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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


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「マジかよ……こちとら忙しいってのに」
 ボヤキながら、勇太は覚醒しつつある頭をめぐらして、辺りを窺う。
 視認出来る敵はどうやら一人。夢の中だからか、容姿がハッキリとは見えないが、どうやら勇太と同じくらいの背丈の様だ。
「雰囲気から察するに、男か。くそっ、なんだか嫌な予感がする」
 ジワリと額に汗が浮く。
 敵から感じるプレッシャーと言うわけでもないのに、どういうわけか、嫌な予感が晴れない。
 勇太の本能的な何かが告げているのだ。
 アレはヤバい、と。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 二度目の敵の声は、戦闘開始の合図だった。

 敵の影がユラリと動く。
 間合いはかなり開いている。接近戦に持ち込むつもりなら、距離をつめるだけの時間がかかるはず。勇太にも反撃のチャンスは幾らでもある。
 ここはまず、相手の出方をみるべき、と判断し、勇太はその場で身構えた。
 敵はしかし、勇太との距離を詰めるわけでもなく、フラッと手を掲げる。
 すると勇太の身体がふわりと浮かぶ。
「なっ!?」
 強力なサイコキネシスである。
 慌てて勇太もサイコキネシスを操り、相手の力に対抗しようとするが、上手く集中が出来ない。
(サイコキネシスと同時に、テレパスも使ってやがる……ッ! こっちの考えを読んで、邪魔してるのか!?)
 完全に先手を打たれている。最初の様子見が仇になった。
 勇太は身動きが取れないまま、高々と放り投げられ、重力に引かれて真っ逆さまに落ちる。
 何とかサイコキネシスを操り、更には上手くいった受け身も功を奏して、落下の衝撃はかなり抑える事が出来た。
「ぐっ……こんの……ッ!」
 しかし完全に無傷と言うわけにもいかない。
 無理な体勢から地面に落とされ、テレパスで邪魔されたサイコキネシスも完全に発動できず、身体を打った場所がズキズキと痛む。
 勇太はそれを我慢しつつ、地面を転がった後に起き上がり、敵を見やる。
「俺と同じ、超能力の使い手……相手にとって不足無しってか。笑えないな!」
 反撃とばかりにサイコキネシスを操り、相手の動きを牽制する。
 どうやら敵はあまり近づいてくるような事はなさそうだ。
 ならばこちらからも不用意に近付かず、距離を取って戦った方が良い。
 勇太の能力を生かすなら、アウトレンジの方が得だ。
 そして相手の土俵でもあるというのなら、先手を取られた事を雪辱するにももってこいである。
「誰にケンカを売ったか、教えてやるよ!」
 あまり使いたくはないが、持っている力に自信がないわけではない。
 色々な経験を経て手に入れ、強化された力。
 思い出したくもない過去ではあるが、その記憶に裏づけされた自負がある。
 この力ならば、負けられない。
 もし負けたのなら――

「お返しだッ!」
 勇太は手を掲げ、敵に向けてサイコキネシスを放つ。
 それは敵を包み込み、そのままアリーナの壁へと吹っ飛ばす。
 頑丈そうな岩で出来た壁が凹み、ひび割れ、多少崩れるほどの衝撃。土煙が舞い、敵の姿を覆い隠した。
 そんな勢いでぶつかった敵は、生身なら無事ではいられないはず。
 しかし、土煙の中には、確かに存在が感じられる。
 テレパスでも、相手の思考がぼんやりと読み取れた。
「まだ健在ってか……結構マジだったぞ、今の」
 ほぼ全力で放ったサイコキネシスが、まさかのノーダメージ。
 これは思ったよりも敵の格が高いようである。
 勇太が認識を新たにすると同時、敵がまたもサイコキネシスを操る。
 抵抗もままならず、勇太の身体は地面に押し付けられた。
「ぐっ! くそっ!」
 先程よりも強いサイコキネシス。勇太の力では全く歯が立たないようだった。
 このままでは何も出来ずにやられる。殺される。
 背筋が凍るような悪寒。
 一瞬にしてテレポートしてきた敵が、勇太の目の前にいた。
 その手にはサイコキネシスによって作られた槍が構えられており、その切っ先は勇太の心臓を向いていた。
『本気で戦えないようなら、このまま死ね』
 敵の視線が冷たく細くなる。
 勇太の鼓動が跳ね上がり、視界が狭まる。
 このままでは、本当に死ぬ。
 その瞬間、勇太の中の一線を越える。

 勇太を縛り付けていたサイコキネシスが解ける。否、弾き飛ばされる。
 更には敵すらも吹き飛ばし、また両者の間に間合いが出来た。
「……くそっ……俺は……ッ!」
 思考がぼんやりするが、やるべき事はハッキリ理解できる。
 敵を倒さなければ、殺さなければ、自分が死ぬ。
 ならばやるべき事は、敵を排除するのみ。
「おおおおおおっ!」
 全力で練り上げるサイコキネシスは槍の形をとり、それを敵へ向けて飛ばす。
 敵はそれをテレポートで避けた。その動作にも、まだまだ余裕があるようにも見える。
 槍はアリーナの壁に深々と突き刺さり、その一角を崩した。
 その様子を見て、敵はどうやら満足したようだった。
「本気の俺と戦いたかったってのか? お前、俺の何を知ってるんだ」
 背丈も同じ、使う能力も同じ。
 まさかとは思ったが、夢の中なら何でもあり、といえば納得できる。
「お前……俺なのか?」
 敵は答えず、ただニヤリと笑った。

