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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦【暁襲】




■■キューバ島本島、港町■■

 玲奈は母との戦いによって負ってしまった心の傷を癒すべく、日本から離れた島へと訪れていた。目的地は、かの有名なピーターパンのモデルともなった島、通称【青年の島】へと向かっていた。
「貧困層?」玲奈が港へと訪れると、船乗り達の言葉が耳に入って来た。
「昨日の人魂騒ぎと言い、今朝の貧困層の子供達と言い、気味の悪い事件が続くなんてな…」
「あぁ、全くだ。貧困層の子供達は金も知恵もない筈だ。自分達で何処かへ行くとも思えないんだがな」
 玲奈はふと周りを見回す。騒々しい港の光景は、確かに活気溢れる港と言うよりも、混乱に染まっている様にすら見える。
「船、出してくれるかな…」



 玲奈の心配を他所に、玲奈が乗る予定だった船は沖合いへと走り出した。
 どうやら客らしい客は玲奈以外にはいないらしい。先日の騒動と今朝の一件の後だ、無理もないだろう。玲奈はそう思いながらスッキリと晴れた太陽の下を船が風を切りながら進んで行く船の上から海上を見つめていた。


 暫く海上を進み、航海が順調かと思われた中、不意に周囲に霧がかかる。


「か、舵が…っ!」
 吸い込まれる様に霧の中に進んだ船。船内から船員達の慌てふためく声が聞こえてくる。そんな船を嘲笑うかの様にゆらゆらと揺れる光源が船へとまとわりつく。船員達が恐怖に慄く。
「う、うわああ! 人魂か…!!?」船員の一人へと光源が近寄る中、玲奈は瞳を閉じた。
「……目標補足。…発射」ブツブツと玲奈が呟くと同時に、空から一筋の光りが降り注ぐ。
 空から降り注いだ一筋の光りが船を囲う様に飛んでいた人魂を一瞬にして無へ帰す。
あまりに一瞬の光景に、船員達は何が起きたのかを飲み込めていない様だ。衛星軌道上にある兵器から攻撃をした事など、普通の人間からすれば推測出来る筈もない。
「あの、大丈夫ですか?」玲奈が船員へと声をかけた。「【青年の島】はあとどれぐらいでつきます?」
「あ、あぁ…。もう半分は過ぎたからな…。あそこに見えるのが【青年の島】だが、今の事件もあるし、一度本島へ戻るかもしれないな…」
「解りました。あとは自分で行きますね」玲奈はそう言って船から飛び降りた。
「え、ちょっと…―!」







■■キューバ首都内■■


 玲奈が船に乗って港を出ようとしていた頃、通学途中の子供達を乗せたバスが暴走しているという事件が起き、街は騒然としていた。
「状況は?」現地についた少女が尋ねる。独特なパワードプロテクターに身を包んだ少女を見るなり、何人ものスーツの男達が敬礼をする。
「通学バスが暴走しています。現在は首都高インターの螺旋状出入り口を何度も折り返しては上り下りを繰り返している様で、運転手は既に死亡している模様です」一人の男が少女に状況を説明する。「中には子供達を乗せている為、強硬手段に出られないままでして…」
「そうですか。後は私が当たります」
「ハッ、お願いします」男が敬礼をすると、少女は一瞬で姿を消した。
「先程の少女は何者ですか?」一人の若い男が少女に状況を説明していた男へと尋ねた。
「『ヴィルトカッツェ』の二つ名を持つエージェントだ」
「なっ…、あんな子供が、あの有名な…?」
「あぁ、“茂枝 萌”だ」

 萌がバスの走行路である壁の上へと姿を現す。
「…迂闊に手を出せば、バスは進路を変えて大惨事になりかねない…。迂闊に手が出せない…」萌が向かって来るバスを見つめながら策を練る。
 その瞬間、バスの中に載っている子供達が突然光りに包まれる。そして萌は自分の目に映った光景に、思わず目を疑った。
「大人になった…!?」萌が言葉を漏らす。更に次の瞬間、バスが忽然と姿を消した。「…どういう…事…!」









