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<東京怪談ノベル(シングル)>


Night Walker 〜不思議なお店〜

 昼間は子供達が集まり、賑わっている公園、近くの閑静な住宅街は夜になると眠っているかのように静かになっている。
 そんな中、クスクス笑う少女の声が。
 今日のお散歩では、どんな出来事があるのだろうか。

●出会い
「今日のお月様はまんまるだぁ〜綺麗〜♪」
 住宅街の屋根をぴょんぴょん飛び跳ねながら、千影・ー (ちかげ・ー)は煌々と照る満月の光を全身に浴び、日課である夜のお散歩を楽しむ。
「今日はどんなことがあるのかな〜?」
 心弾む楽しい出来事を探して辺りを見渡すと、路地裏に向かう碧摩・蓮を見かけたので跡をつけてみる。
 蓮が着いたところは古びた屋台だった。そこの常連なのか、親父に「いつもの」と注文する。
 いてもたってもいられなくなった千影は、とことこと屋台に近づき、声をかけた。
「蓮ちゃん、こんばんは♪」
「ああ、あんたかい。こんばんは。お散歩かい?」
「うんっ♪」
 元気良く挨拶した後、屋台のラーメンの良い匂いを嗅いで腹の虫がぐ〜っと鳴いた。
「あはは、腹が減ってきたみたいだね。チカ、あんたも食うかい?」
「うんっ♪」
 冷酒を飲み干し、この子にも同じものをと蓮が頼む。足元に大きな鞄が置いてあったので、アンティークショップ・レンの商品買い付けにでも行っていたのだろう。
「蓮ちゃん、買い付けの帰り?」
「ああ、そうだよ。ちょいとした掘り出し物があるフリーマーケットに行ってたんだ。この後、別のところにも行くんだけど一緒に行くかい?」
「いいの?」
「ああ。荷物持ちとしてだけど」
 えーと頬を膨らませているうちに、出来立てのラーメンが千影の前に置かれた。
「美味しそう、いただきまーす♪」
 先程までの不機嫌さはどこへやら……。
 割り箸を割り、ふうふうさせて麺を啜り、スープを一口。日中は暑いくらいだが、夜はまだ少し寒いのでアツアツのラーメンは美味しかった。
「おじさん、このラーメン美味しいよ」
「ありがと、お嬢ちゃん。チャーシュー、サービスだ」
「わぁい、ありがとう♪」
 ニッコリ笑う千影を見て、連は「可愛いもんだねえ」と微笑む。
「そこの自販機でジュースを買ってくるから待ってな」
「はーい♪」
 チャーシューにご満悦の千影に頑固そうな親父の表情が緩むが、子供がこんな遅くに外出しちゃ駄目だぞと釘を刺すのを忘れていない。
 そう言われているが、千影は「大丈夫だよ」とニッコリ。
「その子は、あたしが預かってる子だよ。どこかに行っちまったあたしを探してきたんだ、勘弁してやってくれ」
 常連の蓮がそう言うなら、と千影を咎めるのをやめた親父だった。
 ラーメンを食べ終えた千影は、蓮に買ってもらったオレンジジュースを飲んで一息。
「チカ、こういうところでラーメン食べるの初めて。美味しかったよ、蓮ちゃん」
「そうかい。それは良かった」
 
●お手伝い
2杯目の冷酒をくいーっと飲み干した後、蓮はある頼み事を。
「チカ、さっきも言ったけど、あたしの仕事を手伝ってくれるかい?」
「荷物持ちでしょ? いいけど、重いものはイヤ」
「まあそう言わずに。仕入れるものはあんたでも持てるモンだよ。それと、ちょいとばかし品定めしてほしいんだ。あんたにしかできないね」
 うにゃん? と首をかしげる千影の頭を撫でながら、そう難しいことじゃないよと微笑む蓮。
 勘定を済ませると、2人は路地裏の狭い道を通る。街灯が無いので、月明かりだけを頼りに進んでいく。蓮は慣れているのか、手探り無しでどんどん先へと進む。
「ねえ、どこに行くの?」
「もうちょっとで着くよ。あ、見えてきた。あそこで仕入れをするんだ」
 指差した方向に見えたのは、寂れた神社の境内だった……というが、そこには蝋燭の灯りに照らされた小さな露店がひとつだけ。
「やあ、店主。今夜も来たよ。掘り出し物はあるかい?」
 賽銭箱近くの露店にいるキツネ面を被った妖怪に気さくに声をかけ、蓮は並べられている骨董品をじっくり品定め。
 千影も蓮に倣いじっくり見るが、価値があるものがあるのかどうかはわからなかった。
(チカにしかできない品定めだって言ったけど、こんなので何ができるんだろう? わかんないや)
 適当に手にした壺に触れようとした時、たとえようのない気配を感じ取った。
「どうしたんだい?」
「あのね、この壺、怒っているみたいなの。どうしてほったらかしにしたんだって言っている……」
 壺をそっと持ち、蓮に差し出す。
 店主に聞いたところ、これは墓地だったところで拾ったものだという。だった、というのは、今ではそこに創立されたばかりの私立学校が建っているのだとか。
「捨てられていたのを拾った、ってワケか。にしては、綺麗なモンだねえ。中は空っぽのようだけど、元から無かったのかい?」
 コクンと頷く店主。
「綺麗な壺に見えるけど、こいつは骨壺だね」
「こつつぼ?」
「火葬された人間の骨を入れる壺だよ。青磁の骨壺とは、随分と贅沢だこと。中身を詰替えたとしか思えないよ。廃れた墓地に放置されたんだろうね」
 それで怒っているのかな? と千影はそう思いつつ、ぶるっと身体を震わせる。
「ここにあるのはね、人の負の感情が籠ったものばかりなんだ。店主はそれを集める名人なのさ」
「それと、チカが連れてきたことが何か関係あるの?」
「大有りさ。この壺、誰彼構わず恨みをぶちまけるつもりだから。あんたの主にも危害を加える気でいるよ」
「え……?」
 大好きな主が危ない。
 そう聞いた千影は「早くこれを何とかして!」と頼み込む。
「そのためにあんたを連れてきたんだよ。これに憑りついている死霊を食ってもらうためにね。そうすれば、こいつは無害になる」
「ホント?」
「ああ。そうだろう? 店主」
 頷く店主を見て、それならと魂魄を喰らうことに。
 壺にそっと顔を近づけ、すぅと息を吸うように魂魄を吸い出して口の中に入れ、ゴクンと喉を鳴らし飲み込んだ。

