コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■ 無慈悲なる十字架




『レイチェルのお手軽お気楽携帯懺悔サービスでぇす♪』
 武彦は受話器から突然鳴り響いた音声に、思わず受話器を耳から離す。
「畜生、番号間違えてたか…」武彦が呟く。「…ん、懺悔って事は、聖職者か何かか…?」武彦は再び受話器に耳を当てた。
『懺悔が終わりましたら指定の口座まで入金をお願いします♪』
「…金取るのか。随分とちゃっかりした懺悔システムだな」
『あら? 懺悔しないの?』
「あぁ、どうやら番号を間違えていたらしい。が、お前さん聖職者か?」
『そうだけど、懺悔じゃないなら切るわよー?』
「まぁ話を聞いてみないか? 報酬なら出すぞ」ダメ元、と言った所だろうか。武彦は電話を切られまいと苦し紛れに言葉を絞り出した?
『…額と内容は?』
「は?」
『だーかーら、金額と内容だってばー!』電話越しに聞き返す。『言っておくけど、暗殺とか危ない仕事はやらないからねー?』
「人助け、だな」武彦がレイチェルの反応に安堵する。どうやら引き受けてはくれる様だ。「悪魔に憑りつかれている可能性もあるんでな。どうしてもその分野はこっちじゃ手が出ない」
『悪魔、ね…』レイチェルはしばし考え込む様に呟いた。『場所は?』
「東京だ。お前は何処にいるんだ?」
『初対面のレディに向かってお前はないでしょ…。まぁ良いわ。あたしも東京よ』
「悪い、癖でな。じゃあ住所は…――」
『…オーケー、一時間ちょっとぐらいかしらね。報酬は口座に振り込んでくれれば良いわ。バイバーイ』
「ちょっと待て、俺も行く――」武彦の言葉が虚しく空を切る。「ったく、ちゃんと出来るのか…?





「んっと、ここかなー」レイチェルが電話越しに武彦から聞いた住所を訪ねる。「それにしても、クサマって人、ちゃんとお金くれんのかしら…」
「よう、お前がさっきの電話のレイチェル・ナイトか」
「あら?」家の前で立っているレイチェルに武彦が声をかけてきた。「そうだけど?」
「俺が草間武彦だ。よろしくな」
「んー、悪くないけどちょっとパっとしないわねぇ…」ジーッとレイチェルが武彦を見つめて値踏みする。「…ま、良いわ。よろしくー♪」
「…? で、見るからにシスターみたいだが、生憎悪魔が憑りついているのかも未だ確かじゃないんでな。調査をしてくれる分の調査費用もこっちで出すが、出来そうか?」武彦もまたレイチェルを値踏みする様に見つめる。
「調査なんて必要ないわよ。結界が張られているんだから、悪魔の所業よ」レイチェルが溜息を吐きながら少女の家を見つめた。
「そんな事も解るのか?」
「それぐらいは、ね」レイチェルが聖書を取り出し、静かに深呼吸する。「主は言いました。全ての教会の門は開かれるだろう…」
 レイチェルがそう唱え、聖書を閉じるパタンと言う音と共に、ガラスが割れる様な甲高い音が鳴り響く。
「…どうやら、お前は本物みたいだな」武彦が思わず息を呑んで呟いた。
「じゃ、ちゃんと報酬振り込んでよね♪」レイチェルはそう言って手をひらひらとはためかせながら家の中へと入っていった。





