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<東京怪談ノベル(シングル)>


『blue’s mission』


――IO2作戦会議室。
 響き渡る人の声。知らぬ者が耳にすれば騒々しいと感じる場所に三島・玲奈は居た。
 目の前で繰り広げられる議論は、人類に仇成す妖怪軍団への対処法についてで、重点は根絶やし方法だ。
「……最近、増えてるわね」
 思わず呟いた声に、一瞬だけ人の目が向かう。だが彼等は直ぐに議論の輪へ視線を戻すと言葉を交わした。
「モニターの映像は現在展開中の全作戦です」
「目撃されている敵方の勢力の情報を」
 会議室に置かれた大型のモニターと複数の小型モニター。それには空を舞う龍や、面妖な姿をした鳥が映っている。
「現在確認されている勢力は、龍族、金翅鳥、姑獲鳥です。急ぎこちらの戦力を投下しておりますが、状況の改善は見られません」
 報告を受けた者達は一様にモニターへ目を走らせた。
 幾つもの巨大生物。それらを前に繰り広げられる戦闘風景は一見すれば人類側の優位に見える。しかし、見る物が見れば状況は改善と言うよりも平行線を保っている状態。改善も後退もしていないのが正しい。
「やはり急ぎ戦力の増加を計らねばならないか……」
 何処からともなく上がった声。これに会議席中央に腰を据える男性の目が上がった。
「三島准将、貴下の戦略創造軍は鉛の兵隊かね?」
 突如問われた声。これに玲奈はゆるりと目を動かす。
「――否、策はあります」
 凛として響くにざわめきが止まった。
「ほう……策があると?」
「はい」
 玲奈はそう頷くと、自らが抱く策を開示した。
 それに周囲が再び騒がしくなる。
「少々危険ではないか」
「だが成功すれば、人類にとって大きな鍵となる」
「それでも万が一と言う事も――」
 次々と上がる声。玲奈はそれを耳に留め、彼女に許可を下す事が出来る人物を見詰めた。
 そして……
「――わかった。許可する……総力戦ニムロデ」
 この声に、玲奈は静かに頭を下げ、会議室を後にした。

 * * *

――某国ロングアイランド。
 玲奈は髪に隠れた尖った耳を揺らし、視線を広く続く海面へと向けていた。
「ここに、例のモノがある……気を引き締めなければ」
(もしこの作戦が失敗すれば……)
 嫌な思いが頭を駆け抜ける。
 緊張から手が汗ばみ、無意識にそこを握り締めると、玲奈は思わず苦笑を零した。
「始まる前から、随分と弱気ね……この策は成功する。必ず――」
「三島准将、準備が整いました」
 突如響いた声に彼女の目が向いた。
 艦内で準備の為に動いていた仲間が報告に来たのだ。その表情は玲奈を信頼し、彼女に全てを委ねるモノ。
 その顔を見て、覚悟が決まった。
「これより総力戦ニムロデを開始します!」
 響き渡る清廉とした声。
 これが合図となり戦艦は一気に動き出した。
 響き渡る銃声が海へ次々と撃ち込まれて消えて行く。一見無意味に見える状況だが、海に撃ち込まれる弾丸は飛沫を上げ、時期に玲奈の望む状況を作り出す。
 そう、彼女が望む状況、それは――
「目標地点に振動を感知……浮上します!」
 オペレーターの声と共に映像が映し出される。
 海へと放たれ続ける弾丸。それにより上がる飛沫の中で何かが動いているのが見える。
「目標捕捉と同時に銃弾を追加。一気に追い詰めるわよ!」
 徐々に飛沫よりも蠢く物の方が大きくなる。
 そうして浮上したのは島――否、島であった物、だ。
「三島准将。事前報告の通り、島全体が腫瘍化し巨大なワームと化しています。このまま撃破で問題ないでしょうか」
「問題ないわ。敵殲滅後に海域に接近。そこに目的の物がある筈よ」
「了解しました」
 玲奈の声に再び動き出した戦艦。
 彼らは、撃ち込まれる攻撃に堪らず浮上した巨大ワームを、更に攻撃で捻じ伏せてゆく。そうして存在そのものが機能を停止した時、玲奈たちは漸く目的にモノに近付く事が出来た。
「……これが『時空の穴』」
 玲奈の目的――それは敵の巣へ潜り込む事。そしてそこで捕虜と出来る存在を確保する事だ。
「海嘯の中央へ。そこから敵陣へ乗り込むわ。全員、衝撃に備えなさい!」
 玲奈の指示で乱れる事無く各員が動く。
 彼ら皆、玲奈を信じている。彼女の作戦が、そして彼女自身がこの任務をやり遂げると……。

