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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜Second〜】


 その日、何となくぶらぶらと街を歩いていた工藤勇太は、つい先日見知った人物を見かけて声を上げた。
「あ、えーと――カイ!」
 咄嗟に名前を呼び捨てたのだが、当人に許可をとっていなかったことに遅ればせながら気付く。とはいえ名前しか聞いていないし、別人だけれど同一人物のようなものらしい律には呼び捨ての許可をもらっているので、まあ許してくれるだろう。多分。
(…っていうか聞こえた、よな?)
 勇太が声を上げたのと前後して足を止めたものの、その場から動かないカイに少しばかり不安になる。こちらとしては印象深い出会いだったから見間違うということはないだろうが、あちらはどうだか分からない。律は『縁』がどうとか言っていたけれど。
 などと考えていたら、ふいに視線を巡らせたカイと目が合った。
 髪色と同じく色素の薄いその瞳が、間違いようもなく己を捉えたのを察して、勇太は彼に駆け寄った。
「あー…ええっと。確かアンタこないだの――」
「工藤勇太。律に聞いてるかも知れないけど」
「ああ、うん。『くどークン』ね、工藤クン。そういえば名前聞いてたっけ」
 記憶を探るようにして答えたカイに、勇太は笑みを向けた。
「会えて良かった。アンタにお礼言いたかったんだ。俺を助けてくれただろ? ありがとな」
 少しはにかんで言えば、カイはなんとも曖昧な表情を浮かべて手を左右に振る。
「いやー、アレは助けたっていうかオレの都合がありきで勝手に介入したみたいなモンだし、別にお礼言われるほどじゃ」
「でも助けてもらったのは事実だし」
「そりゃまあそうかもしんないけど」
 「ホントお礼言われるようなことじゃないんだけどなー」などとブツブツ言いつつも、カイはそれ以上言い募る気は無いようだった。
 そんな彼に、勇太はお礼とは別に、彼に会えたら言おうと思っていたことを切り出すことにする。
「俺が律に会ったのは知ってるんだよな?」
「あー、まあ知ってるっていうか、記憶は結構共有してるから。でもなんで?」
 突然の話題の転換に首を傾げるカイ。
「律に少しだけアンタ達のこと聞いたんだけどさ」
「うん?」
 いったい何を言い出すのか、と目で言いつつ首を傾げたまま促すカイに、勇太は一気に言った。
「アンタ達みたいな人に会ったの初めてだし驚いたけど、ここは東京だからなんでも有りさ。だからアンタ達がどんな存在でも俺は気にしてないぜ」
 言い終えた勇太がカイを見れば、彼は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。傾けていた首を戻して、目を瞬かせ、反応を待っていた勇太をまじまじと見ながら、一言。
「えーと、オレ、なんかそうやって言われるようなことしたっけ?」
 困ったような視線に、勇太は何だか自分が早まったような気がした。よく考えてみればカイは別に自分の在り様に関して勇太に何を言ったわけでもないし、励ましてほしいような素振りも見せていない。
(もしかして俺、色々早とちりしたっていうか何て言うか…外した?)
 この『東京』は『普通でない』ものを多く含むけれど、だからといって異端が排除されないわけではない。それを身に染みて知っているからつい口出ししてしまったが、本人がさほど気にしてないのなら自分の言は唐突にしか思えないだろう――というのが一瞬で理解出来てしまった勇太が続ける言葉を探しあぐねていると、「あ」とカイが声を上げた。
「そうだった、オレ今あんまり他人と長く居ない方が良いんだった」
「…は?」
 片手に持っていた掌に納まるくらいの包みを持ち上げて言ったカイに、勇太が発言の意図を問うより先に――。
「って、え、あれ、何で…っ!?」
 突然カイの持つ包みから禍々しい光が放たれ、名状しがたい気配が一帯を覆ったかと思うと。
 ――瞬きの間に、カイの姿が消えていた。

