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<東京怪談ノベル(シングル)>


●遷都、未来の為に

 空は錆びたような赤い色をしていた――時折、低く、或いは高く空を飛ぶのは龍族だろうか。
 未来の妖精王国、三島王朝。
 地球の大半は龍族に牛耳られ、それに恭順する隣国ナタリアに領土を侵食され、衰退の一途を辿っていた。
 王の愚を唱える叛乱軍が、各地で決起。
 怨嗟の声は国土を流れる風に混じり、高く高く、滅びの煙が立ち上っていた。
 破竹の進撃を続ける龍族は、臣民を娶り、嫁ぐ側も逞しい雄龍を伴侶として認める有り様。
 最早、種の誇りなど塵にしか過ぎぬ。
 歴代の王は枯渇する一途の子種を護り、子を産む花を育てる一方、龍族もまた亡びつつある雌龍に代わる伴侶を求めていた。
 王族は真実を隠蔽し、龍族に抗い続けていたが、利害が一致する者達に、内外から攻め滅ぼされ――その政策は失策と嘲弄される。

 間諜の手で破壊された、王都を守護する為の結界を張る『愚者の塔』は無残な姿を晒し、叛乱軍の罵倒と共に崩れ落ちる。
 灰塵が舞い踊る、妖精の子を産む花が育つ王立庭園は炎上し、生まれる前にその命を絶たれた嬰児が悲鳴を上げて炎の中に巻き込まれた。

「進みなさい、愚帝の首を取るのよ!」

 革命軍と共に歩を進めるのは、エヴァ・ペルマネント(NPCA017)だ。
 金色の髪を靡かせながら、この甘美な破壊の調べに笑みを零す。
 生じた怨霊達を操りながら『血達磨の卓袱台返し』と名付けた、危うい盤上の均衡に成り立つ、平和という箱庭の茶番劇。
 それを、阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とす事、その愉快さ、滑稽さ。
 革命などエヴァには関係のない事だ、亡びと繁栄は表裏一体――ただ、滅びへと手を貸したにすぎぬ。
 亡びと繁栄の境界を弄ぶ事こそ、美学……これぞ、強者に赦された遊戯。

「強者だけが、生き残るのよ――!」

 王城で落涙しているであろう、王女、三島・玲奈(7134)を嘲弄し、彼女は嗤う。
 第一、女であるエヴァにすれば、子供を栽培する事こそ凶悪に他ならぬ――怨霊を具現化し、戯れに生じさせた剣で、いとも簡単に花を散らした。
 無力……何たる無力な事。
 良かれと思った父王の政治が裏目に出、しかも父が何者かが造った機械だった……。
 虚構の平和の中で生きてきた、王女、玲奈、嗚呼、可哀相ね!
 エヴァは高く高く、笑い声を上げた。
「さあ、出て来なさいよ!その醜い顔を地面に擦りつけて、降伏なさい!」

 破竹の進撃を続ける龍族、そして無数の革命軍……そこには、父と友好を結んだ者もいるのだろう。
 それが今や、敵となって剣を取り、王城に迫ってきている。
 凶悪な龍族の鱗に、赤黒い泥が跳ね――それを追って血糊が飛んだ。

「嗚呼、何て事……あたしは、あたしは――」
 翼と鰓を持つ、坊主頭の醜い殺戮兵器……愛する父を失い、信頼する臣民に背かれ、敵の迫る王城の中。
 存在意義さえ見失った、玲奈は頬を涙で濡らした。
「嘆くより我らに導きを!」
「ひぃ様が戦艦で有らせられるなら戦いこそが身嗜み、国の誉では?」
「我々は、どんな時でもひぃ様に付いていきます!」
「全世界が敵?ならば孤高の民こそ美学。新天地を求めましょう!」

 ――新しい地を!
 ――新女王、新女王よ!

 叱咤する臣民の声は、やがて新女王として玲奈を望む声を上げ、やがてそれは賛美の言葉へと変化する。
 革命軍に王城を囲まれ、圧倒的な物量差と兵力差でありながら――彼等は力強く女王を求めた。
「王者だけが許される特権を揮いなされ!」
 父の代から仕えていると言う、一際古い臣民が声を上げた。
「聞こえてるでしょう!もう、逃げ場などないのよ!」
 革命軍、エヴァの勇ましい声が聞こえる……直ぐに革命軍は中に踏み込むであろう。
 このまま、玲奈が迷い続けていれば、こうして信じ命を預けてくれた臣民ですら、裏切る事になる。
 顔を上げ、涙の痕を頬に張りつかせたまま、玲奈は口を開いた。
 震える声であるが、それは厳かに城内に響いた。
「遷都します。民は戦艦に、全軍は殿を!木星へ!」

 ――新女王、新女王万歳!
 ――万歳、我らに加護を!

 宇宙から飛来する玲奈の細胞より培養した、戦艦。
 王城付近の革命軍を砲撃し、敵の意表を付いた。
「……その人数で、戦おうというの?」
 嘲笑うエヴァ、ならば、敵に不足は無い――剣を天に向かって掲げ、声を上げた。
「革命軍、進みなさい!愚かな王女を捕えるのよ!」
 戦艦による、圧倒的な砲撃がエヴァ達革命軍を襲う――だが、エヴァも負けてはいない、剣を一閃させると周囲を怨霊化し、戦艦へ向けて砲撃を開始した。
 浮遊する戦艦、王城より乗り込んだ民達は響き渡る、砲撃の音に震えはしたが、心はもう決まっていた。
 兵士達が、キリリと弓を引き絞り矢を放つ。

 ガッ!

 肉に食い込む音がして、龍の眼を穿つ矢――それは雨のように降り注いだ。
 血飛沫が、蹂躙されつくした王立庭園の花々に散る。
 一度だけ、玲奈とエヴァの瞳がぶつかり合った……その一瞬の中では、互いの感情は読み取れなかったが、酷い憎悪を見たような気がする。
 だが、敵に憎まれたとして、臣民を守る為に退く事――そこになんの躊躇いがあろうか?
「飛翔します!」
 玲奈が高らかに宣言した、ふわりと浮かび上がった戦艦に向かって、怨霊が吐きだされる。
 それを、弓矢で退ける殿の兵士達、玲奈もレーザー砲で退ける。
「民達には、指一本触れさせません――」
 空を駆る龍族が、強靭な顎で戦艦に喰らいつこうとする――だが、それは口の中へと無数の矢を受ける事にしかならなかった。
 撃墜する龍――炎に焼かれ、痛みと熱に怒りの咆哮を上げた。
「待ちなさい!」
 地上では、エヴァが声を荒げた――最強の零鬼兵であるこの、わたしが。
 憎しみを宿した瞳で、強者の遊戯であった筈のこの、楽しみが思わぬ形で崩れた事。
 だが、彼女の思惑を余所に、戦艦に乗り込んだ者は希望を手に、故郷を後にしたのだった――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7061 / 三島・玲奈 / 女性 / 16 / メイドサーバント:戦闘純文学者】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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三島・玲奈様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

玲奈様と、エヴァの対比を書いたつもりなのですが、如何でしょうか?
不安を抱きながらも、凛々しく在る。
そんな、不安定な少女と凛々しい女王を見つけて下されば、幸いです。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。