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+ お菓子☆パニック +
「どうしてこうなったんだ」
長い黒髪に赤い瞳を持つ美女、シリューナ・リュクテイアは「それ」の前で腕を組み、顎先に指先を当てながらくすくす笑う。
彼女は先日、普段は何が起きても大丈夫なように特殊な異空間作り出して魔法実験室としている魔法薬屋の一室を、特殊な魔法装飾品を用いて絵本の世界を再現する異空間を作りだす実験を行なった。
その結果を確かめるべくある異常を感じ取ったついでにお遊びを兼ねて自ら異空間へと入ってみたのだが、その先にてある一つの「もの」を発見してしまう。
細められた目の先にある「それ」。
なんて可愛らしく、そして哀れな――。
「さて、どうしてしまおうか」
彼女はこの事態の対応にわりとのんきに構える。
笑みが止まらないのは……やはり、「それ」があまりにも愛しいものだったかもしれない。
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「わぁ、凄ぉーい!」
それはシリューナが部屋に入る数時間前の事。
こちらは長い黒髪と持ち、前髪の一部が紫色のメッシュが入った少女――ファルス・ティレイラ。彼女は己の師匠であるシリューナが「絵本の世界を再現する異空間」の実験を行なっているという情報を掴むと好奇心を揺り動かされ、その部屋へと足を踏み入れた。
絵本の世界という事で中は非常にファンタジー。
小さな妖精が好意的に話しかけてきたり、物語の主人公達だと思われる人間やエルフとどんな世界なのか語り合ったりすれば「ハート型をした木の実は毒だから食べちゃダメだよ」と忠告を受けたりなどなど、本当に楽しく彼女は過ごしていた。
シリューナが一体どんな絵本の世界を再現したのかは知らない。
だけど知らないからこそ彼女の探究心はどんどん欲を深めていく。やがて周囲の世界がしゅんっと景色を変える。同時にそれはそれは食欲をそそられるあまーい香りに包まれた。
「お菓子の世界だー! 凄い凄い、コレ全部お菓子なのかしら!」
それは地面、植物などなど空以外は全てお菓子で出来ている世界。
歩く道はクッキーで出来ており、川はただの水ではなくチョコレートが下流へと流れていく。試しに傍にあった木になっていた小粒の実を摘んで様子を観察してみると、それは金平糖やキャンディーだった。
ハート型ではなかったので試しにそれを口に含めば、頬が蕩け落ちそうなほどの美味しさである。
「ああ、とっても甘くておいしいっ!」
ティレイラのテンションは更に高まり、彼女の冒険は続く。
あちらこちらと見回しながら他にも何か面白いものはないかと探し続けていれば、ふと視界の端に何か建造物のようなものが見えた。
「あれはなにかしら」
歩を進め、近付いてみればやがてそれは童話に出てくるようなまさに「お菓子の家」。
しかし大きさは屋敷と形容するに相応しいほど幅広く、二階建てのよう。壁や柱がクッキーサンドや細長い焼き菓子で出来上がっており、屋根はチョコレート板が置かれている。
今まで以上の甘い香りがティレイラの鼻腔を擽り、好奇心を煽られてしまった。
「きっと中にはもっと素敵なものがあるに違いないわ。だってここは絵本の世界だものっ」
そう彼女は判断すると嬉々としてその屋敷の中へと足を踏み入れることにした。
だがそこでティレイラを待っていたものは彼女の予想とは違うもの。
お菓子の屋敷に入った瞬間、彼女の目に入ってきたのはふわふわと浮くマシュマロ、多種多様なケーキ、タルト、マフィンなどで、それらは彼女を一斉に「睨んだ」。そう、それらには簡易的な顔が付いており、意思があるモンスターだったのだ。
バタン! と激しい音と共に今しがた入ってきたばかりの扉が閉められてしまう。
慌ててティレイラが後ろを見ればそこにもお菓子のモンスターが居り、彼らは扉の前に立ちはだかった。前後左右を固められてしまい、流石のティレイラの表情も強張ってしまう。
絵本の世界には楽しいものばかりではない。ファンタジーだけど、こういう特殊かつ危険な状況だって用意されているのだと今更思い出し、彼女は己の軽率な行動を後悔した。
ティレイラが迷い込んでしまったのはお菓子の魔物だらけのモンスターハウス。
事態を把握した時にはすでに遅し。彼女は慌てて外に出ようと行く手を阻むモンスター達を蹴散らし始めた。
「か、数が多すぎる〜! し、ししょー! 助けて、師匠ー!!」
最初は順調にモンスター達を避け入り口に戻れそうだったのだが、此処は不思議な世界。ご都合主義で出来ているのが基本。次々と現れるモンスター達に次第にティレイラは押され始め、魔法や竜族であるの翼や尻尾を使って蹴散らしても間に合わなくなってしまった。
じりじりとモンスター達は彼女を壁際へと追い詰めていく。
数が増えすぎて、ティレイラの目の前に出現した彼らはすでに壁のようであった。
「――あ、あれ? 力が、が抜け……?」
とん、っと彼女がお菓子の壁に翼を付けると異変が起こる。
その瞬間をモンスター達が逃すわけがない。一斉にティレイラの身体にぶつかったりのしかかりすると彼女を壁の方へと完全に押しやった。
「や、うそ、翼が変化してる!?」
押さえ込まれたティレイラの身体から焼き菓子で出来た壁は魔力も体力も抜き取り始め、彼女の身体を変え始めた。
翼が変化している内は逃げられると思った。
しかしそれが背中に及び侵食が進めば彼女は悲痛な表情を浮かべるしかない。そんな彼女をけらけらとお菓子モンスター達は嘲笑う。
「助けて」と望み、手を伸ばしてもモンスター達は当然それを許すわけがない。
「あ……ぁ」
やがて彼女の全身の侵食が終わり、動きが止まる。
助けを求める竜族の少女――そんな彼女の形をした「とても可愛らしく美味しそうなお菓子」は壁の一部と化す。完全なるお菓子オブジェとなってしまった彼女は心の中で必死に師匠であるシリューナを呼んだ。
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そしてシリューナはその異常事態を見事感じ取り、またティレイラが何かやらかしたのかと思いつつ、実験結果の確認も兼ねてこの世界を訪れた。
モンスターハウスにて見事お菓子のモンスター達を圧すると、お菓子ティレイラを見つけ愛しげに彼女の頬を撫でる。
さらっとした感触は焼き菓子特有のもの。
よほど怖い思いをしたのか、泣き顔になっているティレイラの表情にシリューナはぷっと小さな息を吐き出した。
「本当にお前は相変わらずだな」
美味しそうな香りを漂わす大事な子。
シリューナは彼女を助け出す方法を知っている。だが、このまま暫く鑑賞しているのも粋と言うもの。
かくしてティレイラはシリューナが満足するまでお菓子のままにされ、モンスターハウスの一部と化していたという。
彼女が解放されたのは――それから数日後の事であった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3785 / シリューナ・リュクテイア / 女 / 212歳 / 魔法薬屋】
【3733 / ティレイラ・ティレイラ / 女 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、お久しぶりです!
今回はファンタジックな発注でしたが、どうでしょうか?
少女の形をしたお菓子は想像するととても芸術的で美味しそうですね^^
ではまた機会がございましたら宜しくお願いいたしますv
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