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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.2 ■ コレクション




「私達は“虚無の境界”。よろしくね、アリア・ジェラーティ…」
 クスっと笑いながら、金髪赤眼の少女はアリアに向かってそう呟いた。アリアはこの少女の事を知らない。しかし、自分が知らなくても相手が自分を知っている事はそう稀な事ではない。
「…お客さん…? アイス、いる…?」
 アリアが言い放ったこの突拍子もない言葉こそが、アリアを知っている人間として可能性がある唯一有り得る事象だった。
「報告通りね。生憎、私は人間じゃないからアイスに興味はないわ」少女はそう言ってアリアへと歩み寄る。「私の名前はエヴァ・ペルマネント。“虚無の境界”の一員よ」
「…私はアリア・ジェラーティ。あなたは人間じゃないの?」
「えぇ、そうよ」
 エヴァの言葉にアリアは少し考え込む。綺麗な髪に、赤い瞳。今までにアリアが見てきた人間にはいないタイプの容姿は、アリアにとって興味が生まれる対象となる。人間じゃないなら、凍らせてしまっても母の言いつけを破った事にはならない。そんな事を考えていると、エヴァが静かに口を開いた。
「…氷の女王を始祖とする血脈。人間と類似した容姿を持ち、人間の血を混ぜながらも、その能力は劣化する事はない。それは氷の女王が人間を利用する事に価値を見出し、その能力を保存させる術を持っていたから、かしら?」
「…何故そんな事まで知っているの…?」アリアの表情が若干強張る。普段は警戒心を抱かないアリアでも、自らの素性を知られているのであれば話は別だ。
「あら。そういうユーこそ、何も知らないのね」エヴァは再びクスっと笑いながらアリアを見つめた。
「…どういう事?」
「私とユーは似ている。人間の容姿を持ちながら、その実は人とは異なった存在。私達は人間と同じ場所を生きれない。同じ感情を共有出来ない存在なのよ」エヴァはそう言ってアリアに手を伸ばした。「アリア・ジェラーティ。私と共に来なさい。私達は世界を在るべき形に戻すという大儀の為に動いているわ」
「…そうなんだ…」アリアはまるで興味なさそうにエヴァの言葉を聞き流す様に呟いた。「…おなかすいた…」
「…フフフ、いずれ解るわ。ユーは私と一緒に来る様になる。今がその時ではないだけ…」エヴァは伸ばした手をスッと引いてくるりと翻した。「次会う時には、良い返事を聞かせてね、アリア…」
 言葉だけを残し、エヴァはその場から消え去った。アリアは再び緊迫感もなくボーっとしながら周囲を見つめた。
「さっきの雪女ちゃんが向こうに走って行った…よね…。行ってみなくちゃ…」
 アリアは妖魔の気配を追う様に歩き出した。どうやらそう遠くない位置に雪女がいる様だ。複数の妖魔の気配と、それらとは違う何かがぶつかり合っている。アリアは小首を傾げ、とりあえずその場へと歩いて行く。





