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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■ 探偵稼業のお手伝い




 古臭い扉を開くと、相変わらず乱雑とした室内が広がる。どうやら前回ここに訪れた時よりも零が頑張って片付けているという事は一目瞭然だ。
「お、来たか」眼鏡をかけた男が私を見てそう言うと、ソファーから微動だにする訳でもなく顔だけ向けた。
「ちょっと草間さぁん! 何度もお仕事一緒にしたからって気安く電話されても困るよぅ。私の力はあの人の為にあるって言ったじゃない〜」
「あぁ、忙しかったのか?」悪びれる様子もなく武彦が尋ねる。
「…暇だけどさ」思わず現状を思い出して気持ちが落ち込む。「社長は私の事置いて海外出張行っちゃうしさぁー…。いつもなら通訳だった私の役目なのにさぁー…――」


「―…気が済んだか?」
 あれやこれやと愚痴っている内に、三時間程経っていた。どうやら武彦は痺れを切らしたらしい。決して我慢強くない武彦の性格からして、彼なりに三時間とは気が遠くなる程に長い時間だ。私は相当自分の世界に入って愚痴り続けたらしい。
「…ふぅ、うん!」
「お前の愚痴が三時間程度で終わって良かった。約束の時間になっちまうから行くぞ」
「…ごめんなさい」





――。





「―ふぅん…、この子が娘さんなんだ。可愛らしいねぇ。こりゃ将来美人だよ、うん」写真を武彦に見せられ、目を通す。「でも、どっかで見た顔なんだよねぇ…」
「まだ中学生だそうだ。頼むからオッサン臭いセリフを吐くな、十八歳…」武彦が呆れた様に呟いた。
「あっ、言っとくけど化け物とかと戦う〜とかはパスだからね!? 原因探って、どんな人に頼めば良いのか調べるだけだかんね!」
「解ってる。ほら、着いたぞ」
 武彦があしらう様に言う姿に一瞬腹が立ったが、武彦の指さした先がどうやら目的地の様だ。若干大きめの家が堂々と建っている。
「御免下さい、草間興信所の草間ですが」武彦がチャイム越しに声をかける。「…はい、解りました。行くぞ、桜乃」武彦の返事とガチャっとインターホンが切れた。
「…へぇー、良い家だねー」
 門を潜ると家の造りが良く解る。門からしっかりと手入れのされた庭。家屋は洋風そのものらしく、庭に面した大きな窓がついている。
「お待ちしていました。…そちらの御嬢さんは?」依頼人である少女の母が私を見て不思議そうに尋ねる。
「あぁ、コイツは助手みたいなモンです…痛っ!」武彦のちゃっかりとした発言に足を踏み付け、私は満面の作り笑いを浮かべた。
「御嬢さんの異変の原因を探る為に、同じ女の方が色々調べ易いだろうから、との所長の配慮です」
「まぁ、お気遣い有難う御座います。さぁ、どうぞ。娘の部屋迄案内します…」
「はーい」
 背後から恨めしそうな視線を投げてきている武彦を背にしたまま、少女の母親に連れられて私は家の中を進んだ。
「この部屋です」少女の母に連れられて進んだ先は二階の一番奥の部屋だった。広々とした部屋の中央にある大きなベッド。その中で少女が眠っていた。
「…あれ?」写真を手に歩み寄ってみる。「この子、本当に娘さんですか?」
「おまっ!」スパーンと武彦に背後から頭をひっぱたかれた。「失礼だろ…!」
「いったいなぁ〜…」頭を摩りながら振り返ると、武彦が少女の母親に謝っていた。
「…それで、一体何でそんな事聞いたんだ?」呆れた様に振り返った武彦が尋ねてくる。無理もないだろう。私が抱いた疑問は、普通は気付けない程度の“違和感”なのだから。
「…んー、理由は後で。それより、お母さん。この子の写真か動画か、そういった物見せてもらえます〜?」
「あ、はい。どうぞこちらへ…」



