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ダダダ!図鑑の敵は玲奈ン♪ちゃらんぱやっぱや♪
1.
「脱走だー!」
その一言が発せられたと同時に図書館の窓は破られ、ガラスのかけらと共に舞い散る3冊の本。
いや、舞い散ったのではない。
本は自らの意思でガラスを蹴破ったのである。
「あ〜やこちゃ〜ん☆むっちゅぅ」
赤い表紙の図鑑からひょろ長いすね毛が生えた足がにょきにょきと生えている。キモイ。
そんな図鑑が口付けを交わすのは藤田(ふじた)あやこの投げキッスを写した写真である。
「図鑑、あの女は目狐だぞ」
そう言ったのはシルクハットと髭と銃に関する事典。
「拙者も同感で御座る」
黒い帯に締められて中身は見えないが、中身はきっと色本…そんな彼も事典に賛同する。
「お前らまたそんなこと言って、あやこちゃんと俺の仲引き裂く気だろ〜?」
「俺は忠告しているだけだ」
「拙者、女に興味はござらん。だがお主の狙う宝とやらには興味がある」
本に手足の生えた奇妙な団体は、すたこらさっさと闇夜に紛れていった。
翌日。警視庁に呼び出されたのは、すらりとしたどことなく気迫のあるオールバックの男だった。
「IO2…インター以下略から応援に駆けつけた鬼鮫(おにざめ)だ。おのれ、図鑑の奴め〜!!」
鬼鮫は図書館の窓をぶち破って逃げたという図鑑を追って、遠路はるばるIO2から派遣されてきた凄腕の刑事だ。
図鑑逮捕を生涯の生きがいとし、図鑑逮捕に命すらかけている。
しかし、いつも図鑑に先を越されている。…よくクビにならないものだ。
「鬼鮫警部」
警視庁の若手が恐る恐る鬼鮫に話しかける。
「鬼形だ何度い…あ、兎に角今度こそ図鑑逮捕だ〜!!」
鬼形って誰だよ?
2.
『ウメボシ・ナットー・スシ・スモー』
意味不明に並べられた単語が看板の美術館に入ると何故か大きな西郷どんの石造が出迎えてくれる。
そしてこの美術館の奥には信楽焼の狸や千両箱が大切に保管されている。
そこに颯爽と現れ「これが犯行声明ね?」と鬼鮫から犯行声明文を分捕った少女がいた。
「この名探…」
「お前は迷彩パンティだろ」
「そ☆迷パンティ玲奈ンがお婆ちゃんの…って! 何言わせんのよ」
名探偵・三島玲奈(みしま・れいな)はついついノってしまって恥をかいた。
そんで、鬼鮫に当り散らす。八つ当たりです。
でも、鬼鮫さん気にしていないご様子。
「そんなことより、犯行声明文を解読するんだ! 予告時刻はあとちょっとだぞ!」
「わかってるってば。あんまり怒鳴ると血管切れちゃうよ?」
玲奈ンは犯行声明に目を落とす。
『図書館じゃあ
世話になったんや
たからばこ
明日の夜9時から
運ぶ
図鑑賛成♪』
時計の針はカチカチと耳障りなほど音を立てる。
5…4…3…2…1…!?
「ハァイ、図鑑賛成〜!」
なんと、信楽焼の狸の中から図鑑が現れた!
「鬼鮫警部! この暗号は一番最後の文字を縦読みするのよ!」
「いや、もう来ちゃってる…って、えぇ!? それ、どうでもいい情報じゃね!?」
暗号解読に成功した玲奈ンに、自信を立て直して図鑑に向き直る鬼鮫警部。
「図鑑、逮捕だ〜!」
M60を鬼鮫はぶっ放す。
だが、それをあっさりと事典のマグナムが相殺した。
「くそ! 事典め…ん? 図鑑! どこ行った!?」
鬼鮫が辺りを見回すと、いつの間にか図鑑がいない。
「落ち着いてください! あたしに任せて…判ったわ、犯人はお前よ!」
玲奈ンは指を指した。その方向には…鬼鮫警部がもう1人!?
「御免!」
ヒュッと玲奈ンの前を一瞬空気がよぎる。
はらり…。
「いや〜ん」
制服を唐竹割され、迷彩パンツ一丁になる玲奈ン。
思わず目を覆ってしまった鬼鮫警部。
「また結構な物を切ってしまった」
フッとニヒルに笑った色本が、ペーパーナイフを腰のバンドにくくりつけた。
3.
