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<東京怪談ノベル(シングル)>


歳末犬腸博だ玲奈!

1.
「大当たり〜!!」
 ガランガランガランッと大きな音を立て、商店街のオジさんが三島・玲奈(みしま・れいな)に握手を求めた。
「…え? 玲奈ちゃん当たり? 何が??」
 隣にいた瀬名・雫(せな・しずく)は目をまん丸にして玲奈とオジさんを交互に見比べた。
 大晦日の商店街でガラガラくじを回したら、金の玉が出た‥。
「1等温泉旅行、ペアご招待だよ〜!」
「ま、マジで!? 雫ちゃん! これは行くしか!」
「玲奈ちゃん、あたしと行ってくれるの!? 行く行く〜♪」
 手に手を取って喜び合う少女2人に、オジさんがニヤリと笑った。
「よぉし! 今すぐ行っておいで! さぁ行け! やれ行け! ドンと行け!!」

「‥ってことで! 来ちゃいました、温泉りょかーん!」
 ドーンとそびえ立ついかにも高級旅館の前で、玲奈と雫はパチリと1枚記念写真を撮った。
「むふふ。玲奈ちゃんに感謝しないとね〜。あたし、友達と旅行なんて初めて!」
 ホクホク顔の雫に玲奈も思わずにこりと笑う。
「あたしも、旅行なんて初めて! 雫ちゃんが来てくれてよかった」
 周りは雪景色で、とっても風情がある。森が多く、その向こうには雪帽子をかぶった山なんかも見える。
 年末の混む時期によく商店街なんかが予約を入れれたものだ。
「よぉし! 贅沢しちゃうぞ〜!」
「おー!!」
 2人は意気揚々と高級旅館の中に入っていった。
 それが‥罠だとも知らずに‥。


2.
「女将率いる全従業員お出迎え!?」
「この部屋サウナつき! 一緒にはいろ!!」
「露天風呂、貸切だって!」
「海から遠いのに、蟹が出てきた!」
「手もみマッサージ〜! 気持ち良い〜‥」
 一番高層にあるスイートルームに通されて、どこぞのリゾートホテルか!っていうほどの贅沢がわんさか出てくる。
 玲奈と雫はそれを堪能した。堪能しつくした。
「これって今年最後の神様の贈り物だよね〜。あたしたちがいい子だったから‥」
「うんうん。神様ってきっといるよね」
 そんな話をスイートルームのソファにダラリンとしていると、女将がニコニコと三つ指突いてやってきた。
「本日は当旅館をご利用いただきまして誠にありがとうございます。あの‥失礼ではございますが、お客様方はジョシコウセイ及びジシチュウガクセイとお見受けするのですが‥?」
 丁寧ながら、何か含みのある言い方である。
「そうですけど‥それが何か?」
 玲奈が質問を返すと、ピクリと女将の顔引きつったように見えた。しかし、まだ女将の笑顔は崩れてはいなかった。
「‥それでは、失礼ではございますが、当館ご利用のお支払いのほうにつきましては‥?」
「え? それはくじ引きで当たったから、商店街のオジさんに聞いてください」
 笑顔で答えた玲奈に女将の顔から笑顔が消えた。
「‥ぬぁんだと?」
 眉間に皺を寄せ目も見開き、ダンッと机の上に片足をついた。
 さながら極道の姉貴を彷彿とさせるその行動に、玲奈も雫も凍りついた。

「こっちはなぁ、年末年始休まず営業でお前らみたいなガキンチョにまで頭下げなきゃいけない商売してんだ! なのに‥なんだぁ?『金はオジさんに払ってもらって♪』だぁ?? てめぇらの言うオジさんなんざ、こっちは知らねぇんだよ!!」

 だ・ま・さ・れ・た?
 玲奈の脳裏にその言葉がよぎった。
「す、すいません! えっと‥えっと‥は、働いて返します!!」
 即座に土下座して謝った雫に習い、玲奈も反射的に土下座していた。
 なんだかとんでもない大晦日になった。


