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<東京怪談ノベル(シングル)>


虹の下、夕日の鳥取砂丘

雨の神聖都学園。
「一緒に入れば」
「えっ、あっ、うん」
雨宿りしている女子に男子が傘をさしかけお互い微妙な距離のまま去っていく。そんな初々しい光景があたしの眼の端に映った。今日は相合傘がはやっているのかと思うくらい、そこらじゅうでこんな光景。
「ふぅ」
ため息を付いた私に同級生が肩を抱いていう。
「そこのお嬢さん、一人なら私らとデートする?」
「ぼっちじゃないもん」
「おー、こわ。じゃあうちらは退散しますかね」
からかうだけからかって同級生は雨の中に去っていった。
「い〜〜だ」
消えていく影に思いっきり悪態をついて、アッカンべーまでする。
「そんな顔してるとかわいい顔が台無しだぞ」
「あなた〜♪」
後ろからの凛とした声に私の顔が一気に晴れる。
「待たせたな」
後ろにいたのは清楚なロング丈セーラーの少女。
そう、この人が私の旦那様。
姿は女の子だけど、中身(魂)はれっきとした男性。
「ううん。ぜんぜん待ってなんかないわ」
「じゃあ行くか」
「うん」
彼がさしかけてくれる傘に、私はすっと入って雨の中をデートへと繰り出した。


「い……いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
ファミレスの店員は私達をみて少し驚いたようだった。
 制服の女の子二人が腕を組んでまるでいちゃいちゃしているように(実際、してるんだけどね)入ってきたら、びっくりするとは思うけど。
 付き合い始めてからこんなことはいつものこと。
 同級生も、先生も、周りの人は私達のいちゃいちゃを見ると、こんな感じ。
 だから私達は気にしない。
「バイキング二つ下さい」
 メニューの『梅雨をぶっとばせ!乾・渇・辛フェア』の文字をさして彼が言った。
 食べ物を取りに行くと、から揚げ、韓国料理、インドカレーなどの辛い料理に混ざって煎餅やポテチなどの喉が渇きそうな物、海苔や干物などの乾物まで並んでいる。
 確かに名に偽りなし、って感じ。
「何食う?」
 から揚げや、ポテチ、トッポギを皿にのせながら彼があたしに尋ねる。
「あなた、あたしの食べたいものちゃんと取ってるじゃない。流石あなたのチョイスね」
「まあ、お前のことだからな」
 あーんとやったりして、食べながら、私はクラスのカップルのことを話した。
「あいつらさ、あたしとあなたがカップルなのおかしいっていうのよ。自分達だって野獣同士のカップルのくせにさ」
「まあ、食え。食って寝りゃ忘れるさ。それに、今日は乾・渇・辛フェアにきてるんだから、カラッと晴れようぜ」
「それも、そうね。流石あなた。言うことが違うわ」
 彼の言葉はすごく説得力があると思うの。
 こうやって愚痴も聞いてくれるし、本当に良い彼氏だと思う。
「そういえば」
「あっ」
「「海がみたい」」
「わぁっ、ハモった♪」
 二人で吹き出してしまう。
 こんなところまで気が合ってるなんて、本当に相思相愛なんだ。
「俺達、相当の相思相愛だな」
「あたしも今それを思ったの」
「すげー。俺らもう完璧なカップルじゃねー?」
 こういう考えることがリンクするところとか、すごいと思う。本当にお互いがお互いを好きなんだなぁって思うの。
「玲奈号を出すわ」
「おっ、じゃあ日本海辺りと洒落込むか」
 おなかもいっぱいになった私達は会計を済ませるとその足で鳥取へと向かった。


 雨上がり、初夏の鳥取砂丘。
 平日ということもあってか見渡す限り人はいない。
 聞こえるのはただ、サクリ、サクリと砂の上を歩く音だけ。
「貸切みたいだな」
「プライベートビーチって言ったほうがロマンチックじゃない?」
「確かに」
 笑いながら、海の見える丘の上まで来てあたし達は足を止めた。
「あっ、虹」
「ほんとだ」
「綺麗ね」
 虹の下の方、遠くでらくだがのんびりとあくびをしているのが見えた。
「静かね」
「ああ」
 青い海と、白い砂を撫でる風が私達の髪や、セーラー服を揺らしてすごく心地よかった。
「今日ここにこれて良かった」
「あたしも」
「そういってもらえてもっと良かった」
「ありがとう」
 海に落ちていく夕日とまだうっすらと残っている虹を見ながら私はぼんやりと呟いた。
「また来たいなぁ」
「俺も」
「えっ?」
「また、お前とここに来たいなぁって」
 顔が熱いのは夕日に照らされているから?それとも、そんなこと言われたから?
 そんなことを考えながらどきどきしているうちに、彼の顔が降りてきて私達はそっと唇を重ねた。



−Fin−