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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Case.2 ■ 天使と悪魔 




「自己紹介が遅れてしまいましたね。護凰の巫女、凛。人とは異なる能力を持つ少年、勇太。私の名はエスト」
 金髪に真っ白な服と翼。間違いなく書物と同じく、その姿は正に天使そのものだった。勇太は真っ直ぐエストと名乗る天使を見つめた。
「天使様、私は聞きたい事が―」
「―凛、解っていますよ」穏やかな笑みを浮かべ、エストは凛の傍へと歩み寄る。「短命なる巫女の一族の秘密。そして、この地に訪れる災厄の事ですね」
「…はい」
「一族の秘密…?」勇太が尋ねる。「やっぱり、凛の一族が短命なのは理由があるんですか?」
「…その通りです、勇太」エストが勇太へと振り返る。「しかし、今は話している余裕はありません…。“もう一人の私”が悪魔となって、動き出してしまった…」
「悪魔の正体は、天使様なのですか…?」凛が尋ねる。
「灰色の翼をした天使とは、即ち私がこの地に眠る古の悪魔を封じる為に作り出した“器”。この地に封じられた悪魔のあまりに強い憎悪を押さえ込む役目を果たしていたのです」寂しげな表情でエストは続けた。「翼はやがて灰色に染まり、髪は黒く染まってしまった私の“器”は、段々と悪魔に侵蝕され、今では悪魔そのものに支配されてしまいました」
「成程…。それが災厄を引き起こそうとしている、って事ですか?」勇太が尋ねる。
「そうです。私がこの地に安寧をもたらし、“器”が悪魔を押さえ込む。そうする事で、バランスを保ってきたのですが、どうやらここまでの様ですね…」
「…その災厄は、どうすれば押さえられるのですか?」凛が再び尋ねた。「天使様、お願いします。どうか、私達に知恵をお貸し下さい…」
「…それは出来ません」
 エストの言葉に、思わず勇太も凛も言葉を失った。
「そんな、どうして!?」勇太が口を開く。「このままじゃ、予言通りにこの山が噴火しちゃうんじゃ…!」
「天使様、どうしてですか!」
「…凛。アナタにとって、どうしようもなく苦しい判断だからです」
「…え…?」
「…“器”を倒してしまえば、悪魔の本体が目を醒ましてしまいます。私に代わりを用意するだけの力は既に残されていません…。出来る事は只一つ、護凰の巫女を“器”に作り変える事で、悪魔の封印を続けるしか手はないのです…」
「…そんな…!」勇太が唖然として声を搾り出す。凛を見つめるが、凛は一瞬動揺した後、顔をあげた。
「解りました。私が“器”となります」
「そんなのダメだ!」勇太が叫ぶ。「そんな事をしたら、普通の人間じゃいられなくなるんだ! 解ってて言ってるのか!?」
「解ってる…!」凛の瞳は決意に満ちている。「…勇太、私はこの島が好きです…。この島に貴方が来てくれて、貴方と出会えた場所です…」
「…凛…っ!」
「…貴方に結婚を申し込んだのは、ただの気まぐれではありません…。ですが、こうなってしまっては、結婚出来ませんね…」乾いた笑顔に、頬を伝う一筋の涙。凛はそう言って勇太を見つめた。
「…ない」勇太がギュっと拳を握って呟いた。「そんな事、俺は認めない…!」
「お願いです、勇太…。私は、この島を護りたい…!」
「天使様。そもそもの原因は悪魔なんだろ? そんなヤツ、俺が倒してやる!」勇太が決意する様にグッと拳を突き出した。
「出来ません。この地に眠る悪魔は、炎の悪魔。一瞬で灰塵とされてしまいます」
「やってみなきゃ解らない」勇太は真っ直ぐにエストへと告げる。「俺には草間さんもいる。凛だって、アンタだっている。一人じゃなければ、きっと何とかなる…!」
「…解りました」エストが口を開く。「今のままでは、どう転んでも誰かが悲しみます。願わくば、そんな事があって欲しくありません」
「…天使様…?」凛が思わずエストへ向き直る。
「凛、手伝って下さい。私と共に、この地を護りましょう」
「…! はい!」
「勇太。アナタもすぐに、もう一人の来訪者と合流し、ここへ来て下さい」
「解った!」




――。



「殺して欲しい、だと?」
 武彦は思わず耳を疑った。灰色の翼をした黒髪の天使は武彦にそう告げた。
「そう。さっき言った通り、悪魔はこの私を既に侵蝕している…。私の意識が完全に途切れる前に、乗り移った悪魔ごと、葬って欲しいのよ」淡々と天使は告げた。
「…確証がない」武彦は少し考え込んでそう言って天使を見つめた。「仮にお前さんが言う様に、事態が一刻を争うのならば、自分で死ぬ事も出来るだろう?」
「私が自ら死を選べば、悪魔の力を強大化する事になるわ」天使は嘲笑する様に告げた。「それに、今更神殺しを拒むつもりか? ディテクターと呼ばれたお前が?」
 武彦は一歩下がって間合いを取った。
「…どうしてそんな事を引き合いに出す?」
「フフフ…。何を驚く事がある? IO2とやらに加担し、古の神ですら研究の対象として扱ってきただろう?」天使が武彦へと歩み寄る。「そして、状況次第では殺してきただろう? 神だけじゃなく、人でさえも…」
 不意に武彦の心臓が強く脈打つ。
「…それとこれは別だ。俺はそんな事…―」
「―したくてやった訳じゃない、か?」笑い飛ばす様に天使は告げる。「人間は便利だな。言い訳をする事で、許し、正当化出来る! お前はどうだ!? “彼女”の事すらそうして誤魔化せるのか!?」
「やめろ…」
「さぁ、殺せ! お前が自らの銃で命を奪った、愛した女と同じ様に!」
「やめろ…! やめろおおぉぉ!!」武彦が銃口を突きつける。
「そうだ! 撃て! その銃で愛した女を撃ったお前が、今更何を殺す事に躊躇うと言うつもりだ!?」天使が銃口を自分の胸元に押し付ける。「さぁ! 引鉄を引け!」
 武彦の頭の中がかき乱される。
「…っ!」