――。




「いたぞー! 雪女達だ!」
 銃器を構え、特殊な装甲をした男達が雪女達を追いながら声を上げる。洞窟に隠れようとした所で男達が追ってくる。
「…人間にはやられない」
「…やらせたりしない」
 そんな雪んこ達の集団の中から、先日アリアと遭遇した二人の雪んこが妖力を駆使して吹雪を巻き起こした。白く舞い上がる竜巻が男達に襲い掛かる。
「怯むな! この装甲なら抜けられる!」リーダー格の男が声を挙げ、一斉に他の男達を連れて前へと進む。
「今の内に逃げるしかない…」
「でも、ボクらに逃げ場所はない…」
 二人の雪んこが造り上げた竜巻は目隠しの障壁となるが、恐らくダメージを与えるには至らない。男達の言う通り、並大抵の技術で作られた装甲ではなさそうだ。抜けられるのは時間の問題だろう。そう悟ったその時、竜巻の向こうから激しい銃声が鳴り響く。
「フフフ、そんな玩具で私達を殺せるとでも思って?」雪女が男達の背後から攻撃を仕掛けていた。だが、十人以上いる武装集団を相手にするのは楽じゃない。雪女は挑発しながらも慎重に考えていた。
「チッ、大人の妖魔が出て来やがったか…」リーダー格の男が苦々しげに呟いた。「まぁ良い。これだけの人数を相手にたった一人で何が出来るのか、見せてもらおうじゃねぇか!」
 銃口が一斉に雪女に向けられる。雪んこ達が放った吹雪の中でも凍り付かない事から見ても、銃にもそれなりの細工がしてある事は見て取れる。雪女は吹雪を巻き起こし、視界を遮らせる。
『…私の娘達。今の混乱に乗じて、この場から逃げなさい』
 巻き起こる吹雪を通じて雪んこ達に声が届く。
「お母様!」
「お母様も逃げましょう!」
『今私が攻撃の手を休めれば、私達は皆殺しにされます。私が死んでも、貴方達が生き残れば雪女の里は消えません。さぁ、行くのです』
「嫌です…! お母様が戦うのなら、私も!」
「ボクも戦います!」
『いけません。今は…―』
 声が唐突に途切れる。激しい銃声が鳴り響く中で、雪んこ達は自分達の吹雪を止め、状況を把握しようと身を乗り出した。そこには雪女が肩から血を流している姿があった。雪女が巻き起こした吹雪が結界を張る様に雪んこ達と自分達の間に障壁を張っていた。
「…くっ、おのれ…人間…!」
「お母様!」
「逃げて下さい!」
「死ね、雪女!」リーダー格の男が銃を構えた瞬間、吹雪の中から突然姿を現した巨大な氷のハンマーが男を叩き潰した。
「…もぐらたたき…」ブイっとピースサインをしたボーっとした表情のアリアが雪女達の前に現われる。「この人達は敵…。聞かなくても、わかる」
「なっ、何しやがったあのガキ…!」隊員達が一斉に雪女からアリアに銃口を向ける。が、その瞬間、アリアは雪女の真横に移動し、氷の壁で周囲を覆った。
「お譲ちゃん…」雪女がアリアを見つめて呟く。「こ、これは…?」
「今日の天気は吹雪、時々、ナイフ…」
「…へ?」
 アリアが呟いて手を翳した瞬間、吹雪として空を舞っていた雪が氷の刃となって見境なく降り注ぐ。何百、何千という氷のナイフが地面一帯へと突き刺さり、アリアの出した氷の壁にも無数の氷のナイフが突き刺さっていた。アリアが再びスッと手を翳すと、氷のナイフとアリア達を覆っていた氷が解けて水になっていく。
「…凄い力…。圧倒的過ぎるわ…」
「ぐっ…くそ…!」男達の装甲が砕ける。どうやら装甲によって肉体迄ダメージが行き届いていない様だ。立ち上がり、銃を向けた。
「…所により氷柱にご注意下さい…」アリアが手を挙げた。瞬間、男達の足元に落ちていた水が一斉に男達の身体を覆って凍りつく。「…あ、人間…凍らせちゃった…」
 周囲にいた雪んこも、そこにいた雪女も思わず唖然としてアリアを見つめた。何だかやってはいけない事をやってしまったかの様な気分になったアリアは困った様な顔をしていつも通り手を差し出した。
「…アイス、いる?」




 壊滅状態となってしまった里の修復をアリアは氷を使ってせっせと直してしまった。普段の姿や立ち振る舞いから、誰しも想像し難いアリアの仕事モードとも呼べる顔は周囲を思わず恐縮させる程だった。
 アリアの指示の元、造り上げられた雪の山をアリアが氷によって彫刻化する。更にその上から雪女が妖力を使役して氷が解けない様にコーティングを施す。
「出来た…」
 仕事モードから一変、いつもと変わらないアリアの姿に周囲は安堵し、思わず喜び合った。アリアによって作られた氷の家が立ち並ぶその光景は、まさに絵画の中の様な表情を浮かべている。
「でも、本当に良かったのかしら?」雪女がアリアに向かって尋ねる。「さっきの洞窟に、あの人間達を凍らせたまま保存しておく代わりに、直してくれたのよね?」
「うん。あれは私のコレクションだから…」アリアがそう言って表情を緩める。
「そう…?」
 雪女はそれが代償になるとは到底思えない様だが、アリアにとっては満足のいく報酬だった。






――。





「本当に、色々有難う」
 山の麓に降りていく道を案内してもらった後で、雪女はそう言うとアリアに深くお辞儀をした。先日の二人の雪んこも真似る様にお辞儀をした。
「またね、アリア」
「またね」
「うん。また、たまに見に来るね…」アリアはそういうと少し満足げに里の方を見る様に微笑んだ。
「フフ。ちゃんとあそこで保管しているから、いつでも見にいらっしゃいな」
「はい」アリアはそう言うと、突然首を傾げた。「そう言えば、雪女ちゃん以外に大人がいなかった…」
「私達は山の妖気の化身」
「お母様はボクらが大人になるまで面倒を見てくれる」
「そう。そういえば、外の世界の話を私が尋ねるばかりで、里の事はあまり話さなかったわね」
「うん…。でも、解った。そういう事だったんだね」アリアはそう言って頷くと、手を振って下山を開始した。「バイバイ」
「またねー!」
「またねー!」
 雪んこと雪女に見送られながら、遭難から始まったアリアの不思議な物語が始まろうとしていた。




             ――「“虚無の境界”…だっけ…?」



 切迫した状況だと言うにも関わらず、アリアにとってはあまり興味のない事だったかもしれない。とりあえず家に帰って、母に尋ねてみようと決意したアリアだった…。




                                 Episode.2 Fin




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整理番号:8537  アリア・ジェラーティ



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ライターより□■□■□■□■□■□■□■


お世話になっております、白神 怜司です。
納期ギリギリとなってしまい、
大変お待たせ致しました。

ちょっと引越しやらで時間があまり取れず、
申し訳ありませんでした。

虚無の境界との接点を今後、
希望があれば乗せていこうという所です。
敵になるか否かは自由に決めて頂いて構いません。


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司