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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Case.1-U ■ 勇太の勇は勇気!




「じゃ、先行ってきまーす」
 勇太はルンルン気分で大浴場へと向かった。が、あくまでも探偵業の付き添いである事を思い出した勇太はテレパシーを使って思念を探す。怪しそうな波動や思念があれば、後で調べに行こうと思っていたのだ。勿論、武彦を連れて。


「おぉ! ひっれぇー!」
 大浴場で腰にタオルを巻き、勇太は大声で叫んだ。誰かがいたらただのはた迷惑な子供だが、テレパシーで思念や波動を探っていた為、誰も入ってない事は解っていた。
 頭を洗い、身体を流し、お湯の中へ身体を浸ける。その瞬間、勇太の顔は一瞬で幸せそうな顔へと表情を変えて空を見上げた。満月が空で煌々と輝いている。
「うへぇ〜…、きもちいぃ〜…」と、変な声を出しながら視線を落とすと、女の子が入っている事に気付いた。「ぶはっ!」
 思わず動揺してお湯の中に顔を突っ込み、勇太は考えていた。
「…(ちょちょちょ、ちょっと待った! ここ混浴!? 混浴だっけ!? 落ち着かなきゃ変なヤツって思われるかな!?)」お湯から顔を出して勇太は何気なく女の子を見るが、女の子は相変わらずの表情で勇太を見ていた。「…(見られてる…! こ、このまま知らんぷりしてる方が良いのかな…?)」
 慌てる勇太とは裏腹に、女の子は動く事もなく勇太をじーっと見ていた。勇太はあまりにも気まずさを感じながら、周りをキョロキョロと見てみたり、「き、きもちいいなぁー」と声を出してみるが、やはり反応はない。
「…(気まずい…!)」勇太はそう思ってもう一度お湯の中に顔を突っ込んだ。「…(よ、よし! 顔をあげて声をかけて話しちゃえば気まずさも減る筈…! って、何言えば良いんだ〜…! 歳聞けば良いかな? ナンパみたいで嫌だし…。 『何処から来たの?』って聞いたら親戚のおじさんみたいだし…!)」
「ぶはっ!」お湯から顔を出して勇太は眼も開けずに言葉を続けた。「ね、ねぇ! 君も泊まりに来たの!?」
 勇太の声が響くが、少女からの返答はない。恐る恐る目を開けてみると、少女の姿は忽然と消えていた。
「あ、あれ…? 潜ってる内に上がっちゃったかな…?」勇太はキョロキョロと周りを見渡して呟いた。「…ヤバい、お湯に潜り過ぎた…」





――。




「あっぢぃ〜…」
「そんなにのぼせるまで入ってる事もねぇだろうに…」
 のぼせてダウンしている勇太を見て武彦は紫煙と呆れを吐き出しながら呟いた。フラフラになって出て来た勇太と武彦が入るタイミングが一緒だった為に、部屋まで連れて帰ってもらったのだった。
「…調べもの、なんか進展ありましたぁ〜?」
「あぁ、それなんだがな。おかしいとは思わないか?」
「えっ! もう何か見たの!?」ガバっと起き上がって勇太が問いただす。
「違う。この依頼そのものがおかしいって事だ」勇太のリアクションを軽く流して武彦は言葉を続けた。「怪奇現象の類なら、わざわざ遠方の探偵を呼ばずに霊媒師やらを呼んだ方が良いに決まってる。そんな仕事を駆け出しの探偵事務所に投げて来るなんて、解決する気がある様に思えないんだが…」
「自分の事なのにボロクソ言ってるね…」勇太が冷やかなツッコミを入れる。「って事は、怪奇現象なんて無いかもしれないって事だよね!?」
「ない、とは言い切れないがな」ニヤっと笑いながら武彦はそう言って勇太に釘を刺した。「って事で、飯食ったらまた調査だ。二手に別れるからな」
「…二手に?」
「あぁ。二人いるのに一緒に回ってたら終わらないだろうが」
「…い、一緒に回ってあげるよ? ホラ、俺の能力ならちょちょいのちょいだし…ね?」
「…怖いのか―」
「―違う」即答。
「…ちょちょいのちょいなら、何か変わった事とか気付いてないのか?」明らかに笑いを堪えながら武彦が尋ねるが、勇太は生憎、背を向けて涼んでいた。
「んー、特に変な波動とかは感じなかったんだよねぇ…」
「そうか、それなら仕方ないな…」
「うん…。二十近くの気配はあるみたいだし、旅行客一人ずつ聞いて回る訳にもいかないし〜…」
「二十?」武彦が尋ねる。「そんなにいるのか?」
「うん。まぁ俺達と従業員の人とかも合わせて正確には十五人だったよ?」勇太がやっと身体を起こして武彦を見る。すると、武彦が何やら難しい顔をして考えている。「どうしたの?」
「勇太、さっき顧客名簿とかチラっと見てきたんだけどな?」
「うん?」
「今日、ここに泊まってるのは俺とお前だけだ」
「…ハ…ハハハ、嫌だなぁ…。だとしたら従業員いっぱいだねぇ、この旅館〜。アハ、アハハハ…」
「ちなみに、従業員は七人だそうだぞ」
「…あ、あとの六人は…?」勇太ののぼせて紅く染まった顔がみるみる青ざめていく。
「…飯食ったら早く調べるぞ」
「あの、あとの六人はぁぁ〜〜〜…?」
「失礼しまーす、お食事をお運びしましたー」割って入る様に仲居が料理を運んで来る。
「はーい、どうぞ〜」武彦が勇太の嘆きを無視したまま仲居を通して飯の準備をせっせと手伝い始める。
「え、ちょ…。草間さん、聞いて?」
「あぁ、そうだな。うまそうだな」
「うわぁ…」

