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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 吸血鬼に永遠の眠りを






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 廃墟のビルの中、満月の輝く夜に似合わない激しい爆音が鳴り響く。

「―ぐっ…こんな仕事、引き受けるべきじゃなかったな…」
 左肩に受けた傷を右手で止血しながら、武彦は生温かい自分の血の感触を味わっていた。

「フ…、人間風情がこの私と戦おう等とは嗤わせる」
 ツカツカと革靴の音を鳴らしながら、おおよそ人とは思えない恐ろしい形相をした
吸血鬼が武彦へと歩み寄る。

「…あぁ…、全くだ…。吸血鬼なんて、常人が勝てる様な相手じゃねぇよ」
 諦めたかの様に笑みを浮かべた武彦が吸血鬼たる相手へと告げた。
「伝説上の生き物退治なんて依頼、受けなきゃ良かったと後悔してるさ」


「ならば後悔と共に血肉を屠ってくれる」
 吸血鬼が詰め寄り、鋭い爪を振り翳す。

 高額な資金を積まれ、武彦が引き受けた吸血鬼退治。やはり一筋縄で片付く様な
相手ではない。
「…とまぁ、一人だったら無理な仕事だったろうな」
 武彦は自分の背後に立つ人物の気配を感じ、静かに呟いた。



――



「やれやれ、遅かったじゃねぇかって…いてててて!」武彦の右脇腹をギュっと何かが抓る。
「おい、なんだこれは」明らかに不機嫌な表情で“有栖川 風”が武彦をじとっと睨みつけた。
「ちょっ…、まてまてまて! 痛い痛い痛い!」
「急な呼び出しで来てみれば、伝説上の生き物の吸血鬼が相手じゃないかっ…。 マンガや本で見る分には解るが、退治なんてボクには出来ないぞ、まったく」溜息混じりに風がそう言って手を放す。
「まぁ、そう言っておきながら来てくれただけでも有難い…」左肩よりも痛む右脇腹を擦りながら武彦が呟く。
「持ち上げたって、喜んだりなんかしないぞ。ボクはか弱い女子だぞ」両手をグーにして上へ上げて風が反論する。
「下らないやり取りは終わりか?」吸血鬼が襲い掛かる。
「…っ! 風!」武彦が慌てて風を抱き上げる様にそのまま横へと避ける。「くっ…!」
「…まったく、こんなヤツを相手にしなきゃいけないなんてな…」風が武彦の横に立って睨み付ける。「倒すのはお前だぞ、武彦」
「解ってる…!」武彦が構える。
「いつまでフザけているつもりだ、人間!」再び吸血鬼が襲い掛かる。
「ったく、こんなヤツの裸を見なきゃいけないなんてな…」ブツブツと文句を言いながら風が瞳を閉じ、再び眼を開ける。金色の輝きを増した風の瞳が吸血鬼を捉える。「左へ飛べ、武彦!」
「あぁ!」
 武彦と共に左へと飛んで風が再び吸血鬼の姿を捉える。
「やれやれ、気色悪い見た目の割りに無駄のない造りだな…。目視は精度が落ちるからやりにくいが…」吸血鬼の衣服を透過しながら風がぼやく。「武彦、来るぞ! 突っ込んで来る!」
「そうと解ってりゃ…!」武彦が先に一歩前へ踏み出す。一瞬遅れた後で吸血鬼が飛び込むが、武彦の一歩で間合いの計算が狂う。「おっらぁ!」
 頭を下げて突進した吸血鬼の顎を拳が捕らえる。
「ぐっ…! 人間風情が…!」
「右手が来る! 左後方へ飛べ!」
 武彦が風の声に応える様に指示に従う。吸血鬼の攻撃が空を切る。そのまま後ろへ下がり、吸血鬼が口を拭う。
「…小娘…。貴様、どうやら私の行動が読める様だな…」
