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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Case.2 ■ 終幕 






「勇太、ここからが本番です。悪魔の力は消せますが、直接的な攻撃は私には出来ません…」凛が口を開く。
「あぁ、解ってる」勇太が再び手を翳す。「“精神汚染”≪サイコジャミング≫…!」
『ぐ…ぬおぉ…』悪魔がよろめく。『煩わしい真似を…!』
 悪魔が手を翳すと、黒い影が刃となって四方八方から勇太と凛へ襲い掛かる。勇太は凛の手を引っ張り、テレポートによってその攻撃から離れた所へと避難した。
「あっぶね…。凛、大丈夫?」
「えぇ。それより、このままでは時間ばかりが過ぎてしまいます…。早く決着をつけなければ、外で足止めしてくれている皆さんが…―」
「―大丈夫だよ」勇太が安堵に満ちた表情で凛を見つめた。
「え…?」思わず勇太の態度を見て凛の肩の力が抜ける。
「草間さんも鬼鮫も、普通の人じゃないから」さり気なく失礼な事を言って勇太が悪魔へと向き直る。「俺達がここでどれだけ時間をかけたって、絶対にやられたりしない。天使様だっているんだしさ」
「…ちょっと嫉妬します」
「へ?」
「そこまで勇太と信頼出来る関係にいるあの人達が、羨ましいです…」凛が膨れっ面でそう呟く。「私も、頑張らなくてはいけませんね」
 グッと両手を握り、気合を入れた凛に勇太は思わず笑ってしまった。
「凛、悪魔を倒す様な技とかってないのかな?」
「そんな物があれば、天使様も私も苦労してません」
「ですよねー…」勇太がタハハと乾いた笑いを浮かべる。
 そんな二人に向かって再び影が襲い掛かる。勇太は再び凛の手を握り、テレポートする。
「…勇太、時間を稼いで下さい」凛が突然勇太へと何かを思い付いたかの様に声をかけた。「出来る限りの神気を練り上げるだけの時間を」
「うん、解った。凛はここにいて!」勇太が凛を少し離れた位置にテレポートで連れた後、すぐに悪魔の目の前へと再び姿を現した。「“精神汚染”!」
『ぬ…うおおおぉぉ!』悪魔がよろめきながらも力を暴走させる。四方八方から再び影の刃が出現し、勇太へと目掛けて一直線に伸びる。
「届かないよ、そんなの!」勇太がひらりと刃の隙間を縫う様に悪魔へと間合いを詰め、腹部に手を当てる。「零距離念力!」
 轟音と共に悪魔の腹部に強烈な衝撃波が撃ち出される。悪魔が吹き飛ばされた先に、勇太がテレポートで先回りして立っていた。
「悪魔だか何だか知らないけど、もう何百年も生きて来たんだから、そろそろ諦めてよね!」幾つもの“念の槍”が具現化される。「閉じ込めてやる!」
 檻の様に幾重にも織り成される“念の槍”が悪魔の身体を縛り付け、両腕を貫き、地面へと突き刺さる。勇太は再びテレポートして凛の元へと戻った。
『ぐっ…! おのれ、工藤 勇太…!』身体を動かそうとするが、念の槍によって固定された身体は動かず、悪魔は咆哮をあげる。
「凛、準備出来た?」勇太が息を整えながら凛へと尋ねた。
「はい」白い光りを掌に集中させ、凛が目を開ける。「勇太、神気をアナタに送ります。ですが、これがダメだったら…」
「…うん、俺もだ…。フルパワー一発、全てを懸けるよ」
「…勇太、アナタが来てくれて良かった」凛が勇太の手を握り、勇太へと神気を送り込む。「例えこれで倒せなくても…」
「凛のくれた力と、俺のフルパワーなら、倒せる…!」勇太の身体に白い光りが入り込む。「そしたら、島案内ぐらいしてよね」
 勇太が笑ってそう言うと、凛は静かにこくりと頷いた。勇太が手を上へと翳す。真っ白な輝きを放つ“神気の槍”が次々姿を現す。
『ぬおおぉぉ!』悪魔が勇太の作った呪縛を解き、力を溜める。強烈な妖気が充満し、一点へと集中する。『護凰の巫女、そして工藤 勇太…! この場で葬ってくれる!』
「守る…! 俺は、絶対に今を守るんだ!」
 勇太の翳した右手から、更に幾つもの“神気の槍”が練り上げられる。その数はおおよそ百。あまりにも消費の激しい力に倒れてしまいそうになりながら踏ん張る勇太の左手を、凛がギュっと握り締める。
『死ねぇぇ!』悪魔の放った真っ黒な球体が真っ直ぐ勇太へと向かって飛んで行く。
「うおおおぉぉぉ!!」勇太が右手を振り下ろす。
 “神気の槍”の半分近く一斉に降り注ぎ、黒球を捕らえ次々と突き刺す。強烈な爆発によって視界が遮られる。憎悪によって満ちた禍々しい気が充満し、真っ黒な世界が広がる。
『フハハハ! 人間には耐えれまい! 憎悪に満ちた気の奔流は、人の精神など容易く消し去る!』悪魔の狂気に満ちた声が響き渡る。真っ黒な世界に、一縷の光りが煌く。『…そんな…バカな…』
 真っ黒な瘴気が一瞬にして吹き飛ばされる。すると、勇太が目の前で右手を差し出し、左手で右手の手首を掴んでいた。右手の先には眩しく白く輝く光が収束している。
「神気の前に、アナタの醜悪な力など及びません」凛が勇太の肩へと手を乗せ、毅然とした態度で悪魔へと言い放った。
「臭そうな爆発しやがって! これで終わりだ!」
 勇太の言葉と同時に、光りの矢が放たれる。悪魔の胸を射抜き、光りは何処までも突き進んで姿を消した。
『…ぐ…おおぉぉぉ…!』悪魔の身体が消え去る寸前、再び悪魔の目の前に黒い球体が生み出された。
「…げ…」
『…道連れ…に…してくれる…!』球体は先程と同等の大きさを形成していく。
「…万事休す…ですか…」凛がその場に崩れる。
「…でも、俺達がここで死んでも、悪魔があれを撃って死ねば、皆守れる…」勇太もその場に座り込み、小さく笑った。
「…私も、アナタと一緒なら…」凛が勇太の手を握る。
『…フフ…フハハハ…――』
「――させません」真っ白な羽が勇太と凛の視界に飛び込む。
「天使…様…!?」凛が思わず声を漏らす。
「いいえ、私はエストによって生み出された器。一度は悪に染まった者です」
「黒い髪に、白い翼…。灰色の翼じゃない…」
「貴方達のおかげで、この者からの呪縛は解けました。器として、最期の役目を果たします」エストの器が悪魔の作り出した球体へと腕を伸ばす。
『…死に損ないが…』悪魔の身体が崩れ出す。
「さぁ、何百年も続いた均衡に、幕を引きましょう。私と共に、無へと帰るのです…」
「天使様…!」
「ダメだよ、そんなの…!」
「貴方達は帰るのです。いるべき世界へ…」天使の声と共に、勇太と凛の意識が現実へと引き戻される。
 勇太と凛は現実に戻る瞬間に見ていた。器である“灰色の天使”が、本物の天使の姿をして悪魔と共に強烈な爆発の中へ消えて行く姿を…――。