 * * *

 空間転移した戦艦は、見覚えのある星を視界に見覚えのない世界を捉えていた。
「これは、いったい……」
 彼女たちの頭上に存在するのは青の惑星『地球』。ならばここは位置関係から察するに『月』となるだろうか。
「三島准将、この状況はいったい……」
 玲奈だけではない。
 彼女に同行した仲間全てが、今目にしている物を信じられずにいる。だが目に映る物は全て現実だ。
「月に文明があっただなんて報告、受けていないわ。それに、それが滅びただなんてことも……」
 玲奈はそう言いながら外へ出る準備を勧めてゆく。その姿に仲間の一人が驚いたように目を見開いた。
「まさか准将自らがお出になるおつもりですか!」
「当然よ。これはあたしが考えた策でもあるんだもの」
 彼女はそう口にすると、モニター越しに見える景色を眺め見た。
 数多もの瓦礫の先。崩れ落ちた建物を縫うように走るのは人が歩く道だろう。
 そこを進んだ先には人々が集う広場があり、その中央に巨大な馬像が置かれていた。
 きっとこの廃墟が生きている際、人々がシンボルとして崇めていた物だろう。
「形は悪くないのだけど、色が悪趣味ね」
 思わず苦笑を零した像の色は金。暗く沈んだ空間には似つかわしくない輝かしい光を放っている。
「三島准将、廃墟の先に異質建造物を発見しました」
「異質建造物?」
「映し出します」
 言葉が途切れるのと同時に表示された映像は、玲奈を、そして艦内の者を驚かせた。
「これは……工業プラント?」
「……冷戦の遺産でしょうか。明らかに人類の……それも重工業が栄えた国の物かと」
「調べてみる価値はあるわね。戦艦をクレーターに接近。そこから生身へ移行し、調査を続けるわ」
 了解しました。
 艦内に再び活気に満ちた声が響く。だが、その声には僅かな緊張、そして戸惑いが含まれていたのは言うまでもないだろう。

 * * *

「――くっ」
 舞い上がる砂塵と腕に走る激痛に、玲奈は表情を歪めていた。
 工業用プラントに潜入した玲奈は、そこで大きな収穫を得た。だが同時に、人類を脅かす存在――妖怪軍団と顔を合わせる事になってしまったのだ。
 彼女が今対峙しているのは巨大なミミズ。それも動きはミミズとは比べ物にならないほど早く、大きさも相当だ。
「例えるなら、新幹線かしら」
 クスリ。
 零した笑みは直ぐに消え、彼女は手にしている銃の安全装置を解除した。そして次に武器を構えた時、視界に何かが掠める。
「! ――、ぁッ!」
 頬を打ったミミズの足。それに吹き飛ばされ、玲奈の体が重厚な壁に沈む。
 途端に溢れ出す血の味に口角を歪め、玲奈の息がそれを吐き出した。
「やってくれるわね。でも……」
 手の甲で口元を拭い立ち上がる。
 銃は未だ手の中。腕に走る激痛は消えないが、それでも今は人類に仇成す敵を討つ方が先だ。
 玲奈は軋む腕を上げると、腕に頬を添え照準を合わせた。
 彼女を傷付け軌道を変えるために舞い上がった敵。それは地球の円をなぞる様に弧を描くと、一気に向かってきた。
 その速さは相当。
 月で軽くなった重力に足を踏ん張り、腕を支えるようにもう片方の手を動かす。そうして息を吸い込む彼女の目に、敵の動きに煽られた風が舞う。
「銀弾と対霊結界を持つ創造軍の敵でないわ」
 吸い込んだ息。それが吐き出されるのと指を動かすのは同時だった。
 打ち込まれる弾丸に、敵が奇声を上げて舞い上がる。それを執拗に追いかけるよう弾丸を降らすと、すぐさま玲奈の弾が切れた。
「これは、ハンデ……此処は、お前らの居る場所ではないの」
 弾を装填する間に、敵は再び彼女に襲い掛かって来た。
 直撃する寸前を掻い潜り、滑る様に攻撃を回避する。転げるように地面を這った彼女の体が起き上がると、敵もまた身を反転させ襲い掛かって来た。
 だが準備はこの間で終了。
 玲奈は片目を眇め新たに照準を定める。狙いは勿論、此方を狙い定め襲い来る敵――その頭部。
 再び頭を振る敵。だがこれで終わりではない。
「取って置きをあげるわ……――霊榴弾、喰らえ!」
 重力に反し飛んでゆく霊榴弾。それが敵の頭部に直撃すると、玲奈は咄嗟に目を背けた。
 瞑ってもわかる程の光が辺りに充満し、続いて巨大な重音が響く。
 それは彼女が放った霊榴弾の光に目を眩ませたミミズが、駆け付けた別の隊によって捕縛される音だった。

 * * *

 目的通り敵勢力の1つを捕縛した玲奈は、工業用プラントの他に発見したUFOの残骸と某国の国旗、そしてそこに横たわる白骨体を前に手を合わせていた。
 そこに仲間の声が響く。
「三島准将、そこの物体の解析が終了しました」
 軍艦にて白骨体の先に横たわっていた黒焦げの物体。その解析を頼まれていた仲間が近付いてきたのだ。
「解析の結果は此方です」
 言って差し出された書面。そこに記される文字に玲奈の端正な眉が寄った。
「太陽系防御システム? これを何者かが壊したから妖怪が蔓延っているの? でも誰が何の為に建設……」
 倒れていた黒焦げの物体は、鉄塔らしき形状をしていた。そこに残されていたのは、何かが激しく争った跡。
 つまり、こうした跡が付くのは――
「これはミミズよりも大きな収穫になるわよ。至急地球に戻って報告ね」
 彼女はそう言って頷くと、この任務中に初めて、清々しい笑みを見せた。



……END.