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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.1 ■ 遭遇




 ―猛吹雪の吹き荒れる山道。数十センチにもなるであろう雪が積もった道をサクサクと音を立てながら歩いている一人の少女は、ピタっと足を止めて周りを見回した。
「…ここ…何処…?」
 猛吹雪の中、遭難しているという状況下にも関わらず、少女はぼーっと吹き荒れる吹雪を見つめながら思い出していた。




――。



 冬の寒さが一層厳しくなり、どうにも家で営むアイス屋の売れ行きは例年通りの凄惨たる結果をもたらしていた。どうにか冬の売り上げ低迷を切り抜ける方法を各自考える様に母から父とそれぞれに言い渡されたアリアは、その低迷を切り抜けるべく、更なる寒い所へと向かおうと思ったのだった。



――。



 その結果は、この状況が全てを物語っていた。真冬の吹雪の雪山に、山の知識がない若干十三歳の少女が一人で歩いている。間違いなく死亡率百パーセントを叩き出す状況である。ポーチの中に入っている携帯電話を取り出すも、電波が届く筈もない。アリアは再びぼーっと吹雪を見つめる。
 とは言え、吹雪だろうが冬の雪山だろうが、相手がアリアではただ視界と足場が悪い山の中と何ら変わりはない。氷の女王の子孫であり、自ら冷気を操るアリアに吹雪が吹こうが何だろうが、寒い分にはむしろ心地良いと感じるぐらいだ。

【拝啓 お父様、お母様。

私は今、雪山の雪原にいます。

冬の内にできることはないかと思いながら歩いていると、
いつの間にかこんな所まで来てしまいました。

ポーチの中の携帯電話も繋がりません。

多分、1週間くらいで帰ってくると思うので心配しないで下さい。

意外と気持ち良いです。

ありあ】

「…ふぅ」
 携帯電話の電波は相変わらず圏外だが、アリアはそんなメールを打ち込み、送る訳でもなく再びポーチに携帯電話をしまい込んだ。そんなアリアへ再び問題が降りかかる。
「…このままじゃ、雪だるまアリアになっちゃう…?」メールを打っている間に身体に纏わりついた雪が積もりつつある。「雪だるア? 雪アリア?」
 そんな事を言いながら手を翳したアリアは身体に積もった雪を操り、透明な氷の傘を作り上げてクルクルと回した。
「…あ…」アリアがクルクルと回した傘をピタっと止めて、目を凝らした。「女の子…」
 アリアが見つめた先には真っ白な和服に身を包んだ二人の少女がいた。吹雪の中だと言うのに真っ白な和服の薄着ではしゃいでいる姿は奇妙な光景だった。常識的に考えれば何かの見間違いだと考えるであろう場面で、アリアは何処からかアイスを取り出して近付いた。
「…アイス、いる?」
 二人の少女に気付かれずに近付いたアリアは開口一番得意の一言で二人の少女を驚かせた。
「…人間だ」
「…迷い込んだ人間だ」
 二人はクスクス笑いながら交互にそう言いながら笑っていた。
「…? アイス―」
「―そのアイスって何?」
「その差し出してる色は何?」
 どうにも会話が成り立たない。アリアは小首を傾げながら再び少女達を見つめた。やはりそうだ。彼女らは同族―、つまりは妖魔の匂いがする。
「妖魔でも人間でも、アイスは美味しい食べ物だよ」
「…妖魔って何?」
「ボクらの事、人は時々そう呼ぶ」
 二人はそう言ってアリアの差し出していたアイスを受け取り、舐めてみる。甘さに喜び、パーっと表情を明るくするとアイスに夢中になっていた。
「私の名前はアリア。あなた達の名前は?」
「名前なんて、ない」黒髪を腰の辺りまで真っ直ぐ伸ばした少女はそう言った。
「ボクらは個々。でも」長さは同じぐらいだが後ろで一本に束ねた髪をした少女もそう言った。
 少女達はクスクスと笑いながら手を握った。
「アイスありがとう、アリア」
「ありがとう」
「ううん、気にしないで」アリアは得意げな表情を浮かべてそう答えると、二人の少女が再び顔を合わせた。
「それにしても不思議な子」
「本当に不思議な子」
 二人の少女はアリアを見つめた。アリアはあまり日本に棲む妖魔に関しての知識を持たない。その為、彼女達が同族である事に違和感も恐怖も感じる事はなかった。
「人間はここで生きていられない」
「人間はボクらを怖がる」
「…? 私は妖魔の血縁。人間とは違う」
 少女達は互いに目を合わせると、ヒソヒソと小声で話し始めた。アリアは相変わらずぼーっと二人の少女を見つめていた。
「帰ってきなさい…」
 突然、艶っぽい大人の女性の声が何処からともなく聞こえてきた。アリアが周囲を見回すが、吹雪で視界も悪く、何も見えない。
「お母様が呼んでる」
「ばいばい、アリア」
 一層吹雪が強くなり、アリアは思わず目を閉じた。少女達はその一瞬で姿を消し、笑い声だけが取り残された様に響き渡っていた。
 少女達が去っていった後、アリアは考えていた。どうにも携帯電話の電波は圏外を脱する事は出来ない上に、吹雪が強くなっている。アリアは冷気を操り、氷で囲まれた蔵を作り始めた。
「…出来た」
 一般的なビバークに使われる様なかまくらとは違う、絵本に出て来る様なレンガ造りの家を一瞬で作り上げた。可愛いモノなどが好きなアリアらしい特製の家。アリアは早速その中へ入り込んだ。
「…帰れないし、眠い…」