「…っ!」エストが何かに気付いたかの様に悪魔を見つめた。「…終わりましたね…」
「…そうみたいだな」鬼鮫が刀を鞘へと収め、巨大な悪魔を見た。悪魔の姿が崩れ始め、動く気配すらない。
「…ったく、長い戦いだった…」武彦が銃をしまい、勇太と凛を見つめた。「…にしても、たいしたガキだよ」
「帰って来たのですか?」エストが歩み寄る。「…あら…」
「ガキ共、だな」鬼鮫もまたそう言って、勇太と凛へと歩み寄った。「力を使い切ったか…」
「そうみたいだな…。随分安らかな眠りだ…」
 三人に囲まれながら、勇太と凛はその場で眠りこけていた。疲労困憊で崩れる様に眠っていた二人は、お互いを支えた戦いの名残か、抱き合う様に眠っていた。
「…ディテクター、何してる?」
「いや、記念に映像として保管してやろうと…って、うお!」インスタントカメラを構えていた武彦の目の前を鬼鮫の刀が横切った。「あぶねぇだろうが!」
「野暮な真似しようとするからだ」鬼鮫が鞘へ刀を収めると、武彦の持っていたカメラが真っ二つにパカっと割れた。
「…ったく…、冗談の通じない男だ…」武彦がポリポリと頭を掻く。「ま、とにかく二人を運ぶか」
「そうですね」
「すぐに部屋を用意しよう」ただ黙って見ているだけだった神主が口を出し、そそくさと準備をしに向かった。





――。




「…う…ん…?」
 目を覚ました勇太はかすれた視線の中に気配を感じて思わず目を見開いた。
「…おはようございます」薄い部屋着を身に纏った凛が勇太の真正面で横になりながら勇太を見つめて穏やかに微笑んだ。
「凛!? 何で俺達…! 同じ部屋で寝てんの!?」思わず起き上がる勇太。
「あら…、忘れてしまったのですか?」凛が唐突に寂しげな表情を浮かべる。「昨夜は寝食を共にし、初めて二人きりの夜を過ごしたというのに…」
「嘘つけ! 外暗いし今夜じゃん!」勇太が窓を指さす。
「あら、意外と冷静ですのね」クスクスと凛が笑う。「どうやら悪魔との戦いの後、私達は眠ったままここに運ばれた様です」
「…な…、なんだ…。良かった…。人生で冒しちゃいけない過ちをしたのかと思った…」勇太の身体から力が抜ける。
「勇太が望むのなら、今夜にでも…―」
「―あー、お取込み中悪いな」武彦が部屋の襖を開けて声をかける。「目が覚めたらエストが呼んでくれってよ」
「行く! すぐ行く!」勇太が立ち上がり、逃げる様に走り出す。
「天使様も無粋な真似をされるのですね…」相変わらずクスクスと笑いながら凛が勇太について部屋を出て行った。
「やれやれ…」武彦も歩き出した。
「そういえば草間さん。鬼鮫は?」勇太が振り返り、武彦へと尋ねた。
「IO2に事後報告があるってんでお前が起きるのを待たずに出て行ったぞ」
「そっか…」
「IO2とは?」凛が口を挟む。
「んーと、超常現象専門の警察みたいなモンかな。秘密裏に特殊な能力者を囲ってたり、そういう能力で犯罪を犯す人間を取り締まったりしてる機関があるんだ」
「ま、おおまかに言えばそんな機関だな」武彦がそう言って凛を見つめた。「どうした?」
「…いえ、何でもありませんわ」凛がホホホと笑いながらさっさと前を歩いて行く。
「驚いたのかな?」勇太がきょとんとしながら武彦に伝える。
「…さぁて、どうかな?」クックックと小さく武彦が笑う。「勇太、頑張れよ」
「何が?」
「別に何でもねぇよ。ホラ、そこの部屋だ」



Case.2 to be continued...