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<東京怪談ノベル(シングル)>


mentalgame

 狐狗狸とは、占いとも降霊術とも噂されるが、元は日本へ来た外国の船乗りが伝えた心理ゲームがルーツであり、日本ではテーブルの代わりに桶と支える棒きれ三本、三人の参加者で行うのが正式とされていた。
 これが各地で広がり、現在の鉛筆や硬貨を使った形になったのは近年のことである。

◆神聖都学園。
 教室の片隅、女生徒が数名集まって『狐狗狸さん』をしているようだ。瀬名・雫(せな・しずく)は横目で彼女たちを見ていたが、構わず帰り支度を始めていた。
「瀬名さん。私と勝負しない?」
 内の一人が好戦的な表情で勝負を持ちかけてきた。雫はげんなりしながらも発言者の方へ振り返る。
「……勝負うぅ? いったい何の?」
「あなた、ネット検索で何でも情報収集できるってうそぶいているのでしょう。でも、狐狗狸にはかなわないと思うわ。こちらはネットの情報よりも正確よ」
「ふーん……まあ。試したいのなら構わないけどね。いいよ。どうやって証明する?」
「今話題のドラマへ出演しているあの女優の本命。マスコミは共演者だって言ってるけど、私は真実を知ることができる」
「じゃあ、女優の本命を先に探し出せた方が勝ちってことかな?」
 雫が小型のパッドを鞄から出していると、一緒に下校の約束をしていた三島・玲奈(みしま・れいな)が教室へ入ってきた。
「あ、玲奈ちゃん。もう少しだけ待ってて」
「丁度いいわ。三島さんにも手伝ってもらったら? 情報収集のエキスパート同士なのよね?」
 ため息の後、雫が状況を説明すると、芸能情報に疎い玲奈は首を傾げて困惑した顔をするだけだ。
「あなた、情報力が命な戦艦のなのでしょう? そんなことも分からないの?」
 リーダー格の女生徒が席を立って雫と玲奈へ近づけば、取り巻きの集団も一緒になって周りを囲んだ。高笑いと嘲笑の渦の中、耐えかねた玲奈は涙を浮かべたが、雫は強い視線で睨む。
「そんな情報、あたしがすぐ引っ張り出せる! 玲奈ちゃんにヒドイこと言わないで。謝りなさいよ!」
「あなたたちが勝てたら幾らでも謝るわよ。いい? 分かり次第、ここにいる全員へメールの一斉送信をしましょう。先に送信完了した方が勝ち。パソコンがトモダチのあなたなら、少しは早く送信できるかもよ?」
 雫は玲奈の手を取り淀んだ空気が籠もる教室から離脱する。片手でパッドを操作しながらターゲットの情報集を開始した。が……直後、携帯電話とパッドのメール受信を知らせるメロディが流れる。
「ウソ!? まだ数分しか経ってないじゃない!」

◆太平洋上。
 海上で白い巨大な魚影がみるみる浮上し、ぶよぶよした人の形状になる。それは蛍光を帯びて水面から飛び出すと雲間へ消え去った。目撃していた漁船の乗組員たちは口々に「あいつらだ。『ニンゲン』が現れた!」と叫んでいた。

◆ドラゴン・トライアングル。
 小笠原諸島、グアム、台湾を結ぶ謎の消失海域で、船が磁石を使い、海底の鉱石を採鉱している。

◆同海底。
 異星人が造ったと思しき遺跡がある。一部の空間が淡くゆらめき、先ほど出現し移動した『ニンゲン』が出入りしている。

◆クラスメイトの自宅付近。
 メディアから女優が一般の男性と入籍していたとの騒ぎが伝えられている。雫はクラスメイトからのメールを再度読み直していた。
「確かに当たってた。でも、代償が大きすぎだよぉ」
 狐狗狸を実行した彼女たちは、直後、全員が行方不明……。青白い怪火が住宅地の屋根の上で飛び交う中、玲奈と雫は付近で手懸かりを探していたが見つからない。
 家の中では家族が刑事を交えて本人の帰宅を待っている。
「あは。散々コケにした酬いだわ」
 暗い笑いを零した玲奈の背中を、雫は軽く叩いた。
「玲奈ちゃん! ダメだよ。そーいう感情は自分に返って来るんだからねっ!」
「……はーい。なんて、言ってる場合じゃないわ。雫さん、急いで情報を集めよう!」
 ネット喫茶で消失事件を調べる二人は、早速『ニンゲン』なる海魔の情報と『太平洋上』の目撃動画で発見した。
「この、ドラゴン・トライアングルぅ? 海底の鉱石を採鉱してるみたい」
「あ、狐狗狸も金属の硬貨を使用するけど?」
「……それって、バタフライ効果みたいなものなのかなぁ」
「蝶の羽ばたきが天候をも変えてしまう。一見無関係なものが、重なり合いで現象化っていう可能性もアリじゃないかな」
 玲奈の言葉で、二人は現地、ドラゴン・トライアングルへと飛んだ。
 到着した遺跡内で待機する玲奈号。雫は祭壇と書物の山を発見し、重要な部分を開いて玲奈へ見せた。一読し、海難者を屠る海魔、ニンゲンたちの存在を知って蒼白になる。
「この祭壇は虚構に至る媒体なのね。虚構と現実が一体になってしまった。日常の中で“非日常行為”を行う事で現実に罅(ヒビ割れ)を入れ、祭壇を端末として虚構世界へアクセスできたと思われるわ。彼女たちがを狐狗狸を実行したこと、魔の海域内での採掘作業、表面上接点がないと思われるこれらの作用の結果、異世界への扉が開いたってこと」
「玲奈ちゃん危ない!」
 雫の叫びで玲奈は迫る海魔を間一髪で霊剣で倒した。気が付けば何体ものニンゲンがすぐ近くまで忍び寄っていたのだ。
「海魔たちよ、帰りなさい! 虚構と現実は一線をひくことで世界の均衡を保つのよ」
「狐狗狸で特異点になったあのコたちは、きっとこの場所にいる! 助けないと!」
 玲奈は雫と協力してニンゲンたちを退け、直ちに女生徒たちを救出した。

 後日、騒ぎの発端となった彼女たちは、玲奈への非礼を詫びにやって来た。
「本当にごめんなさい。あなたたちは命の恩人よ。……もう、狐狗狸はこりごり」
 玲奈と雫は顔を見合わせ、少し苦い微笑を交わした。