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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦暁襲。百の炎






■■日本某所■■



 原発再稼動を巡り、原発正門前で再稼動を阻止させようとする市民団体と警察が睨み合っていた。今にもぶつかり合いそうな両者の睨み合いは既に爆発寸前の域に達している。
「原発の再稼動を許すなー!」先導している者がメガホンを手に大声で叫び、市民へと手を挙げて煽る。そんな彼の怒号に応える様に手を上げ『おおー!』と叫ぶ市民。
 一触即発の事態に興奮した市民団体の一人が目の前に立っていた警官を故意に蹴飛ばす。警棒を持った警官が威嚇して対応した瞬間、それが引鉄となる。
「うおおぉぉ!!」
 怒号と共に原発性門を突破しにかかる市民。警官隊がそれをシールドを使って押し返そうとしながら必死に抵抗をする。
「三島戦略創造軍情報将校!」警官隊の指揮官が玲奈へと駆け寄る。
「玲奈、で良いですよ。それにしても、相手は罪もない市民。武力行使は避けたい所ですねー…」
「し、しかし! 市民は警官隊に怪我を負わせながら正面突破を! このままでは…っ!」
「…どうしましょう…」玲奈は苦渋の末に妙案を思いつく。「…お願い、成功して…」
 玲奈の祈る様な姿に応える様に、突如集中的な豪雨が降り注ぐ。視界も遮られ、市民団体の怒りも衝突の熱気も雨に打たれ、文字通り鎮火していく。
「おぉ…! 市民団体が逃げ帰る…! さすがはIO2戦略創造軍情報将校殿!」
「…あはは…、はぁ。こんな事したら…怒られるかなぁ…」豪雨を見つめながら、玲奈は重い溜息を吐いた。






□□IO2、キューバ基地□□




 呼び出しを受けた玲奈が目にしたのは、IO2戦略創造軍のトップに向かって敬語も使わずに偉そうに助言をしている“鍵屋 智子”の姿だった。
「相変わらず、何様なのかしら、あの子…」
「聞こえてるわよ、三島 玲奈!」鍵屋が玲奈へと歩み寄る。「まったく、玲奈号整備主任の私を怒らせるとは良い度胸ね」
「あ…聞こえてました…? ごめんなさい…」
「陰口言われる事にいちいち目くじら立てたりなんかしないわよ。そんな事じゃなくて、先日の原発の一件よ! 玲奈号に大気を操らせるなんて無茶をさせるなんて、貴方何がしたいの?」
「うっ、やっぱり…」
「『やっぱり』って言ったって事は、理解はしているみたいね。あの騒動から、市民に行方不明者が数名出たって報告が入っているわ。貴方もその事ぐらい聞いているんでしょ」
「そんな…、無事に帰ってもらいたかったのに…」
「私の勘では失踪者は事故によって失踪した訳じゃないわ。誰かが意図した拉致よ」鍵屋が得意気な顔をして玲奈へと断言する。
「拉致…?」
「どっちにしても、反原発運動の根源を絶たなければ、反原発運動は起こり続けてキリがないわ」鍵屋はそう言って手に持っていたファイルを見せる。「行方不明になっている市民の情報が書かれているわ。玲奈号を使って捜し出して」
 玲奈はファイルに目を通し、早速玲奈号へとアクセスする。
「…っ! いた…!」玲奈号が失踪者の思念を捉えた。「…座標から現在の世界地図に照らし合わせる…。キューバ中部、シエンフエーゴス市内…。ここって…」
「旧ソ連崩壊時、資金援助中断によって未完成の野晒し状態の原子炉があるわね。行くわよ」
「えっ!? 鍵屋さんも一緒に…?」
「さっさと行く!」
「はい…」