 リビングに連れられて一通りの映像を見た私の中に生まれていた疑問は、確信となった。どうやら間違いないらしい。
「…有難う御座いました。では、もう一度娘さんの部屋へご一緒お願いします」
「え? あ、ハイ」
「何か分かったのか?」武彦が声をかける。
「うん、ちょっとねー」
 再び少女の部屋へと向かいながら、頭の中で再び整理する。写真で最初に見た姿と、今見せてもらったばかりの彼女に関する情報。そして、あの部屋で何も言わず、喋ろうともしないあの姿。
「さて、と…」部屋に着いて私は少女に近づいた。「あ、草間さん。このまま誰も部屋から出さないでね」
「ん? あぁ…」武彦がドアの前で立つ。
「んじゃ、そろそろ目を醒まして…と言うよりも、狸寝入りはやめてもらえるかな? 偽物さん?」
「…偽物!?」
「…そんな…!?」少女の母もまた驚き、口元を手で押さえた。
「今さっき見せてもらった映像と写真。それに、この子の特徴。確かにこの子は似ている。そう、一般的に見れば、ね」
「どういう事だ? 俺にはどう見ても本人にしか見えないぞ?」武彦が声をあげる。
「普通、人っていうのは顔や体格。声やクセという特定の情報を基に自分の記憶と照らし合わせて認識する。その結果、その人間を判別するんだけどね。ましてや私達の様な第三者が、依頼人であるお母さんから“娘”という対象を教えられ、そんな娘を助けたいという気持ちから依頼をしてきた、という点で考えれば、誰も疑わない。“娘”が本物か偽物かどうか、なんてね」武彦に向かって説明するが、どうやら彼はイマイチ把握していない様だ。
「でも、もしも本当に偽物だとしたら、こんなに似る筈はないんじゃ…」
「…ただの変装じゃ、ここまで他人には成りきれない。と考えると、特殊な能力保持者と考えるのが妥当ね」溜息混じりに言葉を続ける。「何十箇所もある間違い、全部挙げたげよーか?」
 次の瞬間、少女は目を開くと、毛布を手に取り私の視界を遮る様に投げつけてきた。そのまま私を押し退け、ベッドから走り出そうとする。
「…っ! 草間さん!」
「あぁ!」
 毛布に視界を遮られながら、武彦に合図を送った私の行為は無駄ではなかった様だ。武彦が少女を取り押さえ、少女は武彦に取り押さえられながら抵抗を続けている。
「やっと正体現したわね。本物の娘さんは何処にいるの!」
「…ク…ハハハハ」武彦によって取り押さえられながらも偽物の少女は笑ってみせた。「…正体を見破ってみせるとは、なかなかどうして…」
「こんな状況で笑っていられるなんて、随分と余裕みたいじゃない?」武彦に取り押さえられ、地に伏せている少女へと歩み寄る。「目的と娘さんの居所、しっかり白状してもらうわよ?」
「私に何かあれば、少女の命は保障されないぞ?」
「…草間さぁん、そこの椅子にこの子縛り付けてから、依頼人さん連れてちょっと部屋の外で待ってて〜」
「…あ、あぁ…」




――。




「ぎゃああぁぁぁ…!」
 部屋の外に出た武彦と少女の母親に、断末魔の叫び声が聴こえてくる。
「…はぁ、やりやがったな」武彦が溜息混じりに呟いた。
「あの、まさか中で拷問が…?」
「いやいや、ご想像している様な拷問はしてないと思いますよ、…多分…」
 とは言ってみたものの、武彦は少々不安になっていた。素性を全て知っている訳ではないが、そういう事をする様な世界にも足を踏み入れている筈だ。多少手荒な真似をしている可能性もある。武彦がそんな事を思っていると、突然ドアが開いた。
「終わったよー」
「あぁ」武彦が部屋の中にいる偽者を見ると、変装を解いて元の姿に戻った女が縛り付けられていた。「おい、何をしたんだ? 魂が抜けてる様な顔してるが…」
「うん、ああいうタイプは肉体を拷問しても何も言わないだろうし、私もそういうのしたくないからね」ドアを閉めて武彦へ振り返る。「ちょっと心の奥にある部分を突かせて吐かせたの」
「…恐ろしいヤツだな…」武彦が呆れて呟く。「で、目的や娘の居場所は解ったのか?」
「うん。写真を見せられた時は解らなかったけど、さっきリビングで映像を見せてもらった時に解ったわ。“柏木広告会社”の社長夫人さんよね?」
「…っ! どうしてそれを…?」
「社長夫人…?」武彦が尋ねる。
「そ。一度だけ、私の勤めている会社と取引をした際に、社長である旦那様から娘さんの写真を見せてもらった事があるの。それで犯人に狙われたって訳」
「って事は、身代金目的の誘拐にでもするつもりだったのか…?」
「うーん、少し違うかな。社長を密かに脅そうとしている失脚を狙った犯行だったみたい。あの偽者を雇ったのは、旦那さんの部下にあたる人よ」
「主人の部下が…?」依頼人である少女の母は愕然とした表情を浮かべる。
「それで、娘さんは…―」と私が言おうとした瞬間、携帯電話が鳴る。「もしもしー。はーい、ありがとー」
「…?」
「無事に確保したわ。さっき中で警察のお友達に電話しといたの。今娘さんはこっちに向かってるわ」
「…あ、有難う御座います…!」




――。



 少女を引き渡し、私と武彦は帰路へとつく事になった。警察の取調べには偽者を演じていた彼女が包み隠さず全てを自供する事だろう。
「しっかし、失脚させる為にあそこまでやるのかねぇ…」武彦が呟いた。
「怖いぐらいに、権力やお金の為に動く人は結構いるよ」私はそう言って武彦へと振り返った。「ま、草間さんみたいな人には関係ないかな〜」
「この野郎…。どうせ俺は権力なんかとは程遠い貧乏人だ」
「それで良いんじゃない? じゃ、私はこっちから帰るね」十字路を草間興信所とは別の方向へ進みながら、私は再び振り返った。「今度また愚痴らせてくださいねー」
「あぁ。ありがとな」



 ―利権や金。そういった世界に足を踏み入れた私もまた、犯行を犯した彼女らとは変わらない世界にいる。それでも、私はこの特異な能力を使って、あの人の傍を歩み続ける。その決意が変わる事はないだろう。
「…はぁ、メールも着信もないし…」携帯電話をポケットに突っ込み、私は少し呆れる様に笑って呟いた。


              ――「惚れた私の負け、かな」



                                      Fin



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整理番号:7088 龍宮寺 桜乃



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ライターより■□■□■□■□■□■□■□

初めての依頼参加、有難う御座いました。
白神 怜司です。

納期ギリギリとなってしまい、
大変お待たせしました。

特異な能力を持ちながらにして、
健気に且つ歪んだ愛情を持った主人公、
桜乃というPCでしたが、今回はシンプルにまとめさせて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。

それでは、今後とも機会がありましたら、
是非宜しくお願い致します。

白神 怜司