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<東京怪談ノベル(シングル)>


繋がらない言の葉

 あれは一体何だったのか……。
 工藤勇太は辺りを見回したが、もうあの独特の甲高い声はもう聴こえなかった。
 海棠秋也は眉を潜めたまま辺りを見回したが、やがて首を振った。

「今の声は……?」
「……あれが、幼馴染の声」
「声?」
「昔、ここで死んだ幼馴染」
「あ……」

 いつかの写真の女の子が勇太の脳裏に閃いた。

「今のがのばらさんって……どう言う事?」
「……時々声が聴こえたりする工藤なら分かると思うけど、うちの学園に結界を張っているのは知っているか?」
「うん」
「……4年前にあの子が死んだ時、弟が……織也って言うんだけど。あいつが納得できなくって、彼女を生き返らせようとした。結果、叔母上の逆鱗に触れて、学園から追放された」
「……ちょっと待って、4年前から彼女はここにいたの?」
「…………」

 海棠は頷いた。
 でもおかしい。それだったら、もっと早くに彼女の存在に気付いたはずだ。確かに勇太には霊感はないが、少なくともテレパシーは使える。残っている声だったら拾う事はできるのに、さっきのさっきまで、彼女の存在に気付かなかった。

「じゃあ、学園に結界を張っていたのは?」
「のばらを学園の外に出さないため」
「外に出さないって……のばらさんに帰ってもらったりはできないの?」
「死者蘇生の魔法は、禁術だから。今は完全じゃないから、ただのばらが幽霊みたいに学園内を彷徨っているだけで済んでいる。でも弟はのばらを完全に生き返らせようとしたら、大変な事になる」
「ちょっと待って。なら、のばらさんに帰ってもらうって事は……」
「…………」

 海棠は首を振った。

「叔母上の魔法は、あくまで結界を張ったり魔法を無効化したりする、対魔法のものだけで、幽霊をあの世に返したりはできない。でも織也は諦めきれなかったから、4年かかって禁術を行使する術を集めてしまった」
「…………。死んだ人を生き返らせるって、どうやるの?」
「…………」

 海棠は珍しく渋い顔をした。
 海棠君は魔法を感じる事はできても、魔法は使えないんだっけ。
 でも知識はあるのなら、もしかすると俺がどこかで力になれるかもしれないけど……。
 海棠がぽつりぽつりとつぶやいた。

「……蘇生対象の魂、7つの感情、1000の魂もしくはそれに類するもの、器」
「それは?」
「死者蘇生に必要な材料。あいつは7つの感情を、うちの学園にある古い物に見立てて、それを起こした」
「起こしたって……もしかして、怪盗が盗んでたものって言うのは」
「多分、その古い物。叔母上曰く日本で付喪神って言われて、100年経った古い物が動き出すのは、物が古くなって扱われた時の感情が刷りこまれるかららしい。多分怪盗はその思念が起こす騒動を収拾するために盗んでたんだろ」
「……それは分かったけど、その1000の魂と器って言うのは?」
「…………。文字通り、1000人分の魂だ」
「……!?」

 言葉が出なかった。
 ちょっと待って。1000人分の魂って、どうやって集める気なのさ。
 そして何より……器って何?

「あの、その器って言うのは……」
「…………。のばらに選ばせたんだと思う」
「ちょっと待って、だからその器って言うのは……?」
「……人間の肉体に、のばらの意志を移し替えて、固定させる魔法だから。完璧に同じ人間にするには、4年も経っているから、のばらの葬式はもう既に終わってしまっているから」
「……っっ!? それって、まずいんじゃ」
「……前に、1つ織也に取られてしまったから、それを器に入れられてしまった」
「ちょっと……入れられてしまった人、まずいんじゃ」
「……桜華が、望んだから」
「桜華って……」

 前にお茶会で出会った、いたずらっぽい女子生徒が頭に浮かんだ。

「それ、守宮さん……!?」
「……知ってたのか」
「それ、絶対にまずいよ! 何とかしないと!」
「……今度怪盗を捕まえるとか自警団が息巻いていたけど」
「えっ?」

 今の話の流れで何でここで出てくるんだろう?
 勇太はきょとんとした顔で、海棠を見た。

「その夜、手伝ってくれないか?」
「何を……?」

 勇太は、ただ海棠を見た。

「時間稼ぎ」

 海棠は、ただそれだけを言って黙ってしまった。
 風が吹く。何故かその風が、肌を粟立たせた。

<了>