――。




 ―朝が訪れた。アリアは氷で造られた家の中で小さく伸びをして目を覚ました。昨夜の吹雪はどうやら一段落した様だ。吹雪で荒れていた昨夜とは打って変わって、深々と降る雪と静寂だけがそこにはあった。
 再びアリアが歩き始める。山を降りようにも何処に行けば良いのか見当もつかない。持って来ている持ち物も山に来るとは思えない持ち物だ。ぶら下げたポーチに入っている携帯電話と財布。
「…あ…」
 アリアが遠くに人影を見つける。どうやら昨夜出会った二人の少女とは違う、大人の女性。妖艶な雰囲気を漂わせているが、同じ白い着物を身に纏い、銀色の長い髪はまっすぐ腰の下まで伸びている。
「…あら、珍しいわね…」
 近くまで歩み寄ったアリアに向かって女は眼を細めて微笑んだ。何処から出したのか、アリアは相変わらずアイスを手に持っていた。
「…アイス、いる?」
「あら、ありがとう」女はアイスを受け取りアリアの頭を撫でた。
「…お母さんと、ちょっと似てる匂い…」アリアが小さく呟いて少し穏やかな表情を浮かべた。
「フフフ、昨日二人の雪ん子に会ったでしょ?」
「…雪ん子?」
「聞き慣れない言葉だったみたいね。私の娘達が、アイスをくれる女の子に会ったって言っていたのよ」
「あ、昨日の子のお母さん…?」
「そう」優しく微笑み、アリアの視線に合わせる様にしゃがみ込むと銀色の長く美しい髪がふわっと舞う。「迷い込んでしまったのかしら?」
「…うん。考え事してたら、ここまで来た…」
「そうね、本来この場所は私達、雪女の縄張り…。人間なら一晩で体力を奪われるか、私達雪女の糧となる。でも、あなたも同族かしら…」
「ううん、私は血縁者、氷の妖魔。アナタ達とは違うと思う…」
「そうね、少し違うけど同類ではある」雪女はそう言うとアリアの手を握って何処かを指さした。「このまま進めば私達、雪の一族の里に出られる」
「雪の一族の里…?」
「えぇ。一度いらっしゃいな? 私達の里に来客はほぼないわ。山の外の世界がどうなってしまったのか、色々話を聞かせて欲しいの」
「でも、私…帰らなきゃ…」
「大丈夫よ。里で一日だけでも話を聞かせてくれれば、私がアナタを山の麓まで案内するわ」ニッコリと微笑む雪女の笑顔に嘘はない。アリアは直感的にそう感じた。
「じゃあ、行きます…」




――。




 雪の一族の里。一見すると普通の村の集落に見えるが、この集落は人に辿り着ける場所ではない。途中に張られていた雪の結界は景色を歪めている為、一見するとそこに道はない。だが、あまりに荒れている。
「…どういう事…」雪女の口が震えている。「…娘達は……!」
 雪女が走り出す。どうやらこの荒れた様子は元々という訳ではない様だ。アリアは周囲を見回していた。
「…へぇ、意外」不意にアリアの横から声が響く。「雪女の里に、よりによって来客者がこのタイミングで来るとは思わなかったよ」
 金髪に赤い瞳をした少女がふっと姿を現した。
「…ここをこんな風にしたのは、あなたなの?」
「私は事後確認に来ただけ」少女はそう言って雪女が走って行った先を見つめた。「可哀想かもしれないけど、彼女達は我々の敵と見做されたわ」
「我々…?」




     「私達は“虚無の境界”。よろしくね、アリア・ジェラーティ…」



 少女はアリアへ向けてクスっと笑った…―。


                                 Episode.1 Fin



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登場人物:8537
  アリア・ジェラーティ



ライターより


異界への依頼参加、有難う御座います。
白神 怜司です。

連作可という事で、
第一話には接触をテーマに書かせて頂きました。

今後の展望なども、
私自身としても楽しみにしております。

それでは、今後とも
宜しくお願い致します。


白神 怜司