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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……【迷宮編・1】 +



「ねえ、次の日記は誰の番?」
「次の日記は誰の番だー?」
「だれー?」
「あ、僕だ」


 三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。


 ちなみに本日はその言い出し人であるスガタの番らしい。
 両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
 開いたノートに書かれているのは子供の外見に似合わない達筆な文字。しかしスガタの性格を考えればそれも納得出来るというもの。
 彼は皆の方を見る。それから大きな声で読み出した。


「三月二十八日、曇り。今日は『あの出来事』が始まった日だった」



■■■■■



「にゃー☆」
「にゃーお」
「にゃん」
「またかよ」


 それは夢の中。
 既にお馴染みとなってしまった三日月邸でのこと。


 今俺を囲んでいるのは三日月邸の主、青髪猫耳を所持する少女、社(やしろ)。
 それに使役? されている伊予間を縦長にした生物、いよかんさん。
 それから双子のように姿が鏡合わせの存在の少年二人、スガタとカガミだ。
 ちなみに彼ら二人は左右対称の黒と蒼のオッドアイを持っており、それが彼らの能力の元らしい。


 カガミ以外の三人は俺の姿を見つけると、猫の鳴き真似をしつつ手招く。
 俺はといえば心の中でしくしくと涙を零しながらその手招きに惹かれる様に日本庭園へと出ていた身体を縁側へと移動させた。
 どうして心の中で泣いているかって?
 それはとても簡単な話。


「今日も猫!」
「ちっこい……ね〜」
「工藤さん、前回の一件で懲りたんじゃないんですか?」
「お前さー、前回の一件で懲りたんじゃなかったわけ?」
「やーん、らぶりー☆ そう、君は今見事なる」


「「「「 チビ猫獣人!! 」」」」


 びしっと三人と一匹の指先が俺を指し示す。
 見事なる四重唱に俺は思い切り太い言葉の矢に貫かれる衝撃を味わい、よよよと縁側に泣き崩れた。
 手を見ればふわふわの黒い毛並み、掌には弾力のある肉球。顔の横にあった耳は頭部に移動し、意外と自由に動く猫耳がある。それからズボンを押して出てきた黒い尻尾。ちなみに本日も五歳児程度の外見かつパジャマ姿である。


 ねえ、ねえ、俺よ。
 イドという名の《おれ》よ。
 もしあの時みたいに会話することが出来るなら答えてくれ。


「俺は本当にこんにゃ状況望んでんのかにゃ……」


 遠い目をし、自分の胸元に当てて自問する俺を誰も責めない。むしろ面白そうに意地の悪い笑みを浮かべるだけ。ちなみに本日の空は俺のもやもやを表現してくれているかのように曇りだった。
 縁側にちょこんっと座り、空を見上げていると俺の左隣にいよかんさんを膝に乗せたスガタが、右隣にはカガミ、更にその隣に社が腰を下ろし俺を囲んだ。


「まーまー、なっちゃったものは仕方ないない☆ 美味しい和菓子でも食べて元気出すと良いと思うよん♪」
「さくらもちー」
「いよかんさん。はい、あーん」
「あーん」
「ああもう、いよかんさんは可愛いなぁ!」
「にゃはは、スガタうっざーい☆」
「マジうぜぇ……」


 スガタといよかんさんが癒し系オーラを出し、『二人のためだけに世界はあるの!』シチュエーションを作り出す。ソレに対して片割れである社、それからカガミが飽きれた笑顔とげっそりとした表情とで感想を述べる。
 平皿の上に乗せられた多種多様の和菓子が俺の前に差し出され、俺はその中から猫手でも食べれそうな大福を選び出す。みたらし団子も捨て難いけれど毛についてベタベタになる危険性を考えてあえてこっちにしてみた。大福は大福で手に粉が付くがそれは払えば問題ない。
 両手で大福を掴みはむっと口に銜えれば、もちーっと外側の餅が伸びる。それがちょっと楽しくて遊びながら食べていると、両隣からはにやにやとした視線が送られている事に気付きはっと意識を戻す。


「工藤さん、もうその姿に馴染んじゃったんじゃないですか?」
「お前そろそろその姿馴染んできちゃってんじゃね?」


 ぐさり。
 スガタとカガミの突っ込みにまた言葉が刺さる。スガタの上では桜餅を必死に伸ばそうともちーと遊んでいるいよかんさんの姿があった。しかし桜餅では無理だと思うぞ、いよかんさんよ。