「気付いたらしいが、気付いた所でどうにか出来る物でもないだろう」風がしれっと答える。「筋肉の動きが解れば思考は駄々漏れ状態。お前がどれだけ強く、素早くても行動パターンが読めるからな」
「なら、これはどうかな?」吸血鬼が口を開く。漂う妖気がみるみる凝縮する。
「…っ! 武彦、逃げろ!」
「何処へ!?」
「読めないから逃げろって言ってるんだ!」
 風と武彦がお互いに横へ飛ぶ。吸血鬼の口から放たれた凝縮された妖気の弾が放たれ、ビルが揺らぎ、光の弾が壁を貫通していく。
「ほう、よく避けたものだ…」吸血鬼が嘲笑う。
「…おいおい、怪獣じゃねぇんだぞ…」武彦が顔を出す。
「だー!」風が崩れた瓦礫の中から立ち上がる。「武彦、あんなの何発もぶっ放されたら迷惑だ! 攻めるぞ!」
「どうやって!?」
「今のを使われたら何発も使われたら迷惑だ。溜め込む間のちょっとした時間が発生する。その時間を与えなければいくらでも攻めれる」風の頬を汗が伝う。「クソ、消耗が…激しい…」
「…迷っている暇はない、か」武彦が胸元から銃を取り出す。「銀を使ったペイント弾だが、弾数は限りがある。十二発。それでどうにかするしかないか…」
「上等だ。動きはボクの言う通りに動けば良い。それでも倒せなければ、ザ無能の称号をくれてやるぞ」
「頂きたくはないがな…」
「いくぞ!」風の声に武彦が走り出す。
「人間風情が、なかなかしぶといではないか!」吸血鬼が迎え撃つ様に構える。
「右腕から来るぞ、左へ開け!」風の声に武彦が応える様に外へと走る。「左足を重心に身体を捻るぞ! 左足を撃て!」
 武彦のペイント弾が吸血鬼の左足へと直撃する。弾けたペイントのカプセルから銀が飛び散り、吸血鬼の身体を焼き付ける。
「ぐっ…! おのれ!」吸血鬼が武彦を睨み付ける。
「顔を狙え!」風の指示で武彦が吸血鬼の顔へと銃口を向ける。が、僅差で吸血鬼が身体を捻って避ける。「捻るぞ! 右下に撃て!」
「ぐあぁぁ!」
 風の指示通りに右下へと撃つと、吸血鬼の避けた先へペイント弾が飛び、吸血鬼の左肩を焼き付けた。武彦が後ろへ一歩下がる。
「上々だ…、この…調子で…いくぞ…」風の息が切れる。能力の酷使による体力の著しい低下。最も危惧するべき状態だった。
「…小娘…! 貴様から片付けてくれる…!」
「しまっ…―!」
 吸血鬼が風へと目掛けて突き進む。が、武彦がそれを察知し、吸血鬼と風の間へと割り込み、風を庇う。
「ぐ…っ!」左肩に突き刺さる吸血鬼の鋭い爪が武彦の傷を抉る。「うおおぉぉ!」
 武彦が吸血鬼の腹部へと銀弾を連続で撃ち続ける。
「ぐっ、おおぉぉ…!」
 吸血鬼の身体を焼き付ける銀、放たれる異臭。吸血鬼は武彦の肩から爪を引き剥がし、後ずさりながら激痛に悶絶していた。武彦が倒れ込もうとした所で風が武彦を支える。
「だ、大丈夫か…」武彦が左肩を抑えながら崩れ落ちる。
「む、無茶をするな!」風が急いで武彦の身体を透視能力を使って調べる。「…クソ、傷が滅茶苦茶だ…。武彦、ベルトを貸せ」
「ちょ…、何を」慌てる武彦のズボンからベルトを引き抜き、風が武彦の肩へ巻きつける。
「…はぁ…はぁ…」再び透視能力を使って血管の位置を推測しながら傷口を縛る。
「バカ野郎! 体力の消耗が激しいのに俺なんかに能力を使ってたら―」
「―バカはキミの方だ…」激しい体力の消耗に息を切らせ、眼が翳む。風は今にも倒れそうな身体で言葉を続けた。「ボクの事は…放っておけば良かったんだ…。キミが倒れたら…この戦いには…勝てないだろう…」
「…っ!」武彦が思わず言葉を飲み込む。「…勝つぞ、風…」
