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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 吸血鬼に永遠の眠りを 





「遅かった…じゃないっ!」武彦の後頭部に強烈な拳骨がヒットする。
「いって! ちょ、ちょっと待て! シリアスな上に怪我人だぞ!?」
「何故私を待たないっ!」冥月が詰め寄る。「吸血鬼相手に単独でどうにかなるか! それに、こんなメモ一枚残して…!」冥月の表情がみるみる紅くなっていく。

 メモにはこう書かれていた。

『吸血鬼が現われたらしい。
今夜、そこに行って吸血鬼を討つ。

危険が伴う仕事になるだろうが、お前を危険な目に合わせたくはないってのも本心なんだがな…。

何とか帰って来れたら、傷の手当と看病ぐらいは頼むかもしれないが…。
(ナース服でよろしく!)』


「私を危険に合わせたくない気持ちは嬉しいが、何だその最後に書かれた(ナース服でよろしく!)はっ!」顔を真っ赤にさせながら冥月が武彦をもう一度拳骨で殴る。「べっ、別に着てやらない事もないが…、それよりも勝てるか解らないだろ!」
「いってて! いやいや、悪かったって!」武彦の手を冥月が掴み、握り締めた。
「心配させるな…、バカ…」
「…悪かった」
 顔を紅くして涙目になりながらそう告げた冥月に、思わず武彦は恥ずかしそうに頬を掻きながらそう告げた。
「貴様ら、この私の目の前でフザけた茶番を…!」吸血鬼から強烈な妖気が発せられる。
「今馬鹿を叱っている所だ、少し待ってろ。後で遊んでやるから」そう言いながら冥月が指をパチンと鳴らす。
 軽快な音と共に周囲から影が伸びて来て吸血鬼の身体を縛り上げる。吸血鬼がグっと力を込め、影の拘束を解こうとする。
「良い事を教えてやろう。影は物理属性で一つの次元と同等の力を持っている。つまり、次元の壁を壊せる程の力が無ければ外す事など不可能だ」冥月がそう吸血鬼に告げ、再び武彦へと向き直した。「武彦はここで待っていてくれ」
「…っ! あぁ…」
「くっ、おのれ…」吸血鬼が冥月を睨み付ける。
「ここではお互いに本気では戦いにくい。場所を移そうか」再び冥月が指を鳴らす。吸血鬼の足元に真っ黒な空間が開き、吸血鬼を飲み込む。冥月もまた、自分の影へと飛び込み、姿を消した。




