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<東京怪談ノベル(シングル)>


突撃! 隣の副会長!!

 早朝とも言うべき時間帯。
 まだ生徒達の登校時刻まで余裕があり、歩いている生徒のほとんどは聖祭の準備を務めているどこかの学科の責任者達だ。
 その人気のほとんどない校内を、工藤勇太は走っていた。

「おはようございまーす! 今お時間よろしいですか?」
「どうぞ」

 落ち着いた声は、間違いなく副会長の茜三波であった。
 勇太は耳を澄ませる。


『取らないで』
『私から取らないで』
   『取らないで』
『彼を取らないで』

 やっぱり。
 勇太は頷きながら、「失礼しまーす!!」と元気に声をかけてから、生徒会室の扉を開いた。
 三波は制服姿で、お茶を淹れている所だった。

「申し訳ありません。今生徒会長は見回りに……。あら? 昨日の新聞部の方ですよね?」
「はい! 新聞部の工藤です! 昨日は怪盗騒ぎ、大変でしたよね〜」
「ええ……」

 昨日とは打って変わって、三波の言葉にはトゲがなく、ただ困ったような顔をした。
 三波は困った顔をしつつも、「よろしければどうぞ」と、自分用と一緒にお茶を用意してくれた。

「わー、ありがとうございまーす」
「どうぞ」

 三波が淹れてくれたのは紅茶で、少し甘酸っぱい匂いがした。
 勇太はそれをフーフーと冷ましつつ、三波の勧められるままに席に座った。

「それで……昨日の何をお話すればよろしいんでしょうか?」
「ああ、そうですね!」

 勇太はメモ帳を取り出すと、それを机に広げる。

「副会長さんは、怪盗と対峙した時、どんな気分になりましたか?」
「…………」

 気のせいか。
 生徒会室の室温が、2・3度下がったような気がした。
 あっ、あれ……? 勇太は思わずブルリと身体を震わせた。

「……ようやく、邪魔者を排除できると思いました」
「邪魔者って……昨日もおっしゃっていましたけど、怪盗が邪魔なんですか?」
「そりゃそうですよ。会長の手を煩わせる怪盗なんて嫌いです」
「うーん……」

 どこまで突っ込んで質問したものかなあ……。ちらりと頭に小さな部活の先輩の事が浮かぶが、今日は聖祭準備のインタビューに行っているのだから仕方がない。
 勇太はゆっくりと言葉を選んでみた。

「いつから、そこまで怪盗の事が嫌いなんですか?」
「最初は学園が明るくなっていいな位でした。盗まれるものも……悪いですけれど、あまり私達の生活には関係ない、支障のないものばかりでしたから」
「なるほど……でも、今は嫌い、なんですよね?」
「はい」

 言い切ったなあ……。
 でも変だな、昨日怪盗は2つある秘宝の内の、1つは盗んだはずなのに。もう1つは今副会長がどこかに持っているにしても、昨日とあんまり反応が変わらないのは、何でなんだろう……?

「……よろしかったら、その嫌いな理由、教えてもらえませんか? これは俺の個人的興味なので、記事にはしません」
「…………」

 三波の視線が怖い。
 が、「いいですよ」と短く返事をして、言葉を探すように目を伏せた。

「きっかけは、舞踏会でしょうか?」
「ああ……もしかして、イースターエッグ……?」
「恥ずかしいんですけどね……」

 三波の頬がうっすらと赤くなる。
 これは……。こんな反応を、勇太は見た事があった。確かお茶会で出会ったバレエ科の子だ。あの子と同じ反応をしている。
 その瞬間、何故ここまで三波が怪盗を毛嫌いしているのかが、分かった気がした。

「大丈夫ですよ。きっと」
「……? 何がでしょうか?」
「多分ですけど、副会長が思っている程、悪くはならないと思いますから」
「はあ……」

 勇太はお茶を飲み干すと、「ご馳走様でした! インタビューありがとうございます!」と言ってから、生徒会室を後にした。

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「昨日、理事長館に泊まりに行った子がいたんだって……!」
「何それ! 海棠先輩と一つ屋根の下!?」
「いいなあ〜」

 誰かに勇太が出て行くのが見られたらしく、既に噂になっていた。
 ははははは……。もし泊まりに行ったのは自分ですと言ったら、後輩達に袋叩きにされそうで、とてもじゃないが勇太は言い出す事などできなかった。
 今朝の使えそうなインタビューはそのまま怪盗記事担当の小山連太に流しておいた。そして、自分の推測をそのまま海棠にメールで送っておいた。

『副会長、多分まだ秘宝持ってる。多分それは嫉妬の感情』

 そのまま送信しておいた。

<了>