2は温羅の東京進攻に際し、臨時総力戦【顛沛】を発令。
 混乱に陥る中、討伐依頼が出されるものの、集まったのは、犬猿雉の人外のみ。

「急げ、もっと人員を集めろ!」
「相手は鬼だ、戦闘力も相当のものだろう」

 超常能力者と言えども、各々の暮らしがある、法治下での生活が保障されているとは言え、普通の人間の受ける恩恵と違いはせず。
 それなりに高額の報酬と引き換えに、命を失う必要などないだろう……勿論、あやこだってそうだ。
「敵は戦闘プロ集団の鬼、話にならぬ!」
 はいはい、帰った帰った!
 何なら、塩でも撒こうか、とばかりに犬猿雉の支援要請を断るあやこ、だが……犬猿雉は、ずっとずっと狡猾な生き物だった。

「何やってるんですか、桃太郎さん?」
「ああ、このまま東京、壊滅ですかね」

 一瞬のうちに守るべきものが頭をよぎり――そして、あやこは何をっ!と声を上げた。
「解ったわよ、行けばいいんでしょ、行けば!」
 ニンマリ、笑い合う犬猿雉を余所に、彼女は此れからのプランを立てる。
 力押しで行くのは愚策、IO2からの情報によれば、断崖絶壁の孤島、正面のみの入り口と言えば、正面からの乗り込みは自殺行為。
 だが、策を使えば――。

 かもめ水産の厨房では、店主と客総動員で万能治癒薬入り黍団子を造っていく。
 何しろ、総力戦――どれだけ作っても、造り過ぎると言う事は無いだろう。
「黍団子は任せたわよ!」
 あやこの声に、頷く馴染みのエルフ客達――彼女達にも、IO2からの要請があったのだろうか。
 あやこが行くなら、と協力を申し出た客人達も多く、今から総力戦と言えども、笑みを深くせずにはいられない。
 彼女達が空を駆け、向かった場所は密林……得意の動物語で傭兵を募れば、そりゃぁ、大変だと頷く動物達。
 彼等の方が、自分達が受ける影響をよく理解しているのだろうか?
 それとも、四足と二足の動物達に同胞の影を見た故かもしれぬ。




 ――鬼ヶ島の沖。
 最終的に集まったのは、鷹五百羽、ドーベルマン五千頭、ゴリラ三千匹、手榴弾一万個。
 彼等、傭兵を表す旗は、白地に赤、日の丸だ。
 殺気が風に混じり、錆色をした空は、此れからの変化を予感したかのように唸る。

「背後を突くか?」
「浜は恐らく地雷原よ。奇襲するわ」

「あなた達は、空から空爆して。手榴弾は幾つ持って行っても構わない」
 あやこの指示に、一層大きな翼を持つ鷹が空を舞った――彼は鷹軍を率いる大将、ピッピー・ピッピーと鬨の声を上げ、ダーン、ダーンと爆発音が響き渡る。
 落下した手榴弾は天守閣を壊し、火を付け、燃え盛る。
「さあ、行くわよ!」
 ドーベルマンの大将が右を、あやこが率いる犬軍が左をと強襲をかける。
 得意の矢を放ち、空気を裂いて飛来する。
 異変に姿を現したのは、温羅だ――飛来する手榴弾を鬱陶しげに振り払うも、丸太のような腕が抉れ、血が飛び散った。
 怒りに瞳を燃やし、咆哮する鬼の声、重い一撃が大地を震わせる。
「黍団子持ってけ〜!」
 ブン――と重い一撃に数匹の鷹達が地面へと叩きつけられる、直ぐに飛来したエルフ客の活躍、忽ち回復する負傷者。
 多勢に無勢とは、この事か……正確無比な弓矢での攻撃が、ブスリと音を立てて弱点である温羅の左目に埋まる。

「ガァッ――ァアア!」
「かかれ、一気に決めるわよ!」

 響き渡る咆哮、あやこの声によりドーベルマンが温羅へ飛びかかる……棍棒のような腕が、無茶苦茶に振り回されるがドーベルマンは身も軽く。
 ヒラリ、ヒラリとかわしていく。
「こりゃぁ、攻め時」
 浜から上陸したゴリラ軍、その剛腕で残りの鬼達を蹴散らしていく。
「女泣かせてんじゃないわよ、低能!」
 幾千、幾万の女の敵、と角を出したオカンなあやこ無双――執拗なまでの矢での攻撃、そして止まない手榴弾の攻撃。
「強いって思ってるんでしょうけど、それは勘違いよ、身の程を知りなさい!」
 ドゥ、とその場に崩れ落ちる温羅、ゴリラが止めを刺さんと上から圧し掛かり、完膚無きまでに叩きのめす。
「鬼を凌ぐ山の神、怖い怖いヒ〜」
 鬼の目にも涙……正にこの事だ。

「もう許して。温羅の命は0よ」
 現れた巫女、あやこは矢を射る手を止める。
「それでいいの?」
「――ええ」

 なら、もうする事は無い、とばかりにあやこは退却の号令をかけた。
 完全なる勝利を収めた司令官、あやこの髪飾りには赤い日の丸が残っていた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7061 / 藤田・あやこ / 女性 / 24 / ブティックモスカジ創業者会長、女性投資家】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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藤田・あやこ様。
発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

女性の敵をバッサバッサと切っていく、その勇ましさ。
今回は、愛らしさよりそちらに重点を置いてみました。
あやこ様の勇ましさを描けていれば、幸いです。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。