■□青年の島□■



 玲奈は海岸で魚人から人間の姿へ戻り、陸へと上がった。真正面に目に付いたのは仰々しく設置された柵と、立ち入り禁止の標識だった。
「…何だろう、あれ…」
「パノプティコン。監視塔を中心とした全周型の刑務所の遺跡です」不意に玲奈に声をかける少女。そこには萌の姿があった。「IO2戦略創造軍情報将校、三島 玲奈さん。こんな所でお逢いするとは思いませんでした」
「茂枝 萌さん、だったわね。NINJAを身に纏うエージェント、『ヴィルトカッツェ』」玲奈が萌へと返事をする。「どうしてこんな所に?」

 萌は首都内のバスジャックの一件を玲奈に説明し、その失踪と貧困層の子供達の失踪
や人魂の事件との関連性を疑い、ここへ来たのだと説明をした。

「―…将校殿は何故?」
「そんな呼び方しないでよ〜」玲奈がアハハと笑う。「玲奈で良いよ。あたしは童心にかえりたくて、観光ってトコだったんだけど、そうも言ってられなそうだねぇー…」
 玲奈がパノプティコンを見つめる。やはり人の気配がする。どうやら萌の推測は的を得ている様だ。
「すみません、せっかくのお休みを巻き込んでしまって…」
「ううん、萌さんが謝る事じゃないから」玲奈が笑う
「行きましょう」
 玲奈と萌がパノプティコンへと侵入する。すると、少年や少女が銃を構えて警備をしている様な姿が目に飛び込んできた。
「…当たりですね。あの子達は消息を絶った子供達です」萌が声を殺しながら玲奈へと説明をした。
「どういう事…?」玲奈が近付こうとした瞬間、足音に気付かれる。
 子供達が銃を構え、玲奈達へと銃撃を開始した。
「くっ…、ここは二手に別れましょう」萌がそう言うと、姿を消して何処かへと向かう。
 玲奈は銃撃を辛くも回避しながらパノプティコンの外へと逃げ延びた。
「相手が子供だから手が出せないだけじゃない…、死角がないわ…!」玲奈は再びパノプティコンへと目を移す。「…あの監視塔から指示をしている人間がいる…」
 一度玲奈は本陣を構える監視塔から、敷地内を調べに歩く事にした。萌は先程別れたが、銃声はしない。うまく潜り込めたか、或いは…―。
「…そうだ」
 玲奈が水着を着用し、擬態をする。坊主頭に水着姿の玲奈に先程迄の面影はない。その姿で再び入り口へと向かう。
「おい、見ろよ」
「ふぇ?」門番をしていた男女の子供が玲奈を見つけ、男の子が近寄る。
「珍しい生き物だな…」少年が近寄る。
「…お腹空いた…」玲奈がわざと片言で喋ってみせる。二人の子供は驚いた様な表情を浮かべるも、キョロキョロと周りを見回した。
「来いよ、中で食べ物あげるよ」




□□パノプティコン内部□□


「成程。そういう事でしたか」
 少年や少女から情報を収集した後、玲奈が先程の子供達をまいて萌と合流し状況を説明した。
「…貧困を救済する為に取って変わる。聞こえは良いけど、所詮はまやかしよ」玲奈が苦々しげに萌へと呟いた。「これはまるで、搾取の縮図…!」
「この施設は破壊しますか?」
「子供達の希望を打ち砕く様で心は痛むけど、こんな施設は無い方が良い…!」
「…解りました、行きましょう」


 萌と玲奈は見張りを掻い潜り、萌が爆弾をセットしながら最深部へと足を踏み入れた。情報を調べていた萌が声をあげた。
「これは…」
「…何かあったの?」
「延々続く搾取の連鎖…社会的永久機関…地球脱出船の動力源…三島…」
「…そんな…まさか…」
 萌の設置した爆弾により、爆破が開始する。萌は機密文書を胸元にしまい込み、玲奈へと目を移した。玲奈はギュッと唇を噛みながら呟いた。
「…負の遺産…!」
 爆破される施設の中、子供達が次々に絶望する様に天を仰いで倒れていく。皮肉にも、子供達のエネルギーを利用していた装置が爆破され、子供達は次々に命を摘まれていく。
「…許さない…! 絶対に!」
 玲奈の決意を秘めた声が、爆音の中で響き渡る…―。





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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

萌の登場により、どう繋げるかを悩む場所3でしたが、
同じIO2関係者という事で今回は
この様な立ち位置で書かせて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。

それでは、今後とも、機会があれば
宜しくお願い致します。


白神 怜司