 次の瞬間、勇太の槍によって崩された壁の岩が、勇太に向かって飛び始める。
 敵のサイコキネシスによって礫となされたのだ。
「そんな大味な攻撃なんて……ッ!」
 勇太の方もサイコキネシスを操り、その大岩を止めようとかかるが、その瞬間に大岩が粉々に砕かれる。
 勢いはそのままに砕かれた大岩の破片が、勇太へと降り注いだ。
 サイコキネシスを操ろうにも、急に制御する対象が増えてしまった為に、咄嗟に判断できず、勇太は頭部をガードする事しか出来なかった。
 この岩の礫は敵にとって布石。
 防御の片手間にテレパスを操った勇太は、敵の本命を見破る。
 岩の破片を防御する事によって、身動きと視界が塞がれた勇太。
 その隙に敵は大量の槍を生成し、それで一気に決着をつけようとしているのだ。
「槍の量が多すぎる。こんなに一気に……俺に制御できるのか!?」
 勇太を取り囲むように作り出されている槍の数々。
 その量は今まで操ったサイコキネシスの量を軽く凌駕している。
 しかし、
「相手が俺なら、出来ないはずがないッ!!」
 脳みそが焼け切れようとも、自らに屈するよりはマシ、と、勇太はサイコキネシスを操る。
 その数は、相手の槍の量と全く同じ。
 作り出した槍の切っ先を、相手の槍に照準を合わせ、相手が槍を発射するタイミングに合わせて、勇太も槍を放つ。
 ほぼ同等の力を持つ槍同士は、ぶつかった瞬間に相殺され、一本残らず消滅する。
 敵はどうやら、今のを必殺の一手としていたらしく、それを防がれた事に多少なりと動揺している。
 その隙を見逃さず、勇太はなけなしの、最後の槍を作り出した。
「これで、止めだぁ!!」
 右手に握られたその槍は、勇太にぶっきらぼうに放り投げられると、敵に向かって一直線に飛ぶ。
 防御もままならなかった敵は、その槍に貫かれ、胴体にぽっかり穴が開いた瞬間に霧散した。
 全力を使い果たした勇太も、その場にバッタリと倒れ、荒い息のまま天を仰いだ。
「くっそ、あの岩の破片であちこち怪我した……」
 頭を庇った腕はもちろん、身体中に礫がぶつかった痕がある。
 満身創痍と言った感じではあるが、何とか勝った。
「俺が負けたら、昔やってきた事が完全に無駄になるからな……」
 なんとなく空を眺めながら、そんな事を呟く。
 ここで負ければ、研究所での辛く、苦しい日々が全くの無駄になる。
 それが許せなくて、ただ意地のみで掴んだ勝利だった。
 しかし、不思議と心が晴れない。
「……なんだろうな。勝ったのにスッキリしない」
 自分自身を倒してしまったからだろうか?
 いや、そんな感じではない。
 もっと何か別の……何かを忘れているような、そんな引っ掛かりだった。

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 ふと勇太が目覚めると、そこは自室だった。
 机に突っ伏して、どうやら居眠りをしてしまったらしい。
 眠い目をこすりながら机の上を見ると、ノートが開かれてある。
「そうだ、俺、宿題の途中だったんだっけ」
 起き抜けに嫌な事を思い出してしまった。
 夢の中で感じた引っかかりはこれだったのだ。
 しかも、なんと運の悪い事に、眠気覚ましの為に淹れてきたはずのコーヒーが机の上に撒き散らされており、ノートがグシャグシャである。
「くそぅ、またやり直しかよ……」
 文字も読み取れないような状況になった宿題を提出するわけにもいかず、勇太は真新しいノートを取り出して、宿題をやり直す羽目になったのだった。
 夢の勝負では勝ったが、どうやら今日は徹夜になりそうである。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】


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■         ライター通信          ■
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 工藤勇太様、ご依頼ありがとうございます! 『コーヒーより紅茶派』ピコかめです。
 まぁ、嗜好飲料ならコーラが最強ですけどね!

 完全なる一対一で、しかも相手が自分と言うバトル。ベタですがやはり燃えますね! これは王道なのです!
 今回は辛勝と言ったところでしょうか。あんまり血塗れにはなりませんでしたが、全力を以って全力に対峙した結果、意地があった方が勝ったと。
 イメージとしては敵は自分自身を写しただけの幻影って感じにしてみたので、ステータスは一緒でも根性補正がかからないよ! 的な。
 それでは、気が向きましたらまたよろしくどうぞ!