コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


前門の彼、後門のあいつ
「三島……お前成績はそこそこいいのにな。でも、まあ、しょうがないよな」
「だから、あたし最近帰ってきたばかりで…」
 そう、最近の特撮でもやらないような虚無の境界に、拉致・改造されてしまったあたしは、最近やっと社会に帰ってくることができたのだ。
「家出は自業自得だろう?」
「それは……!」
 対外的には家出ということになっているけど、本当にあたし、改造されたんです。そういって体を見せてやりたかった。出来ないこともわかっていたけれど。
 担任は、そんなあたしをしぶしぶといった表情でみやり、ため息をつくと『留年』の言葉を口にした。
 憧れの彼と同じ学校になるために猛勉強して入ったのに、彼と違うクラス、それどころか違う学年になるなんて耐えられない。
 もうあの声を聞くことも、会うことも叶わないなんて。
 あたしに選択肢は残されていなかった。
「先生、留年するくらいならあたし……転校します!!」

 春、桜の下。あたしは新しい学校の教室にいた。
 宿題を忘れた女の子たちがあたしのところで答えを写している。別のところでは昨日見たテレビの話だの誰が誰をスキだのと言った話に、はながさいている。
 でも、彼は今頃何をしているんだろう。
 思うのはそのことばかりだった。
「三島さん、今日もいい?」
そんなことをぼんやり考えているあたしに一人の男の子が声をかけてきた。陸上部のエースの男の子だった。
女の子たちから歓声が上がる。
「……どうぞ」
「ありがとう。助かるよ」
 そういってにっこり笑う男の子は彼に似ていてちょっとドキッとしてしまった。
「三島さんすごく字も綺麗だね。テスト前も俺ノート借りていい?」
「えっ?!」
「ねっ、三島さん」
 そういった笑顔にやっぱりドキッとしてしまう。
「そうなんだ。じゃあ私も借りよう。いいでしょう?」
「あっ、うん」
 同じ学年、同じ年という設定なのに、なんだかんだで頼られる重圧感があたしに重たくて仕方なかった。

 蝉のうるさい夏。
 運動場では、陸上部が応援している。
 そしてエースの男の子が走るたびに黄色い声援が飛んでいる。
 帰り際、それを見ながらなんともいえない気持ちで見ていた。
 しっかりしろ、あたし。相手はガキじゃん。惹かれるわけないじゃん。
 そんな時、エースの男の子が出る県大会に憧れの彼も出るということを風のうわさであたしは聞いた。
 そうだ、県大会の応援ついでに彼と再会できる。
 でも、どちらにもあたしが応援していることがばれてはいけない。

 あたしが両方の応援しに行っていることがばれたら、絶対どうして?ってなってしまう。
 あたしは一生懸命考えてばれないように、今通っている学校の体操着、すなわち選手と同じかっこうをしていくことにした。
 これなら、最後まで残っていても怪しまれない……はず。
 
 大会当日。
 あたしは観客席でエースの男の子を応援していた。
 大会が終わってさて、帰ろうとしていたとき、後ろから急に声をかけられた。
「あれ?三島さんじゃん」
「?!」
 ギクッとしたがその声は紛れもなくエースの男の子の声だった。
「あっ……」
「応援来てくれたの?でもかっこ悪いなぁ。予選敗退じゃ……」
「そんなことないわ!すごくカッコ良かったもん」
「ありがとう。これから打ち上げがあるんだけど来るよね?」
「いや、えっと……」
「ほら、こっちだよ」
 そう言って、私の返事も聞かずに男の子は歩き始めてしまった。
 困ったけれど、内心とても嬉しかったし、もう少し男の子と一緒にいたくて、あたしは彼の後ろをついていった。

 打ち上げ会場は近くの焼肉やさんだった。
 途中お手洗いに立った時、近くから声がした。憧れの彼の声が。
 あたしの心臓は跳ね上がった。
 どうしてここに?!
 こそこそと見つからないようになんとか解散の時までこぎつけたけど、
「あれ?三島じゃん」
 後ろから声をかけてきたのは憧れの彼。
「三島突然転校するし、どうしたのかと思ったよ」
「しっ、名前呼ばないで。ばれちゃう」
会えたことが嬉しいはずなのにあたしはエースの男の子が近くにいないかだけを気にしていた。
「なにきょろきょろしてるんだよ?誰かとデートか?」
「違っ……」
「あれ?三島さん。その人たちと知り合い?」
 早くこの場から離れなきゃという警報は頭の中でなっていたのに、離れなかったあたしが馬鹿だったのか、そもそも打ち上げに来たのが失敗だったのかもうわからなくなっていた。
 前には憧れの彼。後ろには気になる男の子。
「もう……帰る!!」
 もうどうしたらいいかわからなくて、泣きながらあたしは逃げ帰るしかなかった。

 その夜、枕に顔をうずめて泣いているあたしに、陸上部のエースの男の子からメールがきた。
『今日はなんか泣かせてしまったみたいでごめんね。あの人たち三島さんの前の学校の同級生なんだってね。あの男の人から聞いたよ。三島さんがその……ひとつ年上なのも。なんか、彼氏なのって訊かれたから、違いますってちゃんと誤解のないように言っておいたから、たぶん大丈夫だと思うけど、何か言われたらごめんね。そういえば、陸上好きなのかな?それならマネージャー』
 そこまで読んでまた涙があふれてきた。
 彼氏なのって訊かれて、彼氏じゃないって言った……?
 それって、2人から見て、私は彼女候補じゃないってことなのかなぁ。
 これって同時に(いや、エースの男の子はスキっていうか……なんていうかだったんだけれど)振られたってこと?
 もう、男の子なんて嫌い!
 鈍感でデリカシーがなくて最低!!
 もう、嫌〜。
 あたしの心の叫びは夜に飲み込まれて消えていった。


Fin