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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある日常風景
− Fantom Crow 前編 −

1.
 カァ!カァ!
 泣き叫ぶ黒い群れが東京の空を覆う。不気味なまでの黒い空は、全てカラスだ。
「気味悪いな」
 ゴミを出しに外に出た喫茶店のマスターは、そう言って空を見上げた。
 青い空がところどころ見え隠れしている。まるで雨雲のように広がるカラスの群れ。
 日の光さえ遮って、カラスは空を占領していた。
「まったく…害鳥駆除の連中はなにやってんだか…」
 マスターはゴミを置くとグッと腰を伸ばして、首を左右にストレッチさせた。
 長時間の立ち姿勢は年のせいか、だいぶ辛くなってきた。
 マスターは再び腰を伸ばして空を見上げる。
 しかし、そこに見えたのは空ではなく迫り来る黒い塊。
「く、来るな!!」
 容赦のない黒い群れはマスターを飲み込み、赤い血溜りを作り出した…。

 そんなこととは露知らず、1人の少年が放課後の街をぶらついていた。
「なんか最近カラス多いなぁ」
 学校帰りの空を見上げると、あるはずの青空は黒い影に遮られている。
 工藤勇太(くどう・ゆうた)はこれからの時間を考えた。
 今日は部活もないし、割と暇だ。家に帰って家事をやってもいいが、なんとなくつまらない。
 どうせなら草間興信所にいって新しい弁当のおかずでも教えてもらおうか。
 そんなことを考えながら見上げていた空から小さな青い物体が落ちてくるのが見えた。
「なんだ? あれ」
 見慣れぬ物体を追いかけて、勇太は走った。なんだか心惹かれる。
 そうして迷い込んだのは、路地裏の小さな喫茶店の前だった。
「この辺に落ちたと思ったんだけど…」
 キョロキョロと辺りを見回すと、喫茶店のポストに何か青い物が見えた。
 さっきの物体の色に似ている…勇太は近づいてみることにした。
 近づくにつれ、それが小さな鳥だということがわかってきた。
 小さな鳥が目を瞑ってうつらうつらとしている。
 こんな青くて小さい鳥、東京で見たことない…めずらしい鳥だなぁ!
 もしかして、幸せの青い鳥ってヤツなのかな?
 静かに近寄る。鳥は起きない。
 そーっと指先で触れてみる。もふもふしている!
 勇太の指先に衝撃が走る。これは今までにない感覚だ。
 うわ…何コレ可愛いっ!
 もっともふりたい!!
 勇太はその衝動を抑えることができなかった…。


2.
 ポストからそっと手のひらに乗せかえてみる。
 鳥はまだ寝たままだ。よっぽど警戒心がないのか、それとも疲れているのか…?
 もふもふもふもふもふもふ
「…っ!」
 柔らかい! 可愛い! ほっこりだ!
 言葉に出来ない幸せ感。駆け抜けるもふり感。
 地球に生まれてよかった!!
 と、もぞっと手のひらで小鳥が動く気配を見せた。
 じーっと覗き込むと、小鳥は少しずつ小さな瞳を開けた
「あ、目開いた。可愛いなぁ…」
 目を開けても逃げようとしない小鳥に、勇太はさらにもふもふした。
 もう連れて帰っちゃおうか。なんか人間嫌いじゃないみたいだし。
 それにあんだけカラスがいると、こいつ襲われちゃいそうだ。
 カラスって雑食だもんな。
 もふもふしながらそんなことを考えていたら、突然手から小鳥の重みが消えた。
 そして代わりに…小さな子供が降ってきた。 
「…え? …え? ええぇぇぇ!?」
 何がなんだかわからないが、押し倒されるように勇太は小さな子供と路上に倒れこんだ。

