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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Case.2 ■ 巫女の決意 





「…それはこっちのセリフだがな」武彦が小さく笑って振り返る。
 聞き覚えのある声に、思わず勇太も振り返る。黒いコートにサングラス。独特の白い柄をした刀を携えた男が部下を四名引き連れて立っていた。
「…っ! お、お、鬼鮫!?」
「ったく、IO2の任務で辺鄙な島に行かされるハメになった時はハズレを引いたと思ったが、あの獲物と貴様ら。どうやら俺は当たりを引いたらしいな」鬼鮫が山に現れた巨大な悪魔へと目を向ける。「バスターズ。島民の避難誘導でもしてこい」
「し、しかし鬼鮫さん。あんな化け物相手に…―」
「貴様らじゃ役不足なんだよ」鬼鮫がしれっと突き放す。
「…はっ!」バスターズが鬼鮫に言われた通り、島民の避難に向かう。
「ディテクター、勇太。気に喰わねえが手を貸してやる」
「…心強いな」武彦が再び小さく笑って呟く。「俺達はあそこの天使と巫女を守る。勇太、あの化け物相手に俺達じゃ攻撃しても無意味だ。お前の能力だけが頼りだからな」
「うへぇ…、ハードル高っ…」
「ったく、マグマで出来た化け物か?」鬼鮫がニヤリと笑う。「面白そうだ」
「面白くないから! 怖いから!」勇太が思わずツッコミを入れる。「はぁ…、まぁやるしかないよね…」
「そういう事だ」武彦が身構える。「鬼鮫、どうする?」
「フン。どうするも何も、今の状況が解らねぇ。貴様の指示に従ってやる」
「なら、俺達は飛んで来る火山弾と攻撃から、天使と巫女を守る事に徹するぞ」
「良いだろう」
 横にはエストと凛が結界を張ってマグマを抑える姿がある。そして、後ろには勇太が信頼する武彦と、かつて戦った宿敵である鬼鮫の姿がある。勇太にとって、これ程までに心強い味方は他にはいない。勇太と武彦、そして鬼鮫が悪魔を睨み付ける。マグマで出来た悪魔が、咆哮をあげる。ビリビリと響き、大地は揺れ、大気が唸る。
「…守らなきゃな…」勇太が呟く。
「来るぞ!」
 悪魔が動き出す。こちらへ向かって炎を口から吐き出した。木々は一瞬にして炭と化し、真っ直ぐ炎の渦が向かってくる。しかし、エストと凛が張った結界がそれの侵入を頑なに拒む。
「くっ…!」エストと凛の表情が歪む。「はっ!」
 エストの一喝で光のカーテンが輝きを増し、炎の渦をかき消した。だが、エストも凛も息を切らし、肩が揺れる。
「チッ、勇太! グズグズしてたらあの女共がへばるぞ!」鬼鮫が声をあげる。
「鬼鮫、今は勇太を信じろ」武彦が舞い落ちる火山弾を次々と撃ち落とし、静かに呟いた。
 勇太は何も答えず目を閉じていた。ブツブツと何やら呟いている様だが、それは誰にも聞こえていない。勇太が目を開く。テレポートで姿を消し、空へと姿を現す。
「勇太!」凛が叫ぶ。「そこにいたら、悪魔の攻撃が!」
「心配するな」武彦が小さく諭す。
「でも…―!」
「あー、あのガキ。キレてるな」鬼鮫が小さく笑う。
「あぁ、勇太があーなったら、もう心配する必要はないな」
「うおおぉぉ!」勇太が上空へ手を翳し、一本の大きな念の槍が形成された。バス一台分程の槍が勇太の振り下ろした手に導かれる様に悪魔へと向かって真っ直ぐ飛ぶ。
 マグマの悪魔が再びを口を開いて勇太の攻撃へと反撃をする。ぶつかりあった衝撃で視界が歪む。その間にも勇太は先程と同じぐらいの大きさの槍をいくつも練り上げ、追撃を試みる。悪魔もまた一斉にその攻撃へと反撃を繰り返す。
「…ったく、末恐ろしいガキだ」鬼鮫が上空の攻防を見つめて呟く。
「若い可能性、ってか?」武彦が小さく呟く。「アイツは必死なんだよ。何かを守る為に、一生懸命になれる。そうする事で、自分を見出そうとしている」
「…フン、かつての貴様と似ているな」鬼鮫が小さく笑う。
「はぁ…はぁ…」上空から降りて来て勇太が息を整える。「クソ、全然届かないや…」
「難しい相手だな…」
「手があります」エストが口を開く。
「手?」
「はい。私達、天使や悪魔は言うなれば精神体。身体に傷をつけれずとも…」
「…そうか」鬼鮫が口を開く。「精神を直接攻撃出来たハズだな」
「…っ! やってみる!」勇太が再び空へと舞い上がる。
 精神汚染を開始すると、明らかに悪魔の様子が変わる。もがく様に暴れまわり、周囲へと次々と攻撃を開始する。エストと凛の結界の外にまで及ばないが、結界が徐々に削られてしまう。
「クソ、結界が保たない…」武彦が呟く。勇太も再び地上へ降り、何かを考え込む。
「…草間さん、あれじゃ被害も増えるし、倒しきれない…。だから、直接奥に入り込んでくる」
「…っ! バカ言うな! 相手は悪魔だぞ? お前の精神が食い尽くされる可能性がないとは言えない!」
「それは、大丈夫です。私が勇太と共に行き、魂を結界で守ります」凛が口を開く。
「…! ダメだ、危険過ぎる!」勇太が凛へと声をあげた。
「この期に及んで、危険を怯える必要がありましょうか?」凛が真っ直ぐ勇太を見つめる。「それに、勇太が私を守ってくれますから」
「だったら俺も一緒に―!」
「―貴方には無理です」武彦の申し出を、凛が静かに遮る様に告げた。「先程、貴方の心にある脆さを、悪魔は知っています」
「…っ!」武彦がハッとした表情で俯く。
 勇太は知ってしまっていた。洞窟から外へと出る際に触れた武彦の手から、意図せず読み取ってしまった武彦の過去。だからこそ、何も言えない。勇太はギュッと口を固く結んだ。
「…勇太、共にいきましょう」凛が勇太の手を取って小さく口を開いた。
「…解ったよ、凛」勇太が凛を見つめて口を開いた。「行こう」
「…勇太」
「草間さん…」思わず勇太の瞳が揺れる。
「…絶対、守れ。そして、必ず戻って来い」武彦は勇太を見つめてそう告げると、頭をポリポリと掻いた。「…行って来い」
「…いってくる!」
 勇太が凛の両手を取り、しっかりと凛を見つめる。凛が目を閉じ、気を失う。勇太は凛の身体を倒さない様に抱き寄せながら、自分の瞳を閉じた。
「…行ったか」鬼鮫が口を開く。「そこの羽の生えたUMA」
「フフ、失礼な方ですね」エストが思わず小さく笑う。
「生憎、俺に信心はねぇ。結界はどれぐらい保つ?」
「…そうですね。保ってあと十分…と言いたい所ですが、あの子らが帰って来るまで必ず保たせてみせましょう」
「上等だ」
「鬼鮫さん。住民の全避難完了しました」バスターズが突如姿を現す。
「あぁ、ご苦労。下がってろ」
「はっ!」
「聞いたか、ディテクターにUMA」
「…んじゃ、ここだけを守れば良いな」煙草に火を点けて武彦が呟く。
「解りました。あの子らに、全てを懸けて…」
「フン、いくぞ」






