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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ 三日月の迷宮 +



「あ、いらっしゃーい」
「お、暇人が来た」
「暇な方がまた迷い込んできましたね」
「……あ……ぎせーしゃー」


 開かれた部屋の向こうに居たのは双子らしき少年達と猫耳の生えた少女に……しゃべるミカン!?


「……いよかーん」
「そうだよー、ミカンじゃなくて『いよかんさん』だよっ!」
「いや、そんな人の心読んでやんなよ」
「仕方ありませんよ。そういう世界なんですから」


 びしっと突っ込みを入れる双子の片割れに苦笑するもう一人。
 慌てて後ろを振り返るが其処にはもう扉はない。話の展開的に自分はどうやら『異世界』に迷いこんでしまったらしい。漫画じゃあるまいし、こんなことが日常に落ちてくるなんて誰が思うものか。


「悪かったな! たしかに俺は正月早々ぼっちで暇人な奴だよ! ……ってアレ? ここどこ? いつの間に……。って、あ! お前ら前に会った事あるよな!? ……夢で……。あぁ、これ、夢?」


 そう、あれは夢だった。
 双子のような二人が今目の前にいる事がそう示す。あの時は自分にとって悩み多き時期で、だからこそあのような夢を見たのだと――そう思っているのだが。


「そう夢かもしれない」
「だけど夢じゃないかもしれない」
「現実かもしれない」
「だけど現実じゃないかもしれない」

「「出逢ったその事実が夢かどうかは、全て本人の心のままに」」


 しかし当の双子らしき少年達はあの夢と変わらず声を重ね、語彙を重ね、言葉遊びをする。判断は自分次第。あの時俺は「夢」だと判断した。しかし今回のこれは本当に夢、なのか?
 そんな風に悩む自分を見て彼らはくすくすと含み笑いをする。そして突如声を揃えて言った。


「「「「じゃあ、かくれんぼ開始!」」」」


 ……なんつー無茶苦茶な設定だ。


「と、言うわけでお前が鬼だ。ちなみにルールは簡単。今から俺達がこの屋敷の中に隠れるから、三十分以内に見つけてタッチすること」
「四人全て見つければ貴方の勝ち。一人でも見つけられなかったり、時間が過ぎてしまったり、死にそうになってしまった場合は貴方の負けです」
「あのねー、かったらねー、すきなものあげるのー。でもねー、まけたらねー、ろうりょくぞーん」
「労力損、つまり骨折り損のくたびれもうけ〜! にゃははー!」


 四人が好き勝手に『かくれんぼ』の説明をする。
 自分は一体何が何やら分からない。しかし彼らはすでに各自準備体操なんかを始めてヤル気満々、逃げる気満々。


「じゃ、デジタル砂時計をあげるね。この砂が落ちきるまでが三十分で、此処に出ている数字が貴方のHPだから!」
「え、ヒットポイントだと!? いいけど! 暇人だからね、お兄さん! どーせ暇人だから参加しちゃうんだけどね!!」
「本当、まさか正月早々迷い込んでくるなんて――ぷふっ☆」


 猫耳の生えた少女が口元に手を当てて笑う。
 ぴきっと俺のこめかみに青筋が浮いたのは言うまでもない。


「あー、つーか、みかんまであるなんてさすが正月。食っていい?」
「やぁ〜ん……! せくはら〜」
「……ってぇ!? これイキモノ!?」


 先程説明を受けていた癖にそれをすっ飛ばし、目の前にある細長いミカンに手を伸ばす。しかしそれは良く見れば目があり、口があり、そして針金のように細い手足があって一瞬ぞわっと背筋に悪寒が走った。
 しかしちたちたと愛らしく手足をばたつかせて俺の手の中から逃げようとする様はそれなりに可愛い……かもしれない。そっと畳みに下ろせば、彼?はほっとしたようにぺこりとおじきを返してきた。


「じゃ、開始ー!!」


 その言葉を合図に三人は駆け出す。あっという間に姿を消した後には自分だけが取り残される。ふわりふわりと自分の真横に浮いているのは先ほど半ば強制的に渡されたデジタル砂時計とやら。
 ふと、前を見ればとてとてと短い足を懸命に動かしているいよかんさんとやらの姿。そして彼? は不意にぴたっと足を止め、こちらを振り向かずに呟いた。


「……とびらをあけるときは……きをつけて……ね」


 ……え? 何でそんな意味深長!?


