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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 吸血鬼に永遠の眠りを 





「…ここか…」
 何処からともなく現われた霧が廃墟となったビルの下を満たす。その霧に包まれた少年はビルを見上げて呟いた。満月の月明かりだけが大地を蒼く染める中、蒼い瞳をした黒髪の少年。黒のジャケットにベストを羽織り、白開襟シャツが顔を覗かせている。黒のズボンに黒革のショートブーツを履いたその姿は、まるで制服のようにかっちりと着こなしていて非の付けようがない。
 そんな少年、“青霧 カナエ”の耳に轟音が響き渡る。ビルの上層部から発せられた音。カナエは一瞬考え込む。
「…おかしいですね。指示では僕以外の者は来ない筈ですが…」
 そう呟くと、カナエはビルの中へと足を踏み入れた。


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*オープニング場面*

「―ぐっ…こんな仕事、引き受けるべきじゃなかったな…」
 左肩に受けた傷を右手で止血しながら、武彦は生温かい自分の血の感触を味わっていた。
「フ…、人間風情がこの私と戦おう等とは嗤わせる」
 ツカツカと革靴の音を鳴らしながら、おおよそ人とは思えない恐ろしい形相をした
吸血鬼が武彦へと歩み寄る。
「…あぁ…、全くだ…。吸血鬼なんて、常人が勝てる様な相手じゃねぇよ」
 諦めたかの様に笑みを浮かべた武彦が吸血鬼たる相手へと告げた。
「伝説上の生き物退治なんて依頼、受けなきゃ良かったと後悔してるさ」
「ならば後悔と共に血肉を屠ってくれる」
 吸血鬼が詰め寄り、鋭い爪を振り翳す。
 高額な資金を積まれ、武彦が引き受けた吸血鬼退治。やはり一筋縄で片付く様な
相手ではない。
「…とまぁ、一人だったら無理な仕事だったろうな」
 武彦は自分の背後に立つ人物の気配を感じ、静かに呟いた。
「やれやれ、遅かったじゃねぇか…」

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 武彦がそう言って振り返ると同時に、カナエが銃を放つ。銃弾は武彦の頬をかすめそうになりながら吸血鬼目掛けて飛んでいく。ダダダンッと三連発の銃声が二回。鳴り響くと同時に、吸血鬼が横へ避ける。
「…って…あぶねぇ! その上誰だ、お前!?」武彦が思わず驚きながら声をあげる。
「…それはこちらの台詞です。邪魔ですよ」カナエが表情を崩さずに武彦の横を通り抜け、吸血鬼と対峙する。「“虚無の境界”によって創り出された吸血鬼をモデルにした生命兵器、“新型霊鬼兵プロトタイプ、『ヴラド』”。命令により、あなたを処分します」
「“虚無の境界”…だと…!?」武彦が振り返る。
「…フハハハ! どうやら“機関”の回し者が来た様だな。よもや、そこの人間などどうでも良いわ」
 ヴラドが腰を落とし構える。カナエがゆらりと上半身を揺らしたかと思えば、瞬間横へと飛び、銃を放つ。相変わらずの規則的な三連音。だがヴラドが一瞬にして横へ飛ぶ。放たれた銃弾が地面を抉る。
「…この臭い…、あの男。銃弾に細工を施してるのか?」武彦が地面を凝視すると、地面には独特な臭いを放った水分が広がっていた。
「小癪な真似を!」ヴラドが周囲に満ちている霊力を体内へ取り込む。
「…“霧無消散”」カナエが手を振り翳し、霧で周囲を覆う。
「死ね!」収縮された霊力を攻撃へと変換したヴラドの攻撃が放たれる。
 激しい爆風に武彦は後ろへ吹き飛ばされる。武彦が光の収束と共に再び戦況を見つめると、そこには霧に覆われ、無傷なまま立っているカナエの姿があった。
「なっ…、無傷だと…!」
 驚くヴラドに、表情を変える事もなくカナエが間合いを詰め、ヴラドの腹部に右足による膝蹴りが入る。
「速い…!」思わず武彦から声が漏れる。
 膝蹴りによってよろめいたヴラドの顎を、カナエはくるっと反転しながら左足で蹴り上げる。顎を蹴り上げられ逸らされた身体に、カナエは銃を胸へと突きつけ、規則的な三連音を鳴らした。が、ヴラドは放たれる寸前に横へと飛び、直撃を免れた。カナエはその態勢のままヴラドへと向き直る。その表情は無そのもの。見ている武彦ですら恐怖を感じる程だ。縛ってある髪が遅れて今更真っ直ぐ地面へと降りる。
「くっ…なんという速さだ…」ヴラドが口から流れた血を拭う。
 カナエは銃の空になったマガジンをその場で落とし、ポケットから新しいマガジンを銃へ詰め込んだ。蒼い瞳が真っ直ぐヴラドを捕らえる。
 刹那、蒼い瞳の残像が残る。カナエはヴラドへと直進し、銃口を向ける。三連音が再び二回続く。
「ぐっ!」一発が避けようとしたヴラドの腕を捕らえた。
「捕らえた…」カナエがジャンプし、更にもう一丁の銃を手に持ち、ヴラドへと放つ。逃げ場を失ったヴラドが地面を殴り、階下へと逃げ降りる。
 着地をしたカナエは砂塵が舞い上がる中を淡々と睨み付け、歩き出した。
「おい、ちょっと待て!」武彦がカナエの腕を掴む。すると、カナエが武彦の腕を振り払い、銃口を額へ突き付けた。蒼い瞳が真っ直ぐ武彦を射抜く。
「邪魔をするというなら、あなたを処分します」
「ぐっ…、違うっつの。アイツを追うなら俺も行く。協力した方が確実に仕留められる筈だ」武彦が両手を挙げながら説明する。
「必要ありません。これは僕の仕事です。それに、あなたと馴れ合うつもりはありません」カナエがくるっと振り向いてヴラドの降りて行った穴へと飛び降りた。
「…何だあのガキ…」武彦はカナエの後ろ姿を見ながら思わず呟いた。





