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<東京怪談・PCゲームノベル>


第7夜 捕らわれの怪盗

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 午後1時10分。
 生徒会室に向かっていたら、バタバタと自警団服を着た生徒達が走っていくのとすれ違った。

「随分慌ただしいね。普段は廊下走るの率先して怒るのに」
「そうですねえ……、今回アポ取るのも随分渋られましたし」

 自警団の背中を眺めながら、工藤勇太と小山連太はそのまま階段を昇る。
 元々生徒会にインタビューをしようと言い出したのは勇太だった。普段なら割と融通の利く連太も、今回ばかりは生徒会のムードを読んで渋ったが、何とか拝み倒してアポを取ってもらったのだ。

「でも何でそこまで渋るの? 聖祭の邪魔になるから?」
「それもありますけど……今回怪盗を捕まえる捕まえないって言い出したのは、どうも副会長らしいですからねえ……。あんなに怒らない人が怒るって、よっぽどの事じゃないですか。怖い怖い」
「ふうん……」

 副会長ってそう言えばどんな人か知らないな。
 会長がものすごく厳しいって言うのは有名だけど、副会長は悪くも言われない替わりにすごくよく言われる事もないしなあ。
 そう思っていたら階段を昇り切り、生徒会室が見えてきた。

「こんにちは、新聞部です」
「どうぞ」

 返って来たのは落ち着いた女子の声だった。

「あれが副会長?」
「ですよ」

 連太はそっと「失礼します」と声をかけながら、扉を開けた……。

「こんにちは、聖祭で慌ただしい中、お時間をいただきありがとうございます」
「こんにちは、新聞部も大変なんですね」

 出てきたのは、制服ではなく自警団服を着た女子生徒だった。
 美人ではないが特にブスでもない、ただやけに自警団服が似合う事だけが印象的だった。

「えっと、初めまして。新聞部の工藤勇太です」
「生徒会副会長を務めています茜三波と申します」
「あの……確か今晩怪盗を捕まえるとか聞いたんですけど……」
「ああ……」

 落ち着いた声が、やけに冷たく感じた。
 あれ? 勇太はそこで気が付いた。

『憎い』
 『憎い』
   『憎い』
 『取らないで』
『私から取らないで』
   『憎い』
  『憎い』

 声が聴こえるのだ。
 どこから……? 思わず勇太は視線を彷徨わせるが、声のありかは分からない。

「……聖祭までに、決着つけたかったんですよ。本当に」

 三波の声が語る。
 先程まで感じた穏やかな雰囲気は完全に拭い去られ、今目の前にいる人物が誰なのか、分からなくなる。

「それは……聖祭を怪盗に荒らされないためですか?」

 連太はいつものように手帳を広げてペンで三波の言う事を書きとめる。勇太はあまりにも変わらない連太の態度に、少しだけほっとした。

「そうですね、邪魔ですから」
「ですか……そう言えば、会長は今日は見当たりませんが、どちらに行かれたんですか?」
「会長ですか? 今は聖祭の打ち合わせで、理事長の方へ顔を出しているはずです」

 あれ?
 勇太はそれに違和感を持った。そもそも今日は怪盗捕まえるために、聖祭の準備は今日は休みと生徒会から触れ回っていたはずなのに。
 普段、怪盗討伐に力を入れているのは会長の方なのに、何故今晩捕まえるのに、自警団を使っていないのか。

「今回会長は参加しないんですか?」
「するはずですけど、私は会長の手を煩わせたくはありません」
「そうですか……」

 結局、それだけ聞いていたら、昼休みは終了してしまった。

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 午後9時20分。
 今日は部活も聖祭の準備もなく、早々と生徒達は下校させられてしまった。今学園内にいるのは自警団と……一部の生徒だけである。
 勇太は理事長館に用事があると言ってやり過ごした。
 自警団は変な顔をしたが、理事長館に住んでいる海棠秋也と一緒にいるのを見たら何も言わなくなった。
 2人はそのまま、体育館の方へと向かっていた。海棠の言う魔法の気配と、勇太の言う思念の気配のする方角が、体育館の方だったのだ。
 体育館の方は既に自警団が集まり、入れそうもない。2人はそのまま近くの茂みに隠れた。

「そうか……、副会長がそんな事を」
「うん。多分副会長が盗むはずのものを持っていると思うんだけど、どれが怪盗が盗む予定のものかは分からなかった」
「しかし……、それなら怪盗は確実に来るはずだな。怪盗も声が聴こえるらしいから」
「え……そうなの?」
「多分。これは俺が前に怪盗に会った時に思った勘」