 武彦は食事中の勇太の悲痛な叫びも全て無視してみせた。さすがに膨れっ面を浮かべていたが、御飯に熱中し始めるとすっかり機嫌を良くしていた。
「さて、そろそろ行くか」武彦が食後の一服を済ませた所でそう言った。
「く、草間さん…? ホントに別々に…行くんだ?」勇太が表情を強張らせながら尋ねた。
「あぁ。さっさと終わらせて、ゆっくり温泉楽しみたいだろ? だったらお互い別々に動いた方が調べる方が早く終わるじゃねぇか」
「うっ、そりゃそうだけど…ね?」勇太が言葉を詰まらせる。勇太のモジモジとした動きに武彦は気付いていた。助け舟を出す様に口を開いた。
「…怖いなら怖いって―」
「―断じて否!」即答。
「…なんかあったらテレパシーで呼べば良いだろうが。行くぞ」
「…ふぇい…」
「お前は大浴場側に向かった逆の道にある東側を調べてくれ。俺は西側を行く」
「はーい…」
 勇太の脱力した返事を背に、武彦はさっさと部屋を後にしてしまった。武彦にバカにされたくないという気持ちから、勇太も勢い良く部屋を出て行った。





――。







「東側…ねぇ…」
 武彦に言われたままに進んだ勇太はビクビクしながら見て回っている。老舗旅館の独特な和の雰囲気を感じる。勇太はそんな事を考えながら少しばかりオドオドとしながら周りを見回す。
「…へ…、変なのが来たらサイコキネシスで吹っ飛ばしてやる…って…、お化けを飛ばせんのかな…?」怖い状態独特の独り言を呟く。
 テレパシーを使って人の思念や位置を探索してみる。
「…そこの部屋、空き部屋だよ…な?」勇太がテレパシーを使って中を探ると四人分の思念がそこにある。「お、お化け…かな…?」
 生唾を呑む様にゴクリと音が鳴る。勇太は手で戸を開けるのが怖いが為にサイコキネシスでドアを開ける。
「…だ、誰かいるよな…」勇太が中を覗き込むが、部屋の明かりはついていない。「ちょっと〜…、勘弁してよ〜…」
 鬼鮫との戦いや武彦との戦いの時の勇太は何処にいったのやらと言われても仕方ないぐらいのへっぴり腰で勇太は中へとゆっくり進んでいく。奥の客間に進んだ所で、突然背後から誰かに抱きつかれる。
「うおあああぁぁ!」勇太が反射的に抱きついてきた相手をサイコキネシスで吹き飛ばす。勇太が振り向くと男が倒れている。「はぁ…はぁ…、人…?」
「な、何が起きたんだ…!?」
「う…氏神様の神通力か!?」
「うじがみ?」
――バチィッ
 勇太が尋ね返した途端、スタンガンによって意識が途絶える。勇太は倒れ、気絶をしそうになりながらぼやけた少女を再び見掛けて呟いた。
「あ…、あの時の…―」





 ―武彦は西側にある従業員用の部屋に入り込み、盗聴器を仕掛けて部屋へと戻っていた。途中、普段は客間になっているであろう部屋に入り込み、机に指をなぞらせる。
「…やっぱりな」
 なぞらせた指を見ると、埃が指に付着している。武彦の読み通り、どうやら随分と長い事使われていない様だ。
 武彦はそれらを写真に撮り、自分の部屋へと戻った。
「…勇太のヤツ、まだ戻って来てないのか」武彦が呟く。「ったく、何処ほっつき歩いてんだか…」




――。



 朝が訪れた。
 どうやら勇太は部屋に戻らなかったらしい。時刻はまだ朝の六時だと言うのに、布団は昨夜武彦が寝る前に用意された時と全く同じだ。
「…強行手段を取る様な連中が相手かもしれないな…」武彦が煙草を咥えて外を見つめた。「勇太が…危ない…! …って、そりゃないな」
 小さく含み笑いをしながら武彦は部屋を後にした。呑気に大浴場へと向かう事にしたのだった…―。



                          Case1. to be continued...