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ポエミー賃貸の秘密は玲奈
1.
神聖都学園。
春うららかに桜咲き乱れ、新入生は和やかな雰囲気で部活の勧誘を…受けていなかった。
「うらっぁああああああ!!!」
右アッパーがあごに直撃し、吹っ飛ぶ新入生。
「さぁ、ここに判子…じゃなかった、サインをすれば君も晴れてボクシング部だ」
手についた新入生の血を拭きながら、在学生の冷ややかな視線はそれを見ていた他の新入生へと注がれる。
無言で彼らは入部届けにサインをする。
その横で、瀬名雫(せな・しずく)もプロレス研究会の部員によって強引な勧誘をされていた。
「雫ちゃん、我がプロ研が全力を持ってアングラプロレスアイドルの頂点を極めさせますので、ぜひ入部を!!」
「なんでアングラ!? それよりあたしネットで忙しいから!!」
屈強の体の男2人に右腕・左腕がっちりつかまれ、雫はあわや入部届けを自動筆記されそうになった時!
「まちなさーーい!!」
颯爽と現れた少女・三島玲奈(みしま・れいな)は雫を捕らえていた2人の男に強烈な回し蹴りを食らわせて昏倒させた。
「玲奈ちゃん! ありがとう!!」
「大丈夫、雫ちゃん」
解放された雫に近づこうとした玲奈。しかし、その代償は大きかった。
屈強な男達は倒れざまに玲奈の服をがっちりと掴んでいたのだ。
「…んぎゃっ!?」
前のめりになった玲奈の体からビリビリと制服が剥ぎ取られて、大きな翼と尻尾、そして褌が全校生徒の前で露わになってしまった。
「玲奈ちゃん…露出狂!?」
「違うし! 待って、すぐに服着るから!」
思い違い甚だしい雫の疑惑の目を逃れるかのように、玲奈は玲奈号に呼びかける。
しかし、思いも寄らぬ声が上がった。
「『つるぺたのもふもふのすぽぽーん』!」
その声の主は、あほ毛の素晴らしい侍のような男だった。
「あなたこそ、剣豪の後継者となるべき『つるぺたのもふもふのすぽぽーん』の主です!!」
「誰が貧乳や…いや流派とか知らないし、これ黒帯つか褌だし」
「玲奈ちゃん、話ぐらい聞いてあげようよ。玲奈ちゃん、どう見ても『つるぺたのもふもふのすぽぽーん』なんだし…」
「何でそこを肯定するかな?」
雫の強い勧めによって、玲奈は侍の話を聞くこととなった。
2.
あれは…そう、江戸時代のことでした。
我が師匠である無敵の剣豪は死の床にいました。
「師匠、しっかりしてください!」
「良いか。『つるぺたのもふもふのすぽぽーん』な資質を持つ者こそ相応しい」
「『つるぺたのもふもふのすぽぽーん』…? あぁ、師匠! 師匠!!」
「探せ…探すのじゃ…」
私に後継者の証たる『ポエミー賃貸』を授けて、師匠はこの世を去ったのです…。
「…回想話、短っ!」
7行の回想シーンに驚きを隠せない雫。
侍は懐から何かを取り出して、玲奈へと手向けた。
「そして…これがその『ポエミー賃貸』。ぜひお受け取りを!」
「ヤダ」
「…2文字で即答拒否とか、ありえなくない? もうちょっとこう溜めて…ってうわ!!」
鋭いツッコミを玲奈にかました雫は、思いも寄らない事態に遭遇していた。
「な、なにこれ!?」
「三島師範!」「三島師範!!」「三島師範!!!」
玲奈の名を呼ぶ黒山の人だかり。
コレ全部もしかしたら、もしかしなくても玲奈を師匠と崇める弟子の山である。
「な、なに? なんでこうなるの??」
「おそらく決戦の時が迫っているからでしょう。龍が棲むという歴戦の管理人を屠ってきた開かずの間…通称・ワンルームダンジョンの!」
「いや、それとコレと何の関係もないって…」
「噂はもはや敵にも知られております! どうか、我々と共に!!」
侍は土下座し、涙した。
それに釣られるかのように、弟子の山も頭を下げ涙し、地を叩いた。
この行動により、ほぼ強制的に玲奈はワンルームダンジョンへ行くことが決定した。
「…あ、雫ちゃんもね」
「え!? あたし関係なくない!?」
「いや、友達だし行こうよ」
「えーーーーー…」
そんなわけで、玲奈のお供に雫も同行することになった。
3.