 海棠が怪盗と会った事があるのは初めて聞いた気がする。でも今は関係ないか。

「でもさ、時間稼ぎって何をするの?」
「怪盗を助ける」
「怪盗って……オディールを?」

 秋也は頷く。
 秋也は珍しく制服の下にバレエ衣装を着ていた。
 黒いバレエ衣装は、気のせいかロットバルトに似ているような気がする。

「確か、工藤は思念の声が聴こえるんだったな? 今は?」
「うーん……ちょっと待って」

 目を閉じ、意識を集中させる。
 体育館の地下。そちらに声が集まっているような気がするのだ。

『憎い』
 『憎い』
   『憎い』
 『取らないで』
『私から取らないで』
   『憎い』
  『憎い』

「……声が、地下に集まってる気がする」
「ダンスフロアか、フェンシング場のどちらかか……」
「でもフェンシング場は前、怪盗が盗みに来てたみたいだから、違うんじゃないかな」
「だとしたら、ダンスフロア1択だな……」

 ちらりと勇太が体育館を見上げる。確か前は、天窓を割っていたような気がするけど、怪盗はまたそこからダンスフロアに行くのかな。

「あのさ……こんな時で何だけどさ。1つ打ち明けたい事があるんだ」
「? 何?」
「実はその……俺思念の声が聴こえる以外にも、できる事があるんだけど……」

 海棠は少しだけ目を丸くした。

「……すごいな」
「いや、すごくはないけど」
「でも何が使えるんだ?」
「んーと……テレポートとか、サイコキネシスかなあ? 行った事がない場所だったら精度は落ちるけど、行った事があって地図を把握している場所なら、確実に行ける」
「…………」

 海棠は少し黙って遠くを見た。
 あれ? もしかして、引いた?
 勇太はおずおずと海棠を見ていたが、やがて海棠は口を開いた。

「ダンスフロアに、俺だけ送り込むって事は、できないか?」
「えっ……君だけを?」
「うん」
「んーっと……ダンスフロアだったら体育の時間まで行った事あるし、サイコキネシスの応用でだったら、移動できるかなあ?」
「そうか。ありがとう」
「でも……どうするの?」
「ここで、怪盗が向かうのを待ちたい」
「えっ、うん……」

 勇太は気のせいか、少しうずうずするのを感じた。
 そう言えば、初めてな気がする。誰かの役に立つように、超能力を使うのは。
 やがて体育館の方に、影が跳んでくるのが見えた。

「あっ……怪盗?」
「らしいな」

 影は天窓を見ると、それを丁寧に開け、そのまま下へと飛び込んだ。

「もう行く?」
「ちょっと待て」

 そのまま海棠はパサリと制服を落とし、それを勇太はぎょっとした顔で見る。
 海棠の着ている衣装は、どう見てもロットバルトの衣装であり、更に海棠は持っていた仮面を被ってしまったのだ。

「ちょっと待ってよ! それロットバルトの格好じゃない! そんな格好してどうするの!?」
「その方が陽動になるから」
「そりゃそうだけど! でも捕まったらどうするの!?」
「その時は」

 海棠は口元をふっと緩ませた。

「俺をそのまま、理事長館にでも飛ばしてほしい」
「……分かった」
「体育館に送ってくれるか?」
「分かった。どうなっても知らないからな?」

 勇太はそのまま意識を集中させる。
 頭の中にダンスフロアのイメージを作り、そこに海棠を飛ばすイメージを作り、そのまま力を込めた。

「本当、大丈夫だといいんだけど」

 しかし、勇太は1つだけ気がかりだった。

 『取らないで』
『私から取らないで』
   『取らないで』
『彼を取らないで』

「……声、2つ聴こえるんだけど」

 勇太は海棠が無事戻ってくるまで、気が気ではなかった。

<第7夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122/工藤勇太/男/17歳/超能力高校生】
【NPC/海棠秋也/男/17歳/聖学園高等部音楽科2年】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】
【NPC/茜三波/女/16歳/聖学園副生徒会長】

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■         ライター通信          ■
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工藤勇太様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第7夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は茜三波とのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベル、手紙などで絡んでみて下さい。
声が2つ何故あったのか、一体盗まれるはずだったものは何だったのかは、海棠あたりに聞いてみれば分かるかと思います。

第8夜・第9夜も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。