□■シエンフーゴス市、郊外■□





 
「…確かにここの筈なんだけど…」
 玲奈と鍵屋が降り立った地は、サトウキビが一面に栽培されている農場の中だった。玲奈号の示す座標はこの辺りに間違いはない。
「サトウキビね。キューバ国内需要のおおよそ三割を担う火力燃料」鍵屋は顎に手を当てながら周囲を見回す。「三島 玲奈、貴方は今回の失踪者がこんな所にいる事について、どう思う?」
「どうって…?」玲奈がキョトンとした表情で尋ねる。
「これはあくまでも私の推測よ」鍵屋が人差し指を立てて玲奈に話を続けた。「キューバというこの国は、経済制裁とウラン禁輸に抗して脱原発革命に成功した唯一国よ。この国から革命輸出を企む何者かが、その手駒に洗脳する為に反対派の人間を拉致してこの国へ連れて来ていたのだとしたら…?」
『その通りだ。なかなかどうして鋭いな』突如声が発せられ、玲奈と鍵屋が周囲を見回す。
「だ、誰!?」玲奈が声をあげる。
『貴様らがここに来る様に仕向けていたが、罠にかかったな。我等の偉大な計画に、貴様らの様な連中は何かと邪魔なのでな。死んでもらおうか』
 突如地面が弾けたかと思えば、二匹の巨大な蟲が姿を現した。
「ミミズと蛾!」
『違う! ハリガネムシとイネヨトウだ!』鍵屋の言葉にハリガネムシがご丁寧に解説を入れながら鍵屋を縛り付ける。同時に、イネヨトウが玲奈へと襲い掛かる。
「妖怪!?」玲奈が眼から光線を放ち、イネヨトウを狙うがひらりと避けられる。「素早い…!」
 玲奈が手に霊剣を具現化させ、構える。イネヨトウが襲い掛かる度に左右へと転がる様に避け、玲奈が隙を覗う。
「フン!」ガブっと鍵屋がハリガネムシに噛み付く。一瞬力が緩んだ所で縛り上げられていた鍵屋が走ってその場から退く。「逃げるよ!」
「えぇ!」
 玲奈が光線で後方を攻撃しながら鍵屋と共にサトウキビ畑を走り抜ける。







■□洞窟□■




 二人は逃げ込んだ矢先に見つけた岩山の様な洞窟へと潜り込んだ。
「はぁ…はぁ。どうやら逃げ切れたみたいね」玲奈が息を整えながら鍵屋へと声をかける。
「…なんだろう、こんな地質の洞窟は見た事がないわ…」鍵屋が壁に触れながら呟く。「こんな所で様子を見ていても仕方ないわ。奥へ行くわよ」
「ちょ、ちょっとー」
 鍵屋に連れられる様に腰を低くしながら玲奈は洞窟の奥へと歩いていった。鍵屋はブツブツと何かを呟きながら周囲の壁を見回しながら歩いていく。
「…止まって」不意に鍵屋が玲奈の足を止める。「あれは…さっきの…ミミズ」
「ハリガネムシの妖怪…。何をしているの…?」玲奈が覗き込む。「一緒にいるのはカマキリの妖怪…?」
「…やれやれ、趣味の悪いB級映画の様な光景ね…。それに、あれ…」鍵屋が見つめる先へと玲奈が目を移す。
「…っ! あれは…!」思わず玲奈が声をあげそうになり、口を自ら押さえる。
 泡の様な無数の卵が連なって出来ている巨大な卵の塊。そして、その一つ一つの中には幼児から青年、女も男も関係なく人間が眠っている。
「…やれやれ、卵に『ヒト』を宿させ、あのミミズは産卵を促しているみたいね…。ますます悪趣味ね」鍵屋がそう呟いて奥へと向かう。
「…酷い…」
 鍵屋と玲奈はカマキリとハリガネムシに見つからない様、更に奥へと進む。すると、明らかに人工的な装置やパソコンを発見する。鍵屋は静かにそこへ近づき、無造作に置いてあるファイルを手に取った。
「…っ! これは…!」鍵屋の表情が明らかに不機嫌に歪む。「…あの糞婆!」
「ど、どうしたの…―」
「―この書類と、下部の署名を見れば分かるでしょ…」鍵屋がそう言ってファイルを見せた。
「…っ!」玲奈が再び口を押さえる。鍵屋は舌打ちするとファイルを地面へと投げつけて踏み躙る。
「地球脱出船内の動力安定供給。キューバ島全体を実験台にしながら、人の命をただの材料としてしか使わない実験…! あの糞婆…!」
「……」ギュっと歯を食い縛る玲奈。




 二人が見たファイルに書かれていた非道な内容。玲奈は、同じ血を引いている事にすら嫌気がする程の怒りを噛み締め、ただ黙っていた。





                                           Fin