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<東京怪談ノベル(シングル)>


メールと暗号は使いよう

 ある夜、三島・玲奈(みしま・れいな)の部屋。
 この夜、彼女の部屋には女友達が泊まりに来ていた。
 そして、女の子同士で話す内容といえばやはり恋愛談義であるようだ。
「最近、彼氏とどうなのかな?」
「えっ!?最近?ぜんぜん会ってないよ。忙しいみたいだし……」
「そうなの?それって恋人なのかな?」
「どういうこと?」
「なんか都合のいい女みたいじゃない?」
「都合のいい女?」
「ちょっと確かめてみたら?」
「うーん。そうだよね。よし。」
 意を決して玲奈は携帯を取り出し、メールを打ち始めた。
「『別れよう』っと。最近お話しもしてくれないし、これなら心配して電話かかってくるよね」
 ピロリーン
「返信?……電話じゃないんだ。まあ、良いわ。『おk』……ハァ!?ふざけんじゃないわよ!馬鹿にしないでよ!それなら私だって嫌いになってやるんだから!」
 そういいながらも、玲奈の声は涙声。
 さすがにやばいと思った友達がフォローするが、涙は朝まで止まらなかった。

 数日後。
「何よ……さびしいじゃない。ほんとにむかつく……そうだ!」
 早速携帯を操作する。
『まっようぢえ』
「と。これならストレートに傷つけてないし、興味持たないと解読なんかできないよね」
 しばらくして、ピロリーンと着信音が鳴った。
「どうせ読めてなんかないだろうけど返信見てあげるわよ」
「『しなねーよ』 なによ・・・興味あるんじゃない」
『でりかて いっすえ いまぎね 4ね』
「私だって辛かったんだから・・・ふざけんなばか」
 ピロピロピロ……
 少しの間をおいて、今度は彼からの着信を告げる音とともに携帯が玲奈の手の中で震えた。



 玲奈の暗号メールに返信が来る10分前、ゴーストネットOFF。
「玲奈から来たメールがこれなんだけど」
「玲奈ちゃんに何かしたの?」
 瀬名・雫(せな・しずく)は若い男性が差し出したメールを見てそういった。
「えっ!?なんで?」
「だってこれ呪いのメールだよ。」
「の、呪い!!!?」
「書いてあるのはMay you die。『あなたが死にますように』だよ。本当に身に覚えないの?」
 何でそんなことに……といった顔をしている彼に雫の言葉は深く刺さったようだった。
「……ないわけじゃない。実は……」
 彼は、数日前の夜のことを雫に話した。
「どうりで。」
「その前にメール返したら?」
「あっ、うん」
 少しあわてたように彼が携帯を取り出して、いじり始めた。
「ところで、どうりでって?」
 携帯をいじる手を止めて彼が雫のほうを見た。
「玲奈ちゃん、後ろにいるからね。」
 衝撃の一言に彼が固まる。
 そして、ゆっくりと振り返る。が、後ろにはいつもどおりのネットカフェの風景があるだけだった。
「なんだよ。いないじゃん。」
 ほっと胸を撫で下ろす彼に雫の追撃が襲い掛かる。
「いるよ。後ろで恨めしそうな顔してる。」
「それって……?」
「生霊だね。」
「そんな……」
 彼の顔が青ざめていく。
「で、でも、あれは冗談だと思ってて!」
「そんなのあたしに言っても仕方ないよ」
 その時、再び携帯が音を立てた。
「生霊は自分の恨みが消えたらいなくなるみたいだから、後は自分で何とかしなよ。あたしは違う検証に行ってくるから。」
 半泣きで引き止める彼の声を背に雫はゴーストネットOFFを後にした。


「で、あの後どうなったの?」
 玲奈の彼氏から相談を受けた数日後、雫は再び玲奈の部屋に泊まりにきていた。
そう、あの日この部屋にいたのは雫だったのだ。
「雫さんが『もうすぐ電話が来るよ』ってメールくれた後、すぐ本当に電話来て、平謝りしてくれた」
「そうなんだ、よかったね。仲直りできて」
「うん。本当にありがとう」

 あの日、泣きじゃくる玲奈に雫はため息をついて言った。
「もし、忘れられないなら、『まっようぢえ』ってメールを送れば良いよ」
 と。意味を聞いた玲奈がびっくりしていると雫はこう続けた。
「その暗号の返信が正しく来たら、次は『でりかて いっすえ いまぎね 4ね』って送るんだよ」
「どうして?」
「そしたら、電話がかかってくるから」
「電話?」
「それ、delicate issue imagine phoneって書いてあるんだよ」
「えっと、『デリケートな問題は電話しようとか考えられないの?』ってこと?」
「うん」
「後は二人で話し合って決めてね」
「わかった。やってみる」

 いくら二人の出会いのきっかけが、雫の検証であったことから何かあれば自分のところに来るだろうと雫は踏んでいた。そこでちょっとおどかしてやればいいか、位に考えていたのだが、ここまで効果的面とは彼女自身思っていなかったのだが。
「今度はいっぱい構ってもらうと良いよ」
「うん。ほんとうにありがとう」
 やっと笑顔になった玲奈を見て雫は本当によかったと思った。
「で、雫さんはどうなの?最近」
「えっ!?あたしはほら検証で忙しいから」
「本当に〜?白状しなさい!」
 今夜も女の子たちの恋愛談義は尽きないようだ。



-Fin-