「にゃんだかにゃぁ……」


 内心「もういいや」と諦め気味なのも真実。
 というか、実の所この格好でいると大人ぶる必要もなくなんら気兼ねなく楽しくやっていける自分がいるのを自覚してしまっていた。
 それ故に以前に皆に言われた「自分の意思でこうなった」説もあながち間違いではない気がしている。


―― ちぇ。結局俺ってまだまだ甘ったれなんだな……。


 子供時代、一般的な幼児のように公園などで遊んだ記憶がない俺は正直この状況が美味しい。俺の五歳の時代といえば――まだ、研究所に居た頃なのだから。


「なに暗い事考えてんだ」
「にゃっ!?」


 不意に右隣に座っていたカガミから頬を抓られる。
 思わず両手からぽろりと大福を落としてしまったけど、それはスガタが見事に片手でキャッチし、俺の前へと持ってきてくれた。
 この世界は口に出さなくても通じてしまう世界。
 少なくとも住人である三人と一匹には俺の心中が伝わってしまう。俺も自身の能力であるテレパシーで彼らの心を覗けるかもしれないけれど、覗く必要も無いので使用した事はない。
 今考えていたことは幼き日の事。無意識に頬に血の気が集まるのを感じながら目線を泳がせると、社からは下駄を履いた足をふらつかせながら「にゃははん♪」と彼女特有の快活な笑い声が聞こえた。


 だが、そんな彼女の声が止まる。
 ぴくりと彼女の頭部に生えている青い猫耳が何かを感じ取るかのようにひくりひくりと動き、そして勢い良く彼女は立ち上がった。


「社、どうしたにゃ――」
「侵入者……」
「え?」
「皆、構えてっ!!」


 彼女が叫ぶ。
 それと同時にドンッ!! っと激しい音が世界を揺らし鳴らした。それは地震のような縦揺れにも似ていて、けれど次の瞬間それではないと察するには十分な出来事が起こる。


  ―― パリンッ!! ――


 割れる。
 世界が割れていく。
 それはまるで鏡の亀裂から歪んだ虚像を見るかのように。
 社の顔にヒビが入り、彼女が叫ぶ声が遠くに飛ぶように弾けた。カガミが俺を保護するため手を伸ばしてくれるけれどそれは既に遅く。
 そして世界は――。


「ッ――にゃんだぁ!?」


 『割れた』。
 キラキラと粉々になって今まで居た三日月邸はまるで鏡張りの部屋にでも居たかのように四散してしまった。
 そして訪れたのは暗黒。
 ここも見覚えがある。
 スガタとカガミが生息しているという世界だ。
 何度かお世話になっている夢の世界、だ。


 俺は自分の姿をあわてて確認してみるが、相変わらずチビ猫獣人である。
 この世界ならいつもの自分に戻っているかと思ったけれどそうではなかったらしい。がくっと頭を項垂れるもそう落ち込んでもいられない。一体何があったのか状況を把握するため、俺は皆に呼びかける。


「社ー! いよかんさんー! スガター! カガミー!」


 だが声は反響し、反応は無し。
 可笑しい。
 この世界はスガタとカガミのフィールドのはず。それなのに住人であるはずの彼らから俺に対して無反応などと言う事は有り得ない……と思う。


「……まじでにゃにがあったにゃん」


 ぞくりと背筋が凍る。
 連絡の取れない状況下で自分ひとり放り出されてしまえば心が不安で満ちそうだ。これは手段を選んでいられない。俺はテレパシー能力を使用し、辺りに誰かいないか気配を探る。


 そして――見つけた。


「あっちにゃん!」


 走る。
 猫だけど走る。
 にゃあにゃあと変わらない語尾のまま走る。
 ――シリアスなのに! ちょっとシリアスなのに!
 緊急事態なのにこの姿のままだとどうしても雰囲気がギャグっぽくなってしまうのが残念だ。


 やがてたどり着いた其処は真っ暗な空間に一件だけ建つアンティーク調の一軒家。
 店の外には一枚の張り紙が貼ってあった。


「『鏡・注意』?」


 子供の声で素直に読み上げると俺は首を傾げさせてしまう。
 鏡と言えば自分を映し出すもの。
 音だけ聞けばカガミを思い出してしまうけど。


「くっそー、みんにゃどこにいっちゃったのにゃー!」


 その一軒家の前で俺はやけくそ交じりに両手をあげ、上を向きながら叫んだ。



―― to be continued...










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回はまた遊びに来てくださって有難うございましたv
 しかも再びチビ猫獣人v

 ですが、アクシデント発生希望ということでしたのでこんな形で続き物にしてみました。
 最後に出てきたアンティーク調の一軒家。
 工藤様は入るのか、それとも入らずに別の方法で探すのか……次回を楽しみに待っております。