「…さて、武彦を傷付けた罪は重いわよ、吸血鬼」冥月に先程までの砕けた雰囲気はなく、ただ恐ろしい程に冷たい殺気が流れる。冥月の放った影の呪縛は解けているにも関わらず、吸血鬼はその冥月の放つ殺気に身を強張らせていた。
「フ…フハハハ! 人間風情にしては随分と心地良い殺気を放つな、女…」
「いつまで笑っていられる?」フッと冥月が地面を蹴ると、冥月の姿が消える。「影剣!」
 吸血鬼の背後に現われた冥月の言葉に呼応する様に、漆黒の刃が冥月の右手に現われ、冥月は吸血鬼の背後から首を一閃で狙う。が、吸血鬼が間一髪の所でその攻撃をかわし、間合いを取ろうと前方へ逃げる。
「逃がすか!」冥月が手を地面に叩き付ける。
 次の瞬間、何もない影の空間から次々に漆黒の刃が現われ、吸血目掛けて伸びる。影槍は吸血鬼の身体を串刺しにしようと全方位から一斉に現われた。
「はぁっ!」吸血鬼が影槍に身体を貫かれながらも冥月目掛けて妖力を凝縮した魔弾を口から放つ。
 冥月は影盾を纏い、それをなんとか耐えた。強烈な爆風が巻き起こる中、再び冥月は吸血鬼を睨み付ける。
「クックックッ…、意味がないな」吸血鬼の身体に出来た影槍によって生まれた傷跡が回復していく。「実力は確かにあるが、相性が悪かったな」
「…しぶとい…」対する冥月は能力の乱用と吸血鬼の放った魔弾によって多少なりとも体力を削られている。「…さすがは不死の王」
「フ、人間風情が私に傷を付けるだけでも大したもの…。その褒美に、貴様の血肉は私が残らず喰らってやろう!」吸血鬼が間合いを詰めに一足で地面を蹴り、冥月へ襲い掛かる。
 振り下ろされた鋭い爪から放たれる斬撃。冥月は動きを読み、その攻撃の隙間を縫う様に吸血鬼へと詰め寄り、腹へ一撃食い込ませ、クルっとまわりながら顎を左足で蹴り上げた。更にジャンプし、攻撃によって隙の出来た喉を目掛けて冥月が右足で蹴りを入れる。吸血鬼の身体は吹き飛ばされた。
「…まったく、人間なら確実に死ぬんだけどね…」冥月が呆れた様に吹き飛んだ吸血鬼を睨み付けながら呟く。
「そうですねぇ、私が人間なら、ね…」吸血鬼は再び立ち上がる。「動き、的確な急所への攻撃、どちらを取っても素晴らしい」
「褒められても何も出ないぞ」再び冥月が手を着く。影槍が幾つも生み出され、それらが集結して一本の太い槍に変わる。「これならどうかな?」
 冥月の言葉と同時に影槍が吸血鬼へと一直線に伸びる。吸血鬼が跳んで避けようとした瞬間、吸血鬼の周囲にあった影が吸血鬼の身体を拘束する。
「しまっ…―」
「跡形もなくなるまで攻撃したら、どうなるのかしらね」冥月がクスっと小さく笑う。
 影槍が吸血鬼を貫く。ドラム缶程ある大きな槍が吸血鬼の身体を貫き、更にぐるりと回り、上空から真っ直ぐ吸血鬼を押し潰す。
「…まさか、その程度じゃないだろうな?」
 冥月が息を整え、吸血鬼の立っていた所へと声をかける。
「ご明察」背後から突然吸血鬼の声が聞こえ、冥月は影盾を一瞬で作り上げ、魔弾を零距離で受け止めた。衝撃に吹き飛ばされながら冥月は影盾を消し、クルっと回って着地した。
「危うく私が跡形もなく消される所だったな」冥月が吸血鬼を睨み付ける。
「フフフ…。大した実力だ」吸血鬼は身体を回復しながら冥月へと告げた。「人間でありながらその冷徹さに、身のこなし。自己修復能力がなければ既に私も殺されていた」
「…何が言いたい?」
「気付いているだろう? 貴様の攻撃は確かに強い。だが、私を殺すには足りないのだよ」吸血鬼が完全に回復を遂げ、首を鳴らす。「貴様の能力は我々妖魔に近しい能力だ。私の力を完全に削るには足りないのだよ!」
 吸血鬼が間合いを詰め、鋭い爪を突き立て冥月の身体を貫こうと突き出す。が、間一髪で冥月が避けた。吸血鬼は冥月の足を掴んだ。
「くっ…!」
「フハハハハ!」吸血鬼が冥月の足掴んだまま身体を振り回し、地面へと叩き付けた。
「がはっ…!」背中から叩き付けられた冥月が吐血する。「この!」
 影剣を再び具現化し、吸血鬼の腕を斬り落として冥月は後ろへ跳んだ。
「どうした、追撃しないのか!?」吸血鬼が腕を再び修復し、冥月へと飛び掛る。
「…余裕に満ちている様だが、随分防御力そのものは落ちて来ているな。妖力が底を尽きるのも時間の問題か?」飛び掛る吸血鬼に、冥月は血のついた口元を薄らと歪ませながら呟いた。「影槍!」
 周囲から伸びた槍が吸血鬼の身体を貫き、その場に固定する。
「ぐっ…! こんな事をした所で…―!」
「―今のおまえに、“攻撃を防ぐ”という概念は消えている様だな」冥月がクスっと小さく笑い、指をパチンと鳴らす。「そういう訳だ、武彦」
 吸血鬼の背後の影から銃を構えた武彦が姿を現す。
「フ、人間が増えた所で…―!」吸血鬼が口を開き、魔弾を放とうとした瞬間、冥月の操る影が吸血鬼の口を縛り上げる。
「―武彦に花を持たせる為とは言え、なかなか手こずらされた。終わりだ」吸血鬼を挟んでいる武彦には聞こえないぐらいの小さな声で冥月が静かに告げる。
「うおおおぉぉぉぉ!」
 武彦が銃を放ち、吸血鬼の身体を捕らえた。余裕に満ちていた吸血鬼の目が見開く。冥月が影を消し去る。
「…お…おぉぉ…! どういう…事だ…!」ボロボロと崩れ出す自身の身体を見つめて吸血鬼が叫ぶ。
「最高位の洗礼受けた銀の弾丸の味はどうだ?」冥月が歩み寄りながら影剣を構える。「誤算だったな。自己治癒能力を過信したお前の負けだ」
「お…おのれ…、人間…!」
 吸血鬼の首を冥月の影剣が斬り落とす。武彦によって放たれた銀弾で力を失った吸血鬼の首が跳ねられ、灰となって消滅する。
「…終わったか…」武彦が冥月を見つめると、冥月ががくっと膝をついた。「…っ! おい、冥月!」
「…くっ…、さすがに疲れてしまった様だ…」意識を失いかけ、倒れそうになった所で武彦が冥月を抱き止めた。「…っ!」
「大丈夫か!?」
「…〜〜〜〜っ! ばっ、バカ! 大丈夫―」冥月が顔を紅らめながら武彦から離れようとするが、能力の乱用による疲弊で身体に力が入らず、ぽすっと武彦に身を預けてしまう。
「…ったく、無茶するな」武彦は相変わらず冥月を抱き締めたまま呟いた。「俺が確実に止めを刺せる様に、削り合いの消耗戦を続けていたんだろ」
「ちっ、違う! 勘違いするな!」
「はいはい。まぁ良いから、とりあえず帰るぞ」武彦がそのまま冥月を抱き上げる。
「なっ、これはお姫様―…! 武彦、これは…その…嬉しいが恥ずかしいというか、私のイメージが…―」
「―俺とお前しかいないのにイメージもクソもあるか」武彦がそう言って冥月の顔を見つめた。
「〜〜っ! もうっ!」顔を真っ赤にした冥月が武彦の胸に顔を埋めて指を鳴らす。影の世界から現実の世界へと戻る。
「お、戻ったか…。んで、この格好が嫌ならおぶってやろうか―」
「―このまま…っ!」冥月が武彦を見ずに顔を埋めたまま口を開いた。「…このままで…良い…」
「…はいはい。帰ろうか」

 武彦がそのまま歩き出す。


 武彦の服をキュっと握り締めた冥月は、独特の煙草の匂いを感じながら、頬を紅潮させながら、静かに目を閉じていた。





                                FIN


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依頼参加、有難う御座います。
お久しぶりです、白神 怜司です。

久々の黒 冥月さんの物語り、書いている私が
ニヤニヤとしてしまうこの末路…!

ツンデレは最強です…!←


さてさて、異界の方の“恋の進展具合”ですが、
実は私もどこまで進めようか迷っております。


むしろ指定頂ければ織り交ぜながら進めていこうと…(笑)
と、言っている傍からご依頼頂いてましたね(笑)




今後指定して頂ける範囲まで、二人の恋も進展させますので、
お気軽にご指定下さいませ(笑)

白神 怜司