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<東京怪談ノベル(シングル)>


〜あたしはどこにいますか?〜


「はい、そう、です…」
 だんだんと語尾が小さくなる。
 ついでに身体もひと回り小さくなっているように思えた。
 三島玲奈(みしま・れいな)、現在国会にて、証人喚問中である。
 野党側の追及は非常に厳しく、時として怒号も野次も遠慮会釈なく飛んで来る。
 尻尾と鰓ととがった耳だけでも十分地球外の「モノ」に見えるというのに、丸坊主とビキニという出で立ちが怪しさに拍車をかけていた。
 世界中に自分の正体を公言したのだから、いまさら言い逃れなど許されるわけがないし、この現状は当然と言えば当然である。
 いっそう身を縮こまらせて、玲奈は恐縮しながらうつむいた。
 じわっと目の端には涙がたまり、羞恥で顔は真っ赤に染まっている。
 国会はテレビで中継されるのが常だから、ここを一歩出た後の自分の処遇も容易に想像できた。
(もう…死ぬしかないわよね…)
 こんな姿を衆目に晒して、生き恥をかく勇気はこれっぽっちもない。
 玲奈は罵声を全身に浴びながら、とうとう自殺を決意した。
 

 ネット喫茶では、いつものごとく瀬名雫が高速でキーボードを打っていた。
 画面に乱舞する文字は、先日の米国の失敗した火星探査機が偽装だったという記事だ。
 今日も元気で、怪奇ネタはざっくざくだ。
 思わず制服の袖をまくって、喜々として更新を続ける雫の目に、画面右上に開いてあったブラウザが映る。
「あれ? 玲奈ちゃん?」
 思わず手を止め、生中継動画を凝視する。
 まちがいない。
 あれは玲奈だ。
 雫の唇が、三日月の形にゆがんだ。
 もはや雫にとって、玲奈は自分のネタでしかない。
 しかも、こんなにホットでこんなに面白いネタはふたつとない。
 にんまりと笑った雫の目は、すっかり動画に釘付けだった。
 
 
 
 ようやく国会の集中砲火から解放された玲奈は、よろよろしながら学校へ行った。
 こんな時でも登校しようと思うのが高校生のサガなのかもしれない。
 だが、玲奈を待っていたのは、今まで享受していたような「普通の高校生活」ではなかった。
「うわーあんなふうになっても、まだ高校生のつもりでいるよ…」
「人間ですらないじゃんねえ…兵器だってよ、最終兵器…!」
 既に国会で罵声を浴び続けたところに、生徒たちのひそひそとした陰口が、見事に胸のど真ん中に突き刺さった。
 ついでに、自分が歩くたびに、周りに3メートルの空間が生まれる。
 要するに、ドン引きだ。
 はずかしくてうつむきがちに歩いていた玲奈だったが、一歩また一歩と歩くうちにだんだんと腹が立ってきた。
(あたしは! この世界を救ったのに!)
 突然、玲奈はむんずと鬘をつかんで廊下に投げ捨てた。
 胸に手をやり、そのまま力任せに制服を引き裂く。
 まるで悲鳴のような音があたりに響いた。
 元の姿に戻った玲奈は、脇目もふらずに屋上を目指した。
「あれ? 玲奈ちゃん?」
 本人としては今日二度目の同じ台詞を吐きながら、雫がにこやかに玲奈に近付いてきた。
 だが、玲奈は雫の目的に気が付いていた。
 鋭い光を目にたたえ、玲奈は言葉を雫にたたきつけた。
「ブログネタの検証に、あたしの能力を貸すのはもうごめんだわ!」
「ちょっと、それ、どういうこと?!」
「もうわかってるのよ! 雫の魂胆なんて見え見え!」
「魂胆って何それ! そんなこと、考えてないわよ!」
 玲奈と雫の争いは平行線だった。
 結局ふたりの論点は交わらないまま、互いに相手に背中を向けた。
(ずっと友達だと…思ってたのに…)
 傷ついた玲奈は、屋上の床を蹴って空に舞い上がった。
 
 
 
 数日後、玲奈の機嫌は嘘のように回復していた。
 かわいい服やおいしい食事、ついでに見目麗しい男性つきとくれば、誰だって顔がほころんでしまうにちがいない。
「ぜひあなたにお願いしたい仕事があるのですよ。あなたのその高い能力を見込んでね」
 男性はこちらの心がとろけそうな微笑を浮かべて、玲奈に甘い誘惑を降り注いだ。
 場所はニューヨーク、通称裏NASA。
 米政府の機密費を湯水の如く用いて陰謀を図っている秘密機関である。
「いいわ、何でもしてあげる」
 そう、自分を見捨てたものたちには、全員天罰が下るべきなのだ。
 
 
 
 その翌日、驚くべきことが起きた。
 古巣のIO2東京支部から、多くの重役が玲奈のところに派遣されて来たのである。
 平身低頭で謝られ、多額の謝礼と美辞麗句につられて、玲奈は支部へと連れられて行った。
 敵対する裏NASAとの総力戦「鳴地」が発動され、作戦会議が開催された。
 「総力戦・一牛『鳴地』敵は身近にいるのだよ。協力してくれ雫君」
 支部長から直々に頭を下げられ、雫は少し迷った後、うなずいた。
 本当は、自分の力は、この世界に必要とされているのではないか。
 ちょっとだけそんな気がした瞬間だった。
 
 
 
 玲奈は太陽に飛翔した。
 滾る大気圏の下に実は青空と緑の大陸ナタンが広がる。
 そこには金翅鳥、ケツアルコアトル、飛龍等の怪物がうようよいる 。
 どれも伝説の中の生き物だと言われているが、実際には存在している。
 玲奈の目には、どれもこれもが「現実」だ。
 玲奈号はプロミネンスを潜り青空を飛ぶ。
 金色の世界に、ふわりと何かが現れた。
 玲奈が目を凝らすと、そこに雫の姿があった。
『思い出して! IO2こそ玲奈ちゃんの本分でしょう?!』
 一生懸命訴える雫に向かって、玲奈は苦い笑いを口元に漂わせた。
「ちゃんとわかってるわよ、あたしだって…」
 隠蔽された驚異を暴く裏NASAの調査こそ玲奈の天職だ。
 美しい男性にそそのかされはしたが、それはそれ、これはこれだ。
 回り道もたまには必要だろう。
 玲奈の意識はぐるぐる回って浮上を始めた。
 ふわふわと暖かい、自分を取り巻く空気の心地良さ――玲奈は眠りから覚めつつあった。



 目覚めると気怠い午後の教室。
「玲奈、アンタ、戦争でこれからも活躍するんでしょ?」
 隣りから明るくかけられた声に、玲奈は目をぱちくりさせた。
 友人たちは自分を取り囲み、躊躇なく玲奈を戦艦として接している。
 何が現実で何が夢か、玲奈にはその境目がわからなかった。
(またわかんなくなったわ…あたしの居場所はどこだろう? )

〜END〜