「ちょっと待て!? 死にそうになるかもしれないかくれんぼなの!?」
「ひゃ、っほーい!」


 俺の心、いよかんさん知らず……というかなんというか。
 そうして消えた不思議生物いよかんさん。さんをつければいよかんさんさん。
 ……いや、混乱している場合じゃない。こうしている間にも砂時計の砂はさらさらと落ちて時間は過ぎてしまう。
 強制的にわけもわからず始まったかくれんぼ。


 さて、どこから探そう。



■■■■■



 覚悟はしていた。
 そう、何が起きてもこれは夢で、かくれんぼと言うからには危険な事もきっとファンタジー的な可愛らしいものなのだと。
 しかし覚悟が甘かったと正直思わざるを得ない。何故なら気軽に「きっとこの辺に隠れているに違いない」と一番最初の部屋を開き中に入った瞬間に、俺を襲ったのは――。


「ぎゃー!! 槍! なんで槍の雨が降ってくるわけー!?」


 そう、それはまさに言葉通り。
 上を見るのも恐ろしい勢いで良く鏃が磨かれた槍がそれはもう勢い良く降ってくるのだ。反射的に空間を探し、避けるが掠ったそれは着ていた服を傷めるし、一歩間違えれば命が無い危険な事態である。――夢だけど。
 しかしそこは超能力高校生である俺様。能力こそ公にはしないが、この夢という空間では容赦などしない。


「――っんの!! どっか行きやがれぇええ!!」


 己の能力の一つであるサイコキネシスを使用し、己に攻撃してくる槍を一蹴する。自分に槍がぶつかる直前それは軌道を変え、決して俺を傷つけることはない。そこまでは良い――だがしかし、その槍が降り止む気配は全く無いことが難点である。
 俺は背後を振り返る。しかし其処には入ってきたはずの扉は無い。ならば選択肢は一つ、前進しかありえない。俺は超能力を使って槍の雨を懸命に避けながら先へと進む。
 やがて一つの扉が目視出来る距離に現れ、俺は迷わずその扉に手を掛け勢い良く駆け込んだ。


「ぜぇ、はぁ……あー……まさか、マジで死にそうなかくれんぼだとは思ってもみなかった……」


 扉から出た先はまた元の廊下。
 俺は破けてしまった自身の服を見て一つ舌打ちをした。次からは慎重に事を進まなければ本気で死んでしまう。
 ふと、自分の脇に浮いているデジタル砂時計へと目をやる。


 残り時間は後二十分。
 残りHPは五十。


「うげっ、意外に体力使っちまった! ……しゃーねーよなぁ。うん、まさかの槍の雨だもんなぁ、あはははははは!! ――ちくしょー!! マジであいつら見つけ出すっ!!」


 デジタル時計の数字を確認した途端に乾いた笑いが自分の口からあふれ出して止まらない。それを咎める者も今はいない。というか隠れている。
 俺は能力を使って奴らを探し出すことも考えるが、無駄打ちをすればあっという間にゲームオーバーだ。しかも彼らは彼らで「特殊な存在」である。こっちの手など読みきっているに違いない。


「さっきは一番を選んだから……中間地点を取って十五番とかどうだろ」


 十五、と漢数字で描かれた扉に手をかける。
 これがもしまたさっきのような危険な扉だったらと思うと何故か手に汗が滲んできた。しかしこうしている間にも砂時計の中の砂は刻々と落ちていく。躊躇しても仕方が無い。俺は一回だけ深く息を吸い、吐き出すと扉を開いた。


「あれ?」


 扉を開いて思わず気の抜けた声を出してしまう。
 其処に広がっていたのはいたって普通の部屋だったのだ。ソファーが有り、テレビもあり……と、言ってしまえば一般家庭的なリビング。俺は正直そんな光景が広がっているとは思わなかったためがくりと肩を落とした。