●帰り道
「ふぅ……。蓮ちゃん、死霊食べたよ。これで大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「良かったぁ……」
 安心したら、全身の力が抜けたのかへなへな〜と座り込んだ。
「お疲れ。あんたを連れてきて正解だったよ。さ、帰ろう。こいつを運んどくれ。あたしはこいつを持ってかなきゃなんないんでね」
 唐草模様の風呂敷に包まれた骨壺を千影に持たせ、蓮は大きな鞄を持つ。
 まだ少し不安なのか、恐る恐る手にする。
「大丈夫だって。あんたの能力はあたしが良く知ってるんだから。安心おし」
「うん……」
 大丈夫、だよね? と自分に言い聞かせ、ぎゅっと壺を抱きしめる。
「店主さん、バイバイ。これ、ちゃんと蓮ちゃんのお店に持って帰るからね」
 手を振りたかったが、両手にしっかり壺を抱えているのでできないので千影はちょっと残念そうだった。
お気をつけて、と無口な店主が言っているように見えたので、少しホッとした。
 帰りも、行き同様薄暗い道を通っていく。暗がりに目が慣れたこともあり、行く時よりは若干楽に進めた。
「ねえ、蓮ちゃんはどうしてこういうモノ集めるの?」
 疑問に思っていることを素直に口にする。
「そうだねえ……」
 蓮は少し考え込み、振り向いてこう答えた。
「金になるから、かな? さっきの露店だけど、あそこで仕入れたものは高く売れるんだよ。骨董品マニアの間ではね」
 だから、あの店主の露店に通い詰めているんだよと付け加え。
 更に付け加えると、店主は元悪霊で、恨みつらみの籠った価値ある骨董品蒐集が趣味だとか。その数があまりにも多いので、蓮のような好事家に満月の夜に売りさばいている。
「店主のおかげで、うちの店はそれなりに儲かっていると言っていいかもね。時々やばいものが紛れてるけど」
「怖いねー」
「ま、そん時はチカみたいな能力を持ったのに何とかしてもらってるけどね。そうだ。今度の満月にまた付き合ってくれないかい?」
 どうしようかな〜? と考える。
「無理にとは言わないけどね」
「甘くて、美味しいお菓子買ってくれたら、付き合ってあげてもいいよ。今度は、怖くないお手伝いがいいな」
「わかったよ、考えておく」
 そうこうしているうちに、さっきラーメンを食べた屋台に……ではなく、別の路地にたどり着いた。
「あれ? 別のところに出ちゃったよ?」
「どうしてだろうねぇ?」
 蓮は行くごとに別の道に出ることを知っていたが、黙っておいたほうが面白いと本当のことを何も言わなかった。
「チカ、ご主人様が心配しているんじゃないかい? 早く帰りな」
「そうだね……。蓮ちゃん、またね。今日は楽しかったよ♪」

 今日の散歩は、ちょっぴり怖く、ちょっぴり不思議だった。
 今度はどんな楽しいことがあるのかな?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3689 / 千影・ー / 女性 / 14歳 / Zodiac Beast】
【NPCA009 / 碧摩・蓮 / 女性 / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主】

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■         ライター通信          ■
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 千影様

 はじめまして。ライターの氷邑 凍矢です。
 このたびはシチュエーションノベルご発注、ありがとうございました。
 愛らしく、可愛く元気なお嬢さんを執筆できて嬉しいです。

 内容お任せとのことでしたので、満月の夜に現れる露店に、というシチュエーションにしました。
 蓮は屋台で一杯やっていそうですが、執筆中にお腹がすき、ラーメンが食べたくなったのでこうなりました。
 能力に関してですが、ノベル等を拝見しましたが描写がないようでしたのでこういうカンジかな? と想像して書きました。
 イメージと違うようでしたら、お手数おかけしますがリテイク願います。

 お散歩中のちょっぴり不思議な出来事、いかがでしたでしょうか?
 またお会いできることを楽しみにしております。
 ありがとうございました。 

 氷邑 凍矢 拝