◇ ◆ ◇

(え、消え、た…!?)
 たった今、目の前で起こった出来事に、思考が追い付かない。状況としては先日カイが律に変化した時と似ているが、姿を消したカイの代わりに律が現れることはない。そもそも。
(なんか、すごいヤな感じがする…)
 視線をカイが居た辺りに向ける。『イヤな感じ』はそこを中心にしていた。カイが消える瞬間――禍々しい光が放たれた瞬間が最も『イヤな感じ』が強まったが、今もそれは在る。
「なんだ、これ…手鏡?」
 カイが立っていた位置にあったのは、小さな手鏡だった。ちょうど先程カイが掌に持っていた包みくらいの大きさで、恐らくはこれがあの禍々しい光を放ったのだろうとは思うが。
(ここにこれがあって、カイが消えたってことは、これがカイを消したモノなんだろうけど)
 拾い上げようと屈みかけて、無闇に触れていい物かどうか迷う。カイが手に持っていたときは、妙に厳重に包んであったように思うし、その包みが跡形もなく消えているというのも気にかかる。
(でも、このまま放っとくわけにもいかないよな)
 カイは否定していたが、勇太にとっては助けてくれた恩人だ。目の前で異常事態に巻き込まれたのなら助けたい――恩を返したいと思う。
 だが、助けるためのとっかかりすら見つけられない現状では動きようがない。
 もう一度、足元で光る鏡を見る。
(…仕方ない。今はこれしか手がかりがないんだし)
 多少の危険を覚悟して、それに触れようとした瞬間。
『――聞こえるか』
 頭の中に直接響くような声が、した。
(……テレパシー!?)
 思わず息を呑む。他者からの意識への干渉。呼びかけ。自分の能力として他人に向けたことはあるし、思考を読んだこともある。だがこれは。
『驚いているところすまないが、時間がない。望むのなら説明も吝かではないが、今は遠慮してもらいたい』
(この声――律?)
『そうだ。君が同系統の能力持ちで良かった。この状態からでもラインが繋げられたのは僥倖と言う他ない』
 カイと同じく、一度しか会っていないが、印象深い人物――律の声なき声が、尚も頭に響く。
『君の推測通り、カイはその手鏡に肉体ごと囚われた。予想外の事態だ。申し訳ないが手を貸してもらいたい』
 その言葉は、カイを助けようと考えていた勇太にとっては渡りに船だった。恐らく、律にとっても勇太の存在がそうだったのだろうが。
(俺にできることなら何でも言ってくれ! 何をすればいい?)
 勇太の問いに、律は一呼吸の間を置いて答えた。
『――手鏡を、壊せ。物理的に破壊してくれればいい』
(…え、それ、大丈夫なのか? 中に閉じ込められてるんだよな?)
 告げられた内容の単純さに、逆に心配になる勇太。しかし律は淡々と答える。
『問題ない。肉体ごと囚われているといっても、鏡は扉のようなもの。内側から開くことが困難故に、物理的な破壊によって外と内を繋ぐ手段を採るというだけだ』
(そういうことなら…)
 声には出さずに答えながら、勇太は再度屈みこんで鏡に手を伸ばす。踏み割ってもいいが、より確実に壊すのならば地面に投げつけて割る方がいいだろうと考えてのことだった。
 鏡を拾い上げても、特に身体に変化は感じられない。律も何も言わないので大丈夫だろうと思ったが、少しだけほっとする。
 それから、手にした鏡を腕ごと振り上げて――思い切り、地面に叩きつけた。

◇ ◆ ◇


『――多くが狂った。もう、限界なのだろう、私達一族は』
『そうやって簡単に諦めて、そうして置いていくつもり?』


『“対”の概念も、歪みきった。私達も、また』
『それが悪いことだって、そういうこと? だからって今更――』


『“月”と、“陽”。どちらが先に駄目になるかなど、とうの昔に分かっていたことだろう』
『――それを認められるなら…納得できるなら。それはもう、“対”じゃない、――そうだよな?』



 途切れ途切れの映像と声が、脳裏に閃いて――消える。
 顔は見えない。けれど、声は聞き覚えのあるものに思えた。まだ幼さを残す二つの声の主は――。

「……あれ。工藤、クン?」

 瞬間、目が覚めたような心地がした。目を瞬いて前方を見遣れば、同じく夢から覚めたような顔をしたカイの姿。
(…あ。ちゃんと助けられた、のか)
 詳しい事情も方法も不明だが、手助けはきちんと出来たらしい。無事な姿のカイが目の前に在ることがその何よりもの証だ。
「よかった、――無事だったんだな」
「ああ、…うん。そっか。無事、なのか。オレ」
 小さく呟いた内容が引っかかって、改めてカイを見る。多少顔色が悪いものの、他に異常は見受けられない。
(っていうか、今――なんか残念そうじゃなかったか?)
 律曰くの『予想外の事態』で鏡に囚われ、無事に助け出されたのに、何故。
(多分、何か隠してんだろうけど…)
 そしてそれは、多分先程脳裏に過ぎった映像に関わっているのではないかと漠然と思うが、自分はカイと律にとっては一度――今日を入れて二度会っただけの人間だ。隠す、というよりは話す機会そのものもないし、義理もないだろう。
 気にはなるものの、そんな立場の自分が踏み込んでいいものかどうか――どこか心ここに在らずな様子のカイを見つつ、とりあえずどこかで休ませた方が良いかな、などと考える勇太だった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1122/工藤・勇太(くどう・ゆうた)/男性/17歳/超能力高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、工藤様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Second〜」への参加、ありがとうございました。

 呪具の標的はカイ、ということで、主に外からの救出をメインにさせていただきました。
 とはいえ物理的干渉しかできないため、地味な感じになってしまいましたが…申し訳ありません。
 NPC設定の都合上、プレイングを反映できない部分もありましたが、ご了承くださいませ。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 それでは、本当にありがとうございました。