――。





 どうやら家の中にいる人間達は生気を吸い取られ、呆けている様に見える。レイチェルは漂う悪魔独特の気配を辿る様に家の中を歩いていく。家族で映っている何枚もの写真を見つめ、思わず懐かしい顔を思い出す。
「家族…」
 レイチェルが再び歩き出す。どうやら醜悪な気配は家の中を全て包み込んでいる様だ。その根源が徐々に近づく。
「ハーイ♪」
 レイチェルがドアを開けて少女へと声をかける。少女は椅子に座ったまま首を曲げ、ぐったりとしている。
『…表の結界を破るとは…。小娘、エクソシストか?』少女からは少女のモノとは思えない野太い声が響いてくる。
「ブッブー、ハズレ♪」クスクスと笑いながらレイチェルは腰に手を当てる。「そんな事より、まずは表に出て来て話をするのが常識ってモンでしょ?」
『フザけた態度の小娘だ。貴様の魂を屠り、我の胃袋の中で永遠の時を苦しみたいか?』
「随分と熱いラブコールだけど、生憎女の子の身体を盾にする様なチキンには興味ないのよね」そう言ってレイチェルはシスター服を脱ぎ捨てた。真っ黒で胸元の空いたタイトな黒のボディスーツを着ている姿は、シスター服の上からでは全く想像もつかないだろう。「聖なる教会の扉は閉じられた」
 レイチェルの言葉と共に結界が生まれる。少女の身体から引き剥がされた悪魔と共に不思議な世界が生まれ、そこへ引き込まれる。悪魔は薄気味悪い灰色の肉体に大きな翼を生やしている。悪魔はレイチェルを睨み付けていた。
「…あたしが何者か、気になっているんでしょ?」レイチェルが胸元に輝いたロザリオを握り締め、口元へと寄せる。「汝、悪を滅ぼす剣となれ…。アーメン」
『…貴様…っ!』
「エクソシストなんて、心優しい人達に間違えられても悪い気はしないけどね。あたしはもっと残酷な存在よ」ロザリオが光輝き、レイピアへと姿を変える。レイチェルはレイピアをピッと振り、悪魔へと突きつけた。「そ。あたしはヴァンパイアハンターよ」
『ヴァンパイアハンター…だと…! この時代にあの力を受け継ぐ者がいるというのか…!』悪魔が明らかに困惑して声を荒げる。
「確かに、ヴァンパイアハンターは“この時代”には生まれにくいわね」レイピアを振りながらピッピッと空を切るレイチェルが静かに笑う。「あたしがヴァンパイアハンターになったのは三百年ぐらい前の話だからね…!」
 レイチェルがそう言って一瞬で間合いを詰める。人間では到底出ないであろう一瞬の間合いの詰めに、悪魔は翼を広げて宙へと逃げる。
『古き時代の従者…。それ程の時を人間は生きれまい。主人のいない貴様が、何故未だに戦いを挑むと言うのだ?』悪魔が静かに語りかける。『貴様とて、戦いを好む訳ではなかろう?』
「それはそうだけどね〜」レイチェルが小さく笑う。「オシャレしたいし、イケメン探しだってしたいし、色々やりたい事はあるよ?」
『―ならば―』
「―でも、悪魔を葬る事は別よ」レイチェルが足元から上空にいる悪魔へとナイフを投げつけた。ナイフは悪魔の片翼を貫き、みるみる内に翼を灰へと化した。バランスを失くした悪魔が地面へと降りる。「これで逃げれないね?」
『ぐっ…、おのれぇぇ!』強靭な爪を振り翳し、悪魔が襲い掛かる。が、レイチェルはヒラリとその爪を躱し、レイピアで足を突き刺した。『ぐぅ…!』
「さぁ、選びなさい。その魂を地獄に再び堕とされるか、あたしの手によって消滅するか」レイピアを引き抜き、地面に膝をつく悪魔へとレイピアの切っ先を向けながらレイチェルが言い放つ。
『…おのれ、成り損ないの悪魔が…! 地獄に堕とされるぐらいなら、貴様を道連れにしてくれる!』悪魔が立ち上がり、レイチェルへと襲い掛かる。
「…そうよ、あたしは成り損ないの悪魔。サーヴァントとして契約をした“あの日”から、あたしは人間である事を棄てた」無情なる一閃。レイチェルの振った刃は悪魔の胸を貫いた。「だから、無駄な感情を棄てて葬れる」
『がっ…!』悪魔の鋭い爪がレイチェルの身体を引き裂こうとした寸前、悪魔の動きが止まり、灰と化して崩れていく。
「…生憎、私を殺してくれるのは“あの人”だけって決まってるのよ」
 レイチェルがレイピアを十字架に戻し、指をパチンと鳴らす。結界が砕け、現実の世界へと舞い戻る。





――。





「…なんだ、その恰好…」
 外に出てきたレイチェルを見た武彦はそんな一言を吐くなり驚きを隠せずに呟いた。
「動き易いし、カッコ良いでしょ?」ニッコリと笑ってみせるレイチェルはその場でクルっと回った。「…悪魔は滅した。ちゃんとお金振り込んでくれる?」
「…やれやれ。あぁ、解ったよ」武彦はそう言うと頭をポリポリと掻いた。「それで、お前一体何者なんだ?」
「へ?」
「いや、シスターかと思えば悪魔狩りをやってみせて、出てくりゃその恰好だ。ただの聖職者って訳じゃないんだろ?」
「…レイチェル・ナイト。死ねない成り損ないの悪魔、かな」レイチェルはそう言って武彦を背に歩いて行った。



                                      Fin



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

登場人物:整理番号 8519 レイチェル・ナイト
             ヴァンパイアハンター




■□■□■□■□■□■□■□■□ライターより■□■□■□■□■□■□■□


お世話になっております、白神 怜司です。
二度目のご依頼、有難う御座いました。

今回の作品は戦闘+草間との初めてのやり取り、
という形で書かせて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。


それでは、今後とも宜しくお願い致します。


白神 怜司