3.
「しくしく‥しくしく‥」
 怒りの収まらぬ女将に連れられてきたのは、同じ旅館内の下層にある小さな一室だった。なぜかすすり泣く女の声が聞こえてくる。
「あんたたちにはここのお客様のトラブル解決に当たってもらうわ。‥それでチャラよ」
「はい。わかりました」
 女将がその場を立ち去り、玲奈と雫はコンコンと扉を叩いた。
「失礼します」
「ひぃ!」
 小さな叫び声が奥から聞こえ、玲奈は急いで部屋へと入った。
「どうしたの!?」
 中に入ると布団をかぶって打ち震える人影が見えた。‥それも数人いるようだ。
「‥あぁ、あいつらじゃなかった‥よかった‥」
 人影は布団をどけた。なかなかの美人なおねーさんたち‥それが何に怯えているというのか?
「実は‥」
 女性たちが俯き、その言葉を言うのを躊躇っている。
 玲奈と雫は女性たちが言い出すのを、根気よく待った。

「実は‥ストーカーにマンゴージュースって言えっていったり、『飴仔馬ソーダ』とか『気さくなあの子目を閉じ閉じ』の逆読みをしろとか、『節句』『寿司』『太陽』って書初めしろと言われて逃げてきたんです‥!」

 そう言ってよよよ‥と泣き出す女たち。
「‥許せない」
「うん。玲奈ちゃん、これは許しちゃいけないよ」
 2人は顔を見合わせ、強く頷いた。

 カツン‥カツン‥
「あ、誰か来た!」
「あいつらかもしれないわ!!」
 いっせいに隠れる女たちと静かに息を潜めて待つ玲奈たち。
 その足音は部屋の前で止まり、そして‥

『書初めしてくれる気になったかなァ?』


4.
 現れたのはどこからどう見てもヲタクの集団です、本当にありがとうございました。
 ‥で、済む話ではない!
『いひひ〜、女将から新しい子が入ったって聞いて楽しみに来たんだァ』
 白い半紙と筆と墨汁を持ったヲタクどもは、やや半透明に透けて見えた。どうやら幽霊のようだ。
「やだ! もしかしてここの女将もグルだったの!?」
 雫が泣き出しそうな顔で玲奈にしがみつく。玲奈はその手をぎゅっと握り返した。
「‥逃げよう!」
 玲奈はそう言うが早いか、窓から雫と共に飛び出した!
『逃がすなァ!!』
 怯え震える女性たちには目もくれず、ヲタクの集団は玲奈たちを追ってくる。
 外に出てよく見れば、旅館の後ろは大きな山の麓にある墓地だった。
 最初見たときはこんな山はなかったはずだ。
 玲奈は玲奈号のデータベースをすぐに検索してその山の正体を知った。

 霊峰・恐山だ。

 きっとあのストーカーヲタクの霊たちが隠していたに違いない。
 あいつら、きっと失恋で自殺した霊に違いない! 証拠はないけど絶対そうだ!
『あっちだ!』
「しまった! 追いつかれた!?」
 雫を後ろ手に庇いながら、玲奈は懇願した。
「あたしには死んだ恋人が居るの! だから堪忍して!!」
『嘘を吐くなァ! だが、我々は心が広いからなァ。「節句」「寿司」「太陽」の書初めで許してやるぞゥ?』
 じわじわと迫りくるヲタク集団。
 どうせならもっとカッコいいストーカーが良かった!
 そんなことを考えていたら雫が叫んだ。
「玲奈ちゃん! あれ見て!」
 その声に咄嗟に振り向いた先にはキラキラとまばゆく光る自販機の姿があった。
「わんこ・印度・リンク??」
 狛犬型のボタンがひとつだけついたその自販機に玲奈は確信を持った。
 ヲタクどもの隙をつき、玲奈は駆け出し狛犬ボタンを押した‥。


5.
 ガンジスの流れは緩やかで、それでいて頼もしい。
「玲奈ちゃん‥初日の出だね」
「うん、明けましておめでとう。今年も仲良くしてね」
 夜明けのガンジスの畔で2人は新年の挨拶を交わした。
 川はとても美しい。そして、新しい年の幕開けにふさわしい。
 ‥でも、なんでインド?
 そこはもう、神の思し召しでここに来ちゃった、としか言えない。まさに瞬間移動! イリュージョン!!
「ガンジスにて沐浴を! あなた方の穢れを落とすのです!」
『我々から穢れを落として何が残るゥ!? 「節句」「寿司」「太陽」を書いてもらうまでは死ねン!』
 川で禊をしていた僧侶に、浄化されそうになっているヲタクたち。
「あ、こっち来た! 逃げよう!!」
「うん! 行こう、玲奈ちゃん!!」

 インドの朝焼けの中、3つの影が追いかけっこする姿がいつまでも見られたという‥。