「うーーーまーーーいーーーぞーーーーー!!!!!」
むぎゃおーーーっと口から赤い火を吹き出して、審査員は悶絶する。
またもう一方の審査員席では感動の余り巨大化して城を押しつぶそうとしている。
「なんてすさまじい光景なの!」
雫は思わず玲奈の後ろに隠れた。
開かずの扉というわりにあっさりと開いた扉の先に、龍は出てこなかった。
「龍、出てこなかったんだけど?」
「伝説は伝説に過ぎなかったということでしょう」
侍はうむっと自分を納得させるように頷いたが、玲奈は納得できなかった。
「それにワンルームダンジョンって言ってたじゃん」
「最初に入った以外の扉はないので、まだ一つ目の部屋だと思いますが?」
納得できない。なんてことを考えていたら、この場所に来た。
「ここ…何?」
「何…といわれましても、私も初見なので…」
「下調べ、しておいてよね」
呆れてものもいえない玲奈。その時、目の前を講談師のような男がサッと現れた!
「説明しよう! 君の目の前に広がるのはクッキンコロシアム! 料理人たちが腕によりをかけて作った料理で対決する場所だ! まさに皿で皿を洗う戦い!!」
言うこと言って引っ込んだ講談師に、玲奈は首を捻った。
「…『さら』で『さら』??」
「玲奈ちゃん、たかが点1個のことで悩んでたらダメだよ?」
雫がメッと玲奈を叱った。納得いかない。
「そうです。雫さんの言うとおり。なぜなら師範には今からあのコロシアムに立っていただくのですから!」
「…今、なんつった?」
「だから、あそこに行くんですよ? 今から。師範が」
「なんだってーーーーーーー!?」
4.
『紳士淑女の皆様! 今至高のクッキング対決の始まりです!』
訳のわからない波に乗り、玲奈はコロシアムの中央にいた。
対戦するは人民服を着込み、髭をみつあみにしたアフロヘアの細長い人である。
「ワタスの料理で、君を倒ス!」
スッと目を細めたかと思うと細長い人は目にも留まらぬ速さで料理を始めた。
「は、早い!!」
玲奈があまりの早さに躊躇していると、相手はあっという間に審査員席へと料理を運んだ。
「チキン投げっ塔!!」
唐揚げで出来た塔はあまりにも緻密で美味そうだった。
「あ、危ない! 玲奈ちゃん!!」
投げっ塔に見とれていた玲奈を雫が押し倒した。
見ると転がっていたのは天麩羅の礫。どうやら投げっ塔に仕込まれていたようだ。
「くっ! 卑怯な…」
悔しげな瞳を細い人に向ける玲奈に、雫は腕を引っ張った。
「ほら、玲奈ちゃん何か返さないと!!」
真剣なその眼差し、雫を危険に晒してしまった…玲奈はついに本気になった。
「ネタにはネタを。洋食には和食を…鬘椅子!」
玲奈は鬘を被せた椅子を天高く差し出した。
それはスポットライトを浴び、どんな料理よりも神々しく輝いた!
「ぐぬぬ…!!! カツライスか…負けたス」
そう言うと、細い人はぱたりと倒れた。
レフリーが脈を取り、息を確認して首を横に振った。
『勝者! 三島玲奈!!』
高らかにレフリーは玲奈の勝利を宣言し、会場は熱気の渦に包まれた。
「それ洋食やん…つか料理ちゃうし」
そんな会場で1人、冷めたように玲奈にツッコミを入れる雫。
むしろ、もうどうでもいい感が漂っている。
「観たか、ポエミー賃貸流!」
山のような弟子達に胴上げされ、賛美され、玲奈は今頂点にいた。
女師範…いいかもしんない!!!
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