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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 少しずつ、だけど確実にやってくる変化 ――

「松本さん、それ重いでしょう? 手伝いますよ」
 松本・太一が仕事の資料を運んでいると、若い社員から声を掛けられる。
「いや‥‥これくらい大丈夫だから」
 苦笑しながら社員の手伝いを断り、急ぎ足で資料を資料室まで運ぶ。
(また、だ――‥‥)
 今、運んでいる資料自体大した重さでもなく、わざわざ手伝ってもらう程の事でもない。
 だけど、何故か松本は同じような経験をここ数日で何回も味わっていた。
(一体何だっていうんだろう‥‥)
 はぁ、とため息を吐きながら松本は仕事に戻ったのだった。

 そして数日後――‥‥松本はまた出張で県外へと来ていた。
「この前の事といい、同僚からの扱いといい、このゲームを始めてから――ですよね」
 出張先のホテルで『LOST』をプレイしながら、松本が小さく呟く。先日の出来事が気になってはいたが、プレイしなかった事によるペナルティという物の方が怖く感じて、松本は結局LOSTから逃げるという選択を取る事はしなかった。
(今回のクエストは霊園エリアの幽霊退治、ですか)
 クエスト内容は霊園エリアに潜むボスキャラを退治して報酬を貰う、というオーソドックスなものだった。
 松本の目的は、もちろんクエストを成功させるという事もあったが回復魔法の熟練度をアップして威力を高める――という事にもあった。幸いにもこの霊園エリアには回復魔法に弱い幽霊系の敵キャラが多いので熟練度を上げるにはもってこいのエリアだった。
(そういえば‥‥戦闘不能を回避する手段を探したい所ですが‥‥どうなんでしょうね)
 LOSTをプレイしながら、松本が心の中で呟く。ネットなどで検索していると『ある条件をクリアしないと入手できない魔法』や『どちらか1つしか選ぶ事が出来ない魔法』など種類が多いらしい。
 だけど、松本は何処かでLOSTにのめり込んでいく事への恐怖を感じていた。LOSTをプレイしていなければ、同僚たちからの態度が変わる事もなかったのだろうか、と考えるとLOSTというゲームがとても恐ろしく感じたのだ。
(っと、集中しないとやられてしまう)
 現れた敵キャラに回復魔法を仕掛ける。幽霊系のせいか、今まで与えた事がないくらいの数字を出していた。
(やっぱり属性効果は重要なのかもしれない)
 非力な職業でも相手の弱点となる魔法で戦えば、剣士タイプのキャラクターよりも楽に戦えるかもしれない、と松本は考える。
(ただ、MPが切れてしまった時が怖いですけどね)
 どんなに強力な魔法を持っていても、それを使うMPがなければ宝の持ち腐れも同然なのだ。
 そういえば、と松本は先日見た記事の事を思い出す。
(多分上級職業の事なんだろうけど、MPの消費を半分に抑えるってアクセサリーがあるとか書いてありましたね‥‥それを入手する事が出来れば随分楽になるんでしょうけど)
 松本は心の中で呟きながら、敵を退治していく。地道に熟練度をあげていると、10数匹目を退治した所で『回復魔法の熟練度アップ!』と画面に表示され、回復魔法の欄に見慣れない印が1つついていた。
(これが熟練度のあがった証ですか、これで終わりって事ではないんでしょうけど‥‥熟練度をあげていけば一番弱い回復魔法でも長く重宝するでしょうね)
 松本は心の中で呟き、再び戦闘を開始する。
 彼自身、恐らく『何かが起きている』という状況は把握しているのだろう。
 だが、誰かが何とかしてくれる、そんな考えが松本の中で大きかった。何が起きているのか、自分が何で変わってしまっているのか、どこまで変わってしまうのか、そんな恐怖が松本の中を大きく占めていた。
 だけど自ら何かをしよう、というのではなく『誰かが何とかしてくれる』という考えを捨てきれずにいた。
 それがどんな結果をもたらすのか、今の松本には知る由はなかった。
 だけど、彼がどんなに抗おうとも、少しずつだがLOSTに巻き込まれていくのだという事を松本は心の何処かで分かっているような気がした。






―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様>

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます!
今回の話はいかがだったでしょうか?
気に入っていただける内容に仕上がっていると良いのですが‥‥。

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!

2012/1/18