コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


●断罪の白〜3〜

「お帰りなさい、瑞科せんぱーい。スイーツ食べに行きましょう」
「また、いきなりですわね」
 同僚、と言うよりは後輩に近いかもしれない。
 一度、お目付役として任務を一緒にしてから、彼女、白鳥・瑞科(8402)に懐いた少女だ。
 武装審問官からは、退いて事務をこなしているらしいのだが――最近そう言えば、出会う事は無かったような気がする。
「見て下さい。スイーツ食べ放題、2名1組様無料券!」
「其れは素敵ですわね……ところで、どうやって手に入れたの?」
 自慢げに笑う少女に、それは楽しそうだ、と瑞科も笑みを返す。
『三月ウサギ』とウサギの絵が書かれてあるチケットの隅に、限定品、という文字を見て彼女は聞き返したのだが。
「あ、これ。オープンセールの時に貰ったんですよ。毎食通って」
 懐かしいですね――と少女は言うが、毎食スイーツと言うのもどうか、と瑞科はこめかみを押さえた。
 色々と、ツッコミを入れたい事はあるが、きっとわざわざ取っておいてくれたに違いない。
「じゃあ、服を着替えて来ますわね」
「はーい。じゃあ、終わったら携帯鳴らして下さいね!直ぐに行くので」

 騒がしい少女と、スイーツ食べ放題の約束を取り付け、瑞科は自室へと足を運ぶ。
 花瓶に咲く、薔薇の花の水を替え、十分ほど着て行く服に悩む。
 結局、取り出したのはレースのあしらわれたプリーツスカートにブーツ、落ちついた青が気にいってよく来ている服だ。
 約束しているから、ゆっくりお風呂に入るのは後にして、シャワーのみで済ませる。
 水が滴って、白い肌を滑り落ちる。
 心地よい温かさを感じながら、シャワーヘッドを手にした指に視線が移った。
「今日は、マニキュアでもしてみましょうか」
 任務でもお洒落を欠かさない瑞科だが、手袋を嵌めて、マニキュアは出来ない。
 指折り数え、最近こうして、ゆっくりと休みを取る事が無かった事に気づく。
「……でも、任務の時とは違った楽しみが、ありますわね」
 武装審問官と言う誇りもあるが、当然、女性としての楽しみだって追求したい――欲張りかもしれないが、それが女性と言う物かもしれない。
 大きな姿見に映る、身体を見て、身体のラインが崩れていない事を確認する。
 崩れる要素など無いが――やっぱり、女性なら気になるものだ。

「瑞科先輩、あ、そのマニキュア良いですね」
 携帯を鳴らした後、直ぐに――本当に直ぐだったので、部屋の前で待っていたのではないか、と思うほどだ――来た少女が直ぐにマニキュアに気付く。
「そう言えば、新色のマニキュアとルージュ、どっちを買おうか迷ってるんですよ」
 春に向けてって、何処も彼処も出すからズルいですよね、と少女に言われてそうですわね、と頷き返す。
「でも、春に向けてなら、マニキュアがいいかしら」
「あー、手袋外しますしねー」
 先に何処に行きましょう、と言い合いながら、何となくメークアップ商品の棚を見て回る。
 成程、何処も彼処も、春に向けてピンク色が華やかだ。
「瑞科先輩は、青が入ったマニキュアでも似合いそうですよねー。あたし、色黒いからなぁ」
「けれど、こっちの赤みの強いマニキュアなら、似合うと思いますわよ」
 お互いの爪に塗り合いながら、顔を見合わせて悩み、次はルージュを見て回る。
 つん、と化粧品独特の臭いがして、流石に此れは臭いで気付かれるかしら、と瑞科はついつい任務へ意識を向けてしまう。
「この桜色、綺麗ですわね」
「あ、これって確か、桜のニオイなんですよ!友達に薔薇のニオイ持ってる子がいて、超、いいニオイです!」
 ルージュを手にとって、少女があたしには早いですけどー、瑞科先輩ならアリです、超アリです!と笑う。
「ふふ、じゃあ此れを一つ」
「あたし、リップ買ってきまーす」
 未来の彼氏の為に、唇ケアです!と元気いっぱいに特売品のリップを買い込む姿に、瑞科はクスクスと笑みを漏らすのだった。

 スイーツ喫茶『三月ウサギ』は、盛況だった。
 勿論、昼過ぎ、と言う事も盛況な理由なのだろうが……予め、予約していたらしく、瑞科達はすぐさま中へと通される。
「へぇ、バイキング形式ですのね」
 オーソドックスなショートケーキから、最近やっとメジャーになりだした食用花のケーキまで。
 店の外は騒がしいが、店内はピアノの音が響いている。
「結構お洒落でしょ、味もマジ、ヤバいです」
 ホントに、と美味しさを語りつつ、スイーツを片っ端から取っていく少女に倣い、瑞科もどんどんお皿に盛って行く。
 先に皿が一杯になった瑞科は、席について、ローズヒップティを飲む。
 酸味が、疲れた体に心地よかった。
「……食べきれますの?」
「大丈夫です!」
 目の前に積み上がったスイーツの山、それを見ながら、やや茫然と瑞科は口を開いたが少女はどんどんと山を崩していく。
 ……まあ、食べきれると本人が言っているのだから、大丈夫なのだろう。
「あら、美味しい」
「ですよねー、良かったです。ところで、帽子屋の紅茶とかありますけど、飲みますか?」
「帽子屋?」
「アリスですよ、アリス。あ、帽子屋の紅茶って不味い……」
 ハッ、と口を滑らした様子に、瑞科はキッパリ。
「結構ですわ」
 返答を返すのだった。

 新作のルージュ、そしてお腹いっぱいで幸せな休日。
「美味しかったですねー」
「ええ、とても。スイーツのセンスも素敵でしたわ、帽子屋の紅茶以外」
 反省してまーすと、隣でしょげた声が聞こえるが、この位の表現は許されるだろう。
 ちょっとでいいから、と勧める少女に応えて飲んでみたが、酷い味だった。
 このまま、平和な休日――と言えればいいのだが、やはり運命とは気まぐれなもので。

「きゃぁあっ!ひったくり!」

 仕方がありませんわね、と瑞科はひったくりの腹部に思いきり強烈な蹴りを放った。
 プリーツスカートの下から、遠心力と言う力を付与された美脚が、見事に腹に収まる――犯人は身体を丸めて痛みに呻いた。
 その手から、鞄を取りあげ、唖然とする婦人へと鞄を差し出す。
「今度は、気を付けて下さいまし」
「……さっすが、瑞科先輩」
 湧き出る拍手、集まる視線、その中で困ったように瑞科は眉根を下げて、そして人の輪を後にする。
 お礼を、と追いかける人々を撒いて、適当な建物に入り込んだ二人だったが。
「綺麗な夜景ですわね……あのような事態に、遭遇したのは思いがけない事でしたが」
「はい、瑞科先輩。缶コーヒーです」
 缶コーヒーのプルタブを開けて、カツンと音を立て夜景を臨む。
 夜風に吹かれ、瑞科はこれからの依頼に思い馳せるのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【8402 / 白鳥・瑞科 / 女性 / 21 / 武装審問官(戦闘シスター)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

白鳥・瑞科様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

文章を頂き、とても美しいものを愛する方なのだな――と思い、綴らせて頂きました。
悪を挫き、己の意志を通す瑞科様の強さ、そして日常では面倒見の良いお姉さんのような姿。
二つの対比を、楽しんで頂けたらと思います。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。