「え、あれって勇太くん…よね?」
「あらら。こんなとこでお熱いなー…って勇太じゃん!」
「………」
 どこかで聞き覚えのある声にハッと顔を上げると、勇太は血の気が引く思いがした。
「鶫せっ…晴嵐せっ…草間さっ!?」
「ちょ、何やってんの!?」
 鶫が呆れたようにそう言うと勇太はあわあわと顔を真っ赤にして慌てふためいた。
 人間というのは不思議なもので、焦ると何をしていいのかわからくなったりするものだ。
 勇太もその例外ではない。
「いや、俺別にっ! もふってただけで! 可愛いなって…」
 順を追って話しているつもりが、言葉が足りなくて余計に誤解を招くこともある。
 しかし、焦っている人はそれに気がつかないのだ。
「勇太くん…いいの? 草間さんが見てるよ?」
「えっ!? 何でそこで草間さん!?」
 勇太が驚くと、草間は「問題ない。勇太も大人になったんだな…」と空を見た。
 話の流れが全く読めない! 当事者なのに!
「あんた、草間さんというものがありながら…ま、こうなったら男としてちゃんと責任取らないとね?」
 鶫がニヤリと笑う。
「いや、何それ!? 何の責任!? …あ、ご、ごめんね! 怪我とかない?」
 ハッと勇太が小さな子供を気遣った。
 青い瞳に透けてしまいそうな白い髪が何故か先ほどの小鳥を思い出させた。
「ないです! こちらこそ、僕のせいで…怪我はないですか?」
 勇太はその子供と立ち上がる。
 と、その子供はぺこぺこと何故か晴嵐たちに向かって頭を下げた。
「僕、小瑠璃(こるり)っていいます。彼のせいじゃないんです! 僕が鳥だったのに、急に人間になったから…あ、僕、人間じゃなくて…その、貧乏神だから…」
 消え入りそうな声で小瑠璃は俯いた。
「そうだよね。最初、鳥だったよね…」
 勇太は小さく呟いた。やっぱり見間違いではなかったのだ。
 にしても…へぇ、貧乏神って本当にいるんだ。でも…こんな可愛い貧乏神なら全然OK!
 小鳥だったときも、今も小瑠璃のかわいさは変わらない。
 晴嵐は手を差し出した。俯いていた小瑠璃に見えるように。
「私は日高晴嵐(ひだか・せいらん)よ。初めまして」
 にっこりと笑った晴嵐に、小瑠璃は恐る恐る手を握り返した。
「私は日高鶫(ひだか・つぐみ)。姉さん…晴嵐とは姉妹なんだ。よろしく」
「俺、工藤勇太。ホントに大丈夫だった?」
「あー…俺は草間武彦(くさま・たけひこ)、探偵だ」
 次々と差し出される手に、小瑠璃はなんだか不思議そうに握り返した。

「僕を…嫌がらないんですか? 貧乏神なのに…」


3.
 小瑠璃の言葉に、晴嵐は優しく笑う。
「きっと何かしらの神様としての役割や存在意義があるからこそ、神を冠してるんだと思うの」
 晴嵐とは逆に、鶫はあっけらかんと言う。
「んーこう言っちゃ失礼かもしれないけど、私そういうのあんま信じないんだ。不幸だの何だのって結局は心の持ちようだしさ。だから別に気にしないな。草間さんもそうでしょ? どうせあれ以上興信所が貧乏になるなんてありえないし」
「何でそこで俺を引き合いに出すかな? 鶫ちゃんよ」
 鶫にそう言われて、苦笑いする草間。
 俺の気持ちはもう決まっている!
「俺、嫌わないよ! だって…あ、いや…その…小鳥姿がとっても可愛いし…」
 途中言葉を濁した勇太に、鶫はぴんときた。
「勇太…今『こんな可愛い貧乏神だったら許す!』とか思わなかった?」
「え!? 鶫先輩、超能力…!?」
「勇太君は顔に出やすいのよ」
 うふふっと笑った晴嵐は「で? 心変わりしちゃったの?」と微笑んで言う。
「こ、心変わりって…誰から誰に!? いやいやいやいや、出会って間もなくとかありえないでしょ!?」
 真っ赤になって否定する勇太。しかし、鶫はニヤニヤと笑う。
「僕…僕、皆さんと出会えて嬉しいです…!」
 ぽろぽろと泣き出してしまった小瑠璃に、晴嵐は頬を優しくハンカチで拭いた。
「そろそろ本題入るぞ。晴嵐、鶫」
 そこに割って入ったのが、草間だった。
「え? あ、そうでした」
「ごめん、ごめん」
 鶫と晴嵐はハッと我に返った。
「何かの調査だったの?」
 襟元を正して、勇太が草間に問うと草間は簡単に依頼の概要を話した。
「…カラスの襲撃事件か。そういや最近やたらとカラスが騒いでるな」
 勇太は空を見上げた。上空高く黒い塊がうごめいている。
 つられて、小瑠璃も空を見上げた。目に映るのは黒い鳥。
「あの! 僕、それ知ってます。僕がさっきまで追ってた魔物がカラスを操ってて…あの、上司に討伐しろって言われてるんです」
 語尾を小さくした小瑠璃に、草間の顔色が変わった。
「それ、詳しく教えてもらっていいか?」
「は、はい! あの、僕たちの仕事は人間に害をなす者を排除することなんです。僕の今回の仕事は鳥を操って人間を襲う魔物…だけど、僕の力が足りなくて、逃げられてしまいました。僕は力が弱くなってしまったので、休んでいるところに勇太さんが…」
「なるほど。すべては神の巡りあわせ…ってことか」
 少し考えて、鶫は小瑠璃に言った。