「当たり前…だ…」
 武彦が立ち上がる。
「…おのれ、人間風情がいつまでも…!」吸血鬼が力を振り絞って飛び掛る。
「…こっちも最期の一発…だ」武彦が吸血鬼を睨み付ける。「くたばりやがれ…」
「今だ、屈め!」風の言葉に武彦が屈む。
「なっ…―!」空を切った吸血鬼の攻撃。そして吸血鬼の目に映った光景は、武彦から銃を受け取った風が銃を構え、真っ直ぐ吸血鬼へと銃口を向けている姿だった。
「いくら吸血鬼と言え、顔から銀を浴びたらどうなるか…」風が引鉄を引く。
「ぐっ、ああぁぁ…!」吸血鬼が苦しみ、断末魔の叫び声をあげる。身体が溶けていく。「くっ…! 何故…!」
「愚問だよ」風が溜息混じりに呟く。「さっき武彦がキミの顔を狙った時、顔に当たる事を無理やり避けて肩に攻撃を受けた…。…キミは、反射的に弱点を庇ったんだ…」
 銀に焼かれ、溶け出す様に崩れていく吸血鬼に向かって風が静かに言った。体力の消耗に、もう立っている事も出来ない程に身体の力が抜けていく。倒れ込もうとした瞬間、武彦が風の身体を受け止め、そのまま力なく二人が崩れ落ちる。
「痛…っ!」
「自業自得だ…」風が鞄から牛乳を取り出し、倒れ込んだまま飲み干す。「まったく…、さすがにボクも死ぬかと思ったぞ…」
「まぁ…お陰様で俺も助かった…。今回ばかりは…お前がいてくれて助かった…」
「…なら、今度千葉に連れてけ」
「千葉?」
「“世界の猫グッズ博物館”があるらしい…。一度行きたい…」
「…二人でか?」
「他に誰がいる。言っておくがデートじゃないぞ」
「…あぁ、解ったよ」小さく笑って武彦が呟く。その瞬間、カラカラと石が転がる音が鳴る。「…っ! まさか、仲間…!?」
「…いや、あれは…―」風が顔を覗かせる。「…っ! あれは…っ!」
「どうし――」
「―ねこおおおおおぉぉぉ!」眼を輝かせ、風が一瞬で眼をキラキラと輝かせる。
「なっ…」思わず武彦がビクっと身体を強張らせる。武彦が身体を何とか起こし、風の視線の先を見つめると、風のあまりの叫び声に身体を強張らせた仔猫が立っていた。
「おいでおいで〜」風がパタパタと手を仰ぐ。「…おいでおいで〜…」
「…明らかに警戒しているな…」
「…来ないなら、捕らえてみせよう、仔猫ちゃん…(字余り)」風が凄まじいスピードで飛び掛る。「にゃぁぁぁぁああ!」
「…やれやれ、さっきまでの疲れは何処に行ったんだ…?」武彦が呆れた様に呟いて風を見た。風は怯えて逃げ惑う猫を凄まじいスピードで追いかける。
「武彦! 早く行くぞ! 見失う〜!」風が遠くで叫ぶ。
「…はいはい…」
「たけひこぉぉ! 猫がいってしまう〜!」
「…はぁ、怪我人だぞ、俺は…」武彦が傷だらけの身体を起こし、歩き出す。
「にゃ〜〜〜〜……!」
 遠くから、風が猫を追い掛ける奇妙な叫び声だけが響いてきていた。





                                          FIN


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依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。

シリアス&過激な戦闘が終わり、ボロボロに
なってしまった二人…。
そこで普通は終わる所ですが、
「猫好き風ちゃん」という描写がしたくて
最後の最後に暴走して頂きました(笑)


気に入って頂ければ幸いです。

それではまた、機会がありましたら
宜しくお願い致します。


白神 怜司