             『―せめて、貴方の手で殺して。武彦』



 銃声が洞窟内に響き渡る。天使はその場に崩れ落ち、武彦はダラリと腕を下げて立ち尽くす。倒れた天使の口元がニヤリと歪に形を変えた。
「草間さん!」勇太がテレポートで武彦の前に姿を現す。「…! 灰色の翼…。“器”…!」
「…俺…は…」武彦の口元が震える。
 突如地響きが起こる。勇太は危険を察知し、武彦を連れてエストと凛の元へとテレポートした。






「…どうやら、“器”が倒れた様ですね」戻ってきた勇太達に向かって、エストが話しかけた。
「……」武彦はまだ俯いたまま、呆然としている。
「事情は解らないけど、おかしいんだ…」
「幻術でもかけられたのでしょう。闇を持つ彼を呼び寄せ、利用した。悪魔が考えそうな手段です」
「どうしたら…!」勇太がそう言った瞬間、凛が武彦に歩み寄った。
 突然、凛がパァンと弾ける様な音を奏でながら武彦の頬を殴った。武彦は思わず唖然として凛を見つめた。
「しっかりして下さい。事態は最悪です。この状況で、勇太の頼りである貴方が呆けていては、困るのです」
「…すまない…」漸く武彦の瞳に光りが戻る。
「詳しい話は後にして、先ずはここを出ましょう」エストがそう告げて、三人の近くへと歩み寄った。
「皆、ちゃんと手繋いで…」勇太が声をかけ、それぞれに手を繋ぎ、円を作る。「飛ぶよ!」





――。




 地響きが鳴り響く中、護凰神社へと四人は姿を現した。神主が慌てて駆け寄り、エストを見て土下座の様な姿勢を取ろうとするが、エストと凛が神主を止める。
「どうなっているのじゃ!?」
「説明は後にします。凛、神術は扱えますね?」エストがそう言うと、凛が強く頷いた。「間もなく、凰翼山は悪魔の目覚めと共に噴火を起こすでしょう。私達でこの周囲に結界を張って、溶岩の流れを町にいかない様に押さえ込みます」
「神術で結界!?」神主が思わず叫びだす。
「やってみます…!」
「結界が完成するまで、時間がかかります。勇太、援護は頼みます」そう言ってエストと凛は力を込める様に掌を合わせてブツブツと何かを唱え始めた。
「解りました! …って、援護ってまさか…」
 瞬間、激しい爆音と共に山頂から炎が上がった。
「…これをどうにかするのか…」武彦が思わず呟く。「勇太、大物は銃じゃどうにも出来ないからな。援護するから大物は任せるぞ」
「…やっぱ、そうなっちゃいます?」冷や汗を垂らしながら勇太が呟く。
 火山の噴火と同時に、火山弾が一斉に降り注ぐ。山の中腹にあるこの神社目掛けて、次々に襲い掛かる。
「くっそー!」勇太が念の槍を幾つも作り上げ、次々と大きな火山弾を神社の外へと軌道をズラしていく。それでも小さいサイズの火山弾は次々に降り注ぐ。が、凛とエストの周囲には何も降らない。不規則な銃声が背後からひたすら鳴り響いている。
「勇太、まだまだ終わらねぇぞ! 集中しろ!」
「解ってるよ!」勇太が目を閉じる。「思い出せ…! 皆を守る為に、思い出せ…!」
 勇太目掛けて大きな火山弾が降って来る。
「勇太!」
「うおおお!!」勇太の身体から強烈な衝撃波が上空へと舞い上がる。火山弾が次々と外へと弾き飛ばされる。勇太は背後にある鳥居に手を翳した。「ぬ…おぉぉ!」
「…おいおい、マジかよ…」
 武彦は細かい火山弾を撃ちながら思わず呟いた。勇太はサイコキネシスを使って鳥居を引き抜き、上空で回転させながら振り回す。
「凛! いきますよ!」
「はい!」
 エストと凛が同時に手を地面に突き立てる。光りのカーテンが神社全体を覆い、同時に光りの壁を作り出す。
「間に合った…!」神主が思わず叫ぶ。山から溢れ出た溶岩が光りの壁にぶつかり、その勢いを止めた。
「一安心って訳にもいかねぇか…」
 武彦が山頂を見つめて呟く。黒煙の中から咆哮をあげこちらを睨み付ける。体長は十メートル程はあるだろうか、巨大な悪魔が姿を現した。
「…何だ、ありゃぁ…」思わず勇太が呟く。




「よぅ、こんな所で貴様らのツラを見るとはなぁ…」




 突如背後から何者かが声をかけた…。



                              to be continued....