 廃ビル三階。四階にいたカナエはヴラドを追って階下へと舞い降りた。携帯電話を取り出し、何処かへと電話をかけ始める。
「…青霧です」
『カナエか。ヴラドは殺ったのか?』受話器越しに男の声が聴こえて来る。
「戦況は有利ですが、逃走を図った為、現在追跡中です。任務遂行までは時間の問題です。それと、支障はありませんが…」
『どうした?』
「このテストケースに人間が巻き込まれている様です。どう対処しますか?」
『…やれやれ、邪魔な存在だな。邪魔する様なら消して構わない』
「了解しました。ヴラド抹殺が完了次第、また…」カナエはそう言って通話を切り、走り出した。



――。




「クソ、何処へ行ったんだ…?」三階を散策しながら武彦が呟く。「畜生、依頼に呼んだヤツは来ない、知らないヤツが現われて派手に戦って、挙句の果てに『邪魔するなら処分』とか言って消えやがって…」
 武彦がそう言っていると、轟音が鳴り響く。グラグラと廃ビルが揺れ、今にも崩れ出しそうだ。武彦は慌てて窓の外を見た。
「…っ! いた!」武彦はビルの外の駐車場にカナエとヴラドの姿を見つけ、走り出した。
「…なっ…、なんつー戦いだ…」
 武彦が駐車場へと着くと、カナエが圧倒的なまで攻勢な戦いを繰り広げていた。銃弾を装填しながら、違う手でヴラドの腕や足を次々に撃ち抜き、カナエが攻撃を止める。明らかに霊力を放出し過ぎて疲弊の見えるヴラドに対し、カナエは息一つ切らす事もなくヴラドを見据えている。
「くっ、“機関”の犬…。ホムンクルスの成功例め…!」ヴラドが声を挙げる。
「ホムンクルス…!? どういう事だ…?」
 カナエが真っ直ぐヴラドへと銃口を突き付け、口を開いた。
「“強酸霧雨”…」カナエの言葉に導かれる様に周囲を満たした霧がヴラドの身体を包み込む。
「ぐぁっ…! ぐああぁぁぁ!!」強烈な酸によって身体を焼かれるヴラドが苦痛にもがきながら叫び声をあげる。
「僕が何者なのかは僕も知っている」カナエが静かに口を開いた。「僕が知りたいのは、そんな事ではありません…」
 引鉄を引いたカナエの銃から、銃弾が真っ直ぐヴラドの額を撃ち抜く。ヴラドはその場に倒れ、カナエの作り出した強酸の霧は静かにその場から消え去った。
「…終わった、のか…」武彦が唖然としながら呟く。ヴラドはもう動く気配はない。
「まだここにいたんですね」カナエが銃をしまい、武彦へと声をかけた。「余程あなたは危険がお好きな様ですね」
「…そういう訳じゃないんだが、な」武彦がポリポリと頭を掻く。「ホムンクルス。確かにそう呼ばれていたな?」
「あなたには関係のない事です。せっかく拾った命、こんな所で落とすのは賢くないと思いますが」カナエが武彦の横を通り抜ける。先程迄の冷酷な緊張感は多少は解けていた。
「“虚無の境界”に、“機関”。ホムンクルスに、吸血鬼…」武彦の言葉に、カナエは振り返らずに足を止めた。「この東京で、一体何が起こっている?」
「…あなたには関係のない事ですよ」カナエが再び歩き出す。
「なら、お前が知りたい事ってのは何だ?」歩き続けるカナエへ武彦が声をあげるが、カナエはそれ以上何も語ろうとせず、そのまま霧の中へ姿を消した。







「青霧です。任務は無事に遂行しました」
 カナエは暫く歩いた後で、携帯電話を耳に当て報告をしていた。
『ご苦労だった。戦闘データの解析をしたい。研究所に戻れ』受話器越しの男の声は相変わらず淡々としている。いつもの事だ。
「了解しました」
『カナエ』
「はい」
『さっき言っていた、巻き込まれた人間だが。機密を聞かれたなら即刻処分する事になるのは解っているな?』
「えぇ。機密は聞かれていませんし、“彼女”は既に処分しました」
『女だったのか。了解した。すぐ戻れ』
「はい」
 カナエは携帯をポケットへと突っ込み、空を見上げた。満月が相変わらず煌々と輝き、カナエの瞳を更に蒼く染めていた。
「…草間 武彦…」カナエが振り返り、呟いた。



 
      ――「…あなたは、僕の求めている“答え”を、教えてくれますか?」



                                     FIN


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登場人物:8406 青霧・カナエ

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この度はご依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。

プレに頂いた提案など、なかなか私自身楽しんで
書かせて頂きました。
意外性を求める形を強め、カナエ君の“真意”を
匂わす形で書かせて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。

それでは、また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

白神 怜司