「いや、しかしここは奴らのフィールド! きっと何か恐ろしいことが待っているに違いない」


 はっと顔をあげ、拳を作って気合を入れると俺は今度こそ気を引き締めて中へと足を踏み入れる。
 しかし先程のように槍が降ってくるわけでもないし、何か特別な事が今のところ起こっている様子は無い。はっきり言って拍子抜けである。
 「ここはもしかして普通にかくれんぼステージだったのかな?」――そう思った頃、部屋の隅に何者かの気配。相手も中々のやり手。この機会を逃してはいけない。だから俺は暫く普通に物を探す素振りをし続ける。演技ではあるが、相手を油断させるには有効な手段であろう。
 そして、相手が俺がわざと作った隙をついて別の扉へと逃げようとする瞬間――!


「捕まえたにゃあん!!」
「はにゃ! ちっ、つかまっちゃったよん☆」


 がしっ!! と俺は一人の少女の肩に手を掛ける。
 彼女は嫌そうな顔をするが、指先を一つ鳴らして自分の負けを認めた。いや、それはいい。むしろ望んでいた事だ。隠れた三人と一匹を見つけ出すのがこのかくれんぼの主旨なのだから何も問題はない――問題なのは、そう……問題、なの、は。


「にゃんで、こんな喋り方にゃー!!!」
「にゃはは〜!! 半獣化ステージにようこそだよ〜♪ そう、今の君は立派な猫人間☆」
「にゃははじゃにゃいにゃん! にゃんで、俺が、こんにゃ目にあってるにゃん!」
「アンタが選んだのが悪いんじゃない〜」
「くっ……お前元々猫耳が付いてるからって生意気にゃん……っ!」
「にゃはん☆ じゃあ、ボクは居間でお茶を啜ってるから他の皆を探すの頑張ってね〜! じゃ!」


 しゅば! っと猫耳少女、社は片手を振り上げるとこれ以上場にいるのは得策で無いとばかりに部屋から飛び出す。
 ぽつん、と取り残された俺は行き場の無い手を彼女の方に向け、わきわきと指先を動かす。一体何がどうしてこうなった。俺は確かに楽しい夢を見たかっただけなのに……。
 顔の横にあった耳は頭部に移動し、意外と自由に動く猫耳がある。それからズボンを押して出てきた黒い尻尾。手先だけもこもこと毛が生え掌には肉球。


「にゃんじゃ、これー!!」


 心はそれはもう号泣していた。



■■■■■



 残り時間十分。
 残りHP二十。


「もう、俺を解放しろぉおおー!!」


 どうやら思った以上に半獣化のショックが大きかったらしく、半獣化ステージとやらを抜け出した頃にはHPが無駄に減っている。だがもう本当に時間が無い。俺はもうどこに出ても構わないと半ば自棄になりながら最終的には番号すら見ずに勢い良く扉を開き、そして中へと足を踏み入れた。


 【〜ようこそ、お花畑へ〜】


 そんな看板が目の前に立っている。
 そしてその言葉通りに今度のステージは様々な種類の花が咲き誇る綺麗な花畑だった。更に付け加えるならばその中央には細い腕をそっと天に伸ばし、その手先には愛くるしさに引かれた蝶々がふわりと降りてくる可憐な逃亡者の姿。そう、それはとっても可憐、な……?


「見つけたぞ、いよかんさん」
「――……はっ」
「気付くの遅っ!! 今、一瞬間があったぞ! 何、お前この乙女チックワールドの住人と化してなかったか!?」
「ごめんね、……ちょうちょうさん。ぼく、……いかなきゃ……」
「何そこで今生の別れみたいな会話を蝶としてんのかなぁ!?」


 その言葉は儚く、立ち上がる姿は切なさを残して。
 目尻には光を反射させて輝く涙があり、それがこの場を立ち去らなければいけない逃亡者である者の定めだという想いを引き立たせている。


 ――何度も言いますが外見は果物だけどな!!


