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<東京怪談・PCゲームノベル>


第6夜 優雅なお茶会

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 午後3時10分。
 最近はあちこちが騒がしかったにも関わらず、今日はのんびりとした空気で包まれている。
 うーん……。
 工藤勇太は水泳時の水抜きの要領で、とんとんと耳を叩いていた。
 前にテレパシーを大量に使った影響がまだ残っているみたいだった。まだ頭の中がぐわんぐわんして、平衡感覚がおかしいや。
 さあて。
 中庭に並べられたテーブルを眺めながら、空いている席を探した。
 空いてる席、空いてる席……あっ、あった。
 女の子の多いグループだけれど、男の人も座っているから多分大丈夫だろう。
 そう思ったら勇太は早速声をかけた。

「すみませーん、ここの席空いてますけど、座っていいですかー?」
「はーい、どうぞー」

 女の子が振り返って、気が付いた。
 前にバレエ科で会った子だ。

「あっ」
「あっ」

 勇太とその女の子は、ほぼ同時に声を上げた。
 雪下椿が顔を赤らめたのを、隣にいた少女達が騒ぐ。

「何なに? 椿ちゃん浮気? 浮気?」
「違うわよっ、って、そもそも浮気って誰に対してよ。彼氏いないのに浮気って何?」
「またまたぁ〜」
「椿ちゃんもかすみちゃんもその辺で……」

 女の子特有の賑やかさで、思わず勇太も及び腰になるが、それでも声をかける。

「この前は迷子になったの助けてくれてありがとう」
「あっ……いえ」

 椿にしてみたら、自分が小山連太をぶん殴っている所を見られて気まずいんだろう。そして、隣にいる子達も、どうも椿が連太について何かしら思う所があるのを知っているらしい。

「なあに? 先輩に親切に?」
「だから違うってば! あんたもしつこいっ!」
「かすみちゃん、その辺に……」

 女の子達がきゃいきゃい騒ぐのを、向かいに座っていた高等部の生徒らしい少女がにこにこしながら女の子達の会話を止める。

「はいその辺で。お茶回すから、あんまり騒がないの。はい、工藤君もどうぞ」
「いやー、ごめん。ありがとう……って、あれ? どうして俺の事を?」

 どう見てもここのテーブルはほぼ女の子達で固められていて、その女の子達も雰囲気や体型からしてバレエ科の子達だろうに。何で自分の事知ってるんだろ?
 勇太がきょとんとしたまま女子生徒を見ると、彼女はいたずらっぽく笑った。

「うふふ。守宮桜華です。秋也とは幼馴染だから」
「ああ、海棠君から……」
「はい、真ん中にミルクポット置くからね」
「はーい」

 ようやく女の子達も静かにお茶を、と言うよりもお菓子を楽しみ始めた。
 勇太もとりあえずビスケットを取ってそれを齧っていたら、桜華が声をかけてきた。

「工藤君はトランペットが上手いんですって?」
「いやぁ、上手いかどうかはともかく、弾けますよ」
「今日は持って来てないの?」
「いやあ……流石にここでだったら、音楽科の人達もいるのに肩身が狭いかなーって」
「そう?」
「あの……」

 ん? と隣を向けると、椿だった。
 気のせいかやっぱり顔が赤い。隣でやっぱり女の子達が「椿ちゃん頑張れー」と適当な応援をしている。

「新聞部でその……最近どんな活動してますか?」
「活動ねえ……」

 ちらりと端の方を見やる。
 小山連太は今日も新聞部活動として、今日のお茶会のアンケートを配って、書いてもらったものを回収していた。
 本人に聞けたらいいんだろうになあ。難しい。

「まあ今は聖祭の準備かなあ。もちろん当日にはあちこちに取材行くけど。取材の時は誰もいないけど、記事書いている時だったら部室に遊びに来ても大丈夫だよ?」
「……邪魔になりませんか?」
「ならないならない」
「……ありがとうございます」

 うん、頑張れ。
 勇太は内心ぐっと握り拳を込めた。

「あらあら。工藤君人気者ねえ」
「理事長」
「こんにちはー」

 気付けばふらりと聖栞も顔を出していた。
 確かに。女の子率高い席だけれど。好き勝手に話をしていただけだしなあ。

「うふふ。楽しそうね。混ざってもいい?」
「いやいや、理事長。別にここはそう言うのじゃ」
「あら? 駄目?」
「…………っ、もしかしなくても理事長、楽しんでません? 俺の反応」
「あら? 楽しんでいるわよ?」

 栞はのほほんと笑った。

「いやっ! それはっ! 何か違うかなって! ……そっ、そう言えばバレエ科の皆さんは次の聖祭、踊るものとかもう決まりましたかっっ!?」

 栞にからかわれているのが分かると、やっぱり話切り替えないとなあ。
 そう言うと、桜華は少しだけ困ったように笑い、椿はちらっと友達の方を見た。

「高等部は、「眠れる森の美女」をするの」
「へえ……守宮さんが主役?」
「ううん、私は主役じゃなくってリラの精」
「へえ……中等部は?」
「中等部は「白鳥の湖」をするのよ。ねっ?」

 桜華が振ると、椿がこくりと頷いた。
 それを目を細めて栞は見ていた。

「バレエ科の公演、楽しみにしているわ。新聞部もしっかり取材をしてね」
「あっ、はい。分かりました。あっ、理事長」
「なあに?」
「お願いあるんですけれど、いいですか?」
「いいわよ?」

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 午後3時15分。
 お茶会を行っている中庭から少し離れた園芸部の温室。
 その前で勇太の頼みを聞いた栞が、何故か背中を丸めて笑い出してしまったので、勇太ははてなマークが飛んでいた。
 あれ、笑う所なんてあったっけ……。
 ただ頼んだだけなのにな……「今度理事長館で海棠君と演奏したい」って。

「あのー……理事長?」
「ああ、ごめんなさい……。ただちょっと拍子抜けしただけよ」
「ですか?」
「ええ……。理事長館はいつでも好きに使ってくれて構わないわ。応接室に行くまでに1つ部屋あるの知ってる?」
「部屋……ですか?」

 思い返せば、奥に通される時に1つ扉が見えたような気がする。

「普段、バレエフロアで練習しにくい子達用に解放しているんだけれど、聖祭が終わるまではあそこで練習に来る子もいないから、そこでだったら好きにしてくれていいわ」
「わあ……ありがとうございます」
「あと、これ」

 勇太は栞の声に思わず手を広げると、水晶玉のようなものを1つトンと乗せられた。
 これって……ルーペ?

「あの、これ何ですか?」
「今日もふらふらしているみたいだから、能力あんまり使い過ぎないようにお守り。じゃあ頑張ってね」

 そう栞に微笑まれた。
 これそんな力あるの? 勇太がルーペを覗いてみても、せいぜい物が大きく見えたりするだけだった。

<第6夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122/工藤勇太/男/17歳/超能力高校生】
【NPC/雪下椿/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/守宮桜華/女/17歳/聖学園高等部バレエ科2年エトワール】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】

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■         ライター通信          ■
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工藤勇太様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第6夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は雪下椿、守宮桜華とのコネクションができました。よろしければ手紙やシチュエーションノベルでからんでみて下さい。
また、アイテムを1つ入手しましたので、アイテム欄の確認をお願いします。

第7夜公開も公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。