「私たちに協力してくれないか?」


4.
 パチパチとつぶらな瞳を数回瞬かせると、小瑠璃はえぇっ!?と驚いた。
 むしろ勇太も驚いた。
「ぼぼぼぼ、僕が!? み、皆さんに協力? だって貧乏神なんですよ?」
 慌てる小瑠璃に晴嵐は微笑んだ。
「貧乏神かどうかなんて関係ないわ。あなたは現にこうして人々のために危険を賭してくれているわけだし。だから、そんなに自分を卑下する必要はない必要はないと思うな」
「さっきも言ったけど、私は気にしない」
 鶫と晴嵐にそう言われて、小瑠璃は困ったように顔を赤くした。
「待ってよ! 小瑠璃ちゃんにそんな危ないこと…!」
 小瑠璃をさっと庇った勇太だったが、鶫と晴嵐はそんな勇太に一言だけハモった。

『なら、勇太(君)も来ればいい(のよ)』

 思わぬ言葉に勇太の心は揺れ動く。
 それは…そうなんだけど…、俺がいくっていうのと小瑠璃ちゃんが危ないっていうのとは別次元の話じゃ…?
 しかし、日高姉妹のターン!
「皆で負担を分け合えば、きっと危険度も低くなるはずよ」
「そうだよな。危ないと思うなら近くで守ってやればいい。勇太にはその力もあるんだし」
 にこにこと鶫と晴嵐は流水の如く勇太を流していく。
 その激流に勇太はクラクラと頭を抱え込む。
 そ、それは、その通りかもしれないけど…!
「あのっ、僕のことは気にしないでください! 僕、皆さんのお役に立てるなら、それでいいんです」
 必死にそう訴えた小瑠璃の瞳に、勇太はダメ押しを喰らった。
 ここで行かなかったら男じゃない!
「俺も行く! べ、別に小瑠璃ちゃんだけのためじゃないからな! 男手が草間さんだけじゃ頼りないからだからな!」
「…俺がなんだって!?」
 草間の両拳がこめかみにぐりぐりと当てられる。
「うわぁああああ!!」
「俺が頼りないってどの口が言った?」
 逃げ回る勇太と追い掛け回す草間の寸劇を、にこやかに見守る鶫と晴嵐。そして小瑠璃。

 その上空で、黒い塊に混じって怪しげな影が勇太たちを見つめていた…。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 5560 / 日高・晴嵐 (ひだか・せいらん) / 女性 / 18歳 / 高校生

 5562 / 日高・鶫 (ひだか・つぐみ) / 女性 / 18歳 / 高校生

 8501 / 小瑠璃・− (こるり・ー) / 男性 / 14歳 / 貧乏神

 1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
 
■□         ライター通信          □■
 工藤 勇太様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はご依頼ありがとうございました。
 もふ…もふ…羨ましいです。果てしなく羨ましい…。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。