「ふふ、こうなったらお約束をしてやるよ。あはは、待てよ、こいつぅ〜」
「きゃー……こないでぇ〜……!」


 きらきらと輝くお花畑。
 別れを告げ、駆け出す君は逃亡者。
 そんな君を追いかける俺は非情な追っ手。
 相容れぬ定めと分かっていても俺はお前を捕まえずにはいられない。
 何故なら――……。


「おい、食すぞこら」


 ぶきゅる。
 小気味良い音を立てながら俺はテレポートで場を移動し、いよかんさんの頭らしき場所を容赦なく蹴り、倒れたところで思い切り胴体を踏んだ。正面から倒れたいよかんさんはちたちたと細い手足を暴れさせ、俺の足の下から何とか抜け出そうと足掻く。しかし体格の差は非情。敵わぬと悟ると、下からはしくしくと悲しげな泣き声が聞こえてきた。


「ははははは!! これで二匹目捕獲だ!」


 俺は腕を組み、この達成感に心の其処から笑い声を上げる。
 今回のステージでは肉体変化もないし、目的も容易に達成出来た。かくれんぼとしては上々の出来であろう。
 だが、そんな俺の耳元にふっと気配が。


「「しかし残念ながら時間切れ」」


 両耳に一人ずつ。
 ふわりと突如俺の背後の空中から現れた双子? の彼らが告げたのはかくれんぼ終了の合図。彼らは言葉と同時にふぅっと柔らかく息を俺の耳に吹き掛け、背中をぞわわっと何かが駆け抜ける。
 たん、と小さな音が二つ鳴ったことにより彼らが地面に着地した事を知った。


「ああああ、いよかんさん。大丈夫!? もう大丈夫だからね! 僕が助けに来たからねっ!」
「あーん、スガタぁ〜」
「本当にもう、乱暴なんだから! あーあーあー! 思い切り踏まれた跡が残っちゃって……くっ、いよかんさんが汚れちゃった」
「おいしくないってこと!? いやぁああん……!」
「大丈夫、食べる時は美味しく食べてあげるからぁ!」
「たーべーなーいーでーぇー!」


 既に「二人の世界」に入ってしまった少年の片割れといよかんさんが抱き合って再会を楽しむ。
 言葉を一歩聞き間違えれば色んな意味に取れてしまいそうなのは俺がそういう年齢だからなのだろうか。それだけなのだろうか。
 正直呆気に取られていた俺の肩にぽんっと誰かの手が乗る。
 それはもう一人の少年。
 そういえば以前の夢では二人から名前を聞いていなかった。


「俺はカガミ、あっちはスガタ。猫耳少女は社(やしろ)で、あの不思議果物はいよかんさん」
「あ」
「質問しなくても分かる。此処は<そういう世界>だから――そう前に説明しただろ」
「あ、ああ。そうだな。そうだった。っていうかゲームオーバーかよっ」
「糖度十五以上のみかんが食えなくて残念だな。まあ、とりあえず居間の方へ行こうぜ」
「……なんか言わなくても俺が欲しかったものとか知られてしまうとかちょっと虚しい」
「糖度十ちょいくらいなら社が用意してるから良いんじゃね?」
「よし、居間に行こう」


 がらりと行われる心境の変化。
 とても甘いみかんを食べてみたかったのもあるが、糖度十も中々良いもの。気分をよくした俺は未だにふよふよと己の隣を漂うデジタル砂時計へと何気なく視線を寄せる。その瞬間、俺はかっと目を見開いた。


 残り時間一秒。
 残りHP十。


「騙されたぁああああ!!!!」


 ピ――――――――ッ!!
 それはデジタル時計から鳴り出す「本当の終了時間」の合図。俺はまんまとこの双子の口車に乗せられた事を知り、その場に思い切り喚き崩れた。









……Fin








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は三日月の迷宮楼にご参加頂き真に有難う御座いましたv
 頭を使ったり肉体を使ったりとお疲れ様です。最終的には負けエンディングとなりましたが、これはこれで楽しんで頂けましたらと思います。
 しかしお約束のうふふあはは、まてこのやろう〜♪な展開の発注文には気合を入れましたのでどうかそこは認めて頂ければ、と(笑)

 ではではまたどうぞよろしくお願いいたします。