「逃がすなー! 追えー!」
玲奈ンの裸に目もくれず、走り出す鬼鮫警部。
角を曲がり、出入り口を警備していた警官に問う。
「今ここに儂が来なかったか?」
「アンタが図鑑だ!!」
なんと、何をとち狂ったのか警官たちは全員で鬼鮫を逮捕しにかかる。
「わ、わしは本物の鬼形…いや、鬼鮫警部だーーー!!」
「あばよ、とっつぁん!!」
そんな哀れな鬼鮫を横目に図鑑たちは逃げる。
「あ、あれ?」
「馬鹿も〜ん! あれが図鑑だ! わしは本物だ!」
鬼鮫は再び走り出す。今度こそ図鑑を逃がしてなるものか!
「図鑑図鑑図鑑図っ鑑♪」
館内を疾走する図鑑一味。逃げ足はいつも速い。
それに遅れを取りながら、モザイクまみれで追う玲奈ン。
…何でモザイクまみれ?
「もう! 蔵倫カット邪魔」
「…意味深だな」
鬼鮫がポッと頬を赤くする。不気味だ。
「馬鹿っ! 視界がよ」
こちらも顔を赤くしながら、答える。美少女は何をしても絵になる。
玲奈ンはモザイクを蹴散らしながら疾走する。
「図鑑! 追い詰めたわよ!」
「大人しくお縄をちょうだいしろ、図鑑!」
千両箱の展示スペースに図鑑一味を追い詰めて、玲奈ンと鬼鮫は詰め寄る。
しかし、その時だった!
「待たせたわね、図鑑!」
「あ〜やこちゃん♪」
「図鑑〜!」
満を持して登場!
藤田あやこは蝶をあしらったボディコン姿で、現れた。
「会いたかったわ〜図鑑!」
「待ちなさいよ! あなたもお縄ちょうだいするわ!」
玲奈ンがそう言って一歩前に出ると、あやこは隠し持っていた謎の薬品を玲奈ンへと振りかけた。
「や!? な、なにこ…れ…」
徐々にしわがれていく声。衰えていく肌の艶。白くなっていく髪の毛。
「こ、これは老婆!?」
そして、鬼鮫は気がついた。
「ず、図鑑はどこに行った!?」
見回すがどこにも図鑑たちの姿はない。
「し、しまった! 宝はどうした!」
「見当たりません!」
空の千両箱を持った警官がフリフリと千両箱を振って空をアピールする。
「在るべき秘蔵がない? 麻呂を呼べ!!」
騒然となる会場に麻呂が現れた!
麻呂は「zipを出すでおじゃる!」とのたまい始め、直ちに署に連行された。
「…そ、それはおいといてだな。た抜きの宝箱…空箱? ギャフン!」
「畜生! 此方はダミーかよ」
だとすると…奴らの本当の狙いは…!?
4.
『アキバ・デンノー・アイドル・メイド』
美術室の地下にはまたもや怪しげな看板が掲げられている。
その扉が少し開いており、そこから声がもれ出てきた。
「ヤツラ、この場所にすら気づいてやがらねぇぜ」
うひゃひゃひゃひゃっと笑った図鑑に、事典ははぁっとため息をつく。
「こんな物の為に来たっていうのか?」
「そうよぉ? マニアにはどれをとっても涎が止まらないほどのお宝よ?」
あやこは近くにあった人形をひとつ取った。
それはネギ姫と呼ばれる緑の髪のアイドルの人形であった。
「くだらぬ」
色本はそういいながら、ちょっとエッチな人形を目にして赤くなって俯く。
もう、純情なんだから。
「あ〜やこちゃん、これで俺のものになってくれるだろ〜?」
「あぁん、図鑑。そんなにいそいじゃ、ダ・メ・よ」
いちゃいちゃとし始めたあやこと図鑑にケッと事典は色本と首を振った。
「俺たちゃ先に帰るぜ」
「おぅ、おーつかれさーん」
しかし、帰ろうとした辞典たちよりも先に扉を開けたものがいた!
「図鑑〜逮捕だ〜…ってなんだここは!?」
「やべ、鬼鮫のとっつぁんだ!」
キョロキョロと周りを見回す鬼鮫の横をすり抜け、色本と事典はいち早く逃げ出す。
「そっちのお宝かよ! 図鑑逮捕だ〜」
等身大ネギフィギアを振り回して鬼鮫が肉迫する。
図鑑は焦った。焦りまくった。
「やっべ! にげ…え? あやこ!?」
図鑑がいつの間にかいなくなったあやこの姿を探すと、あやこは知らぬ間にフィギアをごっそりとモスカジの紙袋×2に入れて立っていた。
「悪く思わないでね? 図鑑」
ごそっとそれを持つと突然あたりに煙幕が張られる。
「あーやこーちゃーーーん!!!」
図鑑の叫び声が聞こえる中、夜空に投げキッスをしてあやこはどこへともなく走り去っていった。
〜 エンドロール 〜
アルセーヌ・図鑑・3世
事典 第4巻
色本 5円本
三島 玲奈ン
鬼鮫 警部
藤田 あやこ
パッパヤ〜パヤパ パヤパヤ〜♪
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