――。








「凛、大丈夫か?」
「はい…。勇太の腕に抱かれた所までは意識がありましたから」
「ぶっ! なななな…」
「そんな事より、ここは…?」
 凛と勇太が周囲を見回す。赤黒いだだっ広いだけの空間が存在している。
「悪魔の中だよ」勇太が呟く。「凛、俺から離れないで」
「えぇ、死ぬまでずっと離れません」
「…はぁ…、もう良いよ…」
 凛の相変わらずの態度に思わず勇太が屈する。
『脆弱なる人間、愚かなる存在。我が意識の中へ入って如何とする?』
 不意に声が響き渡る。
「決まってるだろ! アンタを倒して、ハッピーエンドだぃ!」
『愚かな…。傲り、苦しむだけの存在』
「では問います。悪魔である貴方こそ、何をしようと言うのです? 永年の眠りに就き、その後で一体何を生み出そうと言うおつもりです?」
『天使の操り人形風情が、何を勘違いしているのかと思えば…。我は何も生み出さぬ。全てを無へと帰す』
「そんな事させない!」勇太が口調を強める。「俺が守ってやる!」
『その手に守れなかった母を忘れたか?』
「…!」
『人間を、世界を。そして自分を憎んでいたではないか? 工藤 勇太よ』
「そ、それは…」勇太の周囲に真っ黒な影が集まる。「今はそんな事…!」
『工藤 勇太。思い出せ。人間から受けた迫害に、憎しみ。絶望と憤怒を。全ては綺麗事。お前が見た全ての醜い人間の部分を』
「…く…あ…!」勇太の身体に黒い影が手を伸ばす。
「させません!」凛が手を一振りすると、勇太を取り込もうとしていた影が一瞬で粉塵と化す。「勇太、しっかりするのです」
『フ…、工藤 勇太。思い出せ…』悪魔の囁きが続く。勇太は頭を抱え、目を見開いて蹲った。
「やめろ…! やめ…―」
 勇太の言葉を塞ぐ様に、唇に柔らかい感触が伝わる。微かに香る、独特の匂いが勇太の目を醒ます様にふわっと舞う。
「…勇太、目を醒ますのです。悪魔に屈してはなりません…」凛が顔を離す。
「…へ…?」
「ファーストキスにしては、ムードも何もありませんね」凛がにっこりと笑って勇太を見つめる。
「えぇぇぇえ!?」
『…巫女の浄化。厄介な血脈だ…』
「フフ、私達護凰の巫女は神気を宿しています。悪魔の戯言をかき消す程度、訳はありません」
「…ね、ねぇ凛…。…き、キキッキキッ…キス…した!?」
「いいえ、今のは浄化です」凛が再びにっこりと笑う。
『良かろう。この手で葬ってくれる』声と共に悪